この記事で分かること
- 未修飾シリカの特徴:表面のシラノール基(Si-OH)による水素結合・吸着で極性化合物を保持する順相用固定相です。比表面積が大きく機械的強度も高いが、水分や塩基性化合物に弱くピークテーリングが起きやすい点が欠点です。
- ピークテーリングとは:クロマトグラムのピーク形状が、理想的な左右対称(ガウス型)にならず、後ろ側(高保持時間側)に裾を引く現象です。シリカの場合、塩基性化合物がシラノール基に強く・不均一に吸着することで、分子ごとに溶出タイミングがばらつくために起こります。テーリングが強いと分離能の低下や定量精度の悪化につながります。
LCの固定相:未修飾シリカ
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
今回は液体クロマトグラフィー(LC)の固定相、特に未修飾シリカに関する記事となります。
液体クロマトグラフィーの固定相にはどんなものがあるのか
液体クロマトグラフィー(LC)の固定相には、主に以下のものがあります。
シリカ系固定相
未修飾シリカ
- 表面のシラノール基(Si-OH)が極性相互作用を担う
- 順相クロマトグラフィー(NP-LC)に使用
化学修飾シリカ(結合相)
- 逆相系(最も広く使われる)
- C18(ODS):オクタデシル基、汎用性が高く最も一般的
- C8:オクチル基、C18より疎水性がやや低い
- C4・C2:タンパク質など大分子の分離に
- フェニル基:π-π相互作用を利用、芳香族化合物の選択性が異なる
- シアノ基(CN):順相・逆相両方に使える
- アミノ基(NH₂):糖類や核酸塩基の分離
イオン交換系固定相
| 種類 | 官能基 | 用途 |
|---|---|---|
| 強陽イオン交換(SCX) | スルホン酸基(-SO₃H) | タンパク質・アミノ酸 |
| 弱陽イオン交換(WCX) | カルボキシル基(-COOH) | 同上 |
| 強陰イオン交換(SAX) | 四級アンモニウム基 | 核酸・有機酸 |
| 弱陰イオン交換(WAX) | 三級アミノ基 | 同上 |
サイズ排除(ゲルろ過)系
- 親水性ゲル(デキストラン、アガロース、ポリアクリルアミドなど):水系溶媒、タンパク質・多糖類の分子量分布測定
- 有機系ゲル(架橋ポリスチレンなど):有機溶媒系、高分子ポリマーの分析
キラル固定相(光学分割用)
- 多糖誘導体系:セルロース・アミロースのエステルやカルバメート誘導体(最も汎用的)
- タンパク質系:血清アルブミン、α₁酸性糖タンパク質など
- Pirkle型(低分子型):π-π相互作用・水素結合を利用
- シクロデキストリン系:包接複合体形成を利用
その他の特殊固定相
- HILIC用固定相(親水性相互作用LC):シリカ、アミノ基、ズイッタリオン基など。極性化合物・糖類の分析に有効
- 混合モード固定相:逆相+イオン交換など複数の保持機構を組み合わせ
- モノリス(一体型)カラム:シリカやポリマー製の連続細孔構造、高速・低圧での分離が可能
- コアシェル型(ヒュージドコア)粒子:固体コアに薄い多孔質シェル、高効率・高速分離に優れる
分析対象(低分子・高分子・イオン性・非極性など)や目的に応じて固定相を選択することが重要です。
未修飾シリカの特徴は何か
シリカ(SiO₂)の表面にはシラノール基(Si-OH)が存在し、これが分離の主役となります。シラノール基にはいくつかの形態があります。
- 孤立型シラノール:最も反応性が高い
- 隣接型(ジェミナル)シラノール:同一Siに2つのOH
- シロキサン結合(Si-O-Si):非極性、相互作用に関与しにくい
保持・分離機構
- 吸着クロマトグラフィーとして機能(分配ではなく表面への吸着)
- 主な相互作用:
- 水素結合(最も支配的)
- 双極子-双極子相互作用
- 静電相互作用(シラノールは弱酸性、pH依存)
- 極性の高い化合物ほど強く保持される(順相モード)
使用条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 移動相 | ヘキサン、ジクロロメタンなどの非極性有機溶媒 |
| 極性修飾剤 | 少量のイソプロパノール、酢酸エチルなどを添加して保持調整 |
| pH安定域 | pH 2〜8(アルカリ側でシリカ骨格が溶解) |
| 温度 | 常温〜中温程度 |
長所
- 高い比表面積(一般的に100〜600 m²/g)で多くの化合物を保持
- 高い機械的強度→高圧に耐えられる
- 再現性が高い(製造技術が成熟)
- 安価で入手しやすい
- 結合相のベース担体として最も普及している
短所・注意点
- 水分に敏感:移動相中の微量水分がシラノールと相互作用し、保持が大きく変動する
- ピークテーリングが起きやすい:塩基性化合物がシラノールに強く吸着し、非線形等温線を示す
- アルカリ耐性が低い:pH 8以上でシリカ骨格(Si-O-Si)が加水分解
- 保持が強すぎる場合がある:多官能性極性化合物は溶出困難なことも
- 再現性の課題:シラノール密度・残存水分量がロットや製品によって異なる場合がある
主な用途
- 脂溶性異性体の分離(幾何異性体、位置異性体など)
- 例:脂溶性ビタミン(A, D, E, K)、カロテノイド、ステロイド
- 官能基クラス分離(極性の異なる化合物群の分離)
- 石油・脂質分析
- 結合相合成の中間体(修飾前のベース担体として)
修飾シリカとの比較まとめ
| 未修飾シリカ | C18修飾シリカ(逆相) | |
|---|---|---|
| 移動相 | 非極性有機溶媒 | 水/有機溶媒混合 |
| 保持対象 | 極性化合物 | 非極性・中程度極性化合物 |
| 主な相互作用 | 水素結合・吸着 | 疎水性相互作用 |
| 水への耐性 | 低い | 高い |
シンプルな構造ながら水分管理や塩基性化合物への対応に注意が必要な固定相です。

表面のシラノール基(Si-OH)による水素結合・吸着で極性化合物を保持する順相用固定相で、移動相にはヘキサンなど非極性有機溶媒を使用します。比表面積が大きく機械的強度も高いが、水分や塩基性化合物に弱くピークテーリングが起きやすい点が欠点です。
ピークテーリングとは何か
クロマトグラムにおいて、ピークの後ろ側(高保持時間側)に裾を引く現象です。理想的なガウス(正規分布)型ピークに対し、非対称に歪んだ形状になります。
定量的な評価:テーリングファクター(T)
T = W0.05h/2f
- W{0.05h}:ピーク高さの5%における幅
- f:ピーク頂点からピーク前半部分の幅
- T = 1.0:完全対称
- T > 1.0:テーリング
- T < 1.0:フロンティング(前側に裾)
- 一般に T ≤ 1.5 が許容範囲とされる
原因
① 吸着サイトの不均一性(シリカで最も典型的)
- シラノール基の活性度が場所によって異なる
- 一部の強い吸着サイトに分子が捕まり、遅れて溶出する
- 特に塩基性化合物(アミン類など)で顕著
② 非線形等温線(過負荷)
- サンプル量が多すぎると、吸着等温線がラングミュア型になる
- 高濃度では固定相が飽和し、後ろに裾が出る
③ カラム外体積(Extra-column volume)
- チューブやコネクターなどカラム外での拡散
- ピーク全体が歪む原因になる
④ 遅い質量移動
- 固定相内への拡散が遅いと、溶出が遅れる分子が生じる
シリカにおけるテーリングのメカニズム
塩基性化合物(例:アミン R-NH₂)
↓
シラノール基(Si-OH)と強い水素結合・静電相互作用
↓
一部の分子が強吸着サイトに「捕まる」
↓
溶出が遅れ → ピーク後半に裾が出る
シラノール基は弱酸性(pKa ≈ 3〜4)のため、塩基性化合物と特に強く相互作用します。
テーリングの問題点
| 問題 | 内容 |
|---|---|
| 分離能の低下 | 隣接ピークと重なりやすくなる |
| 定量精度の悪化 | ピーク面積の積分が不正確になる |
| 検出限界の悪化 | ピーク高さが低くなり、S/N比が低下 |
| 保持時間の再現性低下 | 条件変動の影響を受けやすい |
対策
固定相・カラム側
- エンドキャッピング処理済みシリカを使用(残存シラノールをトリメチルシリル基で封鎖)
- 高純度シリカ(Type B)を選択(金属不純物が少なくシラノール活性が均一)
- ハイブリッドシリカ(有機-無機複合体)を使用
移動相側
- トリエチルアミン(TEA)などのアミン添加剤でシラノールをブロック
- pHを調整して塩基性化合物をイオン化させる(イオン対試薬の使用)
- 移動相の有機溶媒比率を上げて溶出力を高める
操作条件側
- サンプル量を減らして非線形領域を避ける
- カラム外体積を最小化する(短い細径チューブ、小体積セル)
テーリングはクロマトグラフィーの実務で最もよく遭遇する問題のひとつであり、原因を特定して適切に対処することが重要です。

クロマトグラムのピーク形状が、理想的な左右対称(ガウス型)にならず、後ろ側(高保持時間側)に裾を引く現象です。
シリカの場合、塩基性化合物がシラノール基に強く・不均一に吸着することで、分子ごとに溶出タイミングがばらつくために起こります。テーリングが強いと分離能の低下や定量精度の悪化につながります。

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