この記事で分かること
1. TGV(ガラス貫通電極)
ガラス基板を垂直に貫通する微細な導電路のことです。従来の樹脂基板より熱に強く平坦なため、AIチップ等の巨大な半導体を高密度に実装する際の「土台」として、表裏の電気接続を最短距離で担う次世代技術です。
2. 銅ナノペースト
ナノサイズの銅粒子を溶剤に分散させた材料です。粒子が極小のため、本来より低い200〜300℃で焼結(焼き固め)が可能。熱に弱いガラス基板等への配線形成に適し、銀より安価で短絡リスクも低いのが特徴です。
3. ナノ粒子の製造方法(ボトムアップ法)
主に「液相還元法」が用いられます。銅イオンを含む溶液に還元剤を加え、原子レベルから粒子を成長させる化学的手法です。粒子の表面を保護剤で覆い、巨大化を防ぐことで、均一なナノサイズに精密制御して製造します。
エレファンテックのTGV用銅ナノペースト
エレファンテックが発表しやガラスビア用銅ナノペースト「SAphire™ G」は、次世代のAIサーバーやHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)向けパッケージ基板として期待されるガラス基板(TGV: Through-Glass Via)の商用化を阻んでいた大きな壁を打破する技術です。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2605/01/news026.html
従来のナノペーストは焼結時に体積が大きく収縮し、隙間(ボイド)や剥離が生じやすい課題がありましたが、本製品は収縮を抑え、高アスペクト比(例:アスペクト比 10:1)のビアでも隙間なく充填可能となっています。
TGVとは何か
TGV(Through-Glass Via:ガラス貫通電極)は、半導体パッケージの次世代技術として今最も注目されている要素技術の一つです。
ガラス基板に垂直な穴をあけ、そこに銅などの金属を充填して上下の電気をつなぐ配線技術のことです。
1. なぜ「ガラス」なのか(従来の樹脂基板との比較)
これまで、半導体チップを載せる基板には主にプラスチック(有機樹脂)が使われてきました。しかし、AIチップのように巨大で発熱が激しいプロセッサでは、従来の基板に限界が見え始めています。
- 熱に強い: 樹脂は熱で伸び縮み(熱膨張)しやすいですが、ガラスはシリコンチップに近い熱特性を持つため、熱による「反り」や配線の断裂が起きにくいです。
- 平坦で微細化に強い: ガラス表面は極めて平らなため、より細い配線(高密度実装)を焼き付けることができます。
- 電気信号がクリア: ガラスは絶縁性が高く、高速な電気信号が通る際のロス(誘電損失)が少ないため、次世代通信や高速演算に向いています。
2. TGVの構造と役割
TGVは、厚さ0.1mm〜0.5mm程度の薄いガラス板を貫通する小さな柱のような役割を果たします。
- 孔形成: レーザーやエッチング技術で、ガラスに直径数十ミクロンの微細な穴をあけます。
- 導電化: その穴の中に、銅などの導電性材料を詰め込みます(ここでエレファンテックの「SAphire G」のようなナノペーストや、電解めっきが使われます)。
- 接続: これにより、ガラスの表面にあるチップと、裏面にあるマザーボードや別のチップを最短距離でつなぎます。
3. TGVがもたらす未来:チップレットとCPO
TGVは、単なる「穴」以上の価値を半導体業界にもたらそうとしています。
チップレット集積の進化
複数のチップを一つのパッケージにまとめる「チップレット」技術において、ガラス基板は非常に安定した土台(インターポーザー)となります。
これにより、2nm世代以降の超高性能プロセッサの製造が可能になります。
光共パッケージ(CPO)
電気信号の代わりに光を使ってデータを送る「光通信」をチップのすぐ近くまで持ってくる際、光を通す性質を持つガラスは非常に相性が良く、TGVはその接続を支える心臓部となります。
4. 現在の課題
非常に優れた技術ですが、実用化にはまだ高いハードルがあります。
- 脆さ: ガラスは割れやすいため、製造ラインでのハンドリング(持ち運びや固定)が難しい。
- コスト: 従来の樹脂基板に比べると製造コストが高く、現在はHPC(スーパーコンピュータ)やハイエンドAIサーバー向けが主なターゲットです。
IntelやSamsungなどの大手メーカーも2020年代後半の量産化を目指して激しく開発を競っており、エレファンテックのような材料技術の進展が、その商用化を早める鍵を握っています。

TGV(ガラス貫通電極)は、次世代の半導体パッケージ用ガラス基板において、表裏を垂直に結ぶ微細な導電路のことです。従来の樹脂基板より平坦性や熱耐性に優れ、AIチップ等の高密度な実装や高速通信を実現する鍵となります。
銅ナノペーストとは何か
銅ナノペーストとは、ナノメートル単位(10億分の1メートル)の極めて微細な銅の粒子を、溶剤や樹脂などの液体に分散させた液状の導電材料です。
主に電子回路を「印刷」して作るプリンテッド・エレクトロニクス分野で、配線や接合の材料として使用されます。
1. なぜ「ナノ」にするのか:融点降下
最大の技術的メリットは「低い温度で焼き固められる」ことです。
- バルク(塊)の銅: 融点は約1,085°C。
- ナノ粒子の銅: 粒子が小さくなると表面のエネルギーが高まり、200°C〜300°C程度の低温で粒子同士が結合(焼結)し、電気を通す導体になります。
これにより、本来なら熱で溶けてしまうプラスチックフィルムや、熱衝撃に弱いガラス基板上にも銅配線を形成できるようになりました。
2. 銀ペーストとの違い
これまで導電ペーストの主流は「銀(Ag)」でした。銅ナノペーストは銀に対して以下の強みがあります。
- マイグレーション耐性: 銀は湿気や電圧でイオンが移動し、短絡(ショート)を起こしやすい欠点がありますが、銅はそのリスクが低く信頼性が高いです。
- コスト: 銅は銀よりも安価なため、大量生産時の材料コストを抑えられます。
- 電気抵抗: 銀に次いで電気抵抗が低く、優れた導電性を持ちます。
3. 主な用途
- 次世代半導体パッケージ: TGV(ガラス貫通電極)やTSV(シリコン貫通電極)の充填材料。
- フレキシブル基板: 曲がるディスプレイやセンサーの配線。
- パワー半導体: 耐熱性が求められる電気自動車(EV)向けパワーモジュールの接合材。
4. 課題と進化
銅は非常に酸化しやすいため、ナノ粒子化するとすぐに表面が錆びて電気が通らなくなる難点がありました。
これに対し、各メーカー(エレファンテックや三井金属など)は、粒子の表面を特殊な分子でコーティングしたり、焼結時に一瞬で酸化膜を除去する技術を開発するなどして、大気中や低温での安定した焼結を実現させています。

銅ナノペーストは、ナノサイズの銅粒子を溶剤に分散させた導電材料です。粒子の微細化により、本来の融点より低い200〜300℃で焼結でき、熱に弱いガラス基板等への配線形成を可能にします。銀より安価で短絡リスクも低く、次世代実装の核として期待されています。
どのようにナノメートルの粒子にするのか
ナノメートルの粒子を製造する方法は、大きく分けて「ボトムアップ法」と「トップダウン法」の2種類があります。
特に銅ナノペーストのような高度な材料製造では、粒子の大きさや形を精密にコントロールできるボトムアップ法が主流です。
1. ボトムアップ法(化学的アプローチ)
原子や分子を一つずつ積み上げて、ナノサイズまで成長させる方法です。雪だるまを作るイメージに近いです。
- 液相還元法(最も一般的):銅のイオンが溶けた液体に「還元剤」を加えます。すると、液体の中で銅の原子が析出し、それらが集まってナノ粒子になります。
- ポイント: 粒子が大きくなりすぎないよう「分散剤(保護剤)」を添加し、表面をコーティングして成長を止めます。
- 気相法:銅を高温で蒸発させてガス状にし、それを急冷することでナノサイズの粒子として凝集させます。不純物が混じりにくいのが特徴です。
2. トップダウン法(物理的アプローチ)
大きな材料の塊を、力ずくで細かく砕いてナノサイズにする方法です。岩を砕いて砂にするイメージです。
- ビーズミル法:容器の中に銅の粉末と、さらに硬くて小さな「ビーズ」を入れ、高速で回転・攪拌します。ビーズ同士が衝突するエネルギーで、銅をナノレベルまで粉砕します。
- 空中放電・レーザーアブレーション:強力なエネルギーを銅の塊に照射し、表面を微細な粒子として弾き飛ばします。
3. エレファンテック等の高度な技術
エレファンテックが採用しているような最新のペーストでは、単に小さくするだけでなく、「自己組織化(Self-Assembly)」という性質を持たせています。
これは、化学的な手法で粒子の表面を特殊な分子で設計し、焼結(加熱)する際に粒子同士がパズルのように効率よく組み合わさるように制御する技術です。
これにより、ナノ粒子特有の「低温で固まる」という性質を最大限に引き出しています。

主に「液相還元法」が用いられます。これは銅イオンを含む溶液に還元剤を加え、原子レベルから粒子を成長させる化学的手法です。表面を保護剤で覆うことで、粒子が巨大化するのを防ぎ、均一なナノサイズに制御します。
めっきとの比較はどうか
次世代半導体パッケージのTGV(ガラス貫通電極)形成において、従来の「めっき(電解めっき)」と「銅ナノペースト(SAphire G等)」を比較すると、主に「処理スピード」「品質の安定性」「コスト」の3点で大きな違いがあります。
めっき vs. 銅ナノペースト 比較表
| 項目 | 電解めっき(従来手法) | 銅ナノペースト(SAphire G) |
| 充填メカニズム | イオンを電気的に還元して壁面から成長させる | 粒子を穴に流し込み、熱で焼き固める |
| 処理時間 | 長い(数時間単位) | 短い(数分〜数十分単位) |
| アスペクト比 | 高いと穴が塞がりやすく、ボイド(空洞)ができやすい | 高くても一気に充填可能でボイドを抑制 |
| 設備・工程 | 複雑(薬液槽、洗浄、排水処理が必要) | シンプル(充填機と加熱炉がメイン) |
| 環境負荷 | 高い(大量の水と化学薬品を使用) | 低い(必要な分だけ使う純増法) |
| 導電性 | 極めて高い(純銅に近い) | 高いが、めっきには僅かに劣る場合がある |
1. 「ボイド(空洞)」問題の解決
めっきの場合、穴の入り口付近に銅が溜まりやすく、入り口が先に塞がってしまうことで内部に空洞(ボイド)が残るリスクがあります。特にTGVのような「細くて深い穴(高アスペクト比)」ではこの制御が極めて困難です。
一方、銅ナノペーストは液状の材料を流し込むため、深い穴の底まで一気に満たすことができ、構造的な欠陥を防ぎやすいメリットがあります。
2. スループット(生産効率)の圧倒的な差
めっきは原子を一つずつ積み上げるプロセスなので、穴を完全に埋める(フィルドビア)には非常に時間がかかります。
これに対し、ペーストは「穴を埋めて焼く」という物理的な工程であるため、スループットが劇的に向上し、量産コストの引き下げに直結します。
3. 環境への配慮(サステナビリティ)
めっきは大量の廃液処理が必要ですが、エレファンテックが推進する銅ナノペーストを用いた手法は、必要な箇所にのみ金属を配置する「アディティブ(純増)法」に近い考え方です。これにより、原材料の無駄と環境負荷を大幅に削減できます。
従来のめっきは「導電性の高さ」で優れますが、TGVのような極微細な構造を「速く、確実に、安く」作るという点では、銅ナノペーストが次世代のスタンダードとして期待されています。
特にエレファンテックの「SAphire G」は、焼結時の収縮(縮み)を抑えることで、めっきに近い信頼性を確保しようとしている点が画期的です。

めっきは原子を積み上げるため時間がかかり、深穴で空洞が生じやすい課題があります。対して銅ナノペーストは、液状材料を流し込み一括充填するため、高速かつ欠陥なく高密度な配線を形成でき、量産性にも優れます。

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