三菱マテリアルのタングステンの再利用拡大

この記事で分かること

1. なぜリサイクルが重要なのか

中国への供給依存度が約80%と高く、地政学リスクや価格高騰が深刻なためです。また、鉱石からの精錬に比べ、使用済み工具からのリサイクルは必要な土砂やエネルギーが100分の1と圧倒的に効率的で、経済安全保障と脱炭素の観点から重要です。

2. 三菱マテリアルはどのような投資をするのか

買収した独HCスタルク社の拠点を軸に、欧州でリサイクル製錬設備の新設・拡張へ約100億円を投資します。日欧米の顧客から使用済み工具を効率的に回収・再生するグローバルな循環網を構築し、2030年度までにリサイクル率100%を目指します。

3. どのようにリサイクルするのか

不純物が多いものは「化学精錬法」で一度溶解・精製し、新品同様の高純度パウダーに戻します。比較的綺麗な工具は「亜鉛溶融法」を使い、亜鉛を染み込ませてボロボロに脆化させてから粉砕することで、低コストかつ低CO2で再資源化します。

三菱マテリアルのタングステンの再利用拡大

 三菱マテリアルが日欧を中心としたグローバル規模で展開するタングステンの再利用(リサイクル)拡大を進めています。

 タングステンリサイクルへの巨額投資や戦略強化は、昨今の地政学リスクの台頭とレアメタル価格の急騰を背景に、「経済安全保障の確保」と「高付加価値市場(日欧)でのシェア死守」を両立させるための戦略です。 

 買収したHCスタルク社のインフラをどれだけ早期にフル活用し、日欧での回収・再利用エコシステムを定着させられるかが、今後の収益拡大の成否を握っています。

なぜタングステンのリサイクルが重要になっているのか

 タングステンのリサイクルがこれほどまでに重要視されている理由は、単なる「環境保護」の域を超え、経済安全保障、供給リスクの回避、そしてコスト削減が複雑に絡み合っているためです。

 具体的には、以下の4つの決定的な要因があります。

1. 圧倒的な「中国依存」という地政学的リスク

 タングステンは、自動車、半導体、宇宙航空、防衛産業などに不可欠な「産業の塩」とも呼ばれるレアメタルですが、その供給構造は極めて歪です。

  • 世界シェアの約80%が中国: 世界のタングステン採掘・精錬の大部分を中国が握っています。
  • 輸出規制と価格の高騰: 中国政府が環境規制や資源保護を理由に供給(輸出枠)を制限し始めており、さらに米中貿易摩擦などの影響も相まって、タングステンの市場価格は高騰を続けています。

 万が一、地政学的な衝突によって中国からの輸入が途絶した場合、先進国の製造業は文字通りストップしてしまうため、「鉱山に頼らない調達ルート(=都市鉱山・リサイクル)」の確保が急務となっています。

2. 鉱石から掘るよりも「圧倒的に効率が良い」

 タングステンを使用済み製品(主に超硬工具のチップやドリル)から回収して再利用するプロセスは、天然の鉱石から精製するよりも物理的・経済的に圧倒的に効率的です。

  • 必要な土砂の量が100分の1: 天然の鉱石から100kgのタングステンを取り出すには、約12トンもの土砂を掘り返して精製する必要があります。一方で、使用済みの超硬工具スクラップから再生する場合、わずか0.12トン(120kg)の原料で済みます。
  • エネルギー消費とCO2の削減: 鉱山からの採掘・粉砕・化学処理には莫大なエネルギー(電力・火力)が必要ですが、スクラップからのリサイクル(特に化学精錬や亜鉛溶融法など)は、製造工程におけるCO2排出量を劇的に削減できます。

3. 欧州を中心とする「環境規制(サーキュラーエコノミー)」への対応

 特に欧州(EU)市場において、ビジネスを展開するためのルールが激変しています。

  • 重要原材料法の存在: EUでは「重要原材料法(Critical Raw Materials Act)」などが施行され、域内で使用する戦略的原材料の一定割合をリサイクル品にすることを義務付ける動きが進んでいます。
  • サプライチェーンの脱炭素化(Scope 3): 自動車メーカーや航空機大手がサプライヤー(部品・工具メーカー)に対し、製品製造時のCO2排出量削減を強く求めています。「リサイクルタングステン100%」で作られた工具は、それだけで強力な製品競争力になります。

4. 需要の爆発的な拡大(代替が効かない特性)

 タングステンは「あらゆる金属の中で最も融点が高く(約3,422℃)」「ダイヤモンドに次ぐ硬度」を持っています。

 この唯一無二の特性があるため、以下の最先端分野で需要が爆発しています。

  • 半導体製造: 微細化が進む半導体チップの配線材料や、ウェハを削る超精密工具。
  • xEV(電動車): モーターやバッテリー周りの高硬度・耐熱部品の加工。
  • 防衛・宇宙: ロケットのノズルや航空機の機体構造材。

 需要が伸び続ける一方で、新規の鉱山開発には莫大な投資と10年単位の時間、そして環境破壊への批判が伴うため、既存のタングステンを循環させるリサイクルが最も現実的な供給拡大策となっています。

 タングステンのリサイクルは、環境に優しいからやるのではなく、「自国の産業を守り、高騰する原材料コストを抑え、国際的な環境規制をクリアして生き残るため」の必須の戦略となっています。

 日本の素材メーカー(三菱マテリアルや旭ダイヤモンド工業など)がここに巨額の投資を行うのは、これが次世代の覇権を握るビジネスに直結しているからに他なりません。

タングステンは中国への供給依存度が約80%と高く、地政学リスクや価格高騰が深刻です。また、鉱石からの精錬に比べ、使用済み工具からのリサイクルは必要な土砂やエネルギーが100分の1と圧倒的に効率的であり、経済安全保障と脱炭素の観点から重要性が増しています。

三菱マテリアルはどのような投資をしているのか

 三菱マテリアルが実施する約100億円の投資は、主に「欧州拠点の強化」「回収から製錬までのグローバルな循環網(クローズド・ループ)の構築」に充てられます。

① 欧州でのリサイクル製錬所の新設・拡張

 2024年に完全子会社化した独 H.C. Starck(HCスタルク)社の拠点を軸に、欧州内で使用済み工具(スクラップ)を化学処理・精錬する設備を新設・増強します。これにより、欧州におけるタングステンリサイクル能力を従来の1.5倍に引き上げます。

② スラップ回収ネットワークのデジタル化・効率化

 日欧米の顧客(自動車・半導体・航空機メーカーなど)から、摩耗した超硬ドリルやチップを効率よく回収するシステムを構築します。スクラップの配合比率や供給量を最適化する生産管理システムへの投資も含まれます。

③ 国内拠点(日本新金属など)の設備高度化

 日本国内の製造ラインでも、スクラップから高純度なタングステンパウダーへと再生するリサイクル技術のアップデートを行い、より低消費電力・低環境負荷で処理できる体制を整えます。

 これらの投資により、同社は2030年度までに「製品製造におけるタングステンリサイクル率100%(中国拠点除く)」の達成を目指しています。

三菱マテリアルは、買収した独HCスタルク社の拠点を軸に、欧州でリサイクル製錬設備の新設・拡張へ投資します。日欧米の顧客から使用済み工具を効率的に回収・再生するグローバルな循環網を構築し、2030年度までにリサイクル率100%を目指します。

どのようにリサイクルするのか

 タングステンのリサイクルは、主に「化学的リサイクル(化学精錬法)」「物理・機械的リサイクル(亜鉛溶融法)」という2つの高度な技術を、スクラップの状態(不純物の多さなど)に応じて使い分けることで行われます。

 三菱マテリアルやグループの独HCスタルク社は、主に以下のプロセスで摩耗した超硬工具(ドリルやインサートチップ)を新品同様の原料へと再生しています。

1. 化学的リサイクル(化学精錬法)

 不純物が多いスクラップや、スラッジ(研磨くず)などを高純度なタングステンに戻す主流の方法です。鉱山から鉱石を掘り出して精錬するプロセスとほぼ同じ化学工程を通るため、新品(バージン材)と全く同等の超高純度な原料が手に入ります。

  • ① 酸化・焙焼(ばいしょう): 収集した超硬スクラップを高温で熱し、一度「タングステン酸化物」へと変化させます。
  • ② アルカリ溶解: 酸化物を水酸化ナトリウムなどのアルカリ液に溶かし、タングステン酸ナトリウム水溶液にします。ここでコバルトなどの他の金属や不純物を分離します。
  • ③ イオン交換・結晶化: 不純物を取り除いた液から「パラタングステン酸アンモニウム(APT)」という白い結晶(タングステンの中間原料)を抽出します。
  • ④ 還元・炭化: APTを水素ガスで還元して「タングステン粉末」にし、さらに炭素を加えて熱することで、超硬工具の主原料となる「炭化タングステン(WC)パウダー」が完成します。

2. 亜鉛溶融(ジンク)法

 不純物が極めて少ない、均一な超硬工具スクラップ(使用済みのチップなど)に対して用いられる、非常にエコで効率的な方法です。

  • ① 亜鉛との反応: 容器にスクラップと亜鉛(Zn)を一緒に入れ、高温(約1,000℃)で加熱します。
  • ② 体積膨張を利用した脆化(ぜいか): 液化した亜鉛が、タングステン同士を結合させているコバルト(結合材)の隙間に染み込み、合金を作ります。このときに体積が大きく膨張するため、カチカチだった超硬工具がボロボロに崩れやすくなります。
  • ③ 亜鉛の蒸発・回収: 真空状態でさらに加熱し、亜鉛だけを蒸発させて取り除きます(蒸発した亜鉛は次のリサイクルに再利用します)。
  • ④ 粉砕: スカスカになったタングステンとコバルトの混合物を機械で細かく砕くことで、そのまま次の工具製造に使える「再生超硬粉末」が完成します。

2つの方法の使い分け

リサイクル方法メリットデメリット / 対象
化学精錬法どんなスクラップからでも新品同様の100%高純度に再生可能。工程が長く、エネルギー消費が亜鉛法より多い。
亜鉛溶融法工程が短く、エネルギー消費やCO2排出量が極めて少ない分離・精製を行わないため、綺麗なスクラップしか扱えない。

 三菱マテリアルは、これら双方の技術をグローバル拠点で最適に組み合わせることで、エネルギー効率を最大化しながら「リサイクル率100%」を目指しています。

タングステンのリサイクルは、スクラップの状態に応じて2つの方法を使い分けます。不純物が多いものは「化学精錬法」で一度溶解・精製して新品同様の粉末に戻し、綺麗な工具は「亜鉛溶融法」で亜鉛を染み込ませて脆化・粉砕し、低コストかつ低CO2で再資源化します。

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