この記事で分かること
1. 強化する半導体素材
高温制御技術を応用した高機能ファインセラミックスです。熱歪みを極限まで抑える超低熱膨張材『ネクセラ』や、耐熱・耐薬品性に優れた窒化ケイ素・炭化ケイ素製の最先端半導体製造装置向け部材を強化します。
2. 低膨張にできる理由
温めると「伸びる成分」と、逆に「縮む成分(負の熱膨張)」をミクロレベルで精密に配合しているからです。温度上昇時にこのプラスとマイナスの変化が互いに打ち消し合うことで、全体の寸法変化をほぼゼロにします。
3. 製造方法
高純度粉末に負の熱膨張材を均一に調合し、水圧(CIP)により全方向から均等に超高圧成形します。これを最適な温度プロファイルで緻密に焼き固め(焼結)、ダイヤモンド工具で超精密に削り出して製造します。
黒崎播磨の高機能材料強化
鉄鋼向け耐火物で世界トップクラスのシェアを持つ黒崎播磨は、同社の中長期的な成長を牽引する「インド市場の深耕」と「半導体・電子部品向けの高機能材料強化」という2つの軸となる事業に2030年度までの5年間で総額500億円の設備投資を行うことを発表しています。
製鉄用のイメージが強い同社ですが、長年培った高温制御技術を応用した「ファインセラミックス(高機能構造用セラミックス)」が、半導体製造装置の不可欠なパーツとして需要急増しており、この需要急増に対応するための投資を行う予定です。
どんな半導体素材を強化するのか
黒崎播磨が今回の巨額投資で強化する「半導体・電子部品向け素材」の正体は、同社が長年培った技術の結晶である「高機能ファインセラミックス」および「電子部品焼成用道具材(セッター)」です。
シリコンウエハそのもの(半導体素子)ではなく、最先端の半導体を製造・検査する「装置」や「周辺コンデンサ」の進化に不可欠な超高性能マテリアルを強化します。主な対象となる3つのコア素材・製品群は以下の通りです。
1. 超低熱膨張セラミックス『NEXCERA(ネクセラ)』
半導体の微細化(2nm世代やそれ以降)において、最も重要視されている同社の看板素材です。
- どんな素材?: 温度が変化しても「寸法がほとんど変わらない(ほぼゼロ膨張)」という驚異的な特性を持つセラミックスです。さらに、従来の低熱膨張ガラスに比べて硬く(高剛性)、軽い(軽量化)という強みがあります。
- どこに使われる?: 半導体露光装置(EUVなど)の内部パーツや、超精密な半導体検査装置のステージなど。
- 強化の狙い: 回路パターンがナノメートル単位に微細化する中、装置のわずかな熱歪みも許されません。この『NEXCERA』の大型・精密加工体制を強化し、最先端装置メーカーへの供給力を高めます。
2. 窒化ケイ素系(サイアロン)および炭化ケイ素(SiC)
極限の環境(高温・真空・プラズマ・腐食性ガス)に耐える、エンジニアリング・セラミックス群です。
- サイアロン(窒化ケイ素系): 鋳鉄の2倍の剛性を持ちながら、重さは40%と軽量。かつ熱に非常に強い。
- 炭化ケイ素(SiC): 硬度が極めて高く、熱を非常に通しやすい(高熱伝導)。
- どこに使われる: 半導体ウエハを処理する拡散炉・CVD(化学気相成長)装置の内部部材や断熱材、ウエハを保持するアームなど。
- 強化の狙い: 前工程でのウエハ処理が高速・高温化する中、摩耗や熱変形を起こさない高耐久性部材の需要が急増しているため、生産ラインを拡張します。
3. 積層セラミックコンデンサ焼成用道具材『PLATECT(プラテクト)』
半導体チップの安定動作に欠かせない、電子部品の製造プロセスを支える素材(世界トップクラスシェア)です。
- どんな素材: スマートフォンや電気自動車(EV)に大量に搭載される「積層セラミックコンデンサ(MLCC)」を、高温の炉で焼き上げる(焼成する)際に、土台として敷くセラミック製の板(セッター)です。同社は独自の「プラズマ溶射技術」による表面コーティングを得意としています。
- どこに使われる: 電子部品メーカーのMLCC製造ライン。
- 強化の狙い: 生成AI向けデータセンターやEV化の進展で、MLCCは「さらなる小型化・大容量化」が求められています。これらを焼き上げる際、成分が癒着したり変形したりするのを防ぐ高機能セッターの需要が世界中で拡大しており、増産と次世代品の開発を急ぎます。
黒崎播磨が強化するのは、化学的な液体(レジストやガス)ではなく、最先端半導体を「物理的・熱的にコントロールする土台」となる固体材料(ファインセラミックス)です。
- 低熱膨張材料(NEXCERA)
- 超高温やガスに耐える構造材料(サイアロン、SiC、サーマルセラミックス)
- 周辺受動部品を精密に焼き上げる材料(PLATECT)
これらの設備投資と加工技術の高度化に資金を集中させることで、半導体製造プロセスの「縁の下の力持ち」としてのポジションを盤石にする狙いがあります。

黒崎播磨は、長年培った高温制御技術を応用した高機能ファインセラミックスを強化します。具体的には、熱歪みを極限まで抑える超低熱膨張材『ネクセラ』や、高耐久な窒化・炭化ケイ素製の半導体装置向け部材です。
なぜセラミックスを低膨張にできるのか
一般的な物質は、温められると原子の振動が激しくなって互いの距離が広がるため、外側へと「膨張」します。
黒崎播磨の超低熱膨張セラミックス『NEXCERA(ネクセラ)』が、室温付近で「温めてもほとんどサイズが変わらない(ゼロ膨張)」を実現できる理由は、「プラス(膨張)とマイナス(収縮)の相殺」にあります。
1. 結晶の向きによって「伸びる方向」と「縮む方向」がある
NEXCERAのベースとなっているのは、コーディエライト(2MgO・2Al2O3・SiO2)という鉱物系のセラミックスです。
この結晶構造には非常にユニークな特性(結晶の異方性)があります。
- 温めると伸びる軸(プラスの熱膨張)
- 温めると逆に縮む軸(マイナスの熱膨張)
これらが一つの血漿の中に同居しています。温度が上がると、ある方向には広がろうとしますが、別の方向にはギュッと縮もうとするため、結晶全体として網の目のように引き合い、トータルでの体積変化が相殺されて「ほぼゼロ」になります。
2. 「プラス材料」と「マイナス材料」の精密な配合
NEXCERAの開発は、「熱膨張がプラスの成分」と「マイナスの成分」を理論計算に基づいて組み合わせることからスタートしています。
材料がバラバラに膨張・収縮しようとする際、ミクロな組織の内部でその歪みをうまく吸収し合うように、成分の配合比率や焼き上げる(焼結)条件を極限までコントロールしています。
これにより、最も精度が求められる20℃前後の室温領域で、膨張率が完全にフラット(ゼロ)になるようピンポイントで制御されているのです。
3. 従来の「ゼロ膨張ガラス」との決定的な違い
これまで精密装置には「ゼロ膨張ガラス」が使われてきましたが、セラミックスであるNEXCERAには製造プロセスや物性面で大きなアドバンテージがあります。
| 項目 | 従来のゼロ膨張ガラス | 黒崎播磨の『NEXCERA』 |
| 熱処理の極意 | アモルファス(ガラス状態)の中に結晶を析出させるため、長時間の特殊な熱処理が必要。 | 一般的なセラミックスと同様のプロセスで焼き固めるだけで、狙い通りのゼロ膨張特性が出る。 |
| 強度・剛性 | ガラス特有の「脆さ」があり、薄肉化や複雑な加工が難しい。 | ガラスの約1.5倍の剛性(硬さ)があり、軽くて強い複雑形状を作れる。 |
「温めると縮む」という自然界のへそ曲がりな現象(負の熱膨張)をミクロレベルで計算し尽くし、「温めると伸びる」現象と綺麗にガチンコ勝負させて打ち消し合わせているのが、この低膨張の秘密です。

温めると「伸びる成分」と、逆に「縮む成分(負の熱膨張)」をミクロレベルで精密に配合しているからです。温度上昇時にこのプラスとマイナスの変化が互いに打ち消し合うことで、全体の寸法変化をほぼゼロに抑えています。
どのように製造するのか
黒崎播磨の『NEXCERA』をはじめとする高機能ファインセラミックスは、一般的な焼き物(陶磁器)のプロセスを極限まで精密化した「粉末冶金技術」をベースに製造されます。
ナノレベルの配合制御と、超高温・高圧での成形技術がコアとなり、主な工程は以下の4ステップです。
1. 原料調合(調合・粉砕)
まず、ベースとなるコーディエライトなどの高純度セラミックス原料粉末に、熱膨張を相殺するための「負の熱膨張を持つ微細粉末」を分子レベルで均一になるよう精密に秤量・配合します。
その後、ボールミルと呼ばれる装置で溶媒(水やアルコール)と一緒に混ぜ合わせ、粒子の大きさをナノメートル単位まで均一に細かく砕きながらスラリー(泥水状)にします。
2. 乾燥・造粒(スプレードライ)
均一に混ざったスラリーを「スプレードライヤー(噴霧乾燥機)」という装置の中に吹き込みます。熱風の中に霧状に噴射することで、水分が一瞬で蒸発し、サラサラとした均一な球状の微粉末(顆粒)が作られます。この工程が、この後の成形密度を均一にするために極めて重要です。
3. 成形(CIP:冷間等方圧加圧)
サラサラになった粉末をゴムの型に詰め、水圧を利用してあらゆる方向から均等に超高圧(数千気圧)をかけるCIP(冷間等方圧加圧法)という技術を用います。
これにより、複雑な形状や大型の部材でも、内部の密度が完全に均一な「粉の塊(グリーン成形体)」が成形されます。密度が不均一だと、焼いたときに歪みやひび割れの原因になります。
4. 焼結(焼成・熱処理)
成形体を1,300℃〜1,400℃前後の超高温の電気炉に入れ、長時間かけて焼き固めます。
この際、粉末の粒子同士が原子レベルで拡散し合い、隙間(気孔)が潰れて緻密な結晶組織へと変化します。NEXCERAは、この焼結の温度と時間のプロファイルを緻密にコントロールすることで、狙い通りの「プラスとマイナスの膨張が相殺し合うミクロ組織」を完成させます。
5. 最終加工・検査
焼き上がったセラミックスは非常に硬いため、ダイヤモンド工具を用いて、半導体装置メーカーが求めるナノメートル・ミクロン単位の超高精度な寸法へ削り出し(研削加工)を行います。
最後に、熱膨張計を用いて室温付近での膨張率が確実に「ほぼゼロ」であることを全数検査し、出荷されます。
「極限まで均一に混ぜ、均一に固め、狙い通りの温度で焼く」という一連のプロセス制御が、世界最高峰の低膨張セラミックスを生み出しています。

高純度の原料粉末に負の熱膨張材をナノレベルで均一に調合し、水圧(CIP)で全方向から均等に超高圧成形します。これを最適温度で緻密に焼き固め(焼結)、ダイヤモンド工具で超精密に削り出して製造します。

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