この記事で分かること
推論でCPUが重要な理由
AIエージェントの推論では「条件分岐や意思決定」という複雑なロジック処理が頻発し、これがCPUの得意分野だからです。また、大容量メモリへの高速アクセスや、内蔵AI加速器による低コスト化も理由です。
ファウンドリ事業が評価される理由
最先端の「18A」プロセスや3Dパッケージ技術を確立し、Google等から大口受注を相次いで獲得したためです。TSMC一極集中の地政学リスクを回避する、世界唯一の最先端の代替先として期待されています。
競合との性能比較
インテルの「18A」は、革新的な裏面電源技術を先駆けて導入したことで、純粋な計算性能と電力効率でTSMCの2nm(N2)を凌駕します。一方、チップを小さく作る高密度化ではTSMCが優位を保っています。
アナリストによるインテル株の格上げ
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のトップアナリストであるビベック・アーヤ氏が、それまで「売り(アンダーパフォーム)」としていたインテル(INTC)を、中立を飛び越えて一気に「買い」へと2段階格上げしたことが報じられています。
2026年の年初からインテル株はファウンドリ再建への期待で劇的な復活(年初から約2倍、52週安値の18.97ドルから110〜120ドル台へ急騰)を遂げていましたが、今回のアーヤ氏の発表は、その上昇トレンドに決定的な太鼓判を押す形となりました。
格上げの理由は何か
ビベック・アーヤ氏がインテル(INTC)を「アンダーパフォーム(売り)」から一気に「買い」へと2段階格上げした理由は、主に「マクロ環境(AIのトレンド)の変化」と「インテル独自の業績回復シナリオ」が完璧に噛み合ったことにあります。
1. エージェンティックAI(Agentic AI)の普及による「CPUの復権」
これまでのAIブームは、データ学習(トレーニング)が中心だったため、NVIDIAなどの「GPU」ばかりが注目されていました。
しかし、AIが自律的に考えてタスクを実行する「エージェンティックAI(推論・運用)」のフェーズに移ったことで、潮目が変わりました。複雑な推論を制御したり、システム全体を統括したりする負荷は「CPU」にかかるため、データセンターにおけるサーバー用CPUの需要が爆発的に再拡大すると予測されています。
BofAは、2030年までにサーバーCPUの市場規模(TAM)が1,700億ドル超に達し、インテルがその大きな恩恵を受けると見ています。
2. ファウンドリ(受託製造)事業の「大口顧客」獲得の現実味
これまで投資家から「本当に最先端の半導体を他社から受注できるのか」と懐疑的に見られていたインテルのファウンドリ事業(Intel Foundry)に、具体的なメガテック企業の影が見えてきたことです。
- Google(Alphabet)からの大口受注: 2028年製造のAIチップ(TPU)をインテルに300万個以上発注したという報道。
- NVIDIAとの協業観測: NVIDIAが次世代アーキテクチャのテスト生産(MPW)をインテルの最先端「18A」プロセスで開始したという情報。
- TSMCの代替としての需要: 世界的な最先端パッケージング技術(CoWoSなど)の不足を背景に、インテルの3Dパッケージング技術「EMIB」が、AppleやMediaTekなどの有力な受け皿(セカンドソース)になりつつある点。
3. 2030年に向けた「収益力(EPS)」の劇的な上方修正
アーヤ氏は、インテルの2030年の予想1株当たり利益(EPS)を、従来の3.00〜4.00ドルから6.24ドル(6.00ドル超)へ大幅に引き上げました。
最先端プロセス(18Aなど)の歩留まり(良品率)が改善し、製造コストが下がることで、利益率が劇的に回復するという具体的な数理シナリオが立ったことが、135ドルという高額な目標株価の根拠となっています。
4. 機関投資家の「持たざるリスク(需給の妙)」
インテルの株価はファウンドリ再建への期待からすでに上昇を始めていますが、S&P500を対象とする大手大型ファンドのうち、インテル株をポートフォリオに組み込んでいるのはわずか16%に過ぎませんでした(多くの機関投資家がインテルを「終わった企業」として売り払っていたため)。
今後、インテルの復活が本物だと確信した機関投資家が、出遅れを防ぐために一斉に買い戻し(リバランス)に動くため、強力な株価の上昇圧力が働くという需給面のメリットを指摘しています。
「AIブームがGPUからCPU(インテルの得意分野)へシフトし始めたこと」と、「ファウンドリ事業でGoogleなどの超大口顧客の獲得が現実になったこと」で、長年の構造赤字から抜け出し、2030年に向けて爆発的な利益成長ステージに入ったと判断したためです。

AIの主役がGPUから、複雑な推論を制御する「CPU」へシフトしたこと、またGoogle等の大口顧客獲得でファウンドリ事業の黒字化に目処が立ち、2030年に向けた大幅な利益成長(EPS急増)が見込めるためです。
なぜ推論ではCPUが重要となるのか
AIの「学習(トレーニング)」では、膨大なデータを力技で並列処理するためGPUが主役でした。しかし、実用フェーズである「推論(インファレンス)」、特に高度なAIエージェントの処理においてCPUが重要になる理由は、主に3つのシステム上の特性があるからです。
1. 複雑な「条件分岐」や「意思決定」の処理が得意
AIエージェントは、単に文章を生成するだけでなく、「Webで検索する」「コードを実行する」「結果を評価してやり直す」といった、複雑な条件分岐(If-Then処理)を繰り返します。
- GPU: 単純な計算を数千個同時にこなすのは得意ですが、複雑なロジックや分岐処理は苦手です。
- CPU: 複雑なロジックを圧倒的な高速(高クロック)で順序立てて処理するように設計されているため、AIの「思考のコントロールタワー」として不可欠になります。
2. 「メモリ」へのアクセス速度と容量の壁
推論処理では、AIモデルのデータ(重み)や、ユーザーとのこれまでの会話履歴(コンテキスト)に高速でアクセスする必要があります。
- GPUのメモリ(HBMなど)は非常に高速ですが、容量が小さく、価格が極めて高価です。
- CPUは、サーバーが持つ数テラバイト(TB)規模の大容量・安価なメインメモリ(DDR5など)に直接アクセスできるため、長大な文脈を扱う大規模な推論システムを低コストで構築できます。
3. コスト(TCO)と電力効率の最適化
すべてのデータセンターに高額で消費電力の大きいNVIDIAの最新GPUを並べるのは、コスト面で現実的ではありません。
最新のサーバー用CPU(IntelのXeonなど)には、「AMX(Advanced Matrix Extensions)」といったAI推論を高速化する専用の計算ブロックが標準で組み込まれています。
これにより、わざわざ高価なGPUを搭載しなくても、一般的な推論タスクであればCPUだけで十分高速かつ低消費電力でこなせるようになっています。
AIの学習が「巨大な筋肉(GPU)」を必要とする筋トレだとすれば、推論(エージェント行動)は「臨機応変な判断力(CPU)」を必要とするデスクワークだからです。

AIエージェントの推論では「条件分岐や意思決定」といった複雑なロジック処理が発生し、これがCPUの得意分野であるためです。また、大容量メモリへの高速アクセスや、CPU内蔵のAI加速器による低コスト化も理由です。
ファウンドリ事業が評価されているのはなぜか
インテルのファウンドリ事業(Intel Foundry)が市場から急激に評価されているのは、長年「不可能だ」と言われていた最先端製造プロセスの立ち上げと、世界最高峰のメガテック企業(顧客)の獲得が、現実のものとして証明されつつあるからです。
1. 最先端プロセス「18A」と「裏面電源供給(PowerVia)」の成功
半導体の微細化において、インテルは最先端の「18A(1.8ナノ相当)」プロセスの量産化に目処をつけました。
特に評価されているのが、半導体の裏側から電力を供給する「PowerVia」という革新技術です。これにより、競合のTSMCよりも一歩早く、チップの省電力化と処理能力の向上を両立させることに成功しました。
2. GoogleやNVIDIAなど「超大口顧客」の獲得
「技術はあっても顧客が付かない」という最大の懸念が払拭されました。
- Google(Alphabet): 2028年製造のAIチップ(TPU)を300万個以上インテルへ発注したと報じられ、最大の成功事例となりました。
- NVIDIA: 同社の次世代AIチップ向けに、インテルの18Aプロセスでのテスト生産(MPW)を開始したとされています。
3. TSMCの代替(セカンドソース)としての地政学的・供給リスク回避
現在、世界の最先端半導体製造は台湾のTSMCに一極集中しています。
地政学的なリスクや、TSMCのキャパシティ不足(特に先端パッケージング技術「CoWoS」の深刻な不足)を背景に、米欧に最先端工場を持つインテルが「絶対に不可欠な代替の受け皿」としてメガテック企業から熱視線を浴びています。
4. 独自の3Dパッケージング技術「EMIB」の歩留まり改善
複数のチップを1つに高密度で組み立てる「先端パッケージング技術(EMIB)」において、インテルは歩留まり(良品率)を90%近辺まで引き上げたとされています。
これにより、AppleやMediaTekといった企業が、前工程(回路形成)はTSMCで行い、後工程(パッケージング)だけをインテルに委託するという新しい形での受注も拡大しています。
技術の遅れを完全に挽回し、「TSMCの独占を打破できる世界唯一の受け皿」として、Googleなどの巨頭から数兆円規模の信頼(受注)を勝ち取り始めたからです。

最先端の「18A」プロセスや独自の3Dパッケージ技術の確立に加え、Google等から大口受注を相次いで獲得したためです。さらに、TSMC一極集中の地政学リスクを回避する「唯一の代替先」として評価されています。
1.8ナノ相当の性能の競合との比較はどうか
インテルの「18A(1.8ナノ相当)」は、最大のライバルであるTSMCの「N2(2nmクラス)」、およびSamsungの「SF2」と設計思想が大きく異なり、業界では「性能のインテル、密度のTSMC」という明確な一長一短の構図で比較されています。
主要3社の2nmクラス・プロセス比較
| 評価項目 | インテル(Intel 18A) | TSMC(N2) | Samsung(SF2) |
| 強み | 純粋な処理性能(スピード) | トランジスタ密度(集積度) | バランス、モバイル最適化 |
| トランジスタ密度 | 約 238 MTr/mm² | 約 313 MTr/mm²(圧勝) | 約 231 MTr/mm² |
| 裏面電源供給(BSPDN) | 第1世代から導入(PowerVia) | 初期N2は見送り(A16から) | 後期プロセスで導入予定 |
| 量産・市場投入 | 2025年後半〜2026年前半 | 2025年後半〜2026年後半 | 2025年末〜2026年 |
1. 「性能(インテル)」vs「密度(TSMC)」
- インテル 18A: トランジスタを垂直に重ねる構造(GAA)において、電流を流す「リボン」の数を競合より多く確保しています。電流量を多く流せるため、高クロックでの「純粋な処理速度」においてTSMCを凌駕すると解析されています。
- TSMC N2: 1平方ミリメートルあたりのトランジスタ詰め込み数(密度)でインテルを約30%上回ります。チップを小さく作れるため、スマートフォン(AppleのA19など)のように省電力・省スペースが最優先される用途ではTSMCが絶対的に有利です。
2. 「裏面電源供給(PowerVia)」の有無
インテルがTSMCに対して明確な技術的アドバンテージを持っているのが、電力をチップの「裏側」から供給する技術(PowerVia)を他社に先駆けて実用化した点です。
- 従来(TSMC N2): 表側に信号線と電源線が混在するため、お互いが邪魔をしてノイズや電圧降下(電力ロス)が起きます。
- インテル 18A: 電源線を完全に裏側に隔離したため、表側のロジック回路を100%効率よく動かせます。これが、インテルが「電力効率と性能で勝る」と言われる最大の理由です。
3. 戦略アプローチの違い(リスク vs 堅実)
- インテルの賭け: 新しい構造(RibbonFET)と、裏面電源(PowerVia)という2つの革命的技術を同時に一発で投入しました。技術的には非常にアグレッシブで、これが成功した(Googleに認められた)ため評価が急上昇しています。
- TSMCの堅実路線: 最初の2nm(N2)では新しい構造のみを導入し、裏面電源は次の世代(N2PやA16プロセス)まで見送るという段階的なアプローチを取っています。これにより「絶対に失敗しない高い歩留まり」を維持しています。
サーバー用CPUや高性能AIチップのように、「電力を食ってもいいから、とにかく圧倒的な計算スピードと処理能力が欲しい」という用途(まさに現在のAI推論サーバー)において、インテルの18AはTSMC N2に対して強力な競争力を持っています。これが、アナリストがインテルのファウンドリに強気になった技術的根拠です。

インテルの「18A」は、裏面電源供給技術を先駆けて導入したことで、純粋な処理性能と電力効率でTSMCの2nm(N2)を凌駕する設計です。一方、チップの小型化・高密度化ではTSMCが優位を保っています。

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