本の要点
ウクライナ戦争におけるウクライナの人々の苦しみや残酷さは忘れるべきではありませんが、戦争は現実を確かめるための究極の試金石です。
ウクライナ戦争で明らかになったことはグローバル化による生産手段を失った西側諸国の産業システムの崩壊と西洋の価値観に違和感を持つ国々の多さでした。
アメリカ社会もプロテスタントとという宗教的な核消滅での弱体化しており、世界でのアメリカの覇権崩壊が起きはじめていますが、世界はアメリカ抜きでもバランスを見つけられるはずです。
西洋イデオロギーの問題点は歴史意識の低さからもたらされる長期的な視点の欠如です。民主主義も人間のなした発明の一つに過ぎず、たとえ民主主義が終わっても、歴史は続いていきます。
中国やロシアなどの権威主義国家の台頭やポピュリストの台頭によってリベラル民主主義の後退が続いています。
ただし、アメリカが覇権国家として大きな力を持っていた状態は例外的なものでなく、アメリカの弱体化と中国の対応で今後は、国際情勢は多極化し、中規模の力を持った国同士が同盟で結びつく形に変化していくものと予想されます。
また、リベラルが攻撃されている背景にはリベラルな社会のエリート層から尊重されていないと感じた人々が反リベラルを支持していることがあります。
また、SNSの発展で質の低い情報が増加したことやIT企業や個人への力の集中もポピュリストの台頭の要因になっています。
自由な社会が普通で当たり前になるとその価値を見失ってしまいますが、新しいものを生み出し、経済を発展させ、創造性を発揮するには自由な社会が欠かすことができません。
この本や記事で分かること
・ウクライナ戦争が明らかにした西洋諸国の問題点
・アメリカの弱体化がもたらす国際情勢の変化
・リベラルの重要性とリベラル民主主義が後退している理由
感想
本書はウクライナ戦争やテクノロジー特にAIがもたらした世界の変化やこの変化とどう向き合っていくべきかについて、著名な人物へのインタビューという形の本になっています。
前半部分は歴史、人類学者であるエマニュエル・トッド氏と政治学者であるフランシス・フクヤマ氏のインタビューとなっています。
二人に共通しているのは、アメリカの弱体化によって覇権国としての役割は終わり、多極化していくだろうという予想です。アメリカの影響力低下は世界に混乱を招くのでは?と考えがちですが、多極化した社会でも安定は可能という部分が勉強になりました。
また、ウクライナ戦争や反グローバルリズムによって西洋の価値観の押し付けに拒否感を持つ人や国が増えているという話も西洋の価値観が進んでいると考えることも多く、印象的でした。
トッド氏の戦争は現実を確かめる究極の試金石であるという発言からも分かる通り、なんとなく持っていたイメージが崩れていく瞬間に立ち会っていることを改めて実感させてくれる本でした。
ウクライナ戦争は西洋のどんな問題点を明らかにしたのか


ウクライナ戦争は西側諸国のグローバル科による産業システムの崩壊と生産力の低下を見せつけるものとなりました。
西洋の抱える問題は何か


グローバル化が世界の繁栄と生活水準の向上をもたらしたことは事実です。
しかし、労働者からの搾取や価値観の押し付け、欧米での格差拡大などで静養の価値観に偽もを持つ人も増えています。
アメリカで今どのような変化が起きているのか


アメリカはプロテスタントとという宗教的な核の消失で国家中枢の弱体化と寡頭支配者の影響力拡大で封建主義のような社会が到来しています。
アメリカの弱体化は世界に何をもたらすのか


アメリカの弱体化は覇権国家としての地位を失うものですが、近年のアメリカは世界に混乱を招いており、今後はアメリカ抜きでもバランスを見つけられるはずです。
西洋の問題はなぜ起きているのか


歴史意識の低下が長期的な視点の欠如を招いているのが西洋イデオロギーの問題点です。
しかし、民主主義も人間の発明の一つに過ぎません。民主主義が終わっても、歴史は続いていくものです。
グローバル民主主義はどのような状態なのか


権威主義国家の台頭もあり、自由な民主主義は後退を続けています。
民主主義国家でのリベラルの衰退はどのように起きているのか


ポピュリストは民主的な選挙で選ばれてはいますが、リベラルを嫌い、法システムを弱体化することで、反リベラルな民主主義を体現しています。
反リベラルの背景にはリベラルなエリート層から尊重されていないと感じる人が増加したことがあります。
アメリカの弱体化はなぜ起きたのか、世界に何をもたらすのか


アメリカは反リベラルの台頭などでの社会の分断で弱体化しています。しかし、アメリカが覇権国家となっていた状況は例外的なものです。
今後国際情勢は多極化し、中規模の力を持った国が同盟で結びつく形になっていきます。
インターネットのもたらす問題は何か


インターネットは情報の流れが支配をエリート層から解放した一方で、信頼性の低い情報を増加させたり、巨大IT企業への力の集中を起こしています。民主主義にとって、私的な力の集中は避けるべきで今後の大きな問題です。
リベラルな社会に代わるものはあるのか


自由な社会が当たり前になるとその価値を忘れていしまいますが、新しいものを生み出し経済を成長させ、創造性を生むためにも自由な社会は欠かすことができないものです。
本の要約
ウクライナ戦争の長期化が私たちに見せたものは、西側諸国の産業システムの崩壊です。ロシアのGDPはNATO加盟国の4.9%に過ぎませんが、様々な物資の供給でNATO加盟国はロシアを上回ることができていません。グローバル化によって生産手段を失ったことが西側諸国に深刻な問題を突き付けています。
グローバル化が世界に繁栄をもたらし、生活水準を向上させてきたことも確かですが、世界中の労働者から搾取をしている面もあります。また、西洋の価値観の強要、押し付けもあり、西洋以外の国は西洋の国を不快に思うことも少なくありません。
欧米は社会的、経済的な格差が広がり、自由な民主主義ではなく、リベラルな寡頭制(国の実権を少数で握っている状態)へと変化しています。
ウクライナの人々の苦しみや戦争の残酷さを忘れることはできませんが、戦争は現実を確かめる究極の試金石であり、歴史家、経済学者など社会学者が自分たちの仕事をすべきタイミングでもあります。
アメリカではプロテスタントとという宗教的な核が消滅し、労働倫理が消滅したことで、封建主義のような社会が到来しています、
封建主義には国家の中枢の弱体化で寡頭支配者の影響力が増大します、社会が支配者にだけ都合の良いものに変化するとお金で人すらも買えるようになる側面があります。
アメリカやその周辺国の人々はアメリカの覇権の崩壊によって、世界に恐ろしいことが起こると考えていますが、ソ連崩壊後の20年間アメリカは社会の劣化もあり、無秩序を生み出してきました。世界はアメリカ抜きでもある種のバランスを見つけられるはずです。
西洋イデオロギーの中心的な問題点の一つは歴史意識の驚くほどの低下にあり、長期的な視点で物事を考えなくなっています。民主主義も人間のなした発明の一つに過ぎません。民主主義が終わっても、歴史は続き、ひとりひとりの人生は続いていきます。
過去15年間、グローバル民主主義は後退してきました。権威主義であるロシアと中国は自由民主主義が時代遅れとして、自らの国家像を打ち出そうと試みています。
民主主義とは自由で公正な選挙によって人々が統治すること、リベラルは市民に言論、信仰、政治参加といった基本的な権利を保障し、政府の権力を制限するもののことです。
トランプ大統領をはじめとしたポピュリストは民主的な選挙で選ばれていますが、法システムを弱体化し、反リベラルな民主主義を体現しています。
リベラルが民主主義によって攻撃されている背景にはリベラルな社会のエリート層から尊重されていないと感じた人々が反リベラルを支持している面があります。
覇権国家としてアメリカが大きな力を握っていた状況は例外的なモノです。アメリカが反リベラルの台頭での分断で弱体化したことと中国の台頭によって、国際情勢は多極化し、中規模の力を持った多くの国が同盟で結びつく形に変化していきます。
インタネットによって情報の流れがエリート層に支配されていた状況から解放されました。しかし、信頼性の低い情報が増加し、情報が事実であるかを確認することは難しくなりました。
またSNSが武器のように使用され、巨大IT企業や個人への力の集中も問題になっています。Twitterが左派的な方向に進むことを気に入らないイーロンマスクに買収され、右派的な方向に傾いています。
民主主義にとって私的な力への過剰な集中は避けるべきことですが、現状では大きな問題になっていしまっています。
リベラルな社会が当たり前となるとリベラリズムに変わるもののひどさを忘れてしまいます。自由な社会は自分の意思で選択ができる状況であるため、新しいものが生み出され、経済的な生産性を高くし、創造性にあふれる芸術表現が多く生み出されます。
自由な社会が普通で当たり前のことだと感じると、その価値を見失いがちになってしまいます。
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