この記事で分かること
・しんかいとは何か:日本の有人潜水調査船であり。世界の深海探査をリードし、新種生物や地質学的な発見に貢献してきました。
・なぜ、無地探査機へ転換するのか: 世界的に無人機の活用が主流になっているという事情に加え、耐圧殻の技術が継承されていない有人機の開発・運用コストが高い点も影響します。
・深海探査はなぜ重要か:資源確保、海洋覇権争いへの対策、軍事、防衛分野で利用されるためであり、安全保障上も国産化が求められています。
有人潜水調査船「しんかい6500」の老朽化と無人探査機への転換
有人潜水調査船「しんかい6500」の老朽化と無人探査機への転換がニュースになっています。
https://www.asahi.com/articles/DA3S16008518.html?utm_source=chatgpt.com
海洋研究開発機構(JAMSTEC)が所有する有人潜水調査船「しんかい6500」は、1990年の完成以来、30年以上にわたり深海探査を担ってきましたが、設計寿命が迫っています。
耐圧殻の製造技術が継承されておらず、緊急浮上装置の老朽化も進行しています。このため、文部科学省は有人機の後継開発が困難と判断し、無人探査機の開発を優先する方針を決定しました。
しんかい6500にはどんな実績があるのか
1. 1991年:日本初の深海6,000m級有人潜航を達成
- しんかい6500は、1991年に日本で初めて6,000m級の深海探査に成功。
- これは当時、世界最高の潜航深度を誇る調査船として国際的にも注目された。
2. 1992年:南太平洋の「チャレンジャー海淵」の探査(最深部近くまで到達)
- 世界で最も深い場所「マリアナ海溝」付近にあるチャレンジャー海淵(約11,000m)の一部(6,527m地点)まで潜航。
- 深海の地形や生態系を詳細に調査し、超高圧環境で生息する微生物の発見につながった。
3. 2000年:中央インド洋海嶺で新種の深海生物を発見
- 深海熱水噴出孔(ブラックスモーカー)周辺を探査し、未知の生態系を発見。
- 特に、高温・高圧環境で生息する微生物や甲殻類の新種が見つかった。
4. 2005年:スマトラ沖大地震の震源域を調査(巨大地震のメカニズム解明)
- 2004年に発生したスマトラ沖地震(M9.1)の震源域へ潜航し、地震による地形変化を詳細に観察し、巨大地震のメカニズムの理解に貢献。
- これにより、地震津波の発生過程を解明する重要なデータを収集した。
5. 2013年:南海トラフのプレート境界を世界で初めて直接観察
- 日本近海の南海トラフは、今後巨大地震が発生する可能性が高いエリアであり、しんかい6500は、プレート境界の断層を世界で初めて直接観察・撮影しました。
- この調査によって、地震発生帯の詳細な構造が明らかになり、防災研究に貢献。
6. 2017年:沖縄トラフの熱水噴出孔でレアメタルを発見
- 沖縄近海の熱水噴出孔でレアアースやレアメタルを多く含む鉱床を発見しました。
- これにより、日本の深海資源開発の可能性が高まり、経済安全保障の観点からも重要な発見となりました。
7. 2019年:南極海で深海生物を調査(極限環境での生態系解明)
- 南極海の深海に潜航し、極限環境に適応した深海生物の分布を調査。
- 氷河の下に広がる深海の未知の生態系について、新たな知見を得ました。
8. 近年の探査:海底火山やメタンハイドレートの調査
海底火山の噴火による地形変化や、海底温泉の成分分析も行っています。
日本周辺の海底火山やメタンハイドレートの分布を詳しく調査し、エネルギー資源としての可能性を検討。

しんかい6500は世界の深海探査をリードし、新種生物や地質学的な発見に貢献してきました。
今後の日本の深海探査はどうなっていくか
海外では高性能な深海探査機の開発が進んでいます。中国の「奮闘者」や米国の民間調査船「バクナワ」は1万メートル級の潜航能力を持ち、インドも2026年の完成を目指して6,000メートル級の探査機を建造中です。無人探査機の分野でも、欧州や韓国、オーストラリアなどが6,000メートル級以上の機体を導入しており、経済安全保障の観点から国産化を推進しています。
かつて世界トップの潜水能力を誇った日本ですが、現在は深海探査技術で後れを取っています。特に、自律型無人探査機(AUV)の開発では欧米が先行しており、日本が保有するAUVの多くは外国製です。この状況を受け、政府は昨年、2030年までに国産化を目指す戦略を策定し、JAMSTECの技術を民間に提供して利用拡大を進めています。

日本の深海探査分野での技術革新と国際競争力の強化が求められています。
なぜ、有人機の開発を困難と判断したのか
日本が有人深海探査機の開発を困難と判断した理由は、主に以下の3つの要因によります。
1. 技術の継承が困難になっている
有人潜水調査船「しんかい6500」を製造した当時の耐圧殻(たいあつかく)の製造技術が、日本国内で継承されていません。
- 「しんかい6500」は、当時世界最高レベルの耐圧性能を持つチタン合金製の耐圧殻を使用していましたが、その製造技術を担っていた企業がすでに生産を終了。
- 新たに製造するには技術の復活が必要であり、莫大なコストと時間がかかってしまいます。
2. 予算と開発コストの問題
日本の科学技術予算には限りがあり、無人探査機(ROVやAUV)へのシフトが合理的と判断されました。
- 有人機は1回の運用コストが高い(安全対策が厳しく、長期間のメンテナンスが必要)。
- 無人機は長時間・広範囲の探査が可能であり、コストパフォーマンスが良い。
- 深海探査は軍事・資源調査と密接に関係しているため、海外(特に中国・米国)と競争するには迅速な開発が求められる。
3. 国際的な探査トレンドの変化
近年の深海探査は有人機より無人機が主流になりつつあり、日本は限られた資金を効率よく活用するため、無人機開発にシフトする方針を取りました。
中国の「奮闘者(フェンドウジャ)」は有人探査機ですが、主に国威発揚の目的が強い。米国や欧州ではAI搭載の無人探査機(AUV)の開発が進み、より高精度な探査が可能になっています。

日本が有人深海探査機の後継開発を断念したのは、
① 耐圧殻の技術が継承されていない
② 有人機の開発・運用コストが高い
③ 世界的に無人機の活用が主流になっている
深海探査機の国産化が経済安全保障上なぜ重要なのか
深海探査機の国産化が経済安全保障上重要な理由は、以下の4つの観点から説明できます。
1. 海底資源の確保と資源競争への対応
日本のEEZ(排他的経済水域)には、多くの海底資源が眠っているため、国産の深海探査機が不可欠です。
(1)レアメタル・レアアースの確保
- 沖縄トラフや伊豆小笠原海域には、**レアメタル(コバルト、ニッケル、マンガンなど)**を含む海底鉱床が存在。
- 中国がレアアースの輸出規制を強化する中、海底資源を自前で調査・開発できる技術が重要。
(2)メタンハイドレートの開発
- 日本周辺の海底にはメタンハイドレート(燃える氷)が大量に存在し、将来的な国産エネルギー資源になりうる。
- しかし、探査・採掘技術が海外に依存していると、日本単独での開発が困難になる。
2. 海洋覇権争いへの対策(特に中国の動向)
- 中国は近年、海洋進出を強化しており、南シナ海・沖縄周辺海域での活動が活発化。
- 「奮闘者(フェンドウジャ)」の開発や深海ドローンの導入により、深海での調査能力を急速に向上させている。
- 日本が国産の探査機を持たないと、中国などの国による海底調査が先行し、資源の主導権を奪われる可能性がある。
▶ 例:中国が南シナ海で「歴史的権利」を主張し、実効支配を進めた事例のように、日本のEEZ内の海底資源も同様のリスクにさらされる。
3. 軍事・防衛分野での活用(海底ケーブル・潜水艦対策)
深海探査技術は、単なる科学調査だけでなく、安全保障にも直結しています。
(1)海底ケーブルの保護
- 日本と海外を結ぶ通信ケーブルの99%は海底に敷設されており、これが破壊されると経済・軍事通信に甚大な影響。
- 中国やロシアは、海底ケーブルを探索・監視する能力を強化しており、日本も対抗する必要がある。
- 国産の無人探査機があれば、ケーブルの監視・修理が自前で可能になる。
(2)潜水艦の探知・監視
- 中国の潜水艦の活動が活発化しており、日本近海での不審な動きが増加。
- 無人探査機を活用すれば、海底地形を把握し、潜水艦の隠れ場所(海底谷など)を特定できる。
- 防衛省や海上自衛隊と連携し、「海洋ドメイン・アウェアネス(MDA)」の強化が求められる。
4. 技術の自立と国際競争力の維持
(1)海外依存のリスクを低減
- 2020年代以降、欧米や中国は深海探査技術の輸出を制限する傾向。
- 探査機を輸入に頼っていると、国際情勢によって供給が止まり、日本の海洋調査がストップする可能性がある。
(2)産業振興と技術革新の促進
日本企業(造船・精密機器・センサー技術)への波及効果も期待できる。
深海探査技術は、ロボット工学・AI・材料科学・海洋工学など多くの分野に関連。
国産化を進めることで、日本の技術力を底上げし、国際競争力を強化できる。

資源確保、海洋覇権争いへの対策、軍事、防衛分野で利用される深海探査機を国産化することは経済安全保障の観点からも重要です。
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