この記事で分かること
1. なぜ熱対策が重要視されているのか
AIチップが1,000W級に高発熱化する中、HBMは縦に積む構造上「内部に熱がこもりやすい」ためです。高熱はDRAMのデータ消失や性能低下を招くため、冷やさなければ本来の超高速性能を発揮できません。
2. HPB(Heat Path Block)冷却技術とは何か
サムスンが開発した内部冷却技術です。最も発熱する最下層の真上に、シリコン製の「放熱煙突(ブロック)」を垂直に埋め込み、内部の熱をパッケージ上部(外部)へ最短ルートで直接逃がして熱抵抗を約16%低減します。
3. なぜシリコンブロックを使用するのか
シリコンは熱伝導率が周囲の樹脂の約100倍と高く、熱を効率よく逃がせるからです。さらに、周りのDRAMと「同じ素材」のため、熱膨張の差によるチップの歪みや微細な回路の断線(物理的破損)を防げます。
AIチップの冷却技術:HPB
AIチップの消費電力が1,000Wの大台に迫り、HBM(高帯域幅メモリー)の積層数が12層、16層、そして20層へと限界を押し広げる中、メモリ業界の競争軸は「帯域幅や積層数」から「熱管理(冷却技術)」へと完全にシフトしています。
最近の発表から、サムスン、SKハイニックス、マイクロンの3大巨頭がそれぞれ全く異なるアプローチで次世代(HBM4、HBM5)の熱壁に挑む「技術路線対決」の構図が鮮明になりました。
従来、冷却といえば「サーバーラック全体のファンや水冷システム」という外側の話でした。しかしHBM4/5の時代に入り、「チップの内部をどう冷やすか」という3Dパッケージング技術そのものが、NVIDIAやAMDなどのAI巨頭から選ばれるための必須条件になっています。
サムスン電子は独自の「シリコン煙突」構造 であるHPB(Heat Path Block)での冷却効率の向上を行っています。
なぜ熱対策が、重要視されているのか
HBM(高帯域幅メモリー)において、なぜここまで熱対策が「企業の生死を分ける最重要課題」として急浮上しているのか。その理由は、AIチップの急速な進化に伴い、物理的な限界、電気的な限界、そしてコストの限界が同時に押し寄せているからです。
理由は大きく分けて4つあります。
1. 1,000Wの衝撃:AIアクセラレータの爆発的な発熱
現在の主要なAI向けGPU(NVIDIAのBlackwellなど)や次世代ASICは、1基あたりの消費電力が1,000W(1kW)の大台に達しています。これは家庭用のドライヤーや電子レンジを、親指の爪ほどのスペースで常にフル稼働させているようなものです。
HBMはこの超高熱を放つロジック半導体の「真横」に、インターポーザと呼ばれる基板を介して超至近距離で配置されます。つまり、GPUの莫大な熱がHBMに直接伝導してくるため、対策を怠ればメモリが瞬時に限界温度を超えてしまいます。
2. 積層化による「熱のタワー化」と断熱効果
HBMは、DRAMチップを縦に12層、16層、そして20層と積み重ねることで大容量と超高速通信を実現しています。
しかし、シリコン(チップ)を上に積み重ね、その隙間をアンダーフィル(樹脂製の保護材)で埋めるという構造は、皮肉にも「熱が外に逃げにくい超高性能な断熱材のタワー」を作っているのと同じ状態になります。
- 中央・下層の熱がこもる: 上層のチップが蓋(ふた)の役割をしてしまい、特に発熱が大きい最下層(ベースダイ)の熱が内部に閉じ込められてしまいます。
3. DRAMの物理的限界:温度上昇による「データ消失」
そもそもメモリー(DRAM)は、極小のコンデンサに電気を蓄えることでデータを記憶しています。しかし、DRAMは熱に非常に弱いという致命的な特性があります。
- データ保持時間の低下(リーク電流): 半導体は温度が上がると、蓄えた電気が外に漏れやすくなります(リーク電流の増加)。
- リフレッシュ頻度の急増: 電気が漏れる前にデータを書き直す「リフレッシュ」という作業の頻度を激しく増やす必要があります。リフレッシュが増えると、それ自体がさらに発熱を生み、さらに本来のデータ転送性能(帯域幅)が大幅に低下するという悪循環に陥ります。
一般的にDRAMの動作限界温度は85°C〜105°C付近とされており、AI処理中にこの温度を超えると、システムが強制停止(サーマルスロットリング)するか、最悪の場合はデータが破損します。
4. 「HBM4」での構造変化:ベースダイがさらに熱く
2026年現在、量産・開発が本格化している次世代の「HBM4」からは、構造がガラリと変わります。
従来はメモリメーカーが作っていた最下層の「ベースダイ」を、HBM4からはTSMCやサムスンの最先端ロジックプロセス(5nm/3nmクラス)で製造するようになります。これにより性能は飛躍的に上がりますが、ベースダイ自体の発熱量が跳ね上がります。
どんなに「16層・20層」と容量を増やし、「転送速度」を理論上高めたとしても、冷やすことができなければ、その性能を1%も発揮できないのが現在のAIハードウェアの現実です。
だからこそ、3大巨頭は「いかに効率よく内部の熱を外へ逃がすか」のパッケージング技術(iHBM、HPB、トレンチ冷却など)で血みどろのキャッチアップを繰り広げています。

HBMの熱対策が重視されるのは、AIチップの消費電力が1,000Wに達する中、メモリを縦に積む構造上「熱が内部にこもりやすい」ためです。高熱はDRAMのデータ消失や性能低下を招くため、冷やさなければメモリ本来の超高速性能を発揮できないからです。
HPB冷却技術とは何か
サムスン電子がHBM(高帯域幅メモリー)の深刻な発熱問題を解決するために開発したHPB(Heat Path Block)は、チップの内部にシリコン製の「放熱煙突(バイパス)」を直接埋め込む、 革新的なパッケージ内冷却技術です。
HBM4やHBM4E、次世代のHBM5といった、16層〜20層を超える超高積層メモリでの採用が進められています。
1. なぜHPBが必要なのか?
従来のHBMは、データを処理する最下層の「ベースダイ(ロジックダイ)」の上に、メモリーチップ(DRAM)を縦に何層も積み重ねる構造をしています。
問題は、最下層のベースダイ(特にD2D PHYと呼ばれる高速インターフェース領域)が最も激しく発熱する点です。熱は上に向かって逃げようとしますが、上にDRAMが何層も重なっているため、熱が内部に閉じ込められてしまう「熱のボトルネック」が発生していました。
これを物理的に解決するのがHPBです。
2. HPBのメカニズム:チップ内部の「放熱煙突」
HPBの仕組みは、高発熱エリアの真上に、熱を逃がすための専用ルートを丸ごと一本作ってしまうというものです。
- シリコンブロックの埋め込み:最も発熱するベースダイ上の領域(D2D PHYなど)の垂直線上に、熱伝導率の高いシリコンベースの独立したブロック(Heat Path Block)を配置します。
- 最短ルートでの排熱:このブロックが、重なったDRAM層を貫通するような形で「熱専用の垂直煙突(バイパス)」として機能します。ベースダイの熱は、周囲のDRAMに拡散することなく、このHPBを通って一気にパッケージ上部(ヒートシンクや水冷ブロックに接する面)へと吸い上げられます。
3. HPBを採用するメリット
サムスンが公表しているデータや技術的メリットは以下の通りです。
- 熱抵抗を最大16%低減:従来の構造に比べ、パッケージ内部の熱抵抗を約16%引き下げることに成功しています。これにより、AIアクセラレータ(GPUなど)をフル稼働させても、メモリが熱暴走(サーマルスロットリング)を起こしにくくなります。
- DRAM層の温度均一化:下からの熱がDRAMを直撃しないため、積層されたDRAM全体の温度が均一に保たれ、熱によるデータの化けやリフレッシュサイクルの悪化を防ぎます。
- 薄型化への貢献:熱伝導シート(NCF)を極限まで薄くしても熱を逃がせるため、16層や20層といった超高積層でも、物理的なパッケージの厚みを規定値内に収めやすくなります。
4. サムスンならではの「製造上の強み」
HPBを実現するためには、ベースダイの設計、DRAMの積層、そしてこの特殊なブロックを狂いなく配置する「高度な3Dパッケージング技術」が不可欠です。
サムスンは、メモリを作る「メモリ事業部」と、最先端の2nmなどのロジック半導体を製造する「ファウンドリ事業部」、そしてそれらを組み立てる「アドバンスド・パッケージング(AVP)チーム」をすべて自社内に持っています(IDMの強み)。
ベースダイの構造そのものにHPBを組み込むような複雑な設計・製造を、一気通貫(ワンストップ)で最適化できる点が、サムスンがこのHPB路線で勝負できる最大の理由です。

HPB(Heat Path Block)は、サムスンが開発したHBM向けの内部冷却技術です。最も発熱する最下層(ベースダイ)の真上に、シリコン製の「放熱煙突(ブロック)」を垂直に埋め込み、内部の熱をパッケージ上部へ最短ルートで直接逃がすことで、熱抵抗を最大16%低減します。
なぜシリコンブロックを使用するのか
サムスンがHPB(Heat Path Block)に「シリコン製」のブロックを採用する理由は、大きく分けて2つあります。
1. 熱を極めて通しやすいから(高い熱伝導率)
シリコン(単結晶シリコン)は、半導体の土台としてだけでなく、実は「熱を非常に通しやすい材料」でもあります。
その熱伝導率は、HBM内部のチップ間を埋める樹脂(アンダーフィル材)の約100倍に達します。そのため、熱がこもる場所にシリコンの塊(ブロック)を置くだけで、熱を上部へ吸い上げる強力な「熱の吸い出し口」として機能します。
2. 周りのチップと「同じ素材」だから(熱膨張による破壊を防ぐ)
HBMは超微細な世界であり、熱によってチップがわずかでも歪むと、回路が断線して故障します。
- もし金属(銅など)を使ったら: 銅は熱伝導率が非常に高いですが、熱をかけると「シリコンの約6倍」も大きく膨張します。チップが熱くなった際、ブロックだけが大きく膨張して周りのDRAMチップを物理的に押し潰し、破壊してしまいます。
- シリコンを使えば:周りのDRAMやベースダイと「全く同じ素材」であるため、熱を持っても全員が同じ比率で膨張・収縮します。そのため、チップに余計な応力(ストレス)をかけることなく、安全に熱だけを逃がすことができます。
「金属並みによく冷えるのに、周りのチップを物理的に傷つけないという特徴からシリコンが使用されています。

シリコンは熱伝導率が樹脂の約100倍と高く、熱を効率よく逃がせます。さらに、周囲のDRAMと「全く同じ素材」であるため、熱膨張の差によるチップの歪みや回路の断線(破損)を防げる点が最大の理由です。

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