この記事で分かること
- 人員削減の理由:対中半導体輸出規制の強化で、中国市場での売上減少が見込まれるためです。これに対応し、組織を合理化して競争力と生産性を向上させる狙いがあります。
- 今後の展望:コスト削減(人員削減)で収益性を維持しつつ、米国・欧州・アジア諸国でのファブ投資増大に対応することで、非中国市場での成長を加速させる予定です
アプライド・マテリアルズの人員削減
半導体製造装置大手であるアプライド・マテリアルズ (Applied Materials) が約1,400人の従業員削減を発表しました。これは全従業員の約4%にあたります。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN240MN0U5A021C2000000/
米国政府による半導体技術・装置の対中輸出規制が強化されたことにより、同社の中国向けビジネス市場の売り上げ低下が予測されたことが影響しています。
人員削減する理由は何か
米半導体製造装置大手であるアプライド・マテリアルズが約1,400人の従業員を削減する主な理由は、以下の2点です。
米国の対中輸出規制の強化による事業への影響
- 米国政府による半導体製造装置・技術の対中輸出規制が拡大・強化されたことにより、中国の顧客に対する特定の製品やサービスの供給がより困難になりました。
- 同社は、この規制強化の結果、2026年度の売上高に約6億ドル(約900億円以上)の影響が出ると見込んでおり、収益減少に対応するための措置です。
組織の合理化と効率向上
同社は、今回の人員削減を含むリストラを通じて、組織を「より競争力があり生産的な組織」に再構築し、業務の簡素化や意思決定の迅速化を図ることを目的としています。これは、事業環境の変化に対応し、将来の成長に備えるための構造改革の一環です。

米国による対中半導体輸出規制の強化で、中国市場での売上減少が見込まれるためです。これに対応し、組織を合理化して競争力と生産性を向上させる狙いがあります。
アプライドの製造装置にはどんなものがあるのか
アプライド・マテリアルズは、世界最大の半導体製造装置メーカーであり、半導体製造プロセスのほぼ全ての工程に対応できる幅広い装置ポートフォリオを持っています。
主な製造装置の種類は、半導体チップの製造プロセスにおける役割によって分類されます。
主要な装置カテゴリー
| カテゴリー | 装置の役割 | 装置の具体的な機能 (例) |
| 成膜 (Deposition) | ウェーハ表面に原子レベルの薄膜を形成する | CVD (化学気相成長)、PVD (物理気相成長)、ALD (原子層堆積)、エピ成長 |
| 除去 (Removal) | 不要な材料層を削り取ったり、平坦化したりする | CMP (化学機械研磨)、エッチング、選択的エッチング |
| 形成・加工 (Patterning & Shaping) | チップの回路パターンを形成する | フォトマスク、マスク検査、レジストコート |
| 改質 (Modification) | 材料の電気的特性などを変化させる | イオン注入、熱処理・加工 (Rapid Thermal Processingなど) |
| 計測・検査 (Measurement & Analysis) | 製造されたパターンの寸法や欠陥を検査する | 欠陥コントロール、パターニングコントロール |
| 統合 (Integration) | 異なる材料やチップを組み合わせる | ヘテロジニアス・インテグレーション関連装置 |
その他の製品分野
アプライド・マテリアルズは、半導体製造装置以外にも以下の分野の装置を提供しています。
- ディスプレイ製造装置: 液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)などの製造に使用される装置。
- 応用グローバルサービス: 顧客の装置の保守・修理、アップグレード、部品供給などのサービス。
アプライド・マテリアルズの強みは、これらの幅広い製品ラインナップによる「総合力」にあり、顧客に対して製造プロセス全体のソリューションを提供できる点です。
特に売り上げ減少が見込まれる製品
売上減少に最も大きく影響しているのは、米国の輸出規制の対象となっている「先端半導体」の製造に使われる装置全般です。
規制は特定のプロセスや技術レベルに基づいており、具体的には以下の装置が大きな影響を受けていると推測されます。
- 最先端ノード向け装置(ロジックIC、DRAM、NAND):
- ロジックIC:16/14ナノメートル以下の製造技術ノードを使用する装置。
- DRAM:18ナノメートルハーフピッチ以下の製造技術ノードを使用する装置。
- NAND:128層以上のNAND型メモリーICの製造に使用される装置。
アプライド・マテリアルズが強みを持つ成膜(CVD/PVD/ALD)やエッチング、CMP(研磨)、イオン注入などの装置のうち、これらの先端半導体を製造するための高性能なモデルが、中国の特定顧客への輸出やサービス提供の制限を受けています。
以前のデータでは、同社の売上高に占める中国の比率が前年の43%から25%に大きく低下した事例もあり、特に先端技術に関連する半導体システム事業の落ち込みが収益全体に影響を与えています。

アプライド・マテリアルズの製造装置は、成膜(CVD、PVD、ALD)、エッチング、CMP(平坦化)、イオン注入、および計測・検査など、半導体チップ製造のほぼ全工程をカバーする幅広い製品群です。
中国の減少分をどうカバーする予定なのか
アプライド・マテリアルズは、中国市場での売上減少をカバーし、長期的な成長を維持するために、主に以下の戦略で対応する計画です。
- 非中国市場での成長加速
- 米国、欧州、日本、韓国、台湾など、中国以外での半導体工場新設(ファブ建設)や能力増強の動きが活発化しています。これらの地域での最先端ロジック、メモリ、および成熟ノード(ICAPS市場)向けの装置需要を取り込み、売上を拡大することを目指します。
- 特に、各国政府の補助金政策(例:米国のCHIPS法、欧州の欧州チップス法)を追い風に、主要顧客との連携を強化します。
- コスト構造の最適化(リストラ)
- 今回の約1,400人の人員削減は、売上高の減少に対応するためのコスト削減策の中核です。これにより、収益性が低下するのを防ぎ、収益構造を安定させることを目指します。
- 組織を合理化し、リソースを最も成長が見込まれる分野に集中させます。
- 技術革新への継続的な投資
- 長期的には、AIやIoTの進化に伴う半導体の需要増に対応するため、研究開発(R&D)への投資を継続します。
- 特に、ヘテロジニアス・インテグレーション(異なるチップを組み合わせる技術)や、次世代チップ製造に必要な新しいパターニング技術など、付加価値の高い最先端装置の開発に注力し、技術的な優位性を確保することで、高収益を維持する方針です。
短期的にはリストラでコストを抑えつつ、中長期的には規制の影響を受けない非中国市場と最先端技術に経営資源を集中投下することで、売上減少を補う戦略をとっています。

コスト削減(人員削減)で収益性を維持しつつ、米国・欧州・アジア諸国でのファブ投資増大に対応することで、非中国市場での成長を加速させる予定です。

コメント