この記事で分かること
- どのようにリサイクルするのか:化学処理でスクラップを分子レベルに分解・精製し、不純物を徹底的に除去して高純度なタングステン粉末を再生します。鉱石由来と同等の品質を維持しつつ、供給リスク低減と環境負荷軽減を両立する高度な循環技術です。
- リサイクル品は何に使用するのか:主に自動車や航空機部品を削る「超硬工具」の原料に戻されます。化学的リサイクルで新品同様の品質に蘇るため、建設機械の先端ビットや半導体製造装置、特殊鋼などの高性能・高耐久部品として幅広く再利用されます。
- なぜリサイクルを強化するのか:埋蔵量が中国に偏在する資源の供給断絶リスクを回避し、輸入価格に左右されない安定調達を実現するためです。また、鉱石からの精錬より低炭素でエネルギー消費が少ないため、環境対応(GX)としても不可欠な戦略です。
住友電気工業のタングステンリサイクルの新工場建設
住友電気工業が、タングステンリサイクルの新工場を富山に建設予定です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF090RP0Z00C26A4000000/
超硬工具の主原料であるタングステンの国内リサイクル体制を大幅に強化する目的があります。
どのようにリサイクルするのか
住友電工グループ(アライドマテリアル)が行うタングステンリサイクルは、主に「化学的リサイクル」と呼ばれる高度な手法を用いています。
これにより、スクラップを新品の鉱石から作ったものと同等、あるいはそれ以上の高純度粉末に戻すことができます。
リサイクルの工程:化学的処理の流れ
一般的な「溶かして固める」リサイクルとは異なり、一度分子レベルまで分解するのが特徴です。
- 酸化・溶解: 使用済みの超硬工具(スクラップ)を高温で焙焼して酸化させた後、化学薬品(アルカリ溶液)に溶解させます。
- 不純物除去: 溶液からコバルトやタンタルなどの他の金属成分を分離・除去し、タングステンだけを取り出します。
- APT(仲タングステン酸アンモニウム)の生成: 抽出した成分を精製し、中間原料である純度の高い結晶(APT)を作ります。
- 還元・炭化: APTを水素で還元してタングステン粉末にし、さらに炭素と反応させて炭化タングステン(WC)粉末を製造します。
この手法のメリット
- 品質の担保: 化学的に精製するため、不純物が完全に除去されます。これにより、航空機部品や自動車エンジン用の精密な切削工具に再利用しても、新品の鉱石由来のものと性能が変わりません。
- 多様な原料に対応: ジンクプロセス(亜鉛処理)という簡易的な方法では扱いにくい、複雑な形状や異物混入のあるスクラップからも回収が可能です。
- 環境負荷の低減: 鉱山から採掘・精錬するプロセスに比べ、エネルギー消費量と CO2排出量を大幅に削減できます。

化学処理でスクラップを分子レベルに分解・精製し、不純物を除去して高純度なタングステン粉末を再生。鉱石由来と同等の品質を維持しつつ、供給リスク低減と環境負荷軽減を両立する高度な循環技術です。
リサイクルしたタングステンは何に使用されるのか
リサイクルされたタングステンは、その希少性と物理的特性(高硬度・高融点)から、主に以下の3つの分野で再利用されます。
1. 超硬工具(主目的)
回収されたタングステンの大半は、再び超硬合金(炭化タングステン)として製品化されます。化学的リサイクルにより品質が劣化しないため、以下のような高精度な工具に生まれ変わります。
- 切削チップ: 自動車や航空機、医療機器の部品を削り出すための刃先。
- ドリル・エンドミル: スマートフォンの基板や精密金型の加工用。
2. 産業用耐摩耗部品
摩擦や衝撃が激しい過酷な環境で使用される部品に採用されます。
- 土木・建設機械: トンネルを掘削するシールドマシンのカッターや、鉱山用のビット。
- 金型: 飲料缶や自動車パネルを成形するための、摩耗しにくい強力な型。
3. 特殊鋼・電子材料
タングステンの特性を活かし、他の金属と組み合わせた高付加価値製品にも利用されます。
- 自動車部品: エンジンのバルブシートなど、高温下での強度が求められる部品。
- 半導体製造装置: 高い熱伝導性と耐熱性を活かしたヒーターや配線材料。

主に自動車や航空機部品を削る「超硬工具」の原料に戻されます。化学的リサイクルで新品同様の品質に蘇るため、建設機械の先端ビットや半導体装置、特殊鋼などの高性能・高耐久部品として幅広く再利用されます。
超硬合金とは何か、なぜタングステンが使われるのか
超硬合金(Cemented Carbide)は、非常に硬い金属の炭化物粉末を、粘りのある金属(バインダー)で焼き固めた複合材料です。
一般的には、主成分として炭化タングステン(WC)を用い、つなぎ役としてコバルト(Co)を混ぜて 1400℃ 程度の高温で焼結します。イメージとしては、「非常に硬い砂(タングステン)」を「接着剤(コバルト)」で固めた石のような構造です。
タングステンが使われる理由
タングステンが超硬合金の主役に選ばれるのには、他の金属にはない圧倒的な物理的特性があるからです。
- ダイヤモンドに次ぐ硬さ: 炭化タングステンは非常に硬く、鉄やステンレスをバターのように削ることができます。
- 高融点: 融点が約 3400℃ と全金属の中で最も高く、摩擦熱で赤熱するような過酷な切削環境でも形が崩れません。
- 高いヤング率(剛性): 鉄の約2倍の剛性があり、強い力がかかっても変形しにくいため、精密な加工に適しています。
- 比重の大きさ: 金(ゴールド)に匹敵する重さがあり、その質量が振動を抑え、加工の安定性を高めます。

超硬合金は炭化タングステンをコバルトで固めた合金です。タングステンはダイヤモンド級の硬さと全金属中最高の融点を持ち、摩擦熱や負荷に極めて強いため、金属加工に欠かせない最強の工具材料として選ばれています。
なぜリサイクルを強化するのか
住友電工がタングステンのリサイクルを強化する背景には、「資源リスク」、「コスト」、「環境」という3つの切実な理由があります。
1. 経済安全保障(供給リスクの回避)
タングステンは、世界埋蔵量の約8割を中国が占めている「戦略的特定重要物資」です。
- 地政学リスク: 過去には中国による輸出制限で価格が高騰した経緯があります。
- 脱・依存: 海外からの鉱石輸入に頼りすぎると、国際情勢次第で日本の製造業(自動車や半導体など)が停止する恐れがあります。国内で循環させることは、自衛の手段です。
2. 経済的メリット(コストの安定化)
鉱石の価格は国際市況や為替に大きく左右されます。
- 都市鉱山の活用: 日本国内には、摩耗して廃棄される「使用済み工具」が大量に存在します。これらを効率よく回収・再生できれば、輸入価格の変動に振り回されない安定した原料調達が可能になります。
3. 環境負荷の低減(GX:グリーントランスフォーメーション)
鉱山での採掘とリサイクルを比較すると、環境への影響に大きな差があります。
- エネルギー削減: 鉱石を採掘・精錬するのに比べ、スクラップから再生する方が、エネルギー消費量と CO2 排出量を大幅に抑えられます。
- サステナビリティ: 欧州を中心に、製品の原材料に占めるリサイクル材の割合を重視する規制が強まっており、グローバル企業としてこれに対応する必要があります。

埋蔵量が中国に偏在するタングステンの供給断絶リスクを回避し、輸入価格の変動に左右されない安定調達を実現するためです。また、鉱石からの精錬より低炭素で環境負荷が少ないため、GX対応としても不可欠な戦略です。

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