この記事で分かること
・従来の製鉄プロセスの問題点:従来の石炭を用いた還元法はCO2の排出が多く大量のエネルギーを消費することが問題点となります。
・水素還元法とは何か:水素を還元剤として鉄鉱石から酸素を除去し、金属鉄を生成する製鉄技術です。二酸化炭素の排出が少ないというメリットがあり、注目が集まっています。
・水素還元の普及に必要なものがは何か:技術革新や コスト低減だけでなく、 政策支援(炭素税・補助金・国際協力)が重要。
日本製鉄による製鉄プロセスの脱炭素化
日本製鉄は、製鉄プロセスの脱炭素化に向けて水素還元技術の開発を進めています。2024年12月20日、同社は東日本製鉄所君津地区の水素還元試験炉(内容積12m³)において、加熱した水素を利用する「Super COURSE50技術」の試験を実施し、CO₂排出量を43%削減することに成功しました。

この成果は、従来の石炭を用いた還元法に比べ、水素を用いることでCO₂排出を大幅に削減できる可能性を示しています。
金属鉄はなぜ、重要なのか
金属鉄(Fe)は古くから利用されている金属ですが、現代においても、社会の基盤を支える最も重要な金属の一つであり、建築、インフラ、機械、自動車、エネルギーなど幅広い分野で利用されています。
1. 建築・インフラの基盤
- 鉄筋コンクリート(RC構造)や鉄骨構造(S造)に使用され、高層ビル、橋、トンネルなどの建設に不可欠。
- 耐久性・強度に優れ、コストも低いため、大規模な建築物やインフラ整備に適している。
2. 産業機械・製造業の中核
- 鉄鋼は機械部品、工具、工業用設備の製造に必要不可欠。
- 加工性に優れ、熱処理によって硬度や強度を調整できるため、多様な用途に適用可能。
3. 自動車・輸送機器の主要素材
- 自動車のフレームやエンジン部品、鉄道のレール・車両などに利用される。
- 軽量化技術(高張力鋼板, ハイテン鋼)によって、燃費向上や安全性強化に貢献。
4. エネルギー・電力インフラの維持
- 送電線、風力発電タービン、発電所のボイラー・配管などに鉄鋼が使用される。
- 再生可能エネルギー設備(風力・水力発電機)の構造材としても重要。
5. 経済と技術革新の要
- リサイクル性が高く、循環型社会にも適応(鉄スクラップの再利用が可能)。
- 鉄鋼業は多くの国で経済の中核をなす産業であり、製鉄技術の進化が新たな産業の発展を支える。

金属鉄は現代社会の発展に不可欠な素材であり、その供給は経済、産業、環境の持続可能性にも直結しています。
石炭を用いた還元法はどんな方法なのか
石炭を用いた還元法は、高炉法(Blast Furnace Process)の中核をなす技術で、鉄鉱石(Fe₂O₃やFe₃O₄)から酸素を除去して金属鉄(Fe)を取り出すプロセスです。主にコークス(C)が還元剤として使われ、以下のような化学反応が進行します。
主な還元反応
- コークスの燃焼(熱と一酸化炭素の供給)
- C + O2 → CO2 (コークス燃焼)
- 一酸化炭素の生成(CO₂の還元)
- CO2+C→2CO (ブーデル反応)
- 鉄鉱石の還元(Feの生成)
- 一次還元(酸化鉄の還元) Fe2O3+3CO→2Fe+3CO2
- 二次還元(磁鉄鉱の還元) Fe3O4+4CO→3Fe+4CO2
このように、コークスが燃焼して生じた一酸化炭素(CO)が酸化鉄を還元し、金属鉄(Fe)を取り出します。
問題点
- CO₂排出が多い
- 反応過程で大量の二酸化炭素が発生するため、環境負荷が大きい。
- 高温が必要
- 高炉内は1500℃以上に達し、大量のエネルギーを消費する。
- コークス生産の環境負荷
- 石炭をコークスに加工する過程でもCO₂を排出する。
これらの課題を解決するため、水素を用いた「水素還元製鉄」が注目されています。水素を使うと、反応生成物が水(H₂O)になるため、CO₂排出が大幅に削減できます。

石炭を用いた還元法は鉄鉱石(Fe₂O₃やFe₃O₄)から酸素を除去して金属鉄(Fe)を取り出すプロセスです。CO2の排出が多く大量のエネルギーを消費することが問題点となります。
水素還元とは何か
水素還元(Hydrogen Reduction)とは、水素(H₂)を還元剤として鉄鉱石(酸化鉄, Fe₂O₃など)から酸素を除去し、金属鉄(Fe)を生成する製鉄技術です。従来の石炭・コークスを使う還元法に比べて、CO₂をほぼ排出せず、水(H₂O)のみを生成するのが特徴です。
水素還元の化学反応
基本的な反応式
- 酸化鉄の還元(鉄の生成)
- 第一段階(酸化鉄 → 磁鉄鉱) Fe2O3+3H2→2Fe+3H2O
- 第二段階(磁鉄鉱 → 鉄) Fe3O4+4H2→3Fe+4H2O
- 生成物
- 従来の製鉄(コークス使用): CO₂排出
- 水素還元製鉄: 水蒸気(H₂O)のみ排出
水素還元製鉄のメリット
1. CO₂排出ゼロ
- 一酸化炭素(CO)を使う従来の製鉄ではCO₂が排出されるが、水素還元では水蒸気のみ発生するため、脱炭素化に貢献。
2. 持続可能なエネルギー活用
- 再生可能エネルギー由来のグリーン水素を使用すれば、環境負荷をほぼゼロにできる。
3. 長期的なエネルギーコスト削減
- コークス生産が不要になり、原料調達コストの低減が期待される。
課題
1. 大量の水素供給が必要
- 水素は製造コストが高い(特にグリーン水素)。
- 水素の貯蔵・輸送インフラが未整備。
2. 反応温度の制御
- 高炉ではなく直接還元法(DRI)を利用するため、新たな炉の設計が必要。
3. 製鉄プロセスの転換コスト
既存の高炉を改修するのは難しく、新たな設備投資が必要。

水素還元とは、水素(H₂)を還元剤として鉄鉱石(酸化鉄, Fe₂O₃など)から酸素を除去し、金属鉄(Fe)を生成する製鉄技術です。二酸化炭素の排出が少ないというメリットがあり、注目が集まっています。
一方で、水素の供給や新規設備導入などが課題となります。
水素還元普及に必要なものは何か
水素還元で重要な要素
水素還元製鉄を成功させるためには、技術・経済・環境の3つの側面から重要な要素を考える必要があります。
1. 技術的要素
① 高効率な還元反応の実現
- 水素の供給量と反応温度の最適化が必要。
- 水素はCOより還元力が弱いため、適切な温度(800〜1000℃)を維持する必要がある。
- 還元速度の向上技術(触媒や新材料の活用)も重要。
② 直接還元製鉄(DRI)の最適化
- 高炉法ではなく、直接還元製鉄(DRI)や電炉の利用が前提。
- 水素還元専用の反応炉の開発が必要。
- 既存の製鉄設備と連携可能なプロセス設計が求められる。
③ 高温水素環境での耐久性の確保
- 水素還元には高温が必要なため、耐熱・耐水素脆化性のある材料の開発が不可欠。
- 高温水素による鉄の脆化を防ぐための新素材の導入が求められる。
2. 経済的要素
① 水素のコスト低減
- 現在の水素製造コストは高く、経済的に成り立たせるために安価なグリーン水素の供給が必要。
- 電解水素の技術革新や水素輸送コスト削減(液化水素・アンモニア利用)が重要。
② 製鉄コストの競争力維持
- 水素還元製鉄は高炉よりコストがかかるため、電炉との組み合わせやスケールメリットを活かす必要がある。
- 政府の補助金・カーボンプライシング(炭素税)との連携も重要。
3. 環境・社会的要素
① 再生可能エネルギーとの連携
- グリーン水素(再エネ由来の水素)を利用することで、真の脱炭素化が達成される。
- 風力・太陽光発電の余剰電力を水素製造に活用するシステムが必要。
② インフラ整備(水素供給・輸送)
- 水素パイプラインの整備、液化水素・アンモニアキャリアの活用が不可欠。
- 水素ステーションや貯蔵施設の拡充が求められる。
③ 規制・政策の支援
- 国際的な技術標準化やサプライチェーン整備が重要。
- 政府の支援(補助金・税制優遇)やカーボンプライシング制度が水素還元の普及に必要。

水素還元の普及には技術革新(還元炉・耐水素材料・高効率反応)や コスト低減(グリーン水素の安価供給・インフラ整備)だけでなく、 政策支援(炭素税・補助金・国際協力)も重要な要素となります。
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