深層フィルターとは何か?半導体製造での使用方法は?

この記事で分かること

  • 深層フィルターとは:厚みのあるろ材の内部に粒子を捕捉するフィルターです。ろ材全体で不純物を捉えるため、多くの粒子を保持でき、目詰まりしにくいのが特徴です。
  • 半導体製造での使用方法:主に前処理として使用されます。比較的大きな不純物や粒子をろ過し、後段の高価な精密フィルターや製造装置の目詰まりを防ぎます。これにより、ろ過システムの寿命を延ばし、歩留まり向上とコスト削減に貢献します。
  • どのように製造されるのか:主にメルトブロー法や糸巻き法で製造されます。メルトブロー法では、溶かしたポリマーを繊維化しランダムに固め、糸巻き法では、中心の芯に糸を巻き付けて厚みのある構造を作ります。

深層フィルター

 世界の半導体製造用液体ろ過フィルター市場は、2025年見込みの3,659億円から、2030年には5,260億円へと拡大すると予測されています。これは、スマートフォンやデータセンター、IoTデバイスなど、世界的な半導体需要の増加に関連しています。

 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2508/22/news051.html

 市場をリードする主要な企業には、Pall CorporationEntegrisPorvair Filtration Groupなどが挙げられます。

 前回の記事では、市場拡大の背景やフィルターの種類についての解説でしたが、今回はフィルターの一種である深層フィルターに関する記事となります。

半導体製造用液体ろ過フィルターとは何か

  半導体製造用液体ろ過フィルターは、製造プロセスで使用される液体(純水、化学薬品など)から、ナノメートルレベルの微細な不純物や微粒子を除去する特殊な装置です。これにより、半導体チップの欠陥を防ぎ、歩留まりと品質を向上させます。

 半導体製造では、メンブレンフィルター深層フィルターカプセルフィルターが主に使われます。

深層フィルターとは何か

 深層フィルター(デプスフィルター)は、厚みのあるろ材の内部に、不純物や粒子を捕捉するタイプのフィルターです。ろ材の表面ではなく、内部の複雑な経路や無数の隙間を使って粒子を捉えるため、多くの不純物を保持する能力に優れています。


原理と特徴

 深層フィルターは、ろ材の密度や構造が内側に向かって徐々に高くなるように設計されていることが多いです。これにより、フィルターの入り口側で比較的大きな粒子を捕捉し、奥に行くにつれて小さな粒子を捕捉するため、目詰まりが起こりにくく、フィルターの寿命が長いという利点があります。

  • 捕捉能力: 表面でろ過するメンブレンフィルターと異なり、厚みのあるフィルター全体で不純物を捉えるため、一度に多くの粒子をろ過できます。
  • ろ過精度: メンブレンフィルターほどの高精度ろ過には向いていませんが、比較的大きな粒子(数十マイクロメートル以上)を効率的に除去するのに適しています。
  • 構造: 主に、繊維を巻き付けた糸巻きフィルターや、繊維をランダムに配置して融着させたメルトブローフィルターなどがあります。

用途

 深層フィルターは、液体の前処理粗ろ過の段階でよく用いられます。半導体製造においては、主に以下のような用途で使われます。

  • 純水製造の前処理: 純水製造装置のイオン交換樹脂などを保護するために、原水中の大きな不純物を除去します。
  • 薬品の前処理: 比較的汚染度が高い化学薬品を、高価な高精度フィルターに通す前にろ過し、フィルターの寿命を延ばします。
  • CMPスラリーのろ過: 半導体表面を研磨するCMP(化学機械研磨)工程で使われるスラリーは不純物が多いため、深層フィルターで前処理が行われます。

深層フィルター(デプスフィルター)は、厚みのあるろ材の内部に粒子を捕捉するフィルターです。ろ材全体で不純物を捉えるため、多くの粒子を保持でき、目詰まりしにくいのが特徴です。主に液体ろ過の前処理や粗ろ過に用いられます。

半導体製造ではどのように使用されるのか

 半導体製造において、深層フィルターは主に前処理粗ろ過の段階で使用されます。液体中の比較的大きな粒子を効率的に除去することで、後工程で使われる高価な精密フィルターや製造装置の保護に重要な役割を果たします。


主な用途

 深層フィルターは、以下のような場面で使われます。

  • 超純水製造の前処理: 半導体洗浄に不可欠な超純水(UPW)を製造する際、原水には多くの微粒子や不純物が含まれています。深層フィルターは、イオン交換樹脂やメンブレンフィルターなどの高精度なろ過システムが詰まるのを防ぐため、これらのシステムの前段で大きな不純物を除去します。
  • 化学薬品の前処理: 半導体プロセスで使われる化学薬品には、製造過程で生じた不純物や、容器から剥離した微粒子が含まれていることがあります。高価で高純度が求められる薬品を精密ろ過する前に、深層フィルターで粗ろ過を行うことで、精密フィルターの寿命を延ばし、ランニングコストを削減します。
  • CMPスラリーのろ過: 半導体ウェハーの表面を平坦化する**化学機械研磨(CMP)**工程で使用されるスラリーは、研磨粒子やその凝集体が多く含まれています。深層フィルターは、これらの粒子を効率的に除去し、スラリーの品質を安定させ、研磨のばらつきを防ぎます。

役割の重要性

 深層フィルターは、微細な欠陥の原因となる粒子を最初に取り除くことで、半導体の歩留まり向上に貢献します。

 後続の精密フィルターへの負荷を軽減することで、フィルター交換の頻度が減り、製造ラインのダウンタイムを削減できるため、生産性向上にもつながります。つまり、深層フィルターは、一見地味な役割ですが、半導体製造プロセスの効率と安定性を支える縁の下の力持ちのような存在です。

半導体製造において、深層フィルターは主に前処理として使用されます。比較的大きな不純物や粒子をろ過し、後段の高価な精密フィルターや製造装置の目詰まりを防ぎます。これにより、ろ過システムの寿命を延ばし、歩留まり向上とコスト削減に貢献します。

深層フィルターはどのように製造されるのか

 深層フィルターは、主に繊維をランダムに配置して固めるか、繊維を巻き付けることで製造されます。これにより、フィルター全体に複雑で微細な孔のネットワークを作り出し、多くの粒子を捕捉できる構造になります。


製造プロセス

深層フィルターの製造には、主に以下の方法があります。

1. メルトブロー法 (Melt Blown)

 この方法は、プラスチックやポリプロピレンなどの熱可塑性ポリマーを溶かし、高速のガスを吹き付けて細い繊維にします。この繊維をスクリーン上に吹き付けると、ランダムに絡み合いながら冷却・固化し、多孔質のマット状フィルターが形成されます。この方法は、フィルターの密度を内側に向かって徐々に高くすることができ、粒子の捕捉能力を高めることができます。

2. 糸巻き法 (String-Wound)

 この方法では、糸状のろ材(例えば、ポリプロピレン、コットン、ナイロンなど)を、中心にあるコア(芯)に均一なテンションをかけながら層状に巻き付けます。巻き付けの密度を調整することで、フィルターの外側を粗く、内側を細かくすることができ、段階的なろ過を可能にします。

3. 成形法 (Molding)

 粉末状のろ材(ガラス繊維や焼結金属など)を金型に入れ、加熱・加圧することで、多孔質の塊(ブロック)状に成形します。この方法は、非常に高い耐薬品性や耐熱性を持つフィルターの製造に適しています。

 これらの製造方法を通じて、深層フィルターは、表面だけでなく、厚み全体で粒子を捕捉できる三次元的な構造を持つようになり、多くの不純物を効率的に除去できるフィルターとなります。

深層フィルターは、主にメルトブロー法糸巻き法で製造されます。メルトブロー法では、溶かしたポリマーを繊維化しランダムに固め、糸巻き法では、中心の芯に糸を巻き付けて厚みのある構造を作ります。これにより、フィルター全体で粒子を捕捉できる3次元的なろ過能力を持たせます。

半導体製造用深層フィルターの有力メーカーは

 半導体製造用の深層フィルターは、特に液体ろ過の前処理として重要な役割を担っており、この分野で有力なメーカーは複数あります。市場全体としては、特定の企業が大きなシェアを占めている傾向があります。主な有力メーカーは以下の通りです。

  • Pall Corporation(ポール): ダナハーコーポレーション傘下の企業で、半導体製造向けの広範なフィルター製品を提供しています。メンブレンフィルターだけでなく、深層フィルターや、ガスフィルターなども手掛けており、業界のトッププレイヤーとして知られています。
  • Entegris(エンテグリス): 半導体製造プロセスに必要な材料や、精密なろ過・精製ソリューションを提供する大手企業です。高純度な化学薬品やスラリーのろ過に強みを持っており、特に高集積度の半導体製造プロセスに対応した製品開発に注力しています。
  • 3M: 幅広い産業向けにフィルター製品を提供しており、半導体製造分野でも存在感を示しています。特に、液体ろ過のための深層フィルターやメンブレンフィルターなど、様々なろ過ソリューションを提供しています。

その他の主要なメーカー

 上記のグローバル大手以外にも、特定の用途や地域で強みを持つメーカーが多数存在します。

  • 日本企業:
    • 日本ポール株式会社: Pall Corporationの日本法人で、日本国内の半導体メーカーに製品を提供しています。
    • キッツマイクロフィルター株式会社: フォトレジスト用フィルターをはじめ、半導体製造向けのフィルター製品を開発・製造しています。
    • 日本バイリーン株式会社: 不織布の技術を活かし、深層フィルターを含む多様なフィルター製品を製造しています。

 これらの企業は、半導体の微細化や技術革新に対応するため、より高性能なフィルターの開発に継続的に投資しています。特に、ナノ粒子やゲル状不純物など、極めて微細な汚染物質を除去できる製品が、市場での競争力を左右しています。

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