この記事で分かること
- RenewCO2の特徴:水とCO2からプラスチック原料(MEG)を一段階で直接製造する、米ラトガース大発の技術が特徴です。安価な独自の二ッケルホスファイド触媒触媒により高いエネルギー効率を実現し、製造過程でCO2を吸収するカーボンネガティブを可能にします。
- 二ッケルホスファイド触媒触媒で一段階合成可能な理由:CO2還元の中間体を表面に強く保持しつつ、構造内に蓄えた水素を効率よく供給できるためです。これにより炭素同士の結合(カップリング)が優先され、一段階で複雑な化合物を合成できます。
- DNPが投資を行う理由:精密塗工技術を活かし、RenewCO2の装置に不可欠な電極部材の共同開発と量産化を支援するためです。これにより次世代パッケージ製品の開発と事業拡大を目指します。
DNPによるRenewCO2への出資
日本印刷(DNP)は、水と二酸化炭素(CO2)からプラスチック原料などを製造する技術を持つ米国の新興企業、RenewCO2(レニュー・シーオーツー)社への出資を発表しています。
https://www.dnp.co.jp/news/detail/20177816_1587.html
DNPが長年培ってきた「印刷技術」を、最先端の脱炭素技術に応用しようとする興味深い動きとして注目されています。
RenewCO2の特徴は
RenewCO2社の最大の特徴は、独自のeCUT(Electrocatalytic Carbon Utilization Technology:電気触媒による炭素利用技術)にあります。
「自然が何百万年もかけて行う化石燃料の形成プロセスを、わずか一瞬で再現し、プラスチック原料に変える」技術です。
1. 「一段階」での直接変換(シングルステップ)
従来のCO2変換技術の多くは、一度「一酸化炭素(CO)」や「合成ガス」を経由してから別の物質に変える必要がありました。
RenewCO2の技術は、水とCO2から直接モノエチレングリコール(MEG)などの複雑な化合物を一段階で作り出せるため、エネルギー効率が極めて高いのが特徴です。
2. 独自開発の「ニッケルホスファイド(リン化ニッケル)」触媒
- 非貴金属の活用: 金や白金といった高価な貴金属を使わず、低コストなニッケル系の材料をベースにした独自の触媒を使用しています。
- 高い選択性: 特定の物質(MEGなど)を狙って作る能力(選択性)が非常に高く、不純物の生成を抑えることができます。
3. カーボンネガティブの実現
石油由来の原料を使わず、工場などから排出されたCO2を「原料」として取り込み、製品の中に閉じ込めます。
- 製品1トンあたり約1.42トンのCO2を削減・吸収できる計算となり、製造すればするほど地球上のCO2を減らせる「カーボンネガティブ」なプロセスです。
4. 高いエネルギー効率(90%以上)
電気を使って化学反応を起こす際、投入したエネルギーがどれだけ製品に変わるかという効率において、90%を超える高い数値をラボレベルで実証しています。これは、自然界の光合成をはるかに上回る効率です。
5. 幅広い製品ラインナップ
プラスチック原料(MEG)以外にも、以下のような高付加価値な化学品の製造が可能です。
- SAF(持続可能な航空燃料)の原料
- ギ酸(水素キャリアや防腐剤として利用)
- メチルグリキサール、フランジオールなどの化成品
RenewCO2はラトガース大学発のスタートアップで、現在はDNPなどのパートナーと共に、実験室レベルから「商用規模(1日3トンのCO2処理)」へのスケールアップを目指しています。

水とCO2からプラスチック原料(MEG)を一段階で直接製造する、米ラトガース大発の技術が特徴です。安価な独自の触媒により高いエネルギー効率を実現し、製造過程でCO2を吸収するカーボンネガティブを可能にします。
ニッケルホスファイドの利用でなぜ1段階で反応できるのか
ニッケルホスファイド(リン化ニッケル)触媒が、水とCO2から一段階(シングルステップ)で多炭素化合物(MEGなど)を合成できる主な理由は、その特殊な電子状態と構造にあります。
具体的には以下の3点がポイントです。
- 炭素同士を繋げる「カップリング」能力:通常の触媒では、CO2は一酸化炭素(CO)などの単純な物質で反応が止まってしまいます。しかし、ニッケルホスファイドは炭素原子同士を結合させる「C-Cカップリング」を促進する力が非常に強く、一気に炭素が2つ以上連なった複雑な構造(MEGなど)まで反応を進めることができます。
- 水素生成の抑制:水(H2O)が存在する中で電気分解を行うと、通常は水素ガス(H2)ばかりが発生してしまいます。この触媒は、水素ができる反応を抑えつつ、効率よくCO2を反応物へと導く「選択性」が高いため、中間生成物を取り出すことなく最終目的物まで到達できます。
- 酵素に似た反応メカニズム:ニッケルホスファイドの結晶構造は、自然界でCO2を変換する酵素(ヒドロゲナーゼなど)の活性中心に似ていると言われています。これにより、低いエネルギーで複雑な化学反応を連続的にこなすことが可能になっています。
カップリング反応促進が強い理由は
ニッケルホスファイド(NixPy)が炭素同士を繋ぐ「カップリング反応」を強力に促進できる理由は、主に「電子的な相乗効果」と「構造的な特殊性」の2点に集約されます。
1. ニッケルとリンの「電子的な相乗効果」
ニッケル(Ni)にリン(P)が加わることで、触媒表面の電子状態が劇的に変化します。
- 中間体の安定化: リンがニッケルから電子を奪う(または与える)ことで、CO2が還元されてできる「反応途中の中間体」を、ちょうど良い強さで表面に吸着させます。
- 酵素のような働き: この電子状態は、自然界でCO2を変換する酵素(ニッケルを含む酵素)の活性中心に非常に似ており、低いエネルギーで複雑な反応を進めることができます。
2. 「水素」を溜め込む特殊な構造
- 水素の供給源(リザーバー): ニッケルホスファイドの結晶構造には、水素原子(H)を一時的に蓄える場所(サイト)が複数存在します。
- 効率的な結合: 蓄えられた水素が、吸着している炭素中間体に対して絶妙なタイミングで供給されるため、炭素同士が結合して長い鎖(C2やC3化合物)を作る反応が、水素ガス(H2)として逃げる反応よりも優先的に起こります。
3. 中間生成物(CO)を逃がさない
通常のニッケル単体ではCO2は一酸化炭素(CO)になって離れてしまいますが、ニッケルホスファイドは「COを表面に繋ぎ止めたまま、次の炭素と合体させる」能力に長けています。これが、一段階(シングルステップ)でMEGなどの多炭素化合物を作れる決定的な理由です。

ニッケルとリンの相乗効果で、CO2還元の中間体を表面に強く保持しつつ、構造内に蓄えた水素を効率よく供給できるためです。これにより炭素同士の結合(カップリング)が優先され、一段階で複雑な化合物を合成できます。
DNPが投資する理由は何か
DNP(大日本印刷)がRenewCO2社へ投資した理由は、単なる資金援助ではなく、「自社の技術を活かした事業シナジー」と「脱炭素社会の実現」の両立にあります。
1. 「電極部材」の共同開発と量産化
RenewCO2の装置に欠かせない「電極部材」をDNPが開発・提供するためです。
- 技術の転用: DNPが得意とする「精密塗工(薄く均一に塗る)」や「インキ分散」といった印刷技術は、触媒を電極に塗布する工程に最適です。
- 高性能化: DNPの技術で触媒の性能を最大限に引き出し、装置全体の効率を高める狙いがあります。
2. 環境配慮型パッケージの原料確保
DNPは包装材(パッケージ)の大手メーカーとして、環境負荷の低い素材を求めています。
- 原料の自給: RenewCO2の技術でCO2から作られたMEG(モノエチレングリコール)を、自社のペットボトルやフィルムの原料として活用することを目指しています。
- 差別化: 石油由来ではない「カーボンネガティブ」な製品を顧客に提供することで、市場での競争力を高めます。
3. 「DNPグループ環境ビジョン2050」の達成
グループ全体で掲げる「2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ」に向けた戦略の一環です。
- CCUSの推進: 排出されたCO2を回収して再利用する「CCUS(CO2回収・利用・貯留)」技術を、自社のサプライチェーンに組み込むことが重要だと判断しました。
「DNPの持つ精密な加工技術をRenewCO2の装置に組み込み、そこで作られたクリーンな原料を自社の製品に使うという、『作る側』と『使う側』の両面でメリットがあるため投資を決めています。

DNPの精密塗工技術を活かし、RenewCO2の装置に不可欠な電極部材の共同開発と量産化を支援するためです。これにより、CO2由来のクリーンな原料を確保し、脱炭素社会に対応した次世代パッケージ製品の開発と事業拡大を目指します。

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