この記事で分かること
- 開発する装置:ウェーハ表面を化学的・機械的に研磨し、ナノレベルで平坦化するCMP装置の開発を行うとしています。
- ドライイン/ドライアウトとは:CMP装置の方式の一種で、ウェーハを装置に乾燥した状態で投入し、研磨・洗浄・乾燥の全工程を装置内で完結させ、乾燥した状態で取り出します。工程中に装置外に出ることがなく、空気中の微細なチリや異物の付着を防ぐことが可能です
荏原製作所の半導体製造装置新規開発拠点
荏原製作所は、半導体製造装置の開発拠点として、神奈川県藤沢市の藤沢事業所内に新開発棟「V8棟」を建設しました。この新開発棟は2023年5月に着工し、2025年8月の稼働開始を予定しています。
https://www.ebara.com/jp-ja/newsroom/2025/20250602-01/
半導体需要の拡大への対応や半導体の微細化・高集積化への対応を目的としているとのことです。
どんな装置を開発するのか
荏原製作所の藤沢新開発棟「V8棟」で主に開発されるのは、CMP(Chemical Mechanical Polisher:化学機械研磨)装置です。
CMP装置は、半導体製造プロセスにおいて、ウェーハ表面を化学的・機械的に研磨し、ナノレベルで平坦化する非常に重要な装置です。
半導体の微細化・高集積化が進む現代において、回路の多層化や3次元積層化に対応するため、この平坦化技術は不可欠となっています。
また、荏原製作所はCMP装置の他にも、半導体製造に不可欠な以下の装置やコンポーネントも手掛けています。
- ドライ真空ポンプ: 半導体製造プロセスで、真空状態を作り出すために使用されます。CVD(化学気相成長)やエッチング、イオン注入などのプロセスで広く利用されます。
- 排ガス処理装置: 半導体製造工程で発生する有害な排ガスを安全に処理するための装置です。環境負荷低減に貢献します。
- めっき装置: 半導体の配線形成などにおいて、電気めっきを行う装置です。
- オゾン水製造装置: ウェーハ洗浄やレジスト除去などに使用されるオゾン水を生成する装置です。
V8棟では、これらの半導体製造装置全般の開発力強化が図られますが、特に荏原製作所の主力製品であるCMP装置の次世代プロセス開発に重点が置かれるとされています。
最先端の開発装置や検査装置、ユーティリティ環境を活用することで、より高度な平坦化技術や、多様な顧客ニーズに対応するCMP装置の開発を加速させる狙いです。

新開発棟では、CMP装置の開発を行うものとされています。
荏原製作所のCMP装置のシェアは
荏原製作所のCMP(Chemical Mechanical Polisher:化学機械研磨)装置は、世界シェア2位を誇っています。具体的なシェア率は以下のようになっています。
- アプライドマテリアルズ(米国): 52.6%
- 荏原製作所(日本): 37.0%
この2社で世界のCMP装置市場の9割近くを占める寡占状態となっています。荏原製作所は長年にわたりCMP装置の開発に注力しており、特に「ドライイン/ドライアウト」コンセプトなど、独自の技術で市場をリードしてきました。
新開発棟「V8棟」の稼働によって、荏原製作所はCMP装置の生産能力を現状の1.5倍以上に拡大する見込みであり、さらなるシェア拡大を目指しています。

荏原製作所のCMP装置のシェアは世界2位の37%であり、新開発棟によってさらなるシェア拡大を目指しています。
ドライイン/ドライアウトと何か
「ドライイン/ドライアウト (Dry-in/Dry-out)」とは、半導体製造工程におけるCMP(化学機械研磨)装置の革新的な方式であり、ウェーハを装置に乾燥した状態で投入し、研磨・洗浄・乾燥の全工程を装置内で完結させ、乾燥した状態で取り出すことを指します。
従来のCMP工程では、研磨時に大量の研磨くずや薬液が発生するため、クリーンルーム外で研磨を行い、その後別の場所で洗浄・乾燥を行う必要がありました。しかし、半導体の微細化が進むにつれて、空気中の微細なチリや異物の付着が製品の品質に致命的な影響を与えるようになりました。
荏原製作所が世界で初めて開発した「ドライイン/ドライアウト」方式は、この課題を解決するために導入されました。
ドライイン/ドライアウトの主な特徴とメリット
- クリーンルーム内でのCMP工程の実現
- CMP装置内で研磨から洗浄、乾燥までを一貫して行うため、ウェーハが外部の汚染された空気に触れる機会を最小限に抑えられます。
- これにより、CMP工程を半導体製造のクリーンルーム内に設置することが可能になり、製造プロセスの効率化と歩留まりの向上が図れます。
- 異物(パーティクル)付着の低減
- ウェーハが装置内を移動する回数や、外部に露出する時間を減らすことで、空気中の微細な異物(パーティクル)の付着リスクを大幅に低減します。
- これは、半導体の不良発生率を下げ、製品の信頼性向上に直結します。
- 生産性向上
- 研磨・洗浄・乾燥の各工程が装置内で連続して行われるため、ウェーハの搬送ロスが減り、全体のスループット(処理能力)が向上します。
- これにより、生産ラインの効率化が図られます。
- 省スペース化
- 各工程を個別の装置で行う場合に比べて、統合された装置であるため、設置スペースの削減にも貢献します。
この「ドライイン/ドライアウト」技術は、荏原製作所がCMP装置市場で高いシェアを維持する上で、極めて重要な差別化要因となっています。
半導体のさらなる高集積化や微細化が進む中、このクリーンで高効率なプロセスは今後ますますその重要性を増していくと考えられます。

ドライイン/ドライアウトとは、ウェーハを装置に乾燥した状態で投入し、研磨・洗浄・乾燥の全工程を装置内で完結させ、乾燥した状態で取り出す工法です。
工程中に装置外に出ることがなく、空気中の微細なチリや異物の付着を防ぐことが可能です。
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