エリクソンの横浜での研究開発拠点開設 どんな研究を行うのか?なぜ横浜を選んだのか?

この記事で分かること

  • 行う研究内容:次世代通信の5G Advancedや6Gを見据えた、無線技術のハード・ソフト両面の研究です。AIによるネットワーク自動化や、省エネ・小型化した基地局開発、異ベンダー接続を可能にするOpen RANを推進します。
  • ハードはテラヘルツ波対応の新素材半導体や、電波を反射制御するRIS(知能反射表面)、超多素子アンテナが不可欠です。ソフトはAIネイティブな無線制御や、仮想化基盤で柔軟に機能を更新できるOpen RAN技術が中核となります。
  • なぜ横浜を選んだのか:主要顧客である日本の通信キャリアと距離が近く、ソニーや村田製作所など先端デバイス企業が集結するR&Dエコシステムがあるためです。優秀な技術者や大学との連携も容易で、世界で最も要求が厳しい日本市場を「6G開発の最前線」に据える狙いがあります。

エリクソンの横浜での研究開発拠点開設

 エリクソンが横浜・みなとみらい21地区に「新R&Dセンター(研究開発拠点)」を開設すると報道されています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1873E0Y6A210C2000000/

 同社が日本市場を5Gや次世代通信技術(6Gなど)の戦略的拠点として位置づける、非常に大きな投資となります。

どんな研究を行うのか

 エリクソンが横浜・みなとみらいに開設する「新R&Dセンター(無線R&D日本センター)」では、主に次世代のモバイルネットワーク技術に焦点を当てた研究開発が行われます。

 具体的な研究内容は以下の4つの柱が中心になると発表されています。

1. 5G Advanced および 6Gに向けた基盤技術

 現在普及している5Gをさらに進化させた「5G Advanced」や、2030年頃の実用化が見込まれる「6G」に向けた、無線アクセスネットワーク(RAN)のハードウェアおよびソフトウェアの開発が行われます。

2. 無線(Radio)技術の高度化

 エリクソンの強みである無線装置(アンテナや無線ユニット)の性能向上を目指します。

  • エネルギー効率の最適化: 消費電力を抑えつつ、より広いカバーエリアと高速通信を実現する技術。
  • 小型・軽量化: 日本のような都市部でも設置しやすい基地局装置の開発。

3. オープンかつプログラム可能なネットワーク (Open RAN)

 業界のトレンドである「Open RAN」を推進するための開発が行われます。

  • 異なるベンダーの機器同士を相互接続できるようにするための標準化への貢献。
  • AIや機械学習を活用して、ネットワークの運用を自動化・最適化するソフトウェアの研究。

4. 日本独自のニーズへの対応とグローバル展開

 日本の通信事業者(キャリア)との共同開発が大きな役割です。

  • 日本特有の複雑な電波環境や高密度な通信需要に対応する技術を開発。
  • ここで開発された技術を、日本国内だけでなく「日本発のグローバル製品」として世界市場へ展開することを目指しています。

 このセンターは、エリクソンが世界に数カ所持っているグローバルなR&D拠点の一つとして位置づけられており、責任者のヤン・ファルグレン氏のもと、無線工学、ソフトウェア開発、システムアーキテクチャの専門家が集結して研究を進める予定です。

次世代通信の5G Advancedや6Gを見据えた、無線技術のハード・ソフト両面の研究です。AIによるネットワーク自動化や、省エネ・小型化した基地局開発、異ベンダー接続を可能にするOpen RANを推進します。

6Gの無線アクセスネットワークはどんな技術なのか

 6G(第6世代移動通信システム)の無線アクセスネットワーク(RAN)は、5Gを遥かに凌ぐ「超高速・大容量」「超低遅延」「超多接続」に加え、以下のような革新的な技術が検討されています。

1. テラヘルツ波(THz)の活用

 5Gよりもさらに高い周波数帯(100GHz〜3THz)を利用します。これにより、毎秒100Gbps〜1Tbpsという、光ファイバー並みの超高速通信を目指しています。

2. AIネイティブなネットワーク

 設計段階からAI(人工知能)が組み込まれます。通信環境に合わせてリアルタイムで無線パラメータを最適化したり、トラフィックを予測して動的にリソースを配分したりすることで、運用の自動化と効率化を図ります。

3. HAPS(高高度プラットフォーム)との連携

 地上基地局だけでなく、空に浮かぶ無人機(HAPS)や低軌道衛星と連携し、空、海、宇宙までをカバーする「超カバレッジ拡張」を実現します。これにより、電波の届かない場所をゼロにすることを目指します。

4. 進化した空中インターフェース

  • RIS(再構成可能な知能反射表面): 壁などに貼ることで電波の反射方向を制御できるシートを用い、遮蔽物が多い場所でも電波を届けます。
  • センシングと通信の統合: 通信波そのものを使って周囲の物体の形や動きを検知する機能を持たせます。

5. 極低消費電力技術

 膨大な数のデバイスがつながるため、1ビットあたりの送信エネルギーを劇的に減らす技術や、電波から電力を得る「エネルギーハーベスティング」の活用が研究されています。


 エリクソンの横浜センターでも、こうした「AIによる最適化」や「エネルギー効率の高い無線ユニット」の開発が、将来の6G標準化を見据えて進められることになります。

6Gの無線アクセスネットワーク(RAN)は、「超高速・大容量」「超カバレッジ拡張」を実現する基盤技術です。テラヘルツ波等の高周波数帯の活用、AIによる通信の自己最適化、空・海・宇宙まで繋がる非地上系ネットワーク(NTN)との統合が特徴です。

6GRANにはどんなハード、ソフトが必要なのか

 6Gの無線アクセスネットワーク(RAN)を実現するためには、5Gの延長線上にない全く新しいハードウェアとソフトウェアの融合が必要になります。

 エリクソンが横浜の新R&Dセンターで注力する領域を中心に、主要な構成要素をまとめました。


1. ハードウェア:極限の性能と効率

 6Gではテラヘルツ波などの超高周波数帯を扱うため、物理的な部品の進化が不可欠です。

  • 超多素子アンテナ(Massive MIMOの進化)
    • 5Gよりもさらに多くのアンテナ素子を統合し、電波を細く鋭く飛ばす(ビームフォーミング)技術。
  • 新素材半導体(GaN/InPなど)
    • 従来のシリコンでは対応できない高周波・高出力に対応するため、窒化ガリウム(GaN)やインジウムリン(InP)を用いたパワーアンプが重要になります。
  • RIS(再構成可能な知能反射表面)
    • 電波を反射・透過させる向きをデジタル制御できる「賢い壁」。基地局が直接見えない場所へ電波を届けるための新しいハードウェアです。
  • エネルギーハーベスティング素子
    • 電波から電力を直接回収し、電池交換不要で動く超小型センサー(ゼロパワーデバイス)用の受信機。

2. ソフトウェア:AIネイティブと仮想化

 6Gの最大の特徴は、ソフトウェアが「通信を助ける」存在から「通信そのものを定義する」存在に変わることです。

  • AIネイティブ・ソフトウェア
    • 無線信号の処理(L1/L2層)自体にディープラーニングを組み込み、周囲の環境に合わせて通信プロトコルをリアルタイムで書き換えます。
  • プログラマブル・ネットワーク(Open RAN)
    • 汎用サーバー上で基地局機能を動かす「仮想化RAN(vRAN)」技術。横浜センターでも、柔軟に機能を更新できるプログラム可能なネットワーク開発が重点項目となっています。
  • デジタルツイン・シミュレーター
    • 現実の街を仮想空間に再現し、電波の飛び方を事前にシミュレーションして最適化するソフトウェア。
  • ネットワーク・スライシング
    • 「自動運転用(超低遅延)」や「センサー用(多接続)」など、一つの物理ネットワークを仮想的に切り分けて、用途に合わせた最適な品質をソフトウェアで保証します。

横浜センターでの研究の重み

 エリクソンの横浜センターには、これらのハード(無線機本体)とソフト(制御プログラム)を一つの場所で密接に連携させて開発するという役割があります。特に日本の高い製造技術や半導体パートナーとの連携が、ハードウェアの進化に寄与すると期待されています。

ハードはテラヘルツ波対応の新素材半導体や、電波を反射制御するRIS(知能反射表面)、超多素子アンテナが不可欠です。ソフトはAIネイティブな無線制御や、仮想化基盤で柔軟に機能を更新できるOpen RAN技術が中核となります。

なぜ横浜なのか

 エリクソンが研究開発の拠点と横浜(みなとみらい)を選んだのには、単なる「オフィスの移転」以上の戦略的な理由が3つあります。


1. 通信キャリアとの強固な「共創」

 日本にはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルといった世界屈指の通信キャリアが集結しています。

  • 近接性: 横浜はこれらの主要顧客の本社(東京)から近く、密接な共同実験やフィードバックが可能です。
  • 実証実験の場: みなとみらい地区自体が「5G/6Gの実証実験」に積極的なスマートシティであり、新しい技術をすぐに街の中で試せる環境が整っています。

2. 高度なエンジニア人材の集積

 横浜、特になみらい地区は、近年「研究開発(R&D)の聖地」へと変貌しています。

  • 周辺企業: ソニー、村田製作所、京セラ、日産自動車、Appleといった、通信デバイスや半導体、車載技術のトップ企業がR&D拠点を構えています。
  • 大学連携: 横浜国立大学や電気通信大学など、無線通信や情報工学に強い大学との産学連携や、優秀な学生の採用に極めて有利な立地です。

3. グローバル戦略の「ショーケース」

 日本市場は、世界で最も要求水準が高い(品質に厳しい)市場の一つです。

  • 日本発のグローバル標準: 日本の厳しい環境で磨き上げた技術(省エネ、小型化、高効率)は、そのまま世界市場での強力な武器になります。
  • 歴史的背景: エリクソンは日本で40年の歴史があり、すでに横浜に大規模な拠点を持っていたため、そのリソースを拡張・集中させるのが最も効率的でした。

主要顧客(通信キャリア)との近接性に加え、ソニーや村田製作所など先端デバイス企業や大学が集まるR&Dエコシステムが決め手です。日本市場の高い要求に応えることで、世界に通用する6G技術を開発する狙いがあります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました