この記事で分かること
- グラスファイバーとは:ガラスを繊維状に加工した素材(ガラス繊維)の総称です。特に、軽さと高い強度、不燃性を活かし、FRP(繊維強化プラスチック)の補強材や、電子部品の基板などに広く使われています。
- 繊維化で強度が増す理由:表面の微細な傷(欠陥)で決まります。繊維化により、欠陥の最大サイズが小さくなり、力を集中させる破壊の起点が減少するため、ガラス本来の強さが引き出され、強度が向上します。
- グラスウールとの違い:グラスウールは綿状の短繊維で、繊維間に空気を閉じ込めて断熱・吸音材として利用されます。対してグラスファイバーは糸状の長繊維で、その高強度を活かしてFRPなどの補強材として使われます。
グラスファイバー
ガラスの用途は多岐にわたります。主な用途は、建物の窓ガラスや自動車のフロントガラスなどの建築・輸送機器です。また、ビール瓶や食品容器などの包装材、テレビやスマホのディスプレイ基板、光ファイバーなどのエレクトロニクス分野でも不可欠な素材です。
そのためガラス製造市場の規模は非常に大きく、2024年時点で2,350億米ドル(約35兆円)を超えると推定されており、今後も年平均成長率(CAGR)5%以上で着実に拡大すると予測されています。
この成長は主に、世界的な建設・建築分野での需要増加や、包装(リサイクル可能なガラス瓶の需要増)および自動車分野での用途拡大に牽引されています。
前回はグラスウールに関する記事でしたが、今回はグラスファイバーに関する記事となります。
グラスファイバーとは何か
グラスファイバーとは、ガラスを融かして繊維状に加工した素材の総称です。特に、プラスチックなどを強化する長くて細い糸状のガラス繊維を指す場合が多いです。
グラスファイバーの概要
グラスファイバーは「ガラス繊維」とも呼ばれ、ガラスのもつ特性(不燃性、耐熱性、電気絶縁性など)を維持しつつ、繊維化することで高い強度を得ています。
- 原料: 主にシリカ(二酸化ケイ素)を主成分とするガラスを使用します。
- 製法: 溶かしたガラスを高速で引き伸ばしたり、遠心力で飛ばしたりして繊維状にします。
- 分類:
- 長繊維(フィラメント): 糸状で、FRP(繊維強化プラスチック)の補強材として使われます。これが一般的に「グラスファイバー」と呼ばれるものです。
- 短繊維(グラスウール): 綿状で、主に建築物の断熱材や吸音材として使われます。
主な特徴とメリット
グラスファイバーは、多くの工業製品で利用される、非常に優秀な素材です。
- 高強度・軽量: 引張強度(引っ張る力に対する強さ)が非常に高く、鉄よりも軽い比強度(重さあたりの強度)に優れています。
- 不燃性・耐熱性: ガラスなので燃えません。高温に強く、工業用フィルターや防火服などにも使われます。
- 電気絶縁性: 電気を通しにくく、プリント配線基板などの電子部品に不可欠な材料です。
- 耐薬品性: ほとんどの酸やアルカリに侵されにくく、耐久性が高いです。
- 寸法安定性: 熱による伸縮が少なく、安定した形状を保ちます。
主な用途
長繊維(グラスファイバー)は、その強度を活かして主にFRPの基材として使われます。
- FRP製品: ボートの船体、浴槽、自動車のバンパー、ヘルメット、釣り竿、テニスラケットなど。
- 電子部品: パソコンやスマートフォンの基盤となるプリント配線基板。
- 建築・土木: 建物の外壁補強材、テントやドームの膜材、道路の補強材。
- 産業資材: 産業用ホースやベルトの補強材。
グラスファイバー(長繊維)は、プラスチックの弱点である「強度の低さ」を補い、軽くて強い製品を生み出すために欠かせない素材です。

グラスファイバーとは、ガラスを繊維状に加工した素材(ガラス繊維)の総称です。特に、軽さと高い強度、不燃性を活かし、FRP(繊維強化プラスチック)の補強材や、電子部品の基板などに広く使われています。
なぜ繊維化で強度が向上するのか
繊維化することでガラスの強度が大幅に向上する理由は、主にガラスの破壊メカニズムとサイズ効果にあります。
これは、ガラスの持つ「表面に存在する微細な傷(欠陥)が強度を決定する」という性質を、繊維化によって解消できるからです。
1. ガラスの破壊メカニズムと弱点
通常の板ガラスのような大きな塊(バルク材)の場合、その強度はガラス自体の理論的な結合力ではなく、表面の傷や欠陥によって決まります。
- 欠陥への応力集中: ガラスの表面には、製造工程や使用中にできた目に見えない微細な傷(クラック)が無数に存在します。
- 応力集中: 外部から力が加わると、その力が傷の先端に集中します。
- 破壊の起点: この集中した力が、傷を急速に成長させ、ガラスを非常に低い力で破壊させてしまうのです。
このため、従来のガラスは理論強度(原子間の結合力から算出される最大の強さ)に比べて、実用強度が極めて低くなります。
2. 繊維化による強度向上(サイズ効果)
ガラスを直径数ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)という極めて細い繊維状に加工すると、以下の理由で強度が飛躍的に向上します。
① 最大欠陥の除去と縮小
- ガラスを高速で引き延ばして繊維化する過程で、大きな傷や内部の不均質な部分などの大きな欠陥は取り除かれます。
- 繊維の直径が細くなるほど、その表面に存在する可能性のある欠陥の最大サイズも小さくなります。
② 欠陥体積の減少
- 細い繊維は、大きなバルク材に比べて欠陥が存在し、応力が集中する体積が大幅に減少します。
- 欠陥が小さくなると、破壊の起点となる応力集中が分散され、より大きな力に耐えられるようになります。
3. 複合材としての役割(グラスファイバーの場合)
特に、プラスチックと組み合わせてFRP(繊維強化プラスチック)として使われる場合、単なるガラス繊維自体の強度向上に加えて、以下の相乗効果も得られます。
- 骨の役割: 樹脂は柔らかく強度が低いですが、ガラス繊維は「骨」として機能し、応力を効率的に負担します。
- 応力の分散: 外部からの衝撃や力が加わった際、繊維がその力を受け止め、樹脂全体に均一に分散させることで、製品全体の強度と剛性を飛躍的に向上させます。

ガラスの強度は、表面の微細な傷(欠陥)で決まります。繊維化により、欠陥の最大サイズが小さくなり、力を集中させる破壊の起点が減少するため、ガラス本来の強さが引き出され、強度が向上します。
グラスウールとの違いは何か
「グラスウール」と「グラスファイバー」は、どちらもガラスを原料とする繊維ですが、一般的には繊維の長さ、形状、そして主な用途に違いがあります。
グラスウール vs グラスファイバー(狭義)
「グラスファイバー」はガラス繊維の総称でもありますが、ここでは一般的に「長繊維(糸状)」を指す狭義のグラスファイバーとの違いをまとめます。
| 項目 | グラスウール (Glass Wool) | グラスファイバー (Glass Fiber) |
| 繊維の長さ | 短繊維 (綿状・フワフワしている) | 長繊維 (糸状・クロスなどに織れる) |
| 主な形状 | マット状、ボード状、吹き込み材 | 糸、クロス(織物)、チョップドストランド |
| 密度 | 比較的低い (空気を多く含む) | 比較的高い (硬く、強度が高い) |
| 主用途 | 断熱、吸音 (空気層の利用) | 強化材 (FRPの基材など) |
| 主要な機能 | 外部の熱や音の侵入を防ぐ | 素材(プラスチックなど)の強度・剛性向上 |
詳しく解説
1. グラスウール (Glass Wool)
- 繊維の形状: 溶融ガラスを遠心力で吹き飛ばして作る、不均一で短く絡み合った綿状の繊維です。
- 機能の原理: 繊維間に大量の静止した空気を閉じ込めることで、その空気の層が熱や音の伝わりを妨げます。
- 用途: 建築物の断熱材(壁、天井、床)や、吸音材として利用されます。
2. グラスファイバー (Glass Fiber)
- 繊維の形状: 溶融ガラスをノズルから高速で引き延ばして巻き取る、均一で細い糸状(長繊維)の繊維です。
- 機能の原理: ガラス繊維自体の高い引張強度と、複合材として他の素材(主にプラスチック)の内部で骨材となることで、全体の強度と耐久性を飛躍的に高めます。
- 用途: FRP(繊維強化プラスチック)の原料(ボート、浴槽、自動車部品など)、プリント配線基板の基材、補強用クロスなどに利用されます。
どちらもガラス繊維ですが、フワフワして断熱・吸音に使うのがグラスウール、糸状で補強・強化に使うのがグラスファイバーとなります。

グラスウールは綿状の短繊維で、繊維間に空気を閉じ込めて断熱・吸音材として利用されます。対してグラスファイバーは糸状の長繊維で、その高強度を活かしてFRPなどの補強材として使われます。
プラスチックとどのように混合するのか
グラスファイバーをプラスチック(樹脂)と混合し、繊維強化プラスチック(FRP)として製品化する方法は、使用する樹脂の種類や求める製品の特性によって多岐にわたります。
主な方法としては、繊維を樹脂に浸透させて積層する方法と、繊維と樹脂を練り混ぜてから成形する方法の2種類に大別されます。
1. 湿式成形法 (液状樹脂への浸透)
これは、液状の樹脂(ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂など)をガラス繊維に浸み込ませて硬化させる方法で、主に大型製品や少量生産に適しています。
- ハンドレイアップ法 (Hand Lay-up/HLU)
- ガラス繊維のシート(マットやクロス)を型の上に置き、上からハケやローラーを使って液状の樹脂と硬化剤を塗り込んで浸透させます。
- この作業を必要な厚さになるまで繰り返し、樹脂が硬化したら型から取り外します。
- 用途例: 漁船、ボート、浴槽、FRPタンク、モニュメントなど。
- スプレーアップ法 (Spray-up/SP)
- スプレーガンで、切断したガラス繊維と樹脂液、硬化剤を同時に型に吹き付けます。
- その後、ローラーで空気(気泡)を抜きながら均一にならして硬化させます。
- 用途例: 大型パネル、複雑な形状の部品。
- フィラメントワインディング法 (Filament Winding/FW)
- 連続したガラス繊維の束(ロービング)に樹脂を含浸させながら、回転する芯金(マンドレル)に一定の角度で巻き付けていきます。
- 硬化後に芯金を引き抜くことで、高い強度を持つパイプ状の製品(高圧ガス容器、液体輸送管など)ができます。
2. 乾式成形法 (混練・射出成形)
これは、あらかじめ短く切断されたガラス繊維をペレット状の樹脂と混ぜ、熱をかけて金型で成形する方法で、大量生産や複雑な形状に適しています。
- 射出成形法
- あらかじめガラス短繊維(チョップドストランド)を混ぜたプラスチックのペレット(粒)を使用します。
- このペレットを加熱して溶かし、射出成形機で高圧をかけて金型に流し込み、冷却して固めます。
- 用途例: 自動車部品、電気機器のハウジング、事務機器部品など。
- BMC・SMC法 (圧縮成形)
- BMC (Bulk Molding Compound): 短いガラス繊維、樹脂、充填材などを練り合わせた「団子状」の材料を金型に入れ、加熱・加圧して成形します。
- SMC (Sheet Molding Compound): ガラス繊維に樹脂を浸み込ませたシート状の材料を金型に入れ、加熱・加圧して成形します。
- 用途例: 複雑な形状の部品、自動車の構造部品など。
結合を強める工夫
ガラス繊維とプラスチックがその強度を最大限に発揮するには、両者がしっかりと結合していることが重要です。
カップリング剤 (Coupling Agent): ガラス繊維の表面はそのままでは樹脂と結合しにくいため、繊維の表面にカップリング剤と呼ばれる特殊な薬剤を塗布します。これは、ガラス側と樹脂側の両方と化学的に結びつき、繊維と樹脂の接着性(界面の結合)を大幅に向上させる役割を果たします。

グラスファイバーとプラスチックの混合は、主に2つの方法で行われます。
乾式成形: 短いガラス繊維を樹脂と練り合わせ、熱や圧力をかけて金型で成形する(例:自動車部品)。
湿式成形: 液状の樹脂にガラス繊維のシートを浸透させ、重ねて硬化させる(例:ボート)。

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