この記事で分かること
1. 欧州新拠点での研究内容
最先端半導体の微細・立体構造に対応する電子線計測・検査技術の高度化と、先進AIと装置データを融合した製造最適化ソリューションの開発です。研究室レベルの成果から量産への迅速な移行を推進します。
2. 臨界寸法走査電子顕微鏡(CD-SEM)とは
半導体ウエハ上の超微細な回路寸法を、電子線を用いてナノメートル単位で非破壊かつ高精度に自動計測・管理する専用の顕微鏡です。デバイスの性能を左右する微細化プロセスの量産を支えています。
3. 低加速電圧の利点と高精度測定の理由
ウエハへの帯電や回路破壊を防ぎつつ、電子の侵入を最表面に留めて輪郭を明瞭に捉えられる点です。装置内を高加速で絞り、ウエハ直前で急減速させる技術により、低ダメージと高解像度を両立しています。
日立ハイテクの新規開発拠点
日立ハイテクは2026年7月、オランダのアイントフォーヘンにある欧州有数のオープンイノベーション拠点「High Tech Campus Eindhoven」内に、新たな開発拠点「Innovation Center Eindhoven」を開設することを発表しました。
半導体デバイスの微細化・立体化(3D積層化)が急速に進む中、製造現場における計測・検査技術の難易度は非常に高くなっています。
日立ハイテクはこれまでもオランダのデルフト工科大学などと電子線(電子ビーム)技術の共同研究を行ってきましたが、この成果を製品実装や量産化へ迅速に繋げる(Lab to Fab)ため、現地に強固な足場を築くことになりました。
どんな研究を行うのか
「Innovation Center Eindhoven」で進められる研究・開発は、同社のコアである「電子線(電子ビーム)技術」と「先進AI」を掛け合わせ、最先端半導体の製造・検査における物理的な限界を突破することに特化しています。
1. 電子線技術を用いた「超微細・立体構造」の計測・検査技術
半導体デバイスの微細化(N2以降のノード)に加え、3D積層化(HBM4や裏面電源供給など)といった立体化が急速に進む中、従来の計測アプローチでは捉えきれない複雑な構造を正確に評価する技術を開発します。
- デルフト工科大学やオランダ応用科学研究機構(TNO)とこれまで進めてきた電子線物理に関する共同研究をベースに、さらなる高解像度化や計測精度の向上を図ります。
- 次世代のCD-SEM(臨界寸法走査電子顕微鏡)や欠陥レビュー装置(DR-SEM)のキーとなる、新たな測定原理や光学系の検証(原理検証)を行います。
2. 先進AIと機器データの融合(HMAX Industryの拡張)
日立ハイテクが注力する次世代ソリューション群「HMAX Industry」の脳にあたる部分の開発です。
- 製造・計測装置から得られる膨大なデータ(プロダクトデータ)に、同社が培ってきたドメインナレッジ(半導体プロセスの知見)と、フィジカルAIをはじめとする最先端AI技術を組み合わせます。
- 単に異常や寸法を検知するだけでなく、「プロセスのどこに起因してその不具合が起きたのか」「どう装置を制御して最適化すべきか」を自律的に導き出す、高度なデジタライズドアセット(デジタル化された高付加価値資産)の創出をめざします。
3. 「Lab to Fab」を加速するワンストップ価値検証
研究室レベル(Lab)の基礎研究を、実際の半導体量産工場(Fab)で使える実用技術へとシームレスに落とし込むための開発を行います。
- 300社以上の半導体関連企業や1万人以上の研究者が集まる「High Tech Campus Eindhoven」の強みを活かし、現地のディープテック企業やサプライチェーンの主要プレイヤーと直接連携します。
- 「原理検証」から「価値検証(実際の量産ラインへの適用性評価)」までを同一拠点内でワンストップで実施し、新技術の製品化・市場投入までの期間(Time to Market)や、顧客の量産立ち上げ(Yield Ramp-up)にかかる期間を大幅に短縮するプロセスの研究を行います。
背景には、データセンター向けAIチップの需要爆発や、自動車(EV・自動運転)分野におけるフィジカルAI実装に伴う、半導体の構造激変があります。
オランダの強力な半導体エコシステムの中心で、基礎研究をいかに素早く現場のソリューションへ昇華させるかという、非常に実践的な研究開発アプローチが特徴です。

最先端半導体の微細・立体構造に対応する電子線計測・検査技術の高度化と、先進AIと装置データを融合した製造最適化ソリューションの開発です。研究室レベルの成果から量産(Lab to Fab)への迅速な移行を推進します。
臨界寸法走査電子顕微鏡とは何か
臨界寸法走査電子顕微鏡(CD-SEM:Critical Dimension Scanning Electron Microscope)とは、半導体ウエハ上に形成された超微細な回路パターンの寸法(線幅やホールの直径など)を、ナノメートル(10億分の1メートル)単位で精密に計測・管理するための半導体製造に特化した専用の顕微鏡です。
光の代わりに電子線(電子ビーム)を用いることで、一般的な光学顕微鏡では見ることができない微細な世界を測定します。
1. なぜ「臨界寸法(Critical Dimension)」と呼ばれるのか?
半導体業界において「臨界寸法(CD)」とは、デバイスの性能や動作を左右する「製造上、最も微細で重要な寸法」を指します。
この寸法がわずかでも設計からズレると、半導体が正常に動かなかったり、性能が発揮できなかったりします。そのため、製造工程の中で回路が正しく作られているかを厳密にチェックするためにCD-SEMが使われます。
2. 一般的な走査電子顕微鏡(SEM)との違い
CD-SEMは、理化学研究などで使われる汎用的なSEMを、半導体の量産工場で24時間稼働させるために進化させたものです。
- 非破壊で計測できる(ウエハを傷つけない)一般的なSEMは高エネルギーの電子線を当てるため、対象物がダメージを受けます。CD-SEMは、ウエハにダメージを与えないよう電気的な工夫(低加速電圧)が施されており、製品を破壊せずに測定して、そのまま次の製造工程へ流すことができます。
- 圧倒的な自動化と高速性量産ラインに対応するため、ウエハの搬送、測定位置の特定(アライメント)、ピント合わせ、寸法計測、データ記録までをすべて全自動かつ超高速で行います。
- 極めて高い再現性ナノメートル未満(サブナノメートル)の領域において、「誰が・いつ測定しても全く同じ結果が出る」という圧倒的な測定安定性(再現性)を持っています。
3. 計測の仕組み
- 回路パターンに向けて細く絞った電子線を照射します。
- 電子線が当たると、パターンの凹凸(エッジ部分など)から「二次電子」と呼ばれる電子が飛び出します。
- この二次電子を検出して画像化すると、パターンの段差部分(エッジ)が明るく光る信号(輝度プロファイル)が得られます。
- この信号の山と山の間の距離を計算することで、パターンの正確な幅を割り出します。
半導体製造における重要性
現在の最先端半導体(数ナノメートル世代)では、原子数十個分という極限の細さの回路を制御しています。
日立ハイテクはこのCD-SEMの分野で世界トップクラスのシェアを誇っており、同社の装置による超高精度な計測技術が、現代の高性能なスマートフォンやAI向けデータセンターの半導体量産を支えています。

半導体ウエハ上の超微細な回路寸法(臨界寸法)を、電子線を用いてナノメートル単位で非破壊かつ高精度に自動計測・管理する専用の走査電子顕微鏡です。デバイスの性能を左右する微細化プロセスの量産を支えています。
なぜ低加速電圧で測定するのか
低加速電圧でありながらナノメートルオーダーで精細に測定できる理由は、「低加速にしなければならない物理的な理由(表面情報の抽出とダメージ防止)」と、「低加速によるボケを克服する光学技術(リターディング技術)」が組み合わさっているからです。
1. なぜ「低加速」にする必要があるのか
一般の電子顕微鏡(SEM)では、電圧を上げる(高加速にする)ほど電子の波長が短くなり、電子ビームを細く絞れるため解像度が上がります。
しかし、半導体計測(CD-SEM)でそれをやると以下の問題が生じるため、あえて数百V程度の「低加速」にする必要があります。
- 最表面の形状(エッジ)をクッキリ捉えるため:高加速の電子はウエハの奥深くまで突き抜けてしまい(相互作用体積の拡大)、内部の情報まで拾って像がボケてしまいます。低加速にすることで電子の侵入深さを最表面(数ナノメートル)に留め、回路パターンの輪郭(エッジ)を際立たせることができます。
- 帯電(チャージアップ)を防ぐため:ウエハ上のレジスト(感光材)や絶縁膜に高エネルギーの電子を当て続けると、ウエハがマイナスに帯電して電子ビームを跳ね返し、像が激しく歪みます。照射する電子の数と、表面から飛び出す電子(二次電子など)の数がちょうど釣り合う電圧(通常1kV以下)を狙うことで、帯電を防ぎます。
- 極薄の回路やレジストを破壊しないため:特にEUV(極端紫外線)リソグラフィで使われるレジストは非常に繊細で、強い電子線を当てるとパターンが縮んだり(シュリンケージ)、崩壊したりします。デバイスを無傷で次の工程へ流す(非破壊検査)ためには低加速電圧が必須です。
2. 低加速なのに、なぜ精細にできるのか
物理の法則上、単に電圧を下げると、電子のエネルギーばらつきによるボケ(色収差)が大きくなり、ビームが太くなってしまいます。日立ハイテクなどのCD-SEMは、この矛盾を「リターディング(減速電界)方式」という技術で解決しています。
コア技術:リターディング方式
- レンズを通過するときは「高加速」:電子銃から対物レンズを通過するまでは、数kV以上の高い電圧で電子を高速で一気に飛ばします。これにより色収差の影響を極限まで抑え、非常に細く絞られた鋭いビームを作ります。
- ウエハの直前で「急減速」:ビームが対物レンズを抜けた後、ウエハの手前で負の電圧(逆電界)をかけ、ウエハに衝突する直前で電子を急ブレーキさせます。
- 「高解像度」と「低ダメージ」の両立:この仕組みにより、ウエハに当たる瞬間のエネルギー(着地エネルギー)は数百Vの「低加速」に抑えつつ、ビームの細さは高加速譲りの「鋭さ」を維持できるため、ウエハを傷つけずに精細な測定が可能になります。
CD-SEMは、「電子の通り道では高エネルギーでボケを防ぎ、ウエハに当たる瞬間だけ低エネルギーにしてダメージと帯電を防ぐ」というリターディング技術によって、低加速電圧での超高精度な計測を実現しています。

レンズ内は高加速で電子を細く絞り、ウエハ直前で急減速させるリターディング技術を用いるからです。これにより、帯電や破壊を防ぐ低加速電圧(低ダメージ)と、高解像度な最表面計測を両立しています。

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