イビデンのAI向けICパッケージ基板増産 ICパッケージ基板とは何か?

この記事で分かること

  • ICパッケージ基板とは:ICチップの微細な回路と、プリント基板の配線を電気的につなぎ、ICチップを保護する役割を担う基板のことです。
  • AI向けで特に重要になる性能:「高速信号伝送」「高放熱性」「高密度配線」の3つが不可欠です。膨大なデータ処理のために、信号を速く正確に伝え、大量の熱を効率的に逃がし、微細な回路を多数形成できる性能が求められます。
  • 今後のICパッケージ基板の動向:生成AIの需要急増に伴い、市場が大幅に拡大しています。主要メーカーによる大規模な生産能力の増強が加速する見込みです。

イビデンのAI向けICパッケージ基板増産

 イビデンは、生成AI(人工知能)向けICパッケージ基板の生産量を、2027年までに現在の約2.5倍に増やす計画です。これは、AI市場の急速な拡大に対応するためのもので、特にデータセンターやAIサーバーで使われる高性能な半導体向けに供給を拡大します。

 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91450730R20C25A9TB1000/

 この増産によって、今後のAI需要の増加に安定的に応えることを目指しています。この計画は、同社の今後の収益成長の柱となる見込みです。

ICパッケージ基板とは何か

 ICパッケージ基板は、半導体チップ(ICチップ)をプリント基板に接続するための仲介役となる小型で高密度な基板です。

 これは、髪の毛よりも細いレベルで回路が形成されており、ICチップとプリント基板の電気的な接続、保護、放熱という重要な役割を担っています。

主な役割

  • 電気的な接続: ICチップの微細な電極と、比較的大きなプリント基板の配線とを接続します。ICチップの多ピン化(多数の電極)に対応するため、ICパッケージ基板には非常に高密度な配線が形成されています。
  • ICチップの保護: 振動、衝撃、湿気など外部環境からICチップを保護します。
  • 放熱: ICチップは動作時に多くの熱を発生します。ICパッケージ基板は、その熱を効率的に外部へ逃がし、ICチップの誤作動や劣化を防ぎます。

種類と技術

ICパッケージ基板には、主に以下の種類と技術があります。

  • フリップチップパッケージ基板: ICチップを逆さま(フリップ)にして、基板の電極に直接はんだバンプで接続する方式です。ワイヤーを使わないため、高速な信号伝送が可能で、高性能なCPUやGPUに多く使われています。
  • ABF(Ajinomoto Build-up Film)基板: フリップチップパッケージ基板の一種で、味の素が開発した絶縁材料(ABF)を使ったものです。薄く多層化できるため、高速・高密度な半導体向けに広く採用されています。生成AI向けの高性能半導体基板としても重要度が増しています。

ICパッケージ基板は、ICチップを保護し、プリント基板に接続するための仲介役となる小型の高密度基板です。ICチップの微細な回路と、プリント基板の配線を電気的につなぎ、チップから発生する熱を効率的に外部へ逃がす役割も担います。

イビデンの強みは何か

 イビデンの最大の強みは、以下に示すように最先端のICパッケージ基板分野における圧倒的な技術力と世界トップクラスのシェアです。特に、生成AIやデータセンター、高性能PCのCPU・GPUなど、高度な計算処理を必要とする半導体向けの基板で、世界的な大手半導体メーカーからの信頼が厚いことが挙げられます。

1. ICパッケージ基板における高い技術力とシェア

  • 最先端分野での強み: AI、自動運転、サーバー向けなどの高性能半導体(CPU/GPU)に使われるICパッケージ基板で、世界トップレベルの技術力とシェアを誇ります。
  • 主要顧客との強固な関係: インテルやNVIDIAといった世界的な半導体メーカーと製品開発段階から密接に連携しており、顧客のニーズに合わせた製品を迅速に提供できる体制があります。
  • ABF基板技術: 特に高性能半導体に使われる「ABF基板」の技術に強みを持っています。この技術は、高密度な回路形成や多層化を可能にし、半導体の性能を最大限に引き出す上で不可欠です。

2. 多様な事業ポートフォリオによる安定性

  • 電子事業とセラミック事業の二本柱: 半導体関連の「電子事業」に加え、自動車の排ガス浄化フィルター(DPF)などを手掛ける「セラミック事業」も世界トップクラスのシェアを誇ります。
  • リスク分散: 半導体市場には「シリコンサイクル」と呼ばれる景気変動がありますが、異なる事業が収益を支えることで、企業全体の安定性が高まっています。

3. コスト競争力と環境配慮

  • 水力発電の活用: 創業の原点である水力発電所を自社で所有しており、製造に必要な電力をまかなうことで、コスト競争力の向上とCO2排出量削減の両立を実現しています。

イビデンは、高性能CPUやGPU向けICパッケージ基板で世界トップクラスの技術力とシェアを持つことが最大の強みです。生成AIやデータセンターなど、最先端分野の需要増に迅速に対応できる技術力と、主要顧客との強固な関係が競争優位の源泉です。

AIサーバー向けのICパッケージ基板に求められる主な性能は何か

 AIサーバー向けのICパッケージ基板に求められる主な性能は、「高速信号伝送」「高放熱性」「高密度配線」です。これらの要件は、AI処理を担う高性能なGPUやCPUの性能を最大限に引き出すために不可欠です。


高速信号伝送

 AIサーバーは、膨大なデータを高速で処理するため、ICパッケージ基板には信号の遅延や損失を最小限に抑える性能が求められます。特にGPUとメモリ間の通信速度がAIの処理能力を左右するため、基板の配線材料や構造が重要になります。

高放熱性

 GPUは動作時に大量の熱を発生させます。この熱を効率的に外部へ放熱できなければ、チップの性能が低下したり、故障の原因となります。そのため、AIサーバー向けの基板は、放熱性に優れた材料や構造が採用されます。

高密度配線

 AI用GPUは、非常に多くの入出力端子(ピン)を持っています。これらのピンを、限られた基板面積内で効率的に接続するために、微細な配線パターンを多層に形成できる技術が不可欠です。これにより、チップの性能向上と小型化の両立が可能になります。

その他の要件

  • 寸法安定性: 高温下でも変形が少なく、チップと安定した接続を保つ。
  • 耐熱性: 高温環境下でも材料が劣化しない。
  • 低誘電率・低誘電正接: 信号の損失を低減し、高速通信を可能にする。

AIサーバー向け基板には、「高速信号伝送」「高放熱性」「高密度配線」の3つが不可欠です。膨大なデータ処理のために、信号を速く正確に伝え、大量の熱を効率的に逃がし、微細な回路を多数形成できる性能が求められます。

AIサーバー向けICパッケージ基板の今後の動向は

 AIサーバー向けICパッケージ基板の今後の動向は、需要の急拡大に伴う生産能力の増強と、さらなる高性能化に向けた技術革新が中心となります。

1. 圧倒的な需要の増加

  • AIサーバー市場の拡大: 生成AIの普及が本格化し、高性能なGPUやCPUを搭載したAIサーバーの需要が爆発的に増加しています。これにより、パッケージ基板の市場も大幅に成長すると予測されています。
  • メーカー各社の設備投資: イビデンをはじめとする主要メーカーは、この需要に対応するため、数十億円から数百億円規模の大型設備投資を積極的に行い、生産能力を急ピッチで増強しています。

2. 技術革新の加速

  • 高密度化・多層化: AI半導体の高性能化に伴い、パッケージ基板にはより微細で複雑な回路を形成する技術が求められています。フリップチップ(FC)技術に加え、多層化技術であるABF基板の重要性がさらに高まっています。
  • チップレット技術への対応: 複数の小型チップ(チップレット)を一つのパッケージに集積する技術が主流になりつつあります。この技術に対応するため、チップレット間を高速で接続できる高精度なパッケージ基板の開発が不可欠です。
  • 新素材の導入: 従来の樹脂基板に加え、より高放熱性や高速信号伝送に適した新素材(ガラス基板など)の研究開発も進められています。
  • パッケージングの重要性向上: 従来の半導体製造では「前工程」(ウェハ製造)が主役でしたが、AI時代では「後工程」(パッケージング)の技術が半導体全体の性能を左右する重要な要素となり、投資や研究開発が集中しています。

3. サプライチェーンの再構築

  • 地政学的リスクへの対応: 半導体産業のサプライチェーンは台湾などに集中しており、地政学的なリスクへの懸念が高まっています。このため、日本、米国、ヨーロッパでもパッケージ基板を含む半導体関連の国内生産を強化する動きが見られます。

 総じて、AIサーバー向けICパッケージ基板は、今後数年間、市場の成長が最も期待される分野の一つであり、技術開発と生産競争がさらに激化していくと予想されます。

AIサーバー向け基板は、生成AIの需要急増に伴い、市場が大幅に拡大しています。今後は、さらなる高速信号伝送・高放熱性・高密度配線に対応するための技術革新と、主要メーカーによる大規模な生産能力の増強が加速する見込みです。

AIサーバー向けICパッケージ基板の有力メーカーは

 AIサーバー向けICパッケージ基板の有力メーカーとしては、以下の企業が挙げられます。

日本企業

  • イビデン(Ibiden): この分野で世界トップクラスの技術力とシェアを誇ります。特に、生成AI向け高性能GPUに使われるABF基板で圧倒的な強みを持ち、NVIDIAやIntelといった大手半導体メーカーの主要サプライヤーとなっています。
  • 新光電気工業(Shinko Electric Industries): イビデンと並び、フリップチップパッケージ基板の分野で高い技術力を持つ日本企業です。高性能半導体向けに製品を供給しています。
  • 京セラ(Kyocera): セラミック基板で知られますが、有機パッケージ基板の分野でも高い技術を持ち、特に高信頼性が求められる半導体向けに強みを持っています。
  • メイコー(Meiko): 主にプリント基板(PCB)メーカーとして知られていますが、高密度なパッケージ基板の分野にも力を入れています。

台湾・韓国の企業

  • Unimicron(欣興電子): 世界最大のICパッケージ基板メーカーの一つです。PCやスマートフォン向けで高いシェアを誇り、近年はAIサーバー向けにも注力しています。
  • ASE Technology Holding(日月光投資控股): ICパッケージングとテストサービスの世界最大手(OSAT)であり、子会社で基板製造も手掛けています。
  • Samsung Electro-Mechanics(サムスン電機): サムスン電子の関連会社で、フリップチップボールグリッドアレイ(FCBGA)基板などの製造に強みを持っています。

 AIサーバー向け半導体市場の急速な拡大に伴い、これらの企業は積極的に設備投資を行い、生産能力を拡大する動きを見せています。特に、日本企業は最先端の技術開発力で、台湾・韓国企業は大規模な生産能力で、それぞれ競争優位を築いています。

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