この記事で分かること
- イビデンとは:半導体パッケージ基板や自動車排ガス浄化用のDPF(セラミック製品)を主力とする技術開発型企業です。最先端のエレクトロニクスと環境分野に貢献しています。
- 上方修正の理由:主力の電子事業において、AIサーバー向けICパッケージ基板の需要が当初の想定を大幅に上回り、売上と利益が大きく伸びたためです。
- ICパッケージ基板とは:ICチップを保護し、チップの微細な回路をメイン基板と接続するための仲介役です。高速信号の伝送や放熱の役割も担う、重要な電子部品です。
イビデンの連結業績予想上方修正
直近の発表によると、イビデンは2026年3月期通期の連結業績予想を上方修正しており、親会社株主に帰属する当期純利益は、前期比で約10%増となる見込みです。
イビデンはどんな企業か
イビデン株式会社は、「電子事業」と「セラミック事業」を二本柱とする技術開発型企業です。
祖業の水力発電から電気化学工業、建材などを経て、時代の変化とコア技術を活かし、現在の先端技術分野で世界トップクラスの製品を提供しています。
イビデンの主な事業と製品
1. 電子事業 (Electronics)
最も利益の柱となっている事業です。
| 製品カテゴリ | 概要 |
| ICパッケージ基板 | 主力製品。パソコンやデータセンター向けCPU、AI・自動運転向けGPUなどに使われる、半導体チップとプリント配線板をつなぐ重要な部品。高密度・高多層化の最先端技術で世界をリードしています。 |
| 高密度プリント配線板 | スマートフォンなどの情報端末向けに、小型化・高機能化を支える配線板。 |
2. セラミック事業 (Ceramics)
独自のセラミック技術で環境と産業に貢献しています。
| 製品カテゴリ | 概要 |
| DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター) | ディーゼル車の排気ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集・除去するフィルター。自動車の環境対応を支える製品として世界トップシェアを誇ります。 |
| 特殊炭素製品(グラファイト製品) | 半導体製造装置用部材や、産業炉用耐火物、放電加工用電極材などに使用される高機能炭素製品。 |
| 触媒担体保持・シール材 | 自動車の排ガス浄化触媒を保持・保護するセラミック製品。 |
3. その他事業
建材(メラミン化粧板など)や環境エンジニアリング、医療向けソフトウェアなど、培った技術を応用した幅広い事業を展開しています。
企業の特徴
- 技術開発型企業: 常に最先端の技術開発に取り組み、特にICパッケージ基板においては、インテルなどの世界トップクラスの顧客と共同開発を行うなど、高い技術力を強みとしています。
- 変化への対応力: 水力発電から電気化学、建材を経て電子・セラミックへと、時代の変化に合わせて事業構造を大胆に転換してきた歴史を持ちます(「イビテクノ」の精神)。
- グローバル展開: 日本国内だけでなく、アジアやヨーロッパなどに生産・販売拠点を持ち、グローバルに事業を展開しています。
「純利益10%増」の背景には、この電子事業、特にAI・サーバー向けのICパッケージ基板の需要拡大が大きく寄与していると考えられます。

イビデンは、半導体パッケージ基板や自動車排ガス浄化用のDPF(セラミック製品)を主力とする技術開発型企業です。最先端のエレクトロニクスと環境分野に貢献しています。
ICパッケージ基板とは何か
ICパッケージ基板とは、ICチップ(半導体)を電子機器のメイン基板(プリント基板/PCB)に搭載するために不可欠な中間部品です。
これは単なる土台ではなく、ICチップの性能を最大限に引き出し、保護するための重要な役割を担っています。
1. ICパッケージ基板の役割
ICパッケージ基板は、主に以下の4つの役割を果たします。
| 役割 | 機能 |
| 電気接続の仲介 | 非常に微細なICチップ上の電極(回路)と、メイン基板上の比較的大きな配線とを電気的に接続する配線変換(ピッチ変換)を行います。高速な信号伝送を実現します。 |
| ICチップの保護 | 振動、衝撃、湿気、ホコリなど、外部環境からICチップの繊細な回路を守ります。 |
| 放熱 | ICチップが動作する際に発生する熱を、効率的に外部へ逃がすための放熱経路を提供し、誤動作を防ぎます。 |
| 実装の容易化 | ICチップを、機器に組み込む(実装する)のに適した、扱いやすいサイズや形状に変換します。 |
2. 主な種類
ICパッケージ基板には、接続方法や材料によって様々な種類がありますが、特に高性能分野で重要となるのが以下のタイプです。
- FC-BGA (Flip Chip – Ball Grid Array):
- ICチップを基板に裏返して接続する(フリップチップ接続)方式と、パッケージ基板の下面に半田ボールを格子状に並べてメイン基板に接続する(BGA)方式を組み合わせたものです。
- 高性能・高集積なCPUやGPU(AIチップなど)に使用され、イビデンの主力製品もこの分野の最先端を担っています。
- FC-CSP (Flip Chip – Chip Size Package):
- ICチップとほぼ同じサイズの超小型パッケージ基板で、主にモバイル機器などに使われます。
電子機器の小型化、高速化、高機能化が進む現代において、ICパッケージ基板は「縁の下の力持ち」としてますます重要性が高まっています。

ICパッケージ基板は、ICチップを保護し、チップの微細な回路をメイン基板と接続するための仲介役です。高速信号の伝送や放熱の役割も担う、重要な電子部品です。
ICパッケージ基板のどのように製造されるのか
ICパッケージ基板、特に高性能なFC-BGA(フリップチップ・ボールグリッドアレイ)などに代表される製品の製造は、非常に高度で複雑なプロセスを経て行われます。
主な製造工程は、プリント配線板の製造技術をベースに、さらに微細化・高精度化が求められる独自の工程が加わります。
ICパッケージ基板の主な製造工程
ICパッケージ基板の製造は、大まかに以下のステップで進行します。
1. 内層回路の形成
- 材料の準備: 絶縁材料(コア材やプリプレグ/PPシート)と銅箔を準備します。
- 回路パターンの描画: 感光性のフィルム(ドライフィルムレジストなど)に回路パターンを露光し、現像して、回路を残す部分だけを硬化させます。
- エッチング: 不要な銅箔の部分を化学薬品で溶かし(エッチング)、内層の配線パターンを形成します。
2. 積層・プレス
- 積層: 複数の内層回路と絶縁材料(PPシートなど)を重ね合わせ、熱と圧力をかけて一体化します。これにより、基板が多層構造になります。
3. 穴あけ(ビア形成)
- レーザー加工: 超微細な配線接続(ビア)のために、レーザーを用いて層間を電気的に接続するための穴を開けます。これは一般的なプリント基板のドリル加工よりも遥かに高精度です。
4. メッキ(導体形成)
- 無電解メッキ: 穴の内部を含め、基板全体に薄く銅を析出させます。
- 電解メッキ: 電気を通して、回路となる部分にさらに厚く銅メッキを行い、電気的な接続を完成させます。
5. 外層回路の形成・表面処理
- 内層と同様の手法で、基板の表面にも微細な回路(外層回路)を形成します。
- 表面処理: 半導体チップやメイン基板と接続する部分に、はんだ付けに適した特殊な金属(ニッケル/金など)の処理を施します。
6. 外形加工・検査
- 外形加工: 製造された大きな基板(ワーク)から、個々のパッケージ基板サイズに切断します(プレスやルーター加工)。
- 電気特性検査・外観検査: 製造された製品が設計通りの性能と品質を満たしているかを、専用の装置で厳しく検査します。
製造技術のポイント
ICパッケージ基板は、高多層化、微細化、高信頼性が求められるため、一般的なプリント基板製造よりも以下の点で高度な技術が必要です。
- 超微細配線技術: 回路幅や配線間隔が非常に狭く、ナノメートルレベルの精度が要求されます。
- 高精度な積層技術: 多層構造において、各層の回路が正確に位置合わせされなければなりません。
- 高品質なビア形成技術: 層間接続の信頼性を確保するためのレーザー加工技術が鍵となります。

ICパッケージ基板は、内層回路形成後に積層し、レーザーで超微細な穴(ビア)を開けます。その後、穴や配線部分に銅メッキを施し、多層の電気接続を完成させます。
ICパッケージ基板とインターポーザーの違いは何か
ICパッケージ基板とインターポーザーは、どちらも半導体チップと外部を繋ぐ役割を担いますが、その役割の範囲と微細化レベルに違いがあります。
1. ICパッケージ基板
ICチップを直接搭載し、ICチップからメイン基板(マザーボードなど)へ信号を伝える役割を果たします。
ICパッケージ基板は、チップを保護し、発生した熱を逃がし、チップとメイン基板という配線ピッチが大きく異なる間の緩衝材・配線変換層として機能します。
2. インターポーザー
高性能な半導体、特に複数のチップやメモリを一つのパッケージ内に集積する「2.5D/3Dパッケージ」技術で重要になります。
- 役割: ICパッケージ基板とICチップ(または複数のチップやメモリ)の間に挟まれ、ICチップにより近い超微細な配線で、チップ間の高速通信を実現します。
- 例: CPUやGPUの上にHBM(高帯域幅メモリ)を並べる場合、このチップ間の超短距離・超高速接続をインターポーザーが担います。インターポーザーには、微細な穴(TSV:貫通電極)が使われることもあります。
インターポーザーは、「ICチップの配線」と「ICパッケージ基板の配線」の中間を埋める、より微細で高度な接続層と考えると分かりやすいです。

インターポーザーは、ICチップ同士やチップとパッケージ基板の間に挟まれ、超微細配線で高密度接続を担います。パッケージ基板は、チップ全体を保護し、メイン基板と接続する土台です。
上方修正の理由は何か
イビデンの2026年3月期通期業績予想が上方修正された主な理由は、電子事業の好調、特にAI(人工知能)サーバー向けICパッケージ基板の需要が想定を上回ったためです。
上方修正の主要因
上方修正の背景にある具体的な要因は、以下の通りです。
1. 電子事業の絶好調
- AIサーバー向け需要の急増:
- 主力のICパッケージ基板において、生成AIサーバーの顧客からの受注が堅調に推移し、当初の想定を大幅に上回る水準で需要が拡大しています。
- 高性能なAI用GPU(画像処理ユニット)やCPUに必要なフリップチップBGA (FC-BGA) 基板の需要が、世界のデータセンター投資を背景に高まっています。
- 収益性の改善:
- 売上高が増加しただけでなく、電子事業部門の営業利益も大幅に改善し、全体の利益を大きく押し上げています。
2. 通期見通しの引き上げ
- 第2四半期(中間期)の実績が、当初の予想を大きく上回って着地したことから、この好調が下期も継続する見込みとなり、通期予想が引き上げられました。
注意点
- 一方で、自動車向けDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)などを含むセラミック事業は、自動車市場の減速などの影響を受け、売上高・利益ともに前年同期比で減少しています。
- 今回の業績拡大は、電子事業(ICパッケージ基板)への一極集中によって牽引されている構造が明確になっています。
イビデンは、このAI関連ICサブストレートの需要増に対応するため、生産能力の拡大も計画・進行しています。

コメント