この記事で分かること
・ブランケットとは:発電、燃料生成、炉の保護という核融合炉の運用に不可欠な役割を担います。特に、液体金属ブランケットが次世代技術として注目されています。
・液体金属とは何か:常温または比較的低い温度で液体状態になる金属や高温で液体のまま利用する金属のことです。
・液体金属がブランケットに適している理由:熱伝導性が高いため、発電のための熱回収が容易であり、発電効率・燃料増殖・放射線耐久性の向上が可能
三井金属とヘリカルフュージョンによる「ブランケット」の共同開発
三井金属鉱業株式会社(以下、三井金属)と核融合炉開発を目指すスタートアップ企業であるヘリカルフュージョン株式会社(以下、HF社)は、2025年4月2日に核融合炉の重要部品である「ブランケット」の共同開発契約を締結しました。
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ブランケットは、核融合反応から発生するエネルギーを取り出すとともに、燃料を増殖し、装置全体を保護する役割を持つ重要な部品です。この共同開発は、2034年の発電開始を目指し、今後2年程度で成果を出すことを目標としています。
核融合とは何か
核融合(Nuclear Fusion)は、軽い原子核が融合してより重い原子核になる際に、大量のエネルギーを放出する反応のことです。これは、太陽や恒星がエネルギーを生み出す仕組みと同じ原理です。
核融合の基本的な仕組み
代表的な核融合反応として、水素の同位体である重水素(²H)と三重水素(³H)の融合があります。
この反応では、ヘリウム(⁴He)と中性子(n)が生成され、17.6メガ電子ボルト(MeV)のエネルギーが放出されます。このエネルギーを電気に変換することで、発電が可能になります。
核融合の利点
- 無限の燃料
- 核融合の主な燃料である重水素は海水から無尽蔵に採取可能。
- 三重水素はリチウムから生成可能。
- 安全性が高い
- 核分裂(原子力発電)とは異なり、暴走する危険がない。
- 核融合反応は外部からのエネルギー供給がないと停止する。
- 環境負荷が少ない
- 二酸化炭素(CO₂)を排出しないため、地球温暖化に影響を与えない。
- 高レベル放射性廃棄物がほとんど発生しない。
- 高エネルギー密度
- 1gの燃料から約8トンの石炭に相当するエネルギーが得られる。
核融合の課題
- 高温・高圧が必要
- 1億度以上の超高温が必要で、現在の技術ではプラズマの制御が困難。
- 材料開発の難しさ
- 核融合炉の内壁は、強力な中性子や高温に耐えられる特殊な材料が必要。
- 商業化までのコストと時間
- 現在の核融合研究はまだ実験段階で、実用化には莫大なコストがかかる。
- 早くても2030〜2040年代に実用化が期待されている。
現在の主な核融合研究プロジェクト
- ITER(国際熱核融合実験炉)
- フランスで建設中の世界最大の核融合実験炉(2025年に運転開始予定)。
- 日本、EU、アメリカ、中国、ロシアなどが参加。
- ヘリカルフュージョン(日本)
- 独自の「ヘリカル型核融合炉」を開発中。
- 三井金属と協力して重要部品を開発中。
- Helion Energy(アメリカ)
- 独自のプラズマ加速方式で、2028年までに商業炉を目指す。
- Commonwealth Fusion Systems(アメリカ)
- 高温超伝導磁石を活用し、2025年に核融合実証を目指す。

核融合は、軽い原子核が融合してより重い原子核になる際に、大量のエネルギーを放出する反応のことで、安全で環境負荷が低く、ほぼ無限のエネルギーを提供する可能性があります。しかし、技術的課題が多く、実用化には時間がかかります。
ブランケットの役割は何か
核融合炉におけるブランケットは、炉内の壁に配置される重要なコンポーネントで、以下の3つの主要な役割を持ちます。
1. 発生したエネルギーを回収し、発電に利用する
核融合反応では、高速中性子(約14MeV)が発生します。ブランケットはこの中性子の運動エネルギーを熱に変換し、冷却材(液体金属や高温ガス)を通じて取り出します。
→ 取り出した熱を蒸気タービンで発電に利用できます。
2. 燃料(三重水素)を生成する
核融合反応に必要な三重水素(³H)は天然にほとんど存在しません。そこで、ブランケットにリチウム(Li)を含む材料を用いることで、三重水素を増殖します。
→ ブランケットが「燃料再生工場」として機能します。
3. 炉の構造を中性子から守る
核融合反応で発生する高速中性子は、炉の構造材を損傷させる原因になります。ブランケットはこの中性子を吸収・減速し、炉の損傷を軽減する役割を果たします。
→ 材料の劣化を防ぎ、炉の寿命を延ばすことが可能です。
ブランケットの種類
固体ブランケット
・固体のリチウム化合物(Li₂O、Li₄SiO₄ など)を使用。
・冷却材として水や高温ガスを用いる。
・ITER(国際熱核融合実験炉)で採用。
液体金属ブランケット
・液体リチウムや鉛リチウム合金(Pb-Li)を使用。
・熱伝導性が高く、中性子吸収性能が優れる。
・日本のヘリカルフュージョンが開発中。

ブランケットは、発電、燃料生成、炉の保護という核融合炉の運用に不可欠な役割を担います。特に、液体金属ブランケットは次世代技術として注目されています。
液体金属とは何か
液体金属(Liquid Metal)とは、常温または比較的低い温度で液体状態になる金属や高温で液体のまま利用する金属のことです。主に以下の特徴を持ちます。
- 電気伝導性が高い(電磁ポンプで移動可能)
- 熱伝導率が高い(冷却材や熱輸送に適している)
- 化学的に安定なものが多い
代表的な液体金属と用途
液体金属 | 融点(°C) | 用途 |
---|---|---|
水銀(Hg) | -39 | 昔の温度計、スイッチ、蛍光灯(現在は使用制限) |
ガリウム(Ga) | 30 | 半導体冷却、柔軟エレクトロニクス |
インジウム(In) | 156 | 電子材料、液体合金 |
鉛-ビスマス(Pb-Bi)合金 | 125〜200 | 原子炉冷却材 |
ナトリウム(Na) | 98 | 高速増殖炉の冷却材 |
リチウム(Li) | 180 | 核融合炉のブランケット、バッテリー |
鉛-リチウム(Pb-Li)合金 | 235 | 核融合炉の燃料増殖材 |
核融合における液体金属の役割
1. ブランケットの材料としての利用
- 鉛-リチウム(Pb-Li)合金は、中性子を吸収しながら三重水素(³H)を生成する機能を持つ。
- 熱伝導性が高いため、発電のための熱回収が容易。
- 発電効率・燃料増殖・放射線耐久性の向上が可能
2. 冷却材としての利用
- ナトリウム(Na)や鉛-ビスマス(Pb-Bi)が使用され、高速中性子炉や核融合炉の冷却に使われる。
- 高温でも蒸発しにくく、炉の冷却効率を向上させる。
3. プラズマの制御
- 液体リチウム(Li)は、プラズマの不純物を除去し、安定性を向上させる効果がある。
- 壁材として使用することで、炉の寿命を延ばせる。

液体金属は、常温または比較的低い温度で液体状態になる金属や高温で液体のまま利用する金属のことで、冷却材・燃料増殖材・プラズマ制御材として、次世代の原子力・核融合技術に欠かせない素材です。
なぜ、熱伝導率が高く、放射線耐性も向上するのか
液体金属は、熱を効率よく伝え、中性子による損傷を低減する特性を持ちます。その理由を詳しく解説します。
① 熱伝導性が高い理由
液体金属は、固体材料に比べて電子の移動が活発で、熱を効率よく運ぶため、熱伝導率が非常に高いです。
1. 自由電子による熱輸送
- 金属の熱伝導は、主に**自由電子(電導電子)**によって行われる。
- 液体金属は、固体金属と同様に自由電子が多く存在するため、熱がすばやく伝わる。
- 例えば、鉛-リチウム(Pb-Li)合金の熱伝導率は、セラミックスや固体金属よりも高い。
2. 流動性による熱輸送
- 液体金属は流体なので、対流によって熱を移動できる。
- 固体ブランケットでは熱は材料を通してのみ伝わるが、液体金属なら循環して熱を効率的に運べる。
→ このため、冷却効率が向上し、発電のための熱回収がしやすくなる。
② 放射線耐性が高い理由
核融合炉では、高速中性子(14 MeV)の影響で材料が劣化する。しかし、液体金属ブランケットは以下の理由で放射線耐性が高い。
1. 中性子のダメージを「流動性」で回避
- 固体材料は中性子を受けると「損傷」「膨張」「ひび割れ」が発生し、寿命が短くなる。
- 液体金属は流体なので、中性子によるダメージを受けても構造が変化しない。
- 損傷部分の液体を循環・交換できるため、自己修復的な特性を持つ。
2. 中性子の減速効果
- 液体金属(特にPb-Li合金)は、中性子を減速させる能力が高い。
- 減速した中性子は、炉の構造材へのダメージを低減し、材料の寿命を延ばす。
3. 核種変換による燃料生成
- リチウム(Li)は、中性子を吸収して三重水素(³H)を生成するため、中性子を有効活用できる。
- 単なる遮蔽材ではなく、燃料増殖機能を持つ点がメリット。

自由電子が多く、熱伝導率が高い+対流で熱を輸送できるため、熱伝導性が高い、流動性があるため、中性子損傷を受けにくい+中性子を減速し、炉の材料を保護できるため、放射線耐性が高くなります。
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