この記事で分かること
- インジウム林基板とは:光通信や高速通信に特化した化合物半導体材料です。電気を光に変換する効率が高く、高速動作と省電力に優れるため、生成AIを支えるデータセンターや6G、自動運転用センサーの基幹部品として不可欠な存在です。
- なぜ光との相性が良いのか:電子のエネルギーを熱ではなくダイレクトに「光」へ変換できるため、発光・受光効率が極めて優秀です。また、光ファイバー通信に最適な波長の光を扱える物理的特性を備えており、高速・大容量伝送に不可欠な材料となっています。
- なぜ生産増強を行うのか:生成AIの普及でデータセンターの通信量が爆増し、高速・省電力な光通信へのシフトが急務となってためです。JX金属は、この成長市場で不可欠なInP基板の供給責任を果たし、次世代の収益の柱とするべく、巨額投資による3倍増産に踏み切りました。
JX金属、インジウムリン基板生産増強
JX金属は、生成AIの普及に伴うデータセンター向け光通信需要の爆発的な増加を受け、インジウムリン(InP)基板の生産能力を2030年までに2025年比で約3倍に引き上げるという野心的な計画を発表しました。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00773601
この背景には、従来の「電気信号」による通信から、消費電力を抑えつつ高速・大容量伝送が可能な「光通信」へのシフト(光電融合技術など)があります。
インジウムリン基板とは何か
インジウムリン(InP)基板は、光を扱うのが得意な、次世代基板材料です。一般的な半導体(シリコン/Si)が「電気信号の処理」に長けているのに対し、インジウムリンは「電気を光に変える、あるいは光を電気に変える」性能が極めて高いのが特徴です。
なぜ重要なのか
- 光との相性が抜群(発光・受光効率)光ファイバー通信で最も効率よく信号が伝わる「近赤外線」の波長を出すことができます。インターネットの裏側(データセンターなど)を支えるレーザー光源には欠かせない材料です。
- 電子の動きが速い(高速動作)シリコンに比べて電子が移動するスピードが非常に速いため、5Gの先にある「6G」のような超高周波の通信デバイスに適しています。
- 熱に強く、省電力高出力でも安定して動作するため、データセンターの膨大な消費電力を抑える切り札(光電融合技術)として期待されています。
インジウムリン基板の構造と製造
インジウム(In)とリン(P)を組み合わせて作られる「化合物半導体」の一種です。
- インゴット: 高温で結晶を成長させ、円柱状の塊を作ります。
- ウェーハ(基板): インゴットを薄くスライスし、鏡面のように磨き上げたものが「基板」です。この上に複雑な回路を書き込んでチップにします。
課題:なぜもっと普及しないのか
非常に優秀な材料ですが、「製造が難しく、価格が高い」という弱点があります。
シリコン基板が直径300mm(12インチ)といった巨大なサイズを安価に作れるのに対し、インジウムリンはまだ100mm(4インチ)や150mm(6インチ)が主流で、壊れやすいため高度な技術が必要です。
JX金属が生産能力を3倍にするというニュースは、この「高価で希少な基板を安定して大量供給する体制を整え、世界シェアを獲りにいく」という動きを示しています。

インジウムリン(InP)基板とは、光通信や高速通信に特化した化合物半導体材料です。電気を光に変換する効率が高く、高速動作と省電力に優れるため、生成AIを支えるデータセンターや6G、自動運転用センサーの基幹部品として不可欠な存在です。
なぜ光との相性が良いのか
インジウムリン(InP)が光と相性が良い最大の理由は、「直接遷移型(ちょくせつせんいがた)」という性質を持っているからです。
1. エネルギーを無駄なく「光」に変えられる
半導体の中で電子がエネルギーを放出する際、シリコン(Si)などはその多くが「熱」に変わってしまいます。一方、インジウムリンはエネルギーをダイレクトに「光(光子)」として放出できる構造をしています。
- シリコン: 電気信号の処理は得意だが、光るのは苦手(間接遷移型)。
- インジウムリン: 効率よく発光・受光ができる(直接遷移型)。
2. 「近赤外線」との親和性
光ファイバー通信では、信号が最も減衰しにくい(遠くまで届きやすい)波長が決まっています。インジウムリンは、その光通信に最適な波長(1.3μm〜1.55μm帯)の光をピンポイントで扱えるエネルギーギャップ(バンドギャップ)を持っています。
「光りやすい体質」であり、かつ「光通信のルールに最適な色の光」を扱えるため、データセンターやインターネットの基幹部分で、電気を光に変換するレーザー光源として独壇場の強さを誇っているのです。

インジウムリンは「直接遷移型」という性質を持ち、電子のエネルギーを熱ではなくダイレクトに「光」へ変換できるため、発光・受光効率が極めて優秀です。また、光ファイバー通信に最適な波長の光を扱える物理的特性を備えており、高速・大容量伝送に不可欠な材料となっています。
なぜ電子の動きが速いのか
インジウムリン(InP)の電子の動きが速い理由は、主に「有効質量(ゆうこうしつりょう)」が小さいという物理的特性にあります。
1. 電子の「有効質量」が軽い
半導体の中を移動する電子は、周囲の原子から力を受けるため、真空中に比べて動きにくくなります。この動きにくさを重さに例えたものを「有効質量」と呼びます。
インジウムリンはこの値がシリコンよりも大幅に小さいため、同じ電圧をかけても、電子が「身軽」に、かつ「高速」に加速されます。
2. 高い「電子移動度」と「飽和速度」
- 電子移動度: 電子の加速しやすさのこと。InPはシリコンの数倍速く動き出します。
- 飽和速度: 強い電圧をかけた際の最高速度のこと。InPは限界速度も高いため、超高周波(テラヘルツ帯など)でも信号が遅れずに追従できます。
この「速さ」があるからこそ、次世代通信の6Gや超高速演算への採用が期待されています。

電子の「有効質量」がシリコンより圧倒的に小さく、結晶内を「身軽」に移動できるためです。少ない電圧で素早く加速し、最高速度も速いため、6G通信のような超高周波帯でも遅延なく信号を処理できる強みがあります。
どのような用途があるのか
インジウムリン(InP)基板は、主に「光」と「超高速通信」に関わる領域で、替えのきかない重要な役割を果たしています。
1. 光通信・データセンター(最主力用途)
生成AIの普及により、現在最も需要が急増している分野です。
- 光トランシーバー: 電気信号を光に変換して、情報を送受信する装置の心臓部(レーザー光源や受光素子)に使われます。
- 光電融合: シリコンチップの上にインジウムリンのレーザーを載せ、チップ間を「光」でつなぐ次世代技術の鍵となります。
2. 次世代無線通信(5G / 6G)
シリコンよりも高い周波数を扱える特性が活かされています。
- 超高速トランジスタ: 通信基地局やスマホの内部で、数千億回(GHz帯)以上の高速スイッチングを行う素子に使われます。
- 6G通信: 未来の通信規格「6G」で使われるテラヘルツ帯の電波を処理するために、欠かせない材料とされています。
3. 高性能センサー・計測
目に見えない光(赤外線)を扱うのが得意なため、特殊なセンサーにも使われます。
- LiDAR(ライダー): 自動運転車の「目」として、赤外線レーザーで周囲の距離を測るセンサー。
- 顔認証(Face IDなど): スマートフォンの近接センサーや、目の安全(Eye-safe)を考慮した波長の光源。
- 分光分析: 水分量やガスの成分を測定する、産業用・医療用の精密センサー。

主用途は光通信で、AIデータセンターの高速通信を支える光源に不可欠です。また、電子移動の速さを活かした6G通信デバイスや、自動運転用のLiDAR(距離センサー)、スマホの顔認証用光源など、多岐にわたります。
なぜ生産増強するのか
X金属がインジウムリン(InP)基板の生産能力を2030年までに3倍へ引き上げる最大の理由は、「生成AIの爆発的普及によるデータセンター市場の激変」に応えるためです。
1. 生成AIによるデータ通信量の急増
生成AIの学習や推論には膨大なデータ処理が必要で、世界中で「ハイパースケールデータセンター」の建設が加速しています。
データセンター内を流れる膨大な情報を処理するため、従来の電気配線から、より高速な光通信(光トランシーバー)への置き換えが猛烈な勢いで進んでおり、その心臓部であるInP基板の需要が供給を上回る勢いで伸びています。
2. 「消費電力」問題の解決(光電融合)
膨大なデータを電気で処理し続けると、電力消費と発熱が限界に達します。そこで、チップの間近まで光を引き込む「光電融合」技術が次世代の切り札とされています。この技術に不可欠なレーザー光源として、InP基板は唯一無二の存在です。
3. 次世代収益の「柱」にする戦略
JX金属は、世界シェア6割を誇る「スパッタリングターゲット」に続く第2、第3の収益の柱として、化合物半導体(InP)を位置づけています。
- 市場の寡占状態: 世界でも数社しか作れない高付加価値製品であるため、先行投資で圧倒的なシェアと供給責任を確保する狙いがあります。
- 大型化への対応: 6インチなどの大型ウェーハの量産体制を整え、顧客ニーズを先取りしようとしています。

生成AIの普及でデータセンターの通信量が爆増し、高速・省電力な光通信へのシフトが急務となっているからです。JX金属は、この成長市場で不可欠なInP基板の供給責任を果たし、次世代の収益の柱とするべく、巨額投資による3倍増産に踏み切りました。

コメント