この記事で分かること
- 宇宙産業向けのめっき:CFRP素材への電磁波シールドめっきや衛星光学機器向けに反射率ゼロの黒色クロムめっきも提供しています。
- CFRPのめっき方法:まず電気を通さない樹脂表面を物理的・化学的に処理し、導電性のある炭素繊維を露出させます。次に、無電解めっきで金属の薄膜を形成し、その導電性を利用して電気めっきで厚みや機能性(電磁波シールド、耐摩耗性など)を持たせます。
- 電磁波シールドに使われるめっきの金属:主に導電性の高い銅と、耐食性・耐久性を高めるニッケルのめっきが用いられます。特に高周波には銅が優れ、その上にニッケルを施す複合めっきが一般的です。
九州電化の宇宙分野でのめっき技術
株式会社九州電化は、福岡県に本社を置くめっき・表面処理の専門企業で近年、特に宇宙産業への参入に力を入れており、衛星部品へのめっき加工で貢献を目指しています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00753146
特に、軽量化と機能性を両立させるCFRPへのめっき技術や、特殊な光学特性を持つめっき技術は、今後の宇宙開発において重要な役割を果たす可能性があります。
どのようなめっきを開発しているのか
九州電化は、長年のめっき技術のノウハウに加え、先端技術イノベーションセンターでの研究開発を通じて、多岐にわたる独自のめっき技術を開発しています。特に、宇宙産業参画に向けて注力している技術は以下の通りです。
CFRP素材への電磁波シールドめっき
- 特徴: 軽量で高強度なCFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、人工衛星部品に多く用いられますが、電気を通さないため電磁波シールド性能の付与が課題でした。九州電化は、CFRPの母材樹脂の種類(熱硬化性・熱可塑性)や成形方法(圧延、切削、熱処理、3Dプリンタ等)を選ばずに、あらゆるCFRPに高い密着性を持つ金属めっきを施す技術を開発しています。
- 目的: 宇宙空間での電磁波ノイズからの保護、熱伝導率の向上(熱拡散による燃焼抑制効果)、耐候性・耐摩耗性の向上などを目指しています。JAXAとの連携や複数社からの試作依頼があり、衛星部品への適用が期待されています。
- 背景: 九州電化は過去に、世界初の液化水素運搬船に搭載される高機能樹脂(GFRP)へのめっきを手掛けた実績があり、そのノウハウをCFRPめっきに応用しています。
反射率ゼロの黒色クロムめっき
- 特徴: 光学機器などで乱反射や不要な光の入射を防ぐために、「反射率ゼロ」の表面処理が求められます。九州電化が自社開発した黒色クロムめっきは、この反射率ゼロを達成しており、すでに電子部品の検査装置などへの採用実績があります。
- 目的: 衛星に搭載される高精度な光学センサーやカメラなどの部品において、不要な光の干渉を防ぎ、性能を最大限に引き出すことを目的としています。
重粒子線がん治療装置への厚付け銅めっき
- 特徴: 直接宇宙部品というわけではありませんが、極めて高い技術力が求められる事例として、重粒子線がん治療装置内の加速器内面に、数百μmの厚さで均一な銅めっきを施す技術を開発し、国内の複数の治療施設で採用されています。
- 意義: 400kWの高周波電力に耐えうる導電性と均一な膜厚を実現するこの技術は、高精度なめっき加工能力と品質管理能力の高さを示すものであり、宇宙関連部品のような厳しい要求を満たす上での重要な基盤となっています。
次世代半導体へのめっき開発
- 2024年2月には、三次元半導体研究センター(福岡/糸島)にR&Dセンターを開設し、次世代半導体へのめっき開発にも着手しています。これもまた、高度な電子機器が不可欠な宇宙分野への応用につながる可能性があります。
これらの他にも、九州電化は以下のような幅広いめっき技術と開発実績を持っています。
- 大型製品へのめっき: 重さ1t、長さ2mを超える大型医療機器や、重さ1.5t、長さ6mまでの建築材料、半導体装置部品などへの亜鉛めっき、銅めっき、金めっき。
- 装飾めっき: 豪華客船や豪華列車(「ななつ星in九州」など)の内装品への金めっきや真鍮めっき、銅めっき。
- 環境対応型めっき: 3価ユニクロ、3価クロメートなどの環境負荷の低いめっきにも対応しています。
- 微細な金属・セラミクス複合素材への特殊めっき
九州電化は、これらの多様なめっき技術と、最新の分析装置を備えた「先端技術イノベーションセンター」での研究開発体制を強みとして、今後も新たな分野への貢献を目指しています。

九州電化は、宇宙産業参画に向け、CFRP素材への電磁波シールドめっき技術を開発。軽量化と機能性を両立させ、JAXAとの連携も進んでいます。また、衛星光学機器向けに反射率ゼロの黒色クロムめっきも提供しています。
炭素繊維強化プラスチックとは何か
炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)とは、その名の通り、炭素繊維(Carbon Fiber)でプラスチック(樹脂)を強化した複合材料のことです。
強くて軽い「炭素繊維」を、加工しやすい「プラスチック」の中に組み込むことで、それぞれの良い特性を活かし、単独の材料では得られない優れた特性を持つ材料を作り出しています。
CFRPの主な特徴
CFRPの最大の特徴は、その「軽さ」と「強さ」です。
- 軽量性: 鉄と比較すると約1/5、アルミニウムと比較しても約2/3という非常に軽い比重を持ちます。これにより、製品全体の軽量化に大きく貢献します。
- 高強度・高剛性: 同じ重量の金属材料と比較しても、非常に高い強度(引っ張り強度で鉄の約10倍以上)と剛性(変形しにくさ)を持っています。
- 高い寸法安定性: 熱膨張係数が非常に低いため、温度変化による膨張や収縮がほとんどありません。精密な部品や、温度変化の激しい環境で使用される部品に適しています。
- 優れた疲労特性: 繰り返し応力(曲げたり伸ばしたり)に対する疲労強度が金属よりも優れています。
- 耐食性・耐薬品性: 金属のように錆びることがなく、酸やアルカリなどの化学薬品にも強い特性を持ちます。
- 導電性: 炭素繊維は電気を通すため、導電性を持たせることが可能です。電磁波シールドなどにも利用されます。
- X線透過性: X線をよく透過するため、医療機器などにも利用されます。
CFRPの構成要素
- 炭素繊維(Carbon Fiber): CFRPの骨格となる強化材です。非常に細く、軽くて強い特性を持ちます。原料によってPAN系(ポリアクリロニトリル系)とピッチ系に分けられます。
- マトリックス樹脂(プラスチック): 炭素繊維を固定し、力を伝達する役割を果たす材料です。主に熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂など)が使われますが、近年は熱可塑性樹脂(PA、PPS、PEEKなど)を用いたCFRPも注目されています。
CFRPの用途
その優れた特性から、CFRPは多岐にわたる分野で利用されています。
- 航空宇宙分野: 航空機の主翼、胴体、尾翼などの構造部材、人工衛星部品(軽量化、高強度、寸法安定性、電磁波シールド性)
- 自動車産業: 車体、フレーム、プロペラシャフトなどの軽量化部品(燃費向上、環境負荷低減)
- スポーツ用品: ゴルフクラブのシャフト、釣り竿、テニスラケット、自転車、ヘルメットなど
- 一般産業: ロボットアーム、産業機械部品、風力発電のブレードなど
- 医療機器: X線撮影台、カセッテ、義足、外科装具など
- 土木・建築: 橋梁や建物の補強材
- その他: ノートPCの筐体、ドローン、家電製品など
CFRPは、従来の金属材料では実現できなかった高性能や軽量化を可能にする「夢の素材」として、今後も様々な分野での応用が期待されています。

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽くて非常に強い炭素繊維をプラスチックで固めた複合材料です。鉄の約1/5の軽さで高強度・高剛性を持ち、航空機、自動車、スポーツ用品、人工衛星など、軽量化と高性能が求められる分野で幅広く活用されています。
炭素繊維強化プラスチックにどのようにめっきをするのか
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)へのめっきは、通常の金属やプラスチックへのめっきとは異なる、いくつかの特別な技術や前処理が必要です。これは、CFRPが「炭素繊維」とそれを固めている「樹脂(プラスチック)」という異なる材料で構成されているためです。
CFRPめっきの主な課題
- 密着性の確保:
- CFRPの表面はほとんどが電気を通さない樹脂で覆われており、めっき金属が直接密着しにくい。
- 樹脂とめっき金属の間で熱膨張率が大きく異なるため、温度変化による剥がれが発生しやすい。
- 導電性の付与:
- めっきの主要な手法である電気めっきは、対象物が導電性を持つ必要があります。樹脂部分は電気を通さないため、導電性を付与する前処理が必須です。
- めっき液の汚染:
- 通常のプラスチックめっきに使われる強酸性の前処理液は、CFRPの樹脂を侵食し、めっき液を汚染する可能性があります。
CFRPめっきの基本的な方法(九州電化などのアプローチを含む)
これらの課題を克服するため、主に以下のステップと技術が用いられます。
1. 前処理:表面の改質と導電性の付与が重要
CFRPめっきにおいて最も重要なのが前処理です。様々な方法が研究・開発されています。
- 樹脂の除去・炭素繊維の露出:
- ショットブラスト: 銅粉末や樹脂粒子などの柔らかい投射材をCFRP表面に吹き付け、樹脂層を物理的に削り取ることで、内部の導電性を持つ炭素繊維を露出させます。これにより、電気めっきが可能になります。
- 化学エッチング: 特定の化学薬品を用いて樹脂表面をわずかに溶解・粗化させ、炭素繊維の露出を促したり、めっきのアンカー効果(表面の凹凸にめっきが食い込む)を高めたりします。
- オゾン処理: オゾンガスに暴露することで、樹脂表面の改質(親水化など)を行い、めっきの密着性を向上させる手法も研究されています。
- 電解エッチング: 炭素繊維とCFRP表面の間に微細なクラックを形成し、導電材(ニッケルなど)で埋め戻すことで、導電性を付与する方法も検討されています。
- 導電性付与(無電解めっきの下地):
- 触媒付与: 露出させた炭素繊維や樹脂表面に、パラジウムなどの触媒を付与します。これにより、次の無電解めっきの反応が促進されます。
- 無電解めっき: 触媒が付与された表面に、化学反応によって金属(主に銅やニッケル)の薄い膜を析出させます。この膜は電気を通すため、その後の電気めっきの下地となります。
2. めっき工程
前処理で導電性が確保されたCFRPには、目的に応じて様々なめっきが施されます。
- 電気めっき:
- ニッケルめっき: 一般的に密着性や耐食性、導電性を高めるために下地として用いられます。
- 銅めっき: 高い導電性が要求される場合や、その後のめっき層の平滑性を出すために用いられます。電磁波シールドの主要なめっきとして利用されます。
- 金めっき、銀めっき、錫めっき: 高い導電性、耐食性、はんだ付け性などが求められる場合に、仕上げめっきとして用いられます。
- クロムめっき: 耐摩耗性や硬度、反射率調整(黒色クロムめっきなど)が必要な場合に用いられます。
- 複合めっき: めっき皮膜中に微粒子(セラミックスなど)を分散させることで、摺動性や耐摩耗性、離形性などの特殊な機能を持たせる技術です。
九州電化のアプローチ
九州電化は、CFRPの母材樹脂の種類や成形方法(圧延、切削、熱処理、3Dプリンタ等)を選ばずに、あらゆるCFRPに高い密着性を持つめっきを施すオリジナルの表面処理技術を開発しています。
特に、CFRPへの電磁波シールドめっきに注力しており、銅やクロムなどの金属めっきを施すことで、電磁波シールド、熱伝導率向上、難燃化といった機能付与を目指しています。彼らは長年のめっきノウハウと先端設備を駆使し、独自のプロセス開発を進めているとされています。
このように、CFRPへのめっきは高度な技術を要しますが、これによりCFRPの軽量性・高強度という特性に加えて、導電性、電磁波シールド性、熱拡散性、耐摩耗性、光学特性などの新たな機能が付与され、航空宇宙、自動車、電子機器など、より幅広い分野での活用が期待されています。

CFRPへのめっきは、まず電気を通さない樹脂表面を物理的・化学的に処理し、導電性のある炭素繊維を露出させます。次に、無電解めっきで金属の薄膜を形成し、その導電性を利用して電気めっきで厚みや機能性(電磁波シールド、耐摩耗性など)を持たせます。密着性確保が最重要課題です。
電磁波シールドにはどんな金属のめっきが用いられるのか
電磁波シールドには、主に導電性が高く、かつシールドしたい電磁波の周波数帯域に適した金属のめっきが用いられます。代表的な金属は以下の通りです。
- 銅 (Cu):
- 特徴: 非常に高い導電率を持つため、高周波帯域の電磁波シールドに優れています。コストも比較的安価です。
- 用途: 電子機器の筐体、FPC(フレキシブルプリント基板)の端子、基板上のシールドケース、通信機器などで広く用いられます。
- 課題: 酸化しやすい性質があるため、単独で使用すると時間経過とともに導電性が低下し、シールド効果が落ちる可能性があります。このため、通常は後述のニッケルめっきと組み合わせて使用されます。
- ニッケル (Ni):
- 特徴: 導電性に加えて、耐食性、耐摩耗性、硬度が高いという優れた特性を持ちます。磁性を持つため、低周波の磁界シールドにも一定の効果を発揮します。
- 用途: 銅めっきの上に施すことで、銅の酸化を防ぎ、長期的なシールド効果と耐久性を確保する目的で広く用いられます。単体でも電磁波シールドめっきとして使用されることがあります。
- 一般的な組み合わせ: 多くの電磁波シールドめっきでは、「無電解銅めっき」の後に「無電解ニッケルめっき」を施す二層構造が一般的です。これにより、銅の優れたシールド性能とニッケルの保護性能を両立させます。
- 銀 (Ag):
- 特徴: 全ての金属の中で最も高い導電率を持つため、非常に高いシールド効果が期待できます。
- 用途: 特に高いシールド性能が要求される精密機器や、一部の特殊な用途で検討されます。
- 課題: 高価であり、硫化によって変色しやすい(硫化銀の形成)という欠点があります。
- 鉄ニッケル合金 (Fe-Ni合金):
- 特徴: ニッケルと同様に磁性を持つため、特に低周波帯域の磁界シールドに優れています。
- 用途: 低周波の電磁波対策が必要な場合に選択肢となります。
電磁波シールドめっきのメカニズム
金属めっきによる電磁波シールドは、主に以下の2つのメカニズムによります。
- 反射: 導電性の高い金属表面で電磁波が反射され、内部への侵入や外部への漏洩が防がれます。
- 吸収: 金属内部で電磁波のエネルギーが熱に変換され、吸収されます。
めっきの選択は、シールドしたい電磁波の周波数帯域、要求されるシールド性能、耐久性、コスト、そして下地となる材料(樹脂やCFRPなど)との相性によって決定されます。特に樹脂製品への電磁波シールドめっきでは、軽量化と複雑な形状への対応が可能になるという大きなメリットがあります。

電磁波シールドには、主に導電性の高い銅と、耐食性・耐久性を高めるニッケルのめっきが用いられます。特に高周波には銅が優れ、その上にニッケルを施す複合めっきが一般的です。最も高導電性の銀も一部で使われますが高価です。
オゾンでの処理でなぜ表面改質ができるのか
オゾン(O3)による表面改質は、以下のようにその強力な酸化力と、多くの場合紫外線(UV)との組み合わせによって引き起こされます。特にプラスチックなどの有機物表面の改質に効果的です。
- 活性酸素種の生成:
- オゾンは不安定な分子であり、特に紫外線(UV)が照射されると、分解されて非常に反応性の高い活性酸素(原子状酸素 O)を生成します。
- 空気中の酸素分子も、185nmのような短波長の紫外線によって分解され、原子状酸素を生成し、これが他の酸素分子と結合してオゾンを生成することもあります。
- これらの活性酸素種は、通常の酸素分子よりもはるかに強い酸化力を持っています。
- 有機物の分解・除去(洗浄効果):
- 処理対象物の表面に付着している油分や有機汚染物質(カーボンや炭化水素など)は、活性酸素によって強力に酸化分解されます。
- 分解された有機物は、二酸化炭素や水などの揮発性物質となって表面から除去されます。これは洗浄効果と呼ばれます。
- 表面の酸化と親水性官能基の導入(改質効果):
- 活性酸素種は、対象物表面の高分子鎖(プラスチックの骨格)の結合を攻撃し、切断します。
- この切断によって不安定になった表面は、周囲の活性酸素と結合します。その結果、水酸基(-OH)、カルボニル基(-CHO)、カルボキシル基(-COOH)などの親水性官能基が表面に導入されます。
- これらの官能基は、水と水素結合を形成しやすいため、表面の親水性(水とのなじみやすさ)を大幅に向上させます。
- 表面エネルギーの向上:
- 親水性官能基が導入されることで、表面の表面自由エネルギー(表面張力)が向上します。
- 表面自由エネルギーが高いと、塗料、接着剤、めっき液などが表面に濡れやすくなり(濡れ性の改善)、密着性が飛躍的に向上します。これは、液体が固体表面に広がりやすくなる現象です。
オゾン(多くの場合UVとの併用)は、強力な活性酸素種を生成し、これにより表面の有機汚染物を除去(洗浄)するとともに、プラスチックなどの高分子表面に水酸基などの親水性官能基を導入(改質)します。
この官能基導入により、表面の濡れ性や表面エネルギーが向上し、結果としてめっきや接着剤の密着性が大幅に改善されるのです。

オゾン処理(多くはUVと併用)は、強力な酸化力を持つ活性酸素を生成し、表面の有機汚染物を除去します。さらに、高分子表面に水酸基などの親水性官能基を導入することで、表面の濡れ性や表面エネルギーを向上させ、めっきや接着剤の密着性を高めるのです。
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