中国の半導体製造装置国産化

この記事で分かること

中国の半導体製造装置国産化の状況

NAURAやAMECなど地場メーカーが年40%超の成長を続け、装置国産化率は成熟プロセスで2〜3割に到達。ただし政府主導の「50%ルール」導入など強制的な後押しがなければ、外資メーカーのシェアは守られていた側面もあります。


EUV露光装置の国産化が難しい理由

10万点超の部品と5,000社のサプライヤーが必要な超精密システムで、EUV光源・反射ミラー・真空技術など複数の最先端技術を同時に高精度で統合しなければならず、ASMLの特許網と輸出規制も重なり、「試作」と「量産」の間には数十年単位の技術蓄積が必要です。


EUV以外の露光装置の国産化状況

i線・KrF(90〜110nm)はSMEEが量産段階に到達済み。一方、先端ロジックに不可欠なArF液浸(28nm対応)はSMICでの試験評価中にとどまり量産は未達で、マルチパターニングによる迂回も7nm以下では歩留まり面の限界があります。

中国の半導体製造装置国産化

 東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREENホールディングス、ディスコ、KOKUSAI ELECTRICの日系5社の2026年3月期における中国向け売上高の合計は、初めて前年度比マイナスとなり、約1割の減少となりました。

 これは中国市場に依存してきた日本の半導体装置メーカーにとって、構造的な転換点を示すものです。

 NAURAやAMECといった中国の装置企業は、政府の国産化政策と「大基金」と呼ばれる国家ファンドの後押しを受けて急拡大しています。

 さらに、2026年時点で、中国の新設ファブに対して国産装置の採用比率を50%以上とする「国産装置50%ルール」が確認されており、これは米中半導体戦争が「封じ込め対迂回」の段階から、中国による完全なデカップリングへの能動的な移行段階へとシフトしたことを象徴するものです。

中国の半導体装置国産化はどれくらい進んでいるのか

国産化率の現状

 2025年には世界の半導体製造装置メーカー上位20社に中国企業が3社入り、2022年の3倍に増えました。中国は弱みだった装置の国産化率を2〜3割に伸ばしたとの見方もあります。 

 ただし、全体の自給率は30〜40%程度と推計されているものの、これは外資系の中国現地法人を含む数字であり、地場企業のみに絞ると依然として15〜20%程度とされています。

成熟プロセスでは着実に前進

 国産化が大きく進んでいるのは、主に28nm以上の「成熟プロセス(レガシー半導体)」の分野です。

 自動車・家電・産業機器などに使われる28nm以上の半導体製造では中国製装置の導入が進んでおり、この分野での製造能力は今後数年で世界トップクラスに達する可能性が指摘されています。

 半導体メモリ大手の長江存儲科技(YMTC)が2024年に導入した装置の6割強を中国製が占めたとの分析もあります。

主要プレーヤーの急成長

 中国の装置産業をけん引するのは有力6社です。NAURA(北方華創科技)、AMEC(中微半導体設備)、ACMリサーチ、パイオテック、HHQK、キングセミの6社の2024年売上高合計は477億元(約9,826億円)に達し、成長率は44%を記録しました。

 特に最大手のNAURAは他社を圧倒しており、2024年の売上高は日本円で約6,000億円規模に達したとみられます。

 さらに注目を集めているのが新興メーカーのSiCarrierです。2021年創業のSiCarrierは、CVD・ALD等の成膜装置、エッチング装置、検査装置など前工程の幅広い装置群を手がけており、2025年3月のセミコン・チャイナで初めて公に姿を現し、高い注目を集めました。

 中国通信機器大手のファーウェイとも協力関係にあるとされています。

国産化を後押しする「50%ルール」

 政策面でも圧力が高まっています。2026年時点で確認された「新設ファブへの国産装置50%義務化」のルールは、米中の半導体戦争が「封じ込め対迂回」の段階から、中国による完全なデカップリングへの能動的な移行段階へとシフトしたことを象徴するものです。

 また、NAURAはLam Research等の米国製装置の交換部品を独自開発し、規制によってサービスが受けられなくなった既存の外国製装置を延命させるエコシステムも着実に構築しています。

露光装置という「高い壁」

 一方で、最先端分野には依然として大きな壁が残っています。特に最先端プロセス(3〜5nm)では、オランダASMLのEUV露光装置の輸出規制を受けて量産技術の習得が困難な状況が続いています。 

 SiCarrierは28nmプロセスに対応した露光装置も開発したと報じられていますが、セミコン・チャイナではその実物展示は行われませんでした。露光装置の国産化は、中国が越えられていない最大の技術的ハードルです。


中国の半導体装置国産化は成熟プロセス(28nm以上)では着実に進み、装置国産化率は2〜3割に到達したとの見方もあります。NAURAやAMECが急成長する一方、最先端プロセスに不可欠なEUV露光装置は依然として大きな技術的課題として残っています。

なぜ、EUV露光装置の国産化は難しいのか

 半導体製造において、露光装置(リソグラフィ装置)はウェハー上に回路パターンを焼き付ける中核的な工程を担います。

 EUVは波長わずか13.5ナノメートルの極端紫外線を使い、チップの回路パターンをウェハに投影・転写します。光の波長が短いほど描ける線は細くなるため、先端ノードの製造には不可欠な技術です。

 このEUV露光装置を量産できる企業は、世界でASMLの1社だけです。

① 装置そのものの技術的複雑さ

 ASMLのEUV装置は10万点以上の部品と約5,000社のサプライヤーから構成されており、ASMLはそれ自体が主にシステムインテグレーターとして機能しています。複数の最先端技術が同時に高精度で結集している点が、他社の参入を極めて困難にしています。

 特に高い壁となっているのがEUV光源と精密ミラーです。ASMLのテクニカルマーケティングディレクターによると、高精度な「ミラーレンズ」と、出力25kWの炭酸ガスレーザーを用いた「EUV光源」の実現が、同装置を開発する上で最大の壁であったといいます。

 また、従来の露光技術では光を透過させるマスクを使っていたのに対し、EUV光の吸収を避けるために反射式マスクが必要なこと、フォトレジストにも新たな技術が求められること、さらにEUV光の高エネルギーによりミラーなどに当たると塵が発生しマスクに付着するといった問題など、多岐にわたる課題を一つひとつ解決しながら実用レベルに仕上げる必要がありました。

② 「デモ」と「量産」の間の巨大な壁

 中国の最大手露光装置メーカーSMEEは28nm対応のDUV装置の開発を進めていると報じられていますが、その実態は量産から程遠い水準にとどまっています。

 デモモードで28nmのパターンを解像することと、量産で毎時200枚のウェハーを安定的に処理することは本質的に別物であり、SMEEはこの装置の量産が始まったとは一度も言及していません。

 さらに28nmから16nmや7nmへ進むことは、どの装置メーカーにとっても単純な段階移行ではありません。

 移行に伴って精度とプロセス制御に関する新しい要求が導入され、複雑さとコストが根本的に増します。段階的な技術の積み上げなしに先端ノードへ飛躍することは、どのメーカーにとっても不可能に近い作業です。

③ ASMLの特許網と輸出規制による二重の封鎖

 技術的な困難に加えて、政策的な封鎖も立ちはだかっています。ASMLは露光装置の機構に関する技術に加え、EUV光源のような重要なパーツの特許も保有しており、EUV露光への参入障壁となる強い特許網が構築されています。

 さらに米国とオランダはすでにASMLの中国向けEUV装置の輸出を禁じており、2024年からはより古いDUV液浸装置の輸出許可も段階的に締めてきました。

④ 中国の現在地とリバースエンジニアリングの限界

 中国の技術者らはASML装置のリバースエンジニアリングを進めていると報じられていますが、分解解析中にシステムを損傷しメーカーに技術支援を求めざるを得なかった事例もあり、中国が依然として技術面で大きな壁に直面していることを示しています。

 SMICで試験中の中国製液浸DUV装置が、ASMLの2008年製モデルに酷似していると指摘する報道もあり、最先端に追いつくには相当な時間を要するとみられます。

 中国の半導体業界トップが共同で執筆した論文でも、EUV露光装置に必要な技術の一部でブレークスルーを達成しているとしながらも、これらを統合してシステムとして完成させることが大きな課題であり、2030年までの第15次五カ年計画期間中に解決すべきだとしています。


EUV露光装置は10万点超の部品と5,000社のサプライヤーが必要な超精密システムです。「試作できること」と「量産できること」の間には巨大な技術的断絶があり、ASMLの特許網と輸出規制も重なり、中国の国産化は2030年代も視野に入る長期課題となっています。

ArFなどの露光装置はどうか

 露光装置はEUVだけではありません。光源の波長によって幾つかの世代に分かれており、波長が短いほど微細な回路を描けます。

 おおまかに「i線(365nm)→ KrF(248nm)→ ArFドライ(193nm)→ ArF液浸(193nm、純水を介することで実効的に134nm相当)→ EUV(13.5nm)」という技術階層になっています。

i線・KrF領域はすでに量産レベルに到達

 最も古い世代にあたるi線やKrF領域では、中国の国産化はすでに一定の成果を上げています。SMEEの自社開発「600シリーズ」露光装置は90nmで量産段階に入っており、この水準はパワー半導体やMEMS、LEDなどの製造に実用的に使える範囲です。

 また中国の工業情報化省が2024年に発表した「重大技術装備推進カタログ」には、フッ化クリプトン(KrF、110nm)とフッ化アルゴン(ArF、65nm)の国産DUV露光装置が指定されており、国として実用段階と認定している姿勢がうかがえます。

ArF液浸は「テスト段階」どまり、量産は未達

 問題は、最先端ロジック半導体の製造に不可欠なArF液浸の領域です。中国では新興企業の宇量盛(Yuliangsheng)がこれに挑んでいます。

 中国最大のファウンドリSMICが宇量盛の開発した液浸DUV露光装置をAIチップ製造に試用する目的で評価中と英フィナンシャル・タイムズが2025年9月に報じています。しかし、Tom’s Hardwareは、SMICで試験中の宇量盛の装置がASMLの2008年製モデル(Twinscan NXT:1950i、32nm向け)に酷似していると指摘しています。

 すなわち、現時点での中国の液浸ArF技術は2008年水準に相当するともいえます。

 さらに、デモモードで28nmのパターンを解像することと、量産で毎時200枚のウェハーを安定的に処理することは本質的に別物であり、SMEEはこの装置の量産が始まったとは一度も言及していません。

マルチパターニングという「迂回路」の限界

 EUVなしに先端チップを製造しようとする場合、ArF液浸を使ってパターン形成を何度も繰り返す「マルチパターニング」という手法が採られます。

 SMICが7nmチップの製造に実際に使っている方法です。しかし、ArF液浸+自己整合4重パターニング(SAQP)で5nmを大量生産することは相当難しく、工程が複雑になるため歩留まりを上げることが困難です。

 SMICは今以上にArF液浸を導入できないはずで、7nmのキャパシティはあるところで頭打ちになると見られています。

日本勢の輸出規制も追い打ち

 中国が外国製のArF液浸装置を調達する選択肢も、急速に狭まっています。米国・オランダに続き、日本も先端半導体製造装置とりわけ液浸ArF露光装置の中国への輸出を制限する規制を2023年7月に施行しており、中国の半導体製造企業がハイエンドな露光装置を海外企業から入手することは困難になりつつあります。 

 ニコンはASML製ツールとの互換性を持たせた新型ArF液浸機を2028年頃の市場投入に向けて開発中ですが、これも中国向けに販売できるかは不透明です。


 整理すると、中国の露光装置国産化の到達点は「90nm量産可、28nmはテスト中、7nm以下はEUVなしでは構造的限界」という状況です。

 成熟プロセス向けでは着実に前進していますが、先端チップを量産するためのArF液浸の商用レベルへの到達はまだ見通せておらず、EUVはさらに先の課題として残ったままです。


中国の露光装置国産化は、i線・KrF(90〜110nm)では量産段階に達しているものの、ArF液浸(28nm以下)は試験段階にとどまり量産は未達です。マルチパターニングでの迂回にも限界があり、先端ノードへの道筋は依然として険しい状況です。

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