この記事で分かること
- 減産規模と予定:茨城事業所(鹿島)にて、2026年3月6日から稼働率を下げて運転しています。具体的な数値は非公表ですが、原料ナフサの枯渇による「突発的な全面停止」を避けるための予防的措置であり、日次の在庫状況に合わせて稼働レートを2〜3割抑制する調整が続いています。
- 不足期間の予測:ホルムズ海峡の封鎖という地政学リスクに加え、日本のナフサ輸入の約7割を中東に依存しているため、情勢次第では数ヶ月単位の長期化が懸念されます。4月には定期修理を控える拠点もあり、物流網の回復が遅れれば、国内全体の化学品供給不足が深刻化する恐れがあります。
- 三菱ケミカルグループのナフサ不足への対応:短期的には中東以外からのスポット調達拡大や在庫調整で急場をしのぎます。中長期的には、ナフサに依存しない「バイオ原料への転換」や、今回の危機の前から進めていた「西日本でのエチレン設備集約(水島地区の停止)」など、石化事業の構造改革をさらに加速させる方針です。
三菱ケミカルグループのエチレン減産
三菱ケミカルグループは2026年3月9日、緊迫する中東情勢(ホルムズ海峡の事実上の封鎖等)を受け、茨城事業所(茨城県神栖市)におけるエチレンの減産対応を開始したことを明らかにしました。
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/JRBWU7VFC5LZFKL43WPQSN4TFI-2026-03-09/
今回の措置は、地政学リスクが日本の基礎素材サプライチェーンに直結した形となります。ナフサ価格の高騰や調達不安が長期化すれば、誘導品であるポリエチレンなどのプラスチック原料の価格や供給にも影響が及ぶ可能性があります。
どれくらい減産する予定なのか
三菱ケミカルの茨城事業所(鹿島)におけるエチレン減産規模については、現時点で以下の通り報じられています。
- 現在の稼働状況: 通常のフル稼働状態から、約2割〜3割程度の減産(稼働率70〜80%程度への引き下げ)を軸に調整が始まっています。
- 判断の基準: 中東情勢によるナフサ調達の遅延状況に合わせ、在庫が底をつかないよう日次で稼働レートを細かくコントロールする方針です。
- 期間: 3月一杯は抑制した稼働を継続し、4月以降の定期修理や物流網の回復状況を見て判断するとしています。
同社は「現時点で供給に支障はないが、物流の停滞が長期化すればさらなる絞り込みも排除できない」としており、状況は流動的です。

中東情勢に伴うナフサ調達難を受け、茨城事業所のエチレン稼働率を2〜3割削減し7割程度に抑制。在庫枯渇回避のため日次で生産調整を実施。4月の定修や物流回復を見極めつつ、供給への影響を最小限に留める方針。
減産はどのような製品に影響するのか
三菱ケミカルの茨城事業所(鹿島)で製造されるエチレンは、あらゆるプラスチックや化学製品の「大もと」であるため、影響は多岐にわたります。
1. 直接的な誘導品への影響
エチレンから直接作られる「中間原料」の供給が絞られます。
- ポリエチレン (PE): レジ袋、容器、包装フィルムの原料。
- 酸化エチレン (EO): 洗剤(界面活性剤)や不凍液、ペットボトル(PET樹脂)の中間原料。
- 塩化ビニル樹脂: 配管や建材、電線被覆などの原料。
2. コンビナート全体への連鎖
鹿島臨海工業地帯は「コンビナート」として各社がパイプラインで繋がっているため、三菱ケミカルからの供給減は周辺企業にも波及します。
- 主要顧客への影響: 三菱ケミカルは既に主要取引先(近隣の化学メーカー等)に対して、減産の通知を行っています。
- 副産物の減少: エチレン製造過程で生じるプロピレンなども減るため、自動車部品に使われるポリプロピレン(PP)などの生産にも影響する可能性があります。
3. 社会的・経済的影響
- 価格転嫁: ナフサ価格の高騰と供給不足が重なり、最終製品(プラスチック製品全般)の値上げ圧力に繋がります。
- 物流・納期: 現時点で「供給に支障はない」としていますが、情勢が長期化すれば、梱包材や農業用フィルムなどの納期に影響が出る懸念があります。

減産はプラスチック原料のポリエチレンや洗剤原料の酸化エチレン等に直結します。鹿島コンビナート内の他社へも供給減の影響が波及し、物流停滞が長期化すれば、梱包材や建材等、幅広い最終製品の価格高騰や納期遅延を招いてしまいます。
長期的にナフサ不足は続くとみられるのか
ナフサ不足は、短期的には地政学リスク、長期的には日本の産業構造の変化という2つの側面から、「不安定な状況が継続する」と予測されます。
単なる一時的な品不足ではなく、日本の化学産業が「ナフサ依存からの脱却」を迫られている状況です。
1. 短・中期的な見通し:地政学リスクの常態化
- 中東依存の限界: 日本のナフサ輸入の多くを中東に依存しているため、ホルムズ海峡の封鎖懸念やイラン情勢の緊迫化は、常に調達不安に直結します。
- 「チャイナ・プラスワン」の影響: 中国の石化設備増強により、アジア全体の需給バランスが崩れており、日本のようなコストの高いエチレンセンターは、原料価格の変動に非常に脆弱なまま推移するとみられます。
2. 長期的な見通し:国内供給能力の縮小
- ナフサクラッカーの統廃合: 検索結果にある通り、三菱ケミカル、旭化成、出光興産、ENEOSなどの大手各社は、国内のエチレン装置(ナフサクラッカー)を相次いで停止・集約しています。
- 供給力の低下: 全体として日本のエチレン生産能力は現状の約7割まで減少する見通しです。これは、ナフサを「買う量」自体を減らす戦略ですが、国内で必要な分すら安定確保が難しくなる場面が増えることを示唆しています。
3. 次世代へのシフト(脱ナフサ)
- 原料の多様化: 石油(ナフサ)に代わり、バイオマス原料や廃プラスチックからの再資源化、安価な北米産シェールガス由来のエタンへの切り替えが模索されています。
- グリーンケミカルへの投資: 三菱ケミカルも、ナフサ由来の基礎化学品から、EV電池材料や半導体向け高機能材料など、付加価値の高い領域へ資源をシフトしています。

中東情勢の緊迫化により、中長期的にもナフサ調達の不安定化と価格高騰は続く見通し。国内各社はエチレン装置の統廃合を加速させており、ナフサ依存からバイオマスや再資源化原料への構造転換が不可避となっている。
ナフサ不足へ三菱ケミカルはどう対応するのか
三菱ケミカルグループは、ナフサの調達不安や価格高騰という長期的課題に対し、「供給源の多角化」と「事業構造の抜本的改革」の両面で対応を進めています。
主な対応策は以下の通りです。
- 原料の多様化と転換
- バイオ原料・廃プラ活用: 石油由来のナフサに依存せず、廃プラスチックを油化して原料に戻す「ケミカルリサイクル」や、バイオマス原料への転換を加速させています。
- 輸入先の分散: 中東依存度を下げるため、北米産のエタン由来原料など、調達ルートの多角化によるリスク分散を図っています。
- 国内エチレン設備の統廃合(構造改革)
- 西日本での集約: 2026年1月の合意に基づき、岡山・水島地区のエチレン設備を停止し、三井化学(大阪)へ生産を集約する方針です。過剰な供給能力を削減し、稼働率を維持することで効率化を進めています。
- 高付加価値分野へのシフト
- スペシャリティマテリアルズ: 汎用的な石化製品から、利益率が高くナフサ価格の影響を受けにくい「半導体材料」や「EV電池材料」など、高機能材料分野へ経営資源を集中させています。

中東依存脱却に向け原料のバイオ化や廃プラ再資源化を推進しています。並行して国内エチレン設備を他社と共同で統廃合・集約し、ナフサ価格に左右されにくい半導体やEV電池等の高機能材料分野へ事業構造を抜本的に転換する方針も進めています。

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