この記事で分かること
- 建築用ガラスのコーティングとは:ガラスの表面に特殊な薄い膜を形成する技術です。これにより、断熱・遮熱効果を高めるLow-Eガラスや、紫外線を防ぐガラスなど、ガラスに多様な機能を持たせることができます。
- 金属膜の形成方法:主にスパッタリング法が用いられます。これは真空中で、金属原子をガラス表面に衝突させて薄膜を形成する方法です。
- 新設の理由:欧州での省エネガラス需要の拡大に対応するためです。断熱性の高いLow-Eガラスの生産能力を増強し、高付加価値製品へのシフトを図っています。
日本板硝子のポーランドでの建築用ガラスのコーティング設備を新設
日本板硝子(NSG)は、ポーランドのサンドミエシュにある既存の拠点で、建築用ガラスのコーティング設備を新設することを決定しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0252R0S5A900C2000000/
これは、欧州全域での省エネガラスに対する需要拡大に対応するための投資で、世界的な脱炭素化の流れと、それに伴う高付加価値ガラス市場の需要拡大に応えるものです。
特に、ガラスの表面に特殊な金属膜をコーティングすることで、熱の透過を防ぎ、高い省エネ効果を発揮するLow-Eガラス(低放射ガラス)の生産能力を増強することが目的です。
建築用ガラスのコーティングとは何か
建築用ガラスのコーティングとは、ガラスの表面に薄い膜を形成する技術で、さまざまな機能を持たせることを目的としています。このコーティングによって、ガラス単体では得られない断熱、遮熱、UVカット、防汚、防曇などの高付加価値な性能を付与できます。
コーティングの種類と目的
コーティングにはいくつかの種類があり、それぞれ異なる目的で用いられます。
- Low-E(低放射)コーティング:
- 目的: 主に断熱・遮熱性能を向上させるため。
- 仕組み: ガラス表面に特殊な金属膜(主に銀など)をコーティングすることで、太陽光や室内の熱(赤外線)の反射率を高めます。これにより、冬は室内の熱が外へ逃げるのを防ぎ、夏は屋外からの熱の侵入を抑制します。これは省エネ効果に大きく貢献します。
- UVカットコーティング:
- 目的: 紫外線(UV)の透過を大幅にカットするため。
- 仕組み: 紫外線吸収剤を含んだ特殊な膜をコーティングし、室内への紫外線の侵入をブロックします。これにより、家具や床材の色あせを防ぐ効果があります。
- セルフクリーニングコーティング:
- 目的: 汚れがつきにくく、清掃が簡単になるようにするため。
- 仕組み: 親水性(水になじむ性質)を持つ膜や、光触媒効果を持つ膜をコーティングします。親水性の場合は、雨が降ると水が膜全体に広がり、汚れを洗い流します。光触媒性の場合は、太陽光によって有機汚れを分解し、雨で洗い流す仕組みです。
コーティングのメリットとデメリット
メリット
- 省エネ効果: Low-Eガラスは冷暖房の効率を大幅に向上させ、光熱費の削減につながります。
- 快適性の向上: 断熱・遮熱効果により、室内の温度を一定に保ちやすく、快適な居住空間を維持できます。
- 耐久性の向上: ガラス表面の保護膜が、傷や汚れの付着を防ぎ、メンテナンスの手間を軽減します。
- 多様な機能: 用途に応じて、防犯、結露防止、防音など、さまざまな機能をガラスに付与できます。
デメリット
- コスト: コーティングなしの一般的なガラスに比べ、費用が高くなる傾向があります。
- 再塗装の難しさ: 一部のコーティングは非常に撥水性が高いため、一度コーティングを施すと、次回の再塗装が難しくなることがあります。
- 施工の専門性: 高品質なコーティングには専門的な技術が必要で、施工業者によって仕上がりに差が出る可能性があります。

建築用ガラスのコーティングとは、ガラスの表面に特殊な薄い膜を形成する技術です。これにより、断熱・遮熱効果を高めるLow-Eガラスや、紫外線を防ぐガラスなど、ガラスに多様な機能を持たせることができます。これにより、建物の省エネ化や快適性の向上に貢献します。
金属膜のコーティング方法は
建築用ガラスの金属膜コーティングには、主にスパッタリング法と真空蒸着法が用いられます。これらの技術は、ガラス表面にナノレベルの薄膜を均一に形成するためのものです。
スパッタリング法
これは最も一般的に使用される方法です。真空チャンバー内で、アルゴンなどの不活性ガスをイオン化させ、金属のターゲット(膜材料)に高速で衝突させます。すると、ターゲットの原子や分子が弾き飛ばされ、ガラス表面に付着・堆積して薄膜を形成します。
- 特徴: 密着力が高く、均一な膜を形成でき、高融点の材料もコーティングできます。多層の膜を重ねることで、さまざまな機能を付与するのに適しています。
真空蒸着法
これも真空中で行われる方法です。真空チャンバー内で、コーティングしたい金属を加熱し、蒸発させます。蒸発した金属の分子がガラス表面に付着し、薄膜を形成します。
- 特徴: 比較的シンプルな装置で、短時間で成膜できます。ただし、スパッタリング法に比べて膜の密着力が弱い場合があります。
熱分解化学気相成長法(熱CVD法)
この方法は、ガラスの製造工程中にコーティングを行うインライン法として用いられます。加熱されたガラスの表面に、複数のガスを送り込み、化学反応によって薄膜を形成します。
- 特徴: 比較的に安価で、製造ラインに組み込みやすいため大量生産に適しています。
これらの方法を使い分けることで、Low-Eガラスのような省エネ性能を持つガラスや、特定の光をカットする機能性ガラスなど、様々な付加価値を持たせた建築用ガラスが生産されています。

建築用ガラスの金属膜コーティングには、主にスパッタリング法が用いられます。これは真空中で、金属原子をガラス表面に衝突させて薄膜を形成する方法です。この技術により、高い断熱性能を持つLow-Eガラスなどが生産されます。
設備新設の目的は何か
日本板硝子(NSG)のポーランドにおける設備新設の主な目的は、省エネガラスの生産能力を増強し、欧州での需要拡大に対応することです。
詳細な目的
この投資は、以下の具体的な目的を達成するために行われます。
- 高付加価値製品へのシフト: 欧州では、環境規制の強化や省エネ意識の高まりから、熱効率の高いLow-Eガラス(低放射ガラス)の需要が急増しています。新設備を導入することで、こうした高付加価値な製品の供給体制を強化し、事業の収益性を向上させます。
- 脱炭素化への貢献: Low-Eガラスは、建物の冷暖房効率を大幅に改善するため、エネルギー消費量の削減に直結します。日本板硝子は、この製品供給を増やすことで、欧州の脱炭素社会の実現に貢献することを目指しています。
- 戦略的な拠点強化: ポーランドは地理的に欧州市場の中心に位置しており、新設備を設置することで、効率的な供給ネットワークを構築できます。これは、同社の中期経営計画「2030 Vision: Shift the Phase」における戦略の一環です。

日本板硝子(NSG)のポーランドにおける設備新設の目的は、欧州での省エネガラス需要の拡大に対応するためです。断熱性の高いLow-Eガラスの生産能力を増強し、建物のエネルギー効率向上に貢献することで、脱炭素化の流れに対応するとともに、事業の収益性向上を図ります。
ポーランドが選ばれた理由は何か
日本板硝子(NSG)がポーランドを設備新設の場所に選んだ主な理由は、地理的な優位性と、既に確立された事業基盤があるためです。
地理的な優位性
ポーランドは、ヨーロッパの中央に位置しています。この地理的条件は、ガラス製品をドイツやフランス、イギリスなど、ヨーロッパ全域の主要市場へ効率的に供給する上で非常に有利です。迅速な物流が可能となり、顧客ニーズに素早く対応できます。
既存の事業基盤
NSGグループは、1993年からポーランドで事業を展開しており、特にサンドミエシュには既に既存の製造拠点があります。この長年の経験と既存のインフラを活用することで、新規投資に伴うリスクやコストを抑え、スムーズな設備導入と事業拡大を図ることができます。また、現地の従業員やサプライチェーンとの関係も既に構築されているため、効率的な運営が可能です。
ポーランドはまた、欧州連合(EU)の加盟国であり、EUの統一された市場と規制の恩恵を受けることができます。これにより、輸出入の障壁が低く、事業展開をしやすい環境が整っています。
コメント