この記事で分かること
1. 投資する半導体分野
生成AIやデータセンター向けの先端半導体パッケージ(後工程)分野です。独自の樹脂技術を活かした中間基板や、HBM(高帯域幅メモリ)向けの極薄積層・封止材料など、AI半導体の性能を左右するコア材料の量産・開発を急ぎます。
2. 有機インターポーザーとは
複数のチップやHBMメモリを高密度に繋ぐ樹脂(プラスチック)製の中間基板です。従来のシリコン製より低コストで大型化しやすく、熱による反りや通信ノイズを抑えられるため、次世代パッケージの核として期待されています。
3. 日東電工の強み
HDD基板等で培った微細配線技術と、独自の樹脂・金属複合構造です。大型AI半導体の最大の課題である「熱による反り」を強力に抑制。米IBMとの共同開発体制により、最先端の評価・対応スピードでも優位に立ちます。
日東電工の有機インターポーザーへの投資
日東電工は2028年度を最終年度とする新3カ年中期経営計画を発表しています。
同社がこれまでの主力事業(液晶用偏光板など)に頼る構造から脱却し、「半導体・先端パッケージ材料」を次なる成長の柱へ据えるとしています。
日東電工は前中期経営計画の設備投資額(約2,633億円)からさらに投資をシフトし、新規の半導体関連製品への投資枠を従来の約6倍に急拡大させています。目標として2028年度に営業利益2,200億円(営業利益率20%)、新製品比率30%以上を掲げており、その原動力が先端半導体パッケージ分野です。
これまで同社は、半導体の製造工程(バックグラウンド研削時など)でウエハーを保護する「インダストリアルテープ(ダイシングテープやリプロス等)」で高いシェアを持っていましたが、新中計では材料サプライヤーから「基板・機能性部材そのものの供給プレイヤー」へと踏み込む点が大きな転換期となっています。
どんな半導体製品に投資するのか
新中期経営計画(2026〜2028年度)において、日東電工が投資を集中させるのは、主に「生成AIの普及」や「データセンターの爆発的拡大」を支える最先端の半導体パッケージ(後工程)分野です。
具体的には、単にこれまでのウエハー保護テープを作るだけでなく、パッケージの構造そのものを変えるコア材料や、製造の難所を解決するプロセス材料に巨額の資金を投じます。ターゲットとなる具体的な分野・製品は以下の4つに集約されます。
1. チップレット・3D実装向け「中間基板(有機インターポーザー)」
投資の最大の目玉であり、同社が「材料メーカー」から「デバイス部材メーカー」へと脱皮を図る領域です。
- 狙う市場: 生成AI用GPU(NVIDIAのBlackwell世代やそれ以降)や、次世代のサーバー用CPU。
- 投資内容: 複数のチップを高密度に繋ぐ「有機インターポーザー」の量産ライン立ち上げ。従来のシリコン製やガラス製に比べ、同社の強みである樹脂(高分子)技術を活かし、低コスト・微細配線・大型化対応を実現する新しい材料と基板の製造に投資します。
2. HBM(高帯域幅メモリ)向け「積層・封止材料」
AI半導体の性能を左右する超高速メモリ「HBM(HBM3eや次世代のHBM4など)」の製造プロセスを狙います。
- 狙う市場: DRAMを8層・12層、さらには16層と極薄で垂直に積み上げるHBM製造ライン。
- 投資内容: チップを極限まで薄く削る際のウエハー保護材料や、積み重ねたチップの隙間を埋めて固定する「アンダーフィル(封止材)シート」、熱を効率よく逃がす「高放熱接着シート」の開発・生産能力の増強です。積層数が増えるほど「熱」と「薄化」の制御が難しくなるため、ここのニッチトップを狙います。
3. パッケージ大型化に伴う「反り(Warpage)対策材料」
AI半導体は、多くのチップを1つのパッケージに収めるため、面積が従来の数倍〜十数倍へと大型化しています。ここで世界中のメーカーが頭を抱えているのが、異種材料を組み合わせることで起きる「熱膨張による基板の反り(変形)」です。
- 狙う市場: データセンター向け超大型AIアクセラレータ。
- 投資内容: IBMとの共同開発とも直結する分野です。熱が加わっても歪まない、あるいは周囲の材料の動きを吸収する「高剛性・低熱膨張の機能性樹脂シート」や、大型パッケージを製造ライン内で搬送・固定するための特殊な粘着部材などの開発・供給体制を整備します。
4. 次世代プロセス向け「環境対応型・高精度製造テープ」
同社がもともと世界トップクラスのシェアを持つ「半導体プロセス用テープ(ダイシングテープなど)」も、最先端仕様へアップデートするために投資します。
- 狙う市場: 先端半導体の前工程(回路形成)から後工程(切り出し・実装)へのシームレスな移行。
- 投資内容: 回路が微細化・薄型化するほど、製造途中でウエハーを傷つけずに保持し、必要な時にきれいに剥がせる高度な技術(UV剥離など)が必要になります。さらに、新中計の柱である「脱炭素・ESG」に適合した、リサイクル可能・環境負荷の低い次世代プロセス材料の生産設備へ投資します。
これまでの同社は「ウエハーを処理しやすくするための脇役(消耗品テープ)」に強みがありましたが、今回の巨額投資が向かうのは「AI半導体の性能そのものを決定づける主役(インターポーザーや封止材料)」のポジションです。
後工程のパッケージング技術が進化しなければAI半導体の性能が伸びない(いわゆる「モア・ザン・ムーア」の時代)という確信のもと、このボトルネックゾーンにリソースを集中させています。

日東電工は生成AIやデータセンター向けの先端半導体パッケージ(後工程)分野に投資を集中します。独自の樹脂技術を活かした「有機インターポーザー(中間基板)」や、HBM(高帯域幅メモリ)向けの極薄積層・封止材料、超大型パッケージの反り対策部材など、AI半導体の性能を左右するコア材料の量産化・開発を急ぎます。
有機インターポーザーとは何か
有機インターポーザーとは、最先端のAI半導体(GPUなど)の内部で、複数の半導体チップ(演算器やHBMメモリ)を1つのパッケージに高密度に連結するための「中間基板(橋渡し役)」です。
素材にシリコンやガラスではなく、「有機樹脂(プラスチック系材料)」を使用しているのが最大の特徴です。
なぜ必要なのか?(従来の課題)
現在のAI半導体は、1つの大きなチップを作るのではなく、機能ごとの小さなチップ(チップレット)に分けて並べる方法(2.5D実装)が主流です。
- 従来のシリコン(Si)インターポーザー: 非常に微細な配線ができますが、製造コストが極めて高く、サイズを大きくしにくいという欠点があります。
- 従来のプリント基板: 安価で大きく作れますが、配線が太すぎて、超高速・大容量のデータをやり取りする最先端チップ同士を繋ぐには性能が足りません。
有機インターポーザーの3大メリット
シリコンとプリント基板の「いいとこ取り」を狙ったのが有機インターポーザーです。
- 低コストかつ大型化が可能シリコンよりも材料費や加工費が安いため、AI半導体の大型化(多くのメモリやチップを並べる)に低コストで対応できます。
- 電気特性(通信スピード)が優秀日東電工などが開発する最新の有機材料(低誘電材料)は、電気の信号が通りやすく、ノイズ(クロストーク)を抑えられるため、高速通信に有利です。
- 熱や衝撃に強い半導体チップ(シリコン)と外側のマザーボード(樹脂)の中間の性質を持つため、温度変化で発生する「熱膨張による基板の反りやひび割れ」を和らげるクッションの役割を果たします。
日東電工の強みとのつながり
日東電工は、これまでスマートフォン等の内部にある「微細な配線を持つ柔軟な基板(回路付きフレキ基板など)」や「高分子化学技術」を長年培ってきました。
その樹脂設計のノウハウを応用し、「シリコン並みに細い配線ができて、熱でも歪まない、薄くて頑丈な有機インターポーザー材料」を開発することで、次世代AI半導体の主導権を握ろうとしています。

有機インターポーザーとは、最先端AI半導体の内部で、複数のチップやHBMメモリを高密度に繋ぐ樹脂(プラスチック)製の中間基板です。従来のシリコン製より低コストで大型化しやすく、熱による反りや通信ノイズを抑えられるため、次世代パッケージの核として期待されています。
有機インターポーザーでの日東電工の強みは何か
日東電工が有機インターポーザー(中間基板)の領域で持つ強みは、一朝一夕に作られたものではありません。同社が長年培ってきた「異分野の技術の掛け合わせ」と「強力なパートナーシップ」に明確なアドバンテージがあります。
主な強みは以下の3点に集約されます。
1. legacy技術の応用:回路基板と材料技術の「両刀使い」
多くの素材メーカーは「材料(樹脂など)」だけを供給し、基板メーカーがそれを加工します。しかし、日東電工は「材料開発」と「精密な回路形成」の両方を社内で完結できる珍しいプレイヤーです。
- HDD用サスペンションやスマホ基板のDNA: 同社はハードディスク(HDD)のヘッドを支える超精密な回路付き金属基板や、スマートフォン向けの回路材を長年手がけてきました。
- 技術の横展開: そこで培った「フォトグラフィ(光を使った微細加工技術)」や「めっき技術」、そして「ポリイミドなどの絶縁材料技術」が、そのまま有機インターポーザーの微細配線プロセスに直結しています。
2. 独自の「金属×樹脂」ハイブリッドによる圧倒的な反り対策
AI半導体が大型化する中で、最も深刻な課題が熱による「基板の反り(歪み)」です。
- 日東電工は、同社の強みである高分子(樹脂)設計技術に加え、「熱による反りに強い金属材料」を組み合わせた独自のパッケージ基板構造を持っています。
- チップと基板の熱膨張率の差を極限までコントロールし、大型のAIアクセラレータ(AI処理に特化した半導体)でも壊れない・歪まない構造を実現できるのが、他社に対する大きな差別化ポイントです。
3. 米IBMとの提携による「一気通貫の評価体制」
材料や基板は、実際に最先端の半導体チップを載せて動かしてみなければ、本当に通用するか分かりません。
- 開発スピードの圧倒的な差: 同社は米IBMと先端パッケージ材料の共同開発契約を結んでいます。IBMが持つ世界最高峰の半導体アーキテクチャ(設計)や評価技術を使い、シミュレーションと材料改良のPDCAを爆速で回すことができます。
- これにより、ユーザー(大手半導体ファウンドリやビッグテック)が求める仕様に合わせたカスタマイズを他社より早く提案できます。
「フィルムや樹脂の会社だと思っていたら、実は世界トップレベルの超精密な回路を作る技術も、それを巨大テックと評価する体制もすでに持っていた」 という点です。この複合力が、後発でありながら最先端のAI半導体市場へ一気に切り込める最大の武器になっています。

強みはHDD基板等の精密回路技術と、独自の樹脂・金属複合構造です。大型AI半導体の課題である「熱による反り」を強力に抑制。米IBMとの共同開発体制により、最先端への対応スピードでも優位に立ちます。

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