オーク製作所のダイレクト露光装置 半導体後工程とは何か?ダイレクト露光装置の特徴は何か?

この記事で分かること

  • 半導体後工程とは:前工程で回路が形成されたシリコンウェーハを、個々のチップに切り分け、パッケージングや組み立てを行うプロセスです。これにより、チップが外部環境から保護され、電子機器に組み込める最終的な製品になります。
  • 後工程での露光機とは:チップのパッケージングに必要な配線パターンを形成する装置で、マスクと呼ばれる原版のパターンを、レンズを通してウェーハに縮小投影するi線ステッパーとマスクを使わず、レーザーや光で回路パターンを直接描画するダイレクト露光機があります。
  • ダイレクト露光機の特徴:フォトマスクを使わずに直接基板にパターンを描画可能なため、マスクの製造コストや時間を削減でき、開発期間の短縮や多品種少量生産に柔軟に対応できます。

オーク製作所のダイレクト露光装置

 オーク製作所は、半導体後工程製造向け露光装置の次世代機として、ダイレクト露光(DI)装置SDi」を開発しています。

 https://www.orc.co.jp/info/ja/news-release/news_co3/news-release-20250827.html

 「SDi」は、半導体パッケージの微細配線形成に特化した次世代の露光装置です。これは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進するプロジェクトの一環として開発が進められています。

半導体後工程とは何か

 半導体製造における後工程とは、前工程で回路が形成されたシリコンウェーハを、実際に製品として使えるように個別のチップに分割し、組み立て、保護、検査する一連のプロセスです。

前工程との違い

  • 前工程: シリコンウェーハの上に電子回路を形成するプロセス。微細な回路パターンの形成が主な目的で、超精密な加工技術が求められます。この段階ではまだウェーハの形です。
  • 後工程: 前工程で完成したウェーハから、個々の半導体チップを切り出し、パッケージングして製品化するプロセス。チップの物理的な保護や外部との接続が主な目的です。この段階を経て、最終的な半導体製品が完成します。

後工程の主なプロセス

 後工程は、主に「組立工程(パッケージング)」と「検査工程(テスト)」に分けられます。

1. 組立工程(パッケージング)

  • ダイシング: 前工程で形成されたウェーハを、ダイヤモンドブレードやレーザーで個々の半導体チップに切り分ける。
  • マウンティング: 切り分けられたチップを、基板やリードフレームと呼ばれる土台に接着剤で固定する。
  • ワイヤボンディング: チップと基板を、極細の金線などで電気的に接続する。近年は、ワイヤを使わないフリップチップ実装も主流になっています。
  • モールディング: 接続されたチップを樹脂などで覆い、外部からの衝撃や湿気から保護する。これにより、半導体パッケージが完成します。

2. 検査工程(テスト)

  • 最終検査: 完成した半導体パッケージが、設計通りに動作するか、電気的な特性に問題がないかなどを厳しく検査する。不良品を取り除き、出荷可能な製品を選別します。

 これらの工程を経て、半導体チップはスマートフォンやパソコン、自動車などに搭載される電子部品として完成し、市場に出荷されます。

半導体後工程とは、前工程で回路が形成されたシリコンウェーハを、個々のチップに切り分け、パッケージングや組み立てを行うプロセスです。これにより、チップが外部環境から保護され、電子機器に組み込める最終的な製品になります。

半導体後工程の露光機とは

 半導体後工程の露光機は、前工程で形成された回路と新たな配線層を正確に重ね合わせるための装置です。前工程の露光機が微細な回路をウェーハ上に描くのに対し、後工程の露光機は、パッケージングに必要な配線パターンを形成する役割を担います。


後工程露光機の役割と特徴

 後工程では、ウェーハから切り出した個々のチップを保護し、外部と接続するためのパッケージを形成します。この過程で、チップ表面に新しい配線層を形成する必要があり、そのために露光機が使われます。

  • 多層配線形成: チップを小型化しながら高機能化するには、配線を多層化する必要があります。露光機は、その多層配線を正確に重ね合わせるための「地図」となるパターンを形成します。
  • 微細配線: AIや高性能コンピューティング(HPC)向けチップでは、2.5D/3D実装と呼ばれる技術が使われます。これは複数のチップを縦横に接続する技術で、後工程でも非常に微細な配線が求められます。

主な方式

後工程の露光機には、主に以下の方式があります。

  • i線ステッパー: 主流となっている方式で、波長365nmのi線(紫外線)を使って露光します。マスクと呼ばれる原版のパターンを、レンズを通してウェーハに縮小投影します。
  • ダイレクト露光(Direct Imaging, DI): マスクを使わず、レーザーや光で回路パターンを直接描画する方式です。マスク製作が不要なため、開発期間の短縮やコスト削減、柔軟な設計変更が可能になります。

 近年、半導体パッケージの高性能化に伴い、従来のi線ステッパーに加え、より高解像度で柔軟性の高いダイレクト露光装置の需要が高まっています。

半導体後工程の露光機は、チップのパッケージングに必要な配線パターンを形成する装置です。これにより、前工程でできた回路と新しい配線層を正確に重ね合わせ、多層配線や微細配線を実現します。

ダイレクト露光機の特徴は

 ダイレクト露光機は、フォトマスクを使わずに直接基板に回路パターンを描画する露光装置です。その主な特徴は以下の通りです。

メリット

  • マスクレス: 📝 マスクの設計・製造が不要なため、開発期間が大幅に短縮され、製造コストも削減できます。
  • 柔軟性: 💾 データでパターンを直接変更できるため、多品種少量生産や試作品開発に非常に適しています。
  • 高精度: 📏 高精度の描画エンジンと位置合わせ技術により、微細で複雑なパターン形成が可能です。
  • 歩留まり向上: ✨ マスクが不要なので、マスクの汚れや欠陥による不良を防げます。

デメリットと課題

  • 生産性: 従来のマスク露光機に比べて、一度に露光できる面積が小さいため、大量生産においては生産効率が低い場合があります。
  • 装置の複雑さ: スキャンしながら露光するため、非常に高精度な駆動系と制御機能が必要です。また、高解像度を維持するには厳密な温度管理が求められます。

 これらの特徴から、ダイレクト露光機は特に半導体後工程やMEMS(微小電気機械システム)など、高精度かつ柔軟な製造が求められる分野で活用が進んでいます。

ダイレクト露光機は、フォトマスクを使わずに直接基板にパターンを描画する装置です。これにより、マスクの製造コストや時間を削減でき、開発期間の短縮や多品種少量生産に柔軟に対応できます。

なぜ露光できる面積が小さいのか

 ダイレクト露光機は、フォトマスクを使わずスキャンしながら少しずつ描画するため、一度に露光できる面積が小さくなります。


理由の詳細

  • スキャン方式: 従来の露光機がマスクのパターンを一括でウェーハに露光するのに対し、ダイレクト露光機は微小なレーザースポットやDMD(デジタルミラーデバイス)を使って、基板上をスキャンしながら描画します。これは、プリンターが用紙にインクを噴射するイメージに近いです。
  • 高精度な制御: スキャンしながら高精度なパターンを形成するためには、非常に精密な駆動系と制御機能が必要です。露光できる領域を小さく区切ることで、この制御をより確実に行い、位置ずれや歪みを防いでいます。
  • 生産性とのトレードオフ: マスクレスによるコスト削減や柔軟性というメリットと引き換えに、一度に露光できる面積(スループット)が低下するというデメリットがあります。そのため、多品種少量生産や試作品の製造、そして高性能なパッケージングなど、柔軟性が特に求められる分野で活用されています。

ダイレクト露光機は、フォトマスクを使わず、レーザーや光で基板上をスキャンしながら描画するため、一度に露光できる面積が小さくなります。これは、従来の露光機が一括でパターンを転写するのとは対照的で、柔軟性と引き換えに生産性を犠牲にしています。

後工程露光機の有力メーカーはどこか

 半導体後工程露光機の分野では、特に以下のメーカーが有力です。

1. キヤノン

  • 特徴: 前工程の露光装置でも実績のある大手メーカーですが、特に後工程向けのi線ステッパーで高いシェアを持っています。
  • 強み: 長年の光学技術と製造ノウハウを活かし、大型・高密度なパッケージに対応するi線露光装置を開発・提供しています。AI半導体の需要拡大に伴い、後工程向け装置の需要が増しており、存在感を高めています。

2. オーク製作所

  • 特徴: 半導体パッケージング向け露光装置の専門メーカーです。
  • 強み: 次世代の露光技術であるダイレクト露光(DI)装置「SDi」を開発しており、微細な再配線層形成で強みを発揮します。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにも参画しており、技術開発を加速させています。

3. SCREENホールディングス

  • 特徴: 半導体製造装置の総合メーカーであり、後工程向けでも複数の装置を提供しています。
  • 強み: ダイレクト露光装置「LeVina」シリーズなど、大型パネル向けやパッケージング向けの直接描画装置をラインナップしています。

4. その他のメーカー

  • ビアメカニクス: パッケージ基板用のダイレクト露光機を提供しています。
  • ウシオ電機: 露光装置の光源技術に強みを持つメーカーですが、ダイレクト露光装置も手掛けています。

前工程では、オランダのASMLがEUV(極端紫外線)露光装置市場をほぼ独占していますが、後工程では、日本のキヤノンやオーク製作所、SCREENホールディングスといったメーカーが強みを発揮しています。特に、パッケージの高性能化に伴い、従来のi線露光機に加え、ダイレクト露光機市場が成長しており、各社が開発競争を繰り広げています。

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