日本触媒らの紙おむつのリサイクル 紙おむつは何からできているのか?高分子吸水材とは何か?どうやってリサイクルするのか?

この記事で分かること

  • 紙おむつの構造:肌に触れる「表面材」、尿を吸収する「吸水材(パルプと高分子吸水材SAP)」、漏れを防ぐ「防水材」を主要構造とし、立体ギャザーや伸縮材でフィット感を高め、漏れを防ぎます。これらの多層構造により、高い吸水性と漏れ防止性を実現しています。
  • 高分子吸水材とは:自重の数百倍もの水を吸収し、ゲル状に固めて保持する合成高分子です。主にポリアクリル酸ナトリウムが使われ、紙おむつや生理用品の主要吸収材として、また保冷剤や農業用保水材など幅広い分野で活用されています。
  • 高分子吸水材のリサイクル方法:使用済み紙おむつからSAPを分離・回収します。次に、塩化カルシウムなどの多価金属塩で処理して脱水し、乾燥させることで、吸水性能を回復させます。

日本触媒らの紙おむつのリサイクル

 日本触媒を含む複数の企業が、福岡県筑前町と使用済み紙おむつの完全リサイクルに関する事業連携協定を締結しました。

 https://www.shokubai.co.jp/ja/news/2025071621129/

 この協定は、日本触媒、住友重機械エンバイロメント、大王製紙、トータルケア・システム、TOPPAN、リブドゥコーポレーションの6社(連携6社)が筑前町と協力し、使用済み紙おむつのリサイクルを推進するものです。

紙おむつのどんな構造なのか

 紙おむつは、薄くて軽量ながら、優れた吸収力と漏れ防止機能を持ち、快適な着用感を実現するために様々な素材と構造が組み合わされています。主な構造とそれぞれの役割、使用される素材は以下の通りです。

主要な構造と役割

  1. 表面材(トップシート)
    • 役割: 直接肌に触れる部分で、尿を素早く内部の吸水材に送り込み、表面は常にサラサラの状態を保つことで、肌のべたつきやかぶれを防ぎます。
    • 素材: ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)やポリエステルなどの不織布が主に使用されます。親水性処理が施され、水分を素早く透過させるように工夫されています。
  2. 吸水材(吸収体)
    • 役割: 尿を吸収し、ジェル状に固めて閉じ込めることで、逆戻りを防ぎ、漏れを抑制します。
    • 素材:
      • 綿状パルプ: 木材パルプを綿状に粉砕したもので、尿を素早く吸収し、全体に広げる役割をします。紙おむつの「紙」の部分です。
      • 高分子吸水材(SAP: Super Absorbent Polymer): 自重の数十倍から数百倍もの尿を吸収し、ジェル状に固めることで、圧縮されても水分が逆戻りしにくい特性を持っています。粉状のものが水分に触れると膨潤してジェルになります。主にポリアクリル酸ナトリウムなどが使われます。
      • 吸収紙: パルプとSAPを包み込み、吸収体の形状を維持する役割や、尿を素早く吸水材全体に広げる役割を担います。
  3. 防水材(バックシート)
    • 役割: 吸収した尿が外部に漏れるのを防ぎます。おむつの「カバー」に相当する部分です。
    • 素材: ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)のフィルムが主に使用されます。通気性を持たせながらも水分は通さない微多孔質フィルムが用いられることもあります。
  4. 漏れ防止機能
    • 立体ギャザー: 足回りやウエスト部分に設けられたギャザーで、不織布と伸縮性素材で作られています。尿や便の横漏れを防ぐ「堤防」の役割を果たします。撥水性のある不織布が使われることもあります。
  5. その他の部材
    • 止着材(テープ、面ファスナー): おむつを体に固定するための部分です。テープタイプのおむつに用いられます。
    • 伸縮材: ウエストや足回りに使用され、赤ちゃんの動きに合わせてフィットし、ズレや漏れを防ぎます。ポリウレタンなどが使われます。
    • 結合材: 各素材を接着するための接着剤。

 これらの素材と構造が複合的に機能することで、紙おむつは高い吸水性、漏れ防止、肌への快適性、動きやすさなどを実現しています。使用済み紙おむつのリサイクルでは、これらの多様な素材をいかに効率的に分離・再資源化するかが課題となっています。

紙おむつは、肌に触れる「表面材」、尿を吸収する「吸水材(パルプと高分子吸水材SAP)」、漏れを防ぐ「防水材」を主要構造とし、立体ギャザーや伸縮材でフィット感を高め、漏れを防ぎます。これらの多層構造により、高い吸水性と漏れ防止性を実現しています。

高分子吸水材とは何か

 高分子吸水材(こうぶんしきゅうすいざい)は、英語では Super Absorbent Polymer(SAP) と呼ばれ、その名の通り、非常に高い吸水性と保水性を持つ高分子材料です。

主な特徴

  • 驚異的な吸水力: 自重の数十倍から数百倍、ものによっては1,000倍もの水を瞬時に吸収し、ゲル状に固めることができます。
  • 高い保水性: 一度吸収した水分は、圧力を加えても容易に放出しないため、逆戻りしにくい特性があります。
  • 吸水原理: 主に浸透圧の差を利用して水を吸収します。高分子吸水材の内部はイオン濃度が高いため、外の水分がその濃度差を解消しようとして内部に引き込まれます。
  • ゲル化: 水分を吸収すると、粉末状のものが膨潤し、プルプルとしたゲル状になります。

主な成分

 現在、最も広く使用されているのはポリアクリル酸ナトリウムです。これは、アクリル酸と水酸化ナトリウムを反応させて製造される合成高分子です。

用途

 その優れた吸水・保水性から、様々な分野で活用されています。

  • 衛生用品:
    • 紙おむつ: 尿を吸収し、肌への逆戻りを防ぐ主要な材料です。
    • 生理用品: 同様に経血を吸収・保持します。
    • ペットシート: ペットの排泄物を吸収します。
    • 携帯トイレ: 災害時などに排泄物を固めて処理します。
  • 日用品:
    • 保冷剤: 水を含ませて凍らせることで、保冷効果を持続させます。
    • 使い捨てカイロ: 水分と反応して発熱するタイプもあります。
    • 芳香剤・消臭剤: 水分とともに香料や消臭成分を保持・放出します。
  • 農業・園芸:
    • 土壌保水材: 乾燥しやすい土壌に混ぜることで、水分を保持し、植物の生育を助けます。砂漠の緑化などにも応用されています。
  • 土木・建設:
    • 止水剤: 土木工事現場での水漏れ防止や、ケーブルの浸水防止などに利用されます。
    • 汚泥固化材: 建設現場などで発生する泥状の廃棄物を固化させ、処理を容易にします。

 高分子吸水材の登場により、紙おむつの薄型化や吸収性能の飛躍的な向上が実現され、私たちの生活に大きな変化をもたらしました。一方で、使用済み紙おむつのリサイクルにおいては、この高分子吸水材を他の素材から効率的に分離し、再利用する技術の開発が重要な課題となっています。

高分子吸水材(SAP)は、自重の数百倍もの水を吸収し、ゲル状に固めて保持する合成高分子です。主にポリアクリル酸ナトリウムが使われ、紙おむつや生理用品の主要吸収材として、また保冷剤や農業用保水材など幅広い分野で活用されています。

高分子吸水材はどうやってリサイクルされるのか

 高分子吸水材(SAP)のリサイクルは、使用済み紙おむつ全体の複雑なリサイクルプロセスの中でも特に重要な部分です。現在、主に以下の方法や技術開発が進められています。

1. 回収と分離

 まず、使用済み紙おむつからSAPを効率的に回収・分離することが不可欠です。

  • 破砕・水洗: 紙おむつを破砕し、水中で攪拌することで、パルプやSAPをプラスチックフィルムなどの他の素材から分離します。SAPは水を吸収してゲル状になるため、この段階でゲル状のSAPとして回収されます。
  • 物理的分離: ゲル状のSAPを、スクリーンなどを用いて他の固形物(パルプ繊維など)から分離します。

2. SAPの脱水・再生

 分離されたSAPは大量の水分を含んでいるため、これを効率的に脱水し、吸水性能を回復させる必要があります。

  • 塩析(多価金属塩処理): 塩化カルシウム(CaCl2​)などの多価金属塩水溶液をSAPゲルに加えることで、SAPが水を放出して収縮し、沈殿するという原理を利用します。これにより、SAPから水分が分離され、固形分として回収しやすくなります。この方法は、SAPの吸収性を一時的に失わせますが、その後の処理で再生させることが可能です。
  • アルカリ金属塩処理: 多価金属塩で処理したSAPを、塩化ナトリウム(NaCl)などのアルカリ金属塩水溶液で処理することで、吸水性を回復させる技術が研究されています。
  • 乾燥: 脱水されたSAPは、さらに乾燥させることで、粉末状の製品として利用できるようになります。

3. リサイクル後の用途

 再生されたSAPは、主に以下の用途で活用が期待されています。

  • 再生SAPとしての再利用: 吸水性能が新品に近いレベルにまで回復すれば、再び紙おむつや生理用品などの衛生用品の原料として「水平リサイクル」することが理想とされています。住友精化などがこのケミカルリサイクル技術の開発を進めています。
  • 保水材: 農業・園芸用土壌の保水材、緑化用途など。
  • 止水材: 土木工事や災害対策用の土のう、給水シートなど。
  • 固化材: 汚泥や排泄物の固化材。

課題と今後の展望

SAPのリサイクルには、以下のような課題があります。

  • 分離の難しさ: 紙おむつは複数の素材が複合的に構成されているため、効率的かつ完全にSAPを他の素材から分離することが難しいです。
  • 吸水性能の維持: 再生したSAPが、新品と同等の吸水性能を維持できるかどうかが重要なポイントです。不純物の除去や構造の劣化を防ぐ技術が必要です。
  • 経済性: リサイクルにかかるコストが、新規SAPの製造コストや廃棄コストと比較して見合うかどうかが実用化の鍵となります。
  • 衛生面: 使用済み紙おむつ由来であるため、衛生的処理が不可欠です。

 日本触媒や住友精化などの企業が、こうした課題解決に向けて研究開発を進めており、特にケミカルリサイクルによる「水平リサイクル」は注目されています。今後、技術の進歩とインフラ整備が進むことで、SAPのリサイクルがより普及していくことが期待されます。

高分子吸水材(SAP)のリサイクルは、まず使用済み紙おむつからSAPを分離・回収します。次に、塩化カルシウムなどの多価金属塩で処理して脱水し、乾燥させることで、吸水性能を回復させます。再生されたSAPは、再び紙おむつ原料や土壌保水材などとして利用されます。

ポリアクリル酸ナトリウムはなぜ吸水性に優れるのか

 ポリアクリル酸ナトリウムが優れた吸水性を持つ理由は、主に以下の3つのメカニズムが複合的に働くためです。

親水性のカルボキシル基 (-COO−) とナトリウムイオン (Na+) の存在

  • ポリアクリル酸ナトリウムの分子構造には、水と非常に親和性の高いカルボキシル基 (-COOH) のナトリウム塩である -COONa が多数存在します。
  • 水に触れると、この -COONa が電離して、負の電荷を持つカルボキシラートアニオン (-COO−) と、陽イオンであるナトリウムイオン (Na+) になります。

静電反発による網目構造の拡大

  • 分子鎖上に多数生成された負の電荷を持つカルボキシラートアニオン (-COO−) 同士は、互いに静電反発し合います。
  • この反発力によって、ポリアクリル酸ナトリウムの網目状の分子鎖が広がり、より多くの水分子を閉じ込める空間が形成されます。

浸透圧による水の引き込み

  • ポリアクリル酸ナトリウムの内部では、電離によって生成されたナトリウムイオン (Na+) などによってイオン濃度が高くなります。
  • 水の外部(例えば、おむつ中の尿)とポリアクリル酸ナトリウム内部との間に浸透圧の差が生じます。この濃度差を解消しようとして、外部から内部へと水分子が強く引き込まれます。

 これらのメカニズムが協力し合うことで、ポリアクリル酸ナトリウムは自重の数百倍もの水を瞬時に吸収し、ゲル状に固めて閉じ込めることができるのです。

 ただし、注意点として、尿や血液のようにナトリウムイオンやその他の塩類を含む液体の場合、純粋な水に比べて吸水能力が低下することが知られています。これは、外部の液体中のイオン濃度が高いと、浸透圧の差が小さくなるためです。

ポリアクリル酸ナトリウムは、水に触れると電離して負に帯電し、静電反発で分子鎖が広がり、多量の水を引き込む空間が生まれます。さらに、内部と外部のイオン濃度差による浸透圧で、水を効率的に吸収しゲル状に固めます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました