日産のEVでのレアアース削減 どうやって削減したのか?

この記事で分かること

1. レアアース使用量の削減方法

磁石全体に混ぜていた重レアアースを、熱に弱い結晶の境界(粒界)にだけ薄く浸透させる「粒界拡散技術」を採用しました。これにモーターの冷却性能向上を組み合わせ、性能を維持しつつ使用量を劇的に抑えています。

2. 重レアアースフリー磁石とは

ジスプロシウム等の希少な重レアアースを一切使わず、耐熱性を確保した磁石です。結晶構造をナノレベルまで微細化する等の高度な技術により、特定の材料に頼らず高温環境下でも強力な磁力を維持できるのが特徴です。

日産のEVでのレアアース削減

 日産が新型リーフ(および今後のEVラインアップ)に採用する次世代モーターにおいて、重レアアース(ジスプロシウム、テルビウムなど)の使用量を9割以上削減可能なであることを発表しています。 

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC056LK0V00C26A2000000/

 日産は2020年代半ば(2026年度頃)までに、重レアアースの使用量を磁石重量の1%以下にまで抑える目標とし、安定した生産体制の確立やコスト削減を目指しています。

ジスプロシウムの添加でなぜ高温に強くなるのか

 磁石(ネオジム磁石)にジスプロシウム(Dy)を添加することで高温に強くなる理由は、ミクロな視点で見ると「磁力の反転を防ぐ壁」を強化しているためです。

 磁石の「保磁力」を高める役割を担っています。

1. ネオジム磁石の弱点:熱による「磁力反転」

 ネオジム磁石は、主成分であるネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)が規則正しく並んだ結晶の集まりです。

 しかし、この結晶は温度が上がると、外部からの磁力や自分自身の磁力によって、磁石の向き(N極・S極)がひっくり返りやすくなるという性質があります。

 一度ひっくり返ってしまうと磁石としての力を失うため、これが「熱に弱い」と言われる理由です。

2. ジスプロシウムが作る「磁力のバリア」

 ジスプロシウムの原子は、ネオジム原子の一部と入れ替わる形で結晶構造に入り込みます。

 ジスプロシウムには、ネオジム以上に「磁力の向きを一定方向に保とうとする力(磁気異方性)」が非常に強いという特徴があります。

 ジスプロシウムが結晶の中に加わると、結晶一つひとつが磁力を反転させるために必要なエネルギーが飛躍的に高まります。 

 つまり、熱によって原子が激しく振動しても、ジスプロシウムが「重石」のような役割を果たし、磁力の向きがバラバラになるのを防いでくれるのです。

3. 「粒界」への集中投入

 近年の技術(日産が採用している技術など)では、ジスプロシウムを磁石全体に混ぜるのではなく、結晶と結晶の継ぎ目である「粒界」に重点的に配置します。

  • 磁力の反転は、結晶の表面(粒界)から始まります。
  • そのため、粒界にだけジスプロシウムを濃く配置すれば、最小限の使用量で効率よく「反転の連鎖」を食い止めることができます。

 ジスプロシウムを添加することで「異方性磁場が大きくなります。

 これにより、モーター内部のような100〜200℃を超える過酷な環境下でも、磁石が「減磁(磁力が弱まること)」せずに、強力なトルクを維持し続けることができるのです。

ジスプロシウムはネオジム磁石の結晶に入り込み、磁力の向きを一定に保とうとする力(磁気異方性)を飛躍的に高めます。これが熱による磁力反転を防ぐ「壁」となり、高温下でも保磁力を維持できるため耐熱性が向上します。

どのように使用量を減らしたのか

 日産がジスプロシウムなどの重レアアース使用量を劇的に減らした方法は、主に「粒界拡散技術」の進化と、「モーター設計の工夫」の2点に集約されます。

1. 粒界拡散(りゅうかいかくさん)技術の採用

 従来の磁石は、原料を混ぜる段階でジスプロシウムを全体に均一に練り込んでいました。

 しかし、磁力が熱でひっくり返る現象は、結晶の表面(粒界)から始まります。

 そこで日産は、磁石を成形した後にジスプロシウムを表面から塗布し、熱処理によって結晶の境界(粒界)だけに効率よく浸透させる手法を磨き上げました。

  • 従来: 磁石全体(中まで)に添加。
  • 新型: 弱い部分(粒界)にだけ集中的に配置。これにより、同じ耐熱性能を維持したまま、使用量を最小限に抑えることに成功しました。

2. モーターの低発熱・冷却設計

 磁石そのものの改良に加え、モーター全体の設計を見直すことで「磁石が熱くならない環境」を作りました。

  • 冷却性能の向上: 油冷や水冷の経路を最適化し、磁石の温度上昇を物理的に抑制。
  • 磁気回路の最適化: 磁石の配置や形状を工夫し、強い磁力を生み出しつつも、発熱の原因となる「渦電流」が発生しにくい構造を採用しています。

3. 重レアアース完全フリーへの挑戦

 一部の新型モーターでは、ジスプロシウムを全く使わない「重レアアースフリー磁石」の採用も進んでいます。これは、磁石の結晶を極限まで微細化することで、重レアアースの力を借りずに熱への耐性を高める高度なナノ技術が応用されています。


 このように、「必要な場所にだけピンポイントで使う技術」「熱を持たせない設計」を組み合わせることで、9割削減という驚異的な数字を実現しています。

磁石全体に混ぜていた重レアアースを、熱に弱い結晶の境界(粒界)にだけ薄く浸透させる「粒界拡散技術」を進化させました。さらに、モーターの冷却性能向上や磁気回路の最適化により、磁石自体の温度上昇を抑える設計を組み合わせ、使用量を最小限にしています。

どうやって塗布するのか

磁石の表面に重レアアースを付着させ、内部に浸透させる「粒界拡散」の工程では、主に以下の3つのような手法が用いられます。

1. 塗布・付着プロセス

具体的には、重レアアース(ジスプロシウムなど)の粉末を溶剤に混ぜて「泥状(スラリー)」にし、磁石に付着させます。

  • ディッピング(浸漬): 磁石をスラリーの中にドブ漬けして表面をコーティングします。
  • スプレー塗装: 霧状にした重レアアースを磁石の表面に吹き付けます。
  • 蒸着(じょうちゃく): 真空中で重レアアースを加熱して蒸発させ、磁石の表面に結晶として堆積させる高度な方法もあります。

2. 熱処理による「拡散」

表面に付着させただけでは効果がないため、次に磁石を高温の炉に入れます。

  • 浸透の仕組み: 高温(約800°C〜900°C)で加熱すると、表面の重レアアースが液体のように溶け出し、磁石の結晶同士のわずかな隙間(粒界)を伝って、毛細管現象のように中へ吸い込まれていきます。
  • 結晶のコーティング: これにより、結晶の表面だけが重レアアースで薄くコーティングされた状態になります。

3. 特徴

 この方法は「後から染み込ませる」のがポイントです。最初から全てを混ぜ合わせるよりも、磁石の性能を左右する「境界線」にだけ効率よく材料を配置できるため、使用量を劇的に減らすことが可能になります。

重レアアースの粉末を溶剤に混ぜてスラリー(泥状)にし、磁石表面にディッピング(浸漬)やスプレーで付着させます。その後、高温で加熱することで、成分を磁石内部の結晶の隙間(粒界)へと毛細管現象のように深く浸透・拡散させます。

重レアアースフリー磁石とは何か

 重レアアースフリー磁石とは、ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった、希少で調達リスクの高い「重レアアース」を一切使用せずに、高い耐熱性と磁力を両立させた磁石のことです。

 通常、ネオジム磁石は高温になると磁力が失われるため、重レアアースを添加して耐熱性を補強します。しかし、この依存を脱却するために、主に以下の2つのアプローチで開発が進められています。

1. 結晶の「超微細化」

 磁石の結晶サイズを、現在の数マイクロメートルから数百ナノメートル(10,000分の1ミリ単位)にまで極限まで小さくします。

 結晶が小さくなると、磁力の向きがひっくり返りにくくなるという物理特性(保磁力の向上)があるため、重レアアースを使わなくても高温環境に耐えられるようになります。

2. 全く新しい材料の採用

 ネオジム磁石(ネオジム・鉄・ホウ素)の構造そのものを見直したり、あるいはサマリウム鉄窒素磁石など、別の元素を組み合わせた新しい磁気材料の開発が進んでいます。

なぜ注目されているのか

  • 経済安全保障: 重レアアースの産出・加工は特定の国(主に中国)に極端に依存しており、供給停止や価格高騰のリスクを避けるためです。
  • 低コスト化: 非常に高価な重レアアースをゼロにすることで、電気自動車(EV)の製造コストを抑え、普及を加速させる鍵となります。

 日産をはじめとする自動車メーカーは、この「重レアアースフリー」を次世代EVモーターの決定打として実用化を急いでいます。

ジスプロシウム等の希少な重レアアースを一切使わず、耐熱性と磁力を確保した磁石です。結晶構造をナノレベルまで微細化する等の高度な製造技術により、材料の希少性に頼らず高温環境下での性能維持を実現しています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました