この記事で分かること
- 車載カメラモジュール向けPMICとは:カメラが必要とする複数の異なる電圧を、単一チップで安定的に生成・供給・管理する集積回路です。これにより、カメラモジュールの小型化、高効率化、および高信頼性(発熱・保護機能)を実現します。
- 面積を小さくした方法:自社開発の超小型パッケージの採用や複数の電源機能を1チップに集約、周辺回路に必要なコイルやコンデンサの点数を最小限に抑える回路設計を行ったことで面積を小さくしています。
- 車載カメラモジュール向けPMICの需要動向:ADASや自動運転の普及でカメラ搭載数が増加し、市場は急成長中です。「高信頼性」「小型・高集積」「高効率」を両立するPMICの需要が特に高まっています。
エイブリックの車載カメラモジュール向けPMICの小面積化
エイブリック株式会社は、車載カメラモジュール向けパワーマネジメントIC (PMIC)「S-19560Bシリーズ」を発売し、これにより業界最小の実装面積を実現したと発表しています。
https://www.ablic.com/jp/semicon/news/2025/11/25/s-19560b-2/
この新製品によって、競合品と比較して実装面積を約20%削減できるとしています。
車載カメラモジュール向けパワーマネジメントIC とは何か
車載カメラモジュール向けパワーマネジメントIC (PMIC)は、車載カメラシステムが必要とする複数の異なる電源を、単一の集積回路(IC)に統合し、効率的に供給・管理するチップのことです。
「PMIC」(ピーミック)は Power Management Integrated Circuit の略で、複雑になりがちな電源回路を一つのチップに集約することで、以下のような特徴から車載カメラモジュールが抱える特有の課題を解決します。
1. 複数の電源を統合し供給する
車載カメラモジュール(CMOSイメージセンサ(CIS)、プロセッサ、SerDes ICなど)は、それぞれ異なる電圧(例:3.3V、1.8V、1.2V)を必要とします。PMICは、入力された車載電源(例:12V)から、これらの複数の異なる電圧を生成し、各部品に安定して供給します。
- 内部には、主にDC-DCコンバータ(効率の良い電圧変換)やLDO(低ドロップアウト・レギュレータ)などが搭載されています。
2. 基板の小型化・省スペース化
複数の電源回路を単体のICで構成することにより、従来のディスクリート部品(単機能ICや個別部品)で回路を組む場合と比べて、部品点数を大幅に削減し、実装面積を最小限に抑えることができます。
- これにより、自動運転やADAS(先進運転支援システム)で増加する小型カメラモジュールの要求に応えられます。
3. 発熱対策・電力効率の向上
PMICは、電源の電力効率を改善し、発熱を抑える設計がされています。
- エイブリックのS-19560Bシリーズのように、発熱源となるLDOの一部をPMICの外部に配置することで、熱集中を分散させ、モジュール全体の熱対策に貢献する製品もあります。
4. シーケンス制御と保護機能
システム内の部品は、電源の投入(パワーオン)や停止(パワーオフ)の際に、決められた順番(シーケンス)で電源を供給・停止する必要があります。
- PMICは、この起動・停止のタイミングと順序を正確に制御し、システムの誤動作や回路の損傷を防ぎます。
- また、過電圧や過電流、過熱などの異常を監視し、システムを保護する機能(セーフティ機能)も搭載されており、高い安全性が求められる車載用途に不可欠です。
このように、車載カメラモジュール向けPMICは、小型化・高効率化・高信頼性を実現するための中心的な役割を担う、重要な半導体チップです。

車載カメラモジュール向けPMICは、カメラ(CMOSセンサ、プロセッサなど)が必要とする複数の異なる電圧を、単一チップで安定的に生成・供給・管理する集積回路です。これにより、カメラモジュールの小型化、高効率化、および高信頼性(発熱・保護機能)を実現します。
どうやって面積を小さくしたのか
エイブリックのS-19560Bシリーズが実装面積を小さくできた主な要因は、小型の自社開発パッケージの採用と、外付け部品の最小化を可能にする回路設計の2点にあります。この工夫により、競合製品と比較して約20%の省スペース化を実現しています。
1. 超小型パッケージの採用
面積削減に最も貢献しているのが、自社で開発した超小型パッケージの採用です。
- パッケージ名: HSNT-8(2030)
- サイズ: 2.0 mm × 3.0 mm × t0.5 mm (厚さ0.5mm)
この非常に小さなパッケージの中に、カメラモジュールに必要な降圧DC-DCコンバータ2チャネルとLDO(リニア・ドロップアウト・レギュレータ)1チャネルの計3チャネルの電源出力機能を搭載しています。
複数の機能を小さな一つのチップに集約することで、モジュール全体の基板スペースを大幅に節約しています。
2. 外付け部品の最小化を可能にする回路設計
PMICの小型化だけでなく、PMICを動作させるために必要な外付け部品の点数やサイズを減らす設計も行っています。
- 必要な外付け部品: 最小でコイル2個とコンデンサ5個で電源回路を構成できます。
- LDOの外部化による最適化:
- カメラモジュールへの電源供給用LDOの一つをあえて外部にすることで、PMICへの発熱集中を防ぎ、PMICのチップ自体を小さくすることに貢献しています。
- また、外付けLDOとしてエイブリックの小型・高ノイズ耐性のLDOを組み合わせて使用することで、回路全体の面積を最小に抑えられるように最適設計されています。
これらの複合的な技術(小型多機能パッケージと最小限の周辺回路設計)によって、車載カメラモジュール全体の電源回路の占有面積が大幅に縮小されています。

自社開発の超小型パッケージ「HSNT-8(2030)」(2.0×3.0mm)を採用し、複数の電源機能を1チップに集約しました。また、周辺回路に必要なコイルやコンデンサの点数を最小限に抑える回路設計を行ったためです。
放熱対策はどうしているのか
エイブリックのS-19560Bシリーズにおける放熱対策は、主に「発熱源の分散」と「高効率パッケージの採用」の2点で行われています。
発熱源の分散(LDOの外部化)
最も特徴的なのが、電源回路の一部であるLDO(リニア・ドロップアウト・レギュレータ)の一つをPMICのIC内部からあえて外に出し、外部部品として配置できるようにした点です。
- 集中を避ける: LDOレギュレータは、PMIC内部で電力を消費し、発熱の主な原因の一つとなります。この熱源をPMICのチップ外に分散させることで、PMICチップへの熱集中を防ぎます。
- モジュール全体の熱対策に貢献: カメラモジュール全体として発熱源を複数に分けることで、モジュール全体の温度上昇を抑制し、安定動作に貢献します。
- ノイズ対策との両立: 外付けLDOを使うことで、ノイズに敏感なCMOSイメージセンサ(CIS)の電源ラインとLDOとの距離を短くでき、電源ラインへの外乱ノイズを抑える効果も同時に得られます。
2. 高効率・高放熱パッケージの採用
PMIC自体にも放熱に有利なパッケージを採用しています。
- パッケージの熱特性: 採用された超小型パッケージ「HSNT-8(2030)」は、小型ながら熱抵抗が低く、効率的に熱を外部へ逃がす設計がなされています。
- 高効率なDC-DCコンバータ: PMIC内部に搭載されている降圧DC-DCコンバータは、高い電力変換効率を誇ります。効率が高ければ高いほど、変換時に熱として失われるエネルギー(つまり発熱)が少なくなるため、発熱対策として重要です。
これらの対策により、特に高温になりがちな車載カメラモジュールにおいて、安定した電源供給と高い信頼性が確保されています。

発熱源となるLDOレギュレータの一部をPMICの外部に配置し、熱集中を分散させています。また、PMIC自体に熱抵抗の低い高放熱パッケージを採用し、さらに高効率なDC-DCコンバータにより発熱自体を低減しています。
車載カメラモジュール向けPMICの市場動向はどうか
車載カメラモジュール向けPMIC(パワーマネジメントIC)の市場は、自動運転技術とADAS(先進運転支援システム)の進化により、現在、急速な成長局面にあります。主な市場動向と成長要因は以下の通りです。
市場を牽引する主な動向
1. ADASと自動運転の普及
- カメラ搭載数の増加: 自動運転レベルの向上に伴い、車両一台あたりのカメラ(フロント、サイド、リア、インキャビン)の搭載数が大幅に増えています。それに伴い、各カメラモジュールに必要なPMICの需要も増加しています。
- 安全性への要求: ADAS関連システムは高い安全性が求められるため、堅牢で信頼性の高い電源管理ソリューションが必要とされ、PMICの重要性が増しています。
2. 高性能化・高解像度化の進展
- 処理能力の向上: 高解像度(4Kなど)のCMOSイメージセンサや、それを処理する高性能なプロセッサの採用が進んでいます。これらの高性能チップは、より安定した、複雑な電源供給を必要とし、多機能なPMICの需要を後押ししています。
- 厳しい熱管理: 高性能化は発熱増加につながるため、エイブリックのPMICのように**小型化と同時に高度な熱対策(放熱・効率)**を両立できる製品へのニーズが高まっています。
3. モジュールの小型化要求
- デザインと搭載位置: カメラモジュールは、車体デザインや視界確保のために、可能な限り小型化が求められています(例:ドアミラーレス、狭いスペースへの組み込み)。この小型化を可能にするため、エイブリック製品が実現したような**「実装面積の最小化」**は、PMIC市場の大きな技術トレンドです。
市場規模・成長の予測
自動車分野全体の電源管理IC(PMIC)市場は、電気自動車(EV)やADASの需要増加により、今後も堅調な成長が見込まれています。
- 成長率: PMICを含む自動車用電源管理IC市場は、予測期間(2025年~2032年など)において年平均成長率(CAGR)6.5%〜6.9%程度で拡大すると予測されています。
- カメラモジュール市場全体: 車載カメラモジュール市場全体としても、2032年までに年平均成長率(CAGR)8.87%で成長するという予測もあります。
主要企業の動向
TI (Texas Instruments) や Infineon (インフィニオン)、Qualcomm(クアルコム)といった大手半導体メーカーが市場で競争していますが、エイブリックのように特定のアプリケーション(車載カメラ)に特化し、小型化や熱対策といった独自の課題解決に強みを持つメーカーがニッチ市場でシェアを拡大する傾向も見られます。
これらの動向から、車載カメラモジュール向けPMICは、「高信頼性」「小型・高集積」「高効率・低発熱」の3つの要素が特に重視され、今後も技術革新が続く成長分野であると言えます。

ADASや自動運転の普及でカメラ搭載数が増加し、市場は急成長中です。高性能化と小型化が同時に求められ、「高信頼性」「小型・高集積」「高効率」を両立するPMICの需要が特に高まっています。

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