この記事で分かること
- 応用技術研究院とは:高性能な熱伝導材料や半導体向け封止材など、エレクトロニクスや次世代産業に必要な先端新材料の研究開発・製造を行う日本のスタートアップです。ファーウェイ出身の技術者である郭氏がCEOを務めています。
- 半導体向けの熱伝導材料とは;発熱するチップと冷却装置の間の微細な隙間を埋め、熱を効率的に逃がす素材です。これにより、半導体の性能低下や故障を防ぎ、安定動作を可能にします。
- 日本で起業した理由:日本の高い素材技術力を事業基盤とするため、また、自身のファーウェイでの知見と融合させ研究成果の迅速な事業化を図るため、日本で応用技術研究院を起業しました。
応用技術研究院へのサムスンの出資検討
中国通信大手ファーウェイ(Huawei)出身の技術者である郭氏がCEOを務める日本のスタートアップ企業、株式会社応用技術研究院にサムスンが出資を検討していると報道されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC103YV0Q5A211C2000000/
この動きは、日本の高い素材技術と、中国出身の技術者が持つ開発スピードが融合したスタートアップが、世界の巨大企業から注目されていることを示しています。
応用技術研究院はどんな企業か
応用技術研究院は、先端新材料の研究開発に特化した日本のスタートアップ企業です。
2022年8月に設立された比較的若い企業ですが、高性能・高機能材料の開発において急速に成長しており、材料科学の限界を押し広げることをミッションとしています。
主な事業・開発分野
同社は、エレクトロニクスや次世代産業に不可欠な複数の領域で、横断的に材料開発を行っています。
- 熱伝導材料 (Thermal Management Materials)
- グラフェン、CNT(カーボンナノチューブ)、ダイヤモンドなどのカーボン材料を用いた、半導体や車載パワー半導体向けの高放熱材料(熱伝導パッド、熱伝導ゲルなど)。
- 半導体系材料
- 半導体のチップ実装向け封止材(アンダーフィル、固体・液体封止材)や、高周波超低損失基板などの開発。
- 光学材料
- 光通信デバイスやスマートフォンなどのコンシューマ製品向け光学材料、および精密接着剤や屈折率制御樹脂などの研究開発。
- 先進的機能性材料
- 高機能を発現する新構造有機シリコーンやシランカップリング剤、磁性材料などの研究開発。
強みと特徴
- スタートアップとしての機動性: スピード感のある意思決定で研究成果を迅速に事業へ反映させています。
- 多様な材料技術の融合: 熱伝導、光学接着、半導体封止材など、複数の専門領域を横断的に開発する技術基盤を持っています。

株式会社 応用技術研究院は、高性能な熱伝導材料や半導体向け封止材など、エレクトロニクスや次世代産業に必要な先端新材料の研究開発・製造を行う日本のスタートアップです。多様な技術を融合し、高機能な材料を迅速に提供しています。
半導体向けの熱伝導材料とは何か
半導体向けの熱伝導材料は、電子機器の高性能化・小型化に伴い、非常に重要性が増している機能性材料です。
これは、発熱する半導体チップ(CPU、GPU、パワー半導体など)から発生した熱を、効率的に外部(ヒートシンクや筐体など)へ逃がすために使われる素材の総称です。
役割と必要性
高性能な半導体は、動作時に大量の熱を発生させます。この熱を放置すると、以下のような問題が発生します。
- 性能低下(サーマルスロットリング): 温度が上がりすぎると、半導体は自分自身を守るために動作クロックを落とし、処理能力が低下します。
- 寿命の短縮・故障: 高温状態が続くと、電子部品や回路が劣化し、最終的に故障の原因となります。
熱伝導材料の主な役割は、熱の通り道を確保し、発熱体と冷却装置の間の熱抵抗を最小限に抑えることです。
発熱部品の表面と冷却部品の表面は、一見平らに見えても、実際には微細な凹凸があり、その間に空気の層が存在します。空気の熱伝導率は非常に低いため、この空気層が熱移動を妨げる最大の原因(熱抵抗)となります。
熱伝導材料は、この微細な隙間を埋め、空気よりもはるかに効率的に熱を伝えることで、半導体を適切な温度に保ち、安定稼働に貢献します。
代表的な熱伝導材料(TIM)の種類
熱伝導材料は、総称して TIM (Thermal Interface Material) と呼ばれます。用途や形態に応じて様々な種類があります。
| 種類 | 特徴 | 主な用途 |
| 放熱グリース | シリコーンオイルなどに熱伝導性の高い粉末(フィラー)を分散させたペースト状。非硬化性で再加工が容易。 | CPUやGPUなどの高性能デバイスとヒートシンクの間。 |
| 放熱シート | シリコーン樹脂やアクリル樹脂に高熱伝導性フィラーを混ぜてシート状にしたもの。絶縁性を持つものが多い。 | 表面に凹凸がある部品や、電気絶縁が必要な場所。 |
| 相変化材料 | ある温度に達すると溶けてグリース状になり、密着性を高める材料。高い熱伝導性を発揮。 | サーバーや高性能電子機器。 |
| 接着剤・ポッティング材 | 接着性を持ち、硬化することで固定も兼ねる。ダイボンド材など。 | 部品の固定と放熱を兼ねる場合。 |
| 金属系材料 | 銅、アルミニウム、グラファイト、ダイヤモンド複合材など。非常に高い熱伝導率を持つ。 | パワー半導体の基板(放熱基板)やヒートシンク素材、高度な放熱設計。 |
応用技術研究院様が手掛けているとされる「熱伝導材料」は、特に高放熱が求められる分野で、高性能な材料(グラフェンや窒化ホウ素などのフィラー)を用いたものに強みがあると考えられます。

半導体向けの熱伝導材料(TIM)は、発熱するチップと冷却装置の間の微細な隙間を埋め、熱を効率的に逃がす素材です。これにより、半導体の性能低下や故障を防ぎ、安定動作を可能にします。
応用技術研究院が注目されている理由は何か
応用技術研究院が注目されている主な理由は、日本の製造業が抱える喫緊の課題への対応力と、未来の産業を支えるコア技術を扱っている点に集約されます。以下の3つのポイントで注目されています。
1. 致命的な「熱問題」の解決への貢献
高性能な半導体(CPU、GPU、パワー半導体)やバッテリーは、発熱量が非常に大きく、この熱を効率的に処理できなければ、製品の性能低下や寿命短縮に直結します。
- 課題解決力: 応用技術研究院は、グラフェン、ダイヤモンド、CNTなどの高熱伝導性フィラーを活用したTIM(熱伝導材料)に強みを持っています。これは、5G/6G通信機器、EV(電気自動車)、データセンターなど、すべての高性能エレクトロニクスに不可欠な技術であり、熱問題を根本から解決するソリューションを提供できる点で注目されています。
2. 半導体後工程を支える「材料のプロフェッショナル」
同社は、熱伝導材料だけでなく、半導体の製造工程における重要な材料を扱っています。
- 半導体封止材: 半導体チップを外部環境から保護し、回路を安定させる封止材(アンダーフィルなど)を開発しています。特に先端パッケージング技術では、材料の選定が性能を左右するため、この分野での貢献が期待されています。
- 素材開発のスピード: スタートアップとしての機動力と、材料科学に特化した専門性により、顧客(電子機器メーカーや半導体メーカー)の要望に対し、迅速にカスタマイズされた材料を開発・提供できる点が評価されています。
3. 日本の「材料科学」分野での希少な存在
近年、日本の製造業では、材料の基礎研究力は高いものの、それを製品化・事業化するスピードが課題とされています。
- 専門家集団: 応用技術研究院は、まさにこの「研究から事業化」を高いスピードで行うことをミッションとしています。先端新材料という、技術的な参入障壁が高いニッチな分野で、将来の日本の産業競争力を支える核となる企業として期待が寄せられています。
特にEVやデータセンターの普及により、熱伝導材料の市場は今後も急拡大が見込まれるため、この分野をリードする企業として応用技術研究院への注目が集まっていると言えます。

応用技術研究院は、EVやデータセンターに必要な先端高放熱材や半導体封止材の開発に特化し、日本のエレクトロニクス産業が抱える熱問題の解決に貢献できる材料科学のプロ集団であるため、注目されています。
郭氏が日本で起業した理由は何か
郭若峰氏が日本で応用技術研究院を起業した理由について、報道されている情報から以下の点が指摘されています。
1. 日本の素材技術力の活用
- 郭氏は、日本の素材メーカーが長年培ってきた高い技術力に着目し、これを事業の核としたいと考えたためです。
- 特に応用技術研究院が手掛ける高機能な半導体素材(熱伝導材料、封止材など)の分野において、日本の技術基盤が優位性を持っていることが背景にあります。
2. 迅速なグローバル展開への道筋
- 日本で起業し、日本の素材技術を基盤とすることで、国際的な信用を得やすく、サムスンなどのグローバルな巨大企業との連携や、海外市場への展開を円滑に進める狙いがあると考えられます。
- 日本という場所が、中国(出身)と欧米(主要顧客)を結ぶグローバルなサプライチェーンの一環として機能すると判断した可能性があります。
3. スピード感のある事業化
- 郭氏自身が持つ中国通信大手ファーウェイ出身の技術的知見と開発へのスピード感に、日本の持つ素材の基礎的な強みを組み合わせることで、研究成果の迅速な事業化を目指しています。
- これにより、従来の日本の大企業では難しかった、機動性の高い新素材開発企業を立ち上げることが可能になったと見られます。
この起業の背景には、日本の「素材・部品産業」が再び世界的な注目を集めているという、産業構造の変化も影響していると言えます。

郭氏は、日本の高い素材技術力を事業基盤とするため、また、自身のファーウェイでの知見と融合させ研究成果の迅速な事業化を図るため、日本で応用技術研究院を起業しました。

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