この記事で分かること
- 利益増加の理由:、前年同月の利益水準が低かったことによる反動増に加え、一部産業の好調と激しい価格競争の緩和が挙げられます。
- 好調な産業とその理由:鉄道・造船、航空宇宙分野が好調でした。鉄道は国内インフラ投資、造船は国際的な新造船需要と高付加価値化、航空宇宙は国家戦略的な防衛・宇宙関連支出が増加したことが、それぞれの利益好調の主な理由です。
- 中国の国内需要の弱さの要因:不動産価格下落による逆資産効果で消費マインドが冷えこみゆや若年層の雇用不安や所得の伸び悩みが要因です。
中国の工業部門企業利益の大幅な改善
中国国家統計局が発表したデータによると、8月の工業部門企業利益は前年同月比で20.4%増加しました。これは、7月の1.5%減から一転して大幅なプラスに転じたことになり、4カ月ぶりの増加となりました。
https://jp.reuters.com/markets/world-indices/BFMUK7SSJ5MUBHBYYSMS4CVRCU-2025-09-28/
ただし、全体としては需要の弱さや不動産市場の低迷など、経済の減速懸念は依然として残っており、持続的な回復には課題があるとの分析もあります。
利益増加の背景は
中国工業部門利益が8月に20.4%と大幅に増加した背景には、主に以下の要因が挙げられます。
1. 前年同月の比較対象(ベース)の低さ
昨年8月の工業部門利益の伸びが比較的低かったため、今年の増加率が統計上大きく押し上げられました。これは、高い成長率を達成する最も大きな要因の一つです。
2. 生産者物価の安定化
一部の企業が直面していた激しい価格競争を抑制するための政府の取り組みが功を奏し、工場出荷価格の下落(デフレ)が緩和されました。これにより、企業の利ざや(マージン)が改善し、利益の回復につながりました。
3. 一部セクターの好調
データによると、特に鉄道、造船、航空宇宙などのセクターで高い伸びが記録されました。また、ハイテク製造業や新エネルギー関連産業への注力が利益回復を牽引している側面もあります。
4. マクロ経済政策の効果
景気の下支えを目的とした政府による一連の金融・財政政策が、徐々に工業生産活動の回復を促し、企業収益を支援し始めたと考えられます。
この大幅な増加は、それまで続いていた工業利益の減少傾向を覆すものであり、経済の回復に向けた明るい兆しと見られています。ただし、国内需要の根強い弱さや不動産市場の低迷など、経済全体の持続的な回復にはまだ課題が残るとの指摘もあります。

8月の中国工業部門利益が20.4%増となった主な背景は、前年同月の利益水準が低かったことによる反動増に加え、一部産業の好調(鉄道・造船など)と激しい価格競争の緩和が挙げられます。
価格競争を抑制するための政府の取り組みとは何か
中国政府が過度な価格競争(「内巻」と呼ばれる出血競争)を抑制するために行っている以下のような取り組みを行い、特定の産業セクターに対する指導や規制強化、および法改正の動きとして現れています。
1. 価格関連法の改正と規制強化
- 「価格法改正草案」の提示: 1998年の法律施行以来、27年ぶりとなる価格法の大幅な改正が進められています。
- ダンピング販売の厳格な禁止: 競争相手を市場から追い出すことなどを目的とした「原価以下のダンピング販売」を厳しく禁止し、その適用範囲を既存の商品分野からサービスやプラットフォームにまで拡大しました。
- 罰則の引き上げ: 不当な価格行為を行った事業者への過怠金(罰金)を引き上げるなど、法的責任を強化しています。
2. 重点産業への直接的な指導・介入
特に電気自動車(EV)や太陽光発電など、過剰生産と激しい価格競争が問題となっている先端産業に対して、当局が直接的な措置を講じています。
- 過剰生産能力の是正: 太陽光発電業界などでは、時代遅れの生産設備の段階的な削減を促進し、供給過剰と無秩序な低価格競争の抑制を図っています。
- 品質向上への指導: 企業に対して、単なる価格競争ではなく品質向上に注力するよう指導しています。
これらの取り組みは、一時的な利益増加だけでなく、産業全体の健全な発展と長期的な競争力の維持を目指す中国政府の意向を反映しています。

過度な価格競争を抑制するため、中国政府は価格法を改正し、原価以下のダンピング販売を厳しく禁止しました。また、EVや太陽光などの過剰生産セクターに対し、設備の削減や品質向上を指導しています。
鉄道、造船、航空宇宙が好調だった理由は
鉄道、造船、航空宇宙の各セクターが好調だった背景には、それぞれ異なる要因と、中国政府の産業戦略が関係しています。
鉄道
インフラ投資と政策的支援:景気対策としての国内インフラ投資が活発で、高速鉄道網の建設や車両製造の需要が堅調に推移しています。
造船
輸出需要の増加と高付加価値化:国際的な新造船需要(特にコンテナ船やLNG船など)の増加に加え、中国企業が技術力を向上させ、高付加価値な船舶の受注を増やしていることが利益を押し上げています。
航空宇宙
国家戦略と防衛・宇宙関連の支出:軍事力の近代化や、独自の宇宙開発計画(探査、衛星など)といった国家戦略的な投資が増加しており、関連企業の利益を牽引しています。
これらのセクターは、いずれも中国政府が重視する「新型インフラ」や「ハイエンド製造業」に属し、政策的な後押しや安定した公共部門からの需要に支えられている点が共通しています。
これは、不動産や消費などの民間需要が低迷する中で、政府主導の投資が経済を下支えしている構造を反映しています。

鉄道は国内インフラ投資、造船は国際的な新造船需要と高付加価値化、航空宇宙は国家戦略的な防衛・宇宙関連支出が増加したことが、それぞれの利益好調の主な理由です。
国内需要の根強い弱さの要因は
中国における国内需要の根強い弱さ(特に個人消費の低迷)は、主に以下の構造的な要因によって引き起こされています。
1. 不動産不況による「逆資産効果」
- 資産価値の目減り: 中国の家計は資産の大半を不動産に投資してきましたが、不動産価格の長期的な下落により、家計の資産価値が大きく減少しました(逆資産効果)。
- 消費意欲の低下: これにより、特に資産を多く持つ都市部の中高所得層の消費マインドが冷え込み、貯蓄志向が高まっています。
2. 雇用・所得環境の悪化と将来不安
- 所得の伸び悩み: 景気の減速や一部産業の不況(不動産、ITなど)の影響で、特に若年層を中心に雇用環境が厳しく、家計の実質所得の伸びが鈍化しています。
- 高い貯蓄志向: 将来の経済成長への見通しが不透明なことや、社会保障制度への不安から、消費者がリスクに備えて節約志向を強め、貯蓄を増やす行動に出ています。
3. 構造的な問題
- 可処分所得の低さ: 中国は、GDPに占める家計の可処分所得の割合が国際的に見て低いという、根本的な分配構造の問題を抱えています。
- 所得格差の拡大: 所得格差の拡大も、消費を下支えする中低所得者層の購買力を弱めています。
これらの要因が複合的に作用し、一時的な経済対策の効果を打ち消す形で、国内需要、特に個人消費の根強い弱さにつながっています。

国内需要の弱さは、不動産価格下落による逆資産効果で消費マインドが冷え込んでいることに加え、若年層の雇用不安や所得の伸び悩みから、家計の節約志向と貯蓄意欲が高まっているためです。
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