この記事で分かること
- 有機EL市場状況:中低価格帯での中国勢の攻勢により、韓国勢のシェアは低下傾向にありましたが、2025年に反転しています。スマホ向けが飽和する中、高い信頼性が求められるタブレット、ノートPC、車載用ディスプレイへと主戦場が移っています。
- なぜ、韓国勢はシェア増加できたのか:価格競争の激しいスマホ用を避け、技術難易度が高い「タンデム構造」を採用した中大型パネルに注力したためです。iPad Proなどの高付加価値製品への供給を独占・先行し、中国勢との差別化に成功しました。
- タンデム構造の有機ELとは:発光層を縦に2層以上積み重ねる構造です。1層あたりの負荷を分散できるため、従来のスマホ用に比べ約2倍の輝度と約4倍の長寿命化を実現。画面の「焼き付き」が許されない車載用やIT機器に不可欠な技術です。
有機EL市場での韓国勢の反転攻勢
韓国のサムスンディスプレイとLGディスプレイの2強が、有機EL(OLED)市場で反転攻勢を強めています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM0545A0V00C26A3000000/
飽和気味のスマホ向けから、タブレット、PCモニター、車載ディスプレイなど、中大型の高付加価値領域へシフトしてたことで、中国勢(BOE等)の猛追で低下が続いていた韓国勢の合計シェアが、2025年に上昇へ転じました。
有機EL(OLED)市場の現状はどのようなものか
現在、有機EL(OLED)市場は大きな転換点を迎えています。主な動向は以下の通りです。
- 韓国勢の反転攻勢: サムスンとLGが、中国勢の追い上げに対し、タブレットやPC向けの中型パネルでシェアを8年ぶりに拡大させています。
- 用途の拡大: 飽和したスマホ向けから、高輝度・長寿命な「タンデム構造」を採用したIT製品(iPad等)や車載ディスプレイへシフトしています。
- 次世代投資: サムスンなどの第8.6世代(大型基板)ラインへの巨額投資により、生産効率向上とコスト競争力の強化が進んでいます。
なぜ中国勢が追い上げているのか
中国勢が有機EL(OLED)市場で急速にシェアを伸ばし、韓国勢を猛追している主な理由は以下の3点に集約されます。
- 政府による莫大な補助金: 中国政府は「国産化」を掲げ、BOE(京東方科技集団)などのメーカーに対し、工場建設費の還付や税制優遇、安価な融資など、巨額の公的支援を継続しています。
- スマホ向けパネルの低価格攻勢: 難易度の高い大型パネルではなく、まず需要の多いスマートフォン向け(第6世代ライン)に集中投資し、圧倒的な生産能力と低価格を武器に、小米(シャオミ)やOPPOなど自国メーカーのシェアを固めました。
- 歩留まりの改善と技術習得: かつては品質面で劣っていましたが、韓国メーカーから技術者を引き抜くなどの人材確保に加え、数年間の量産経験を経て「歩留まり(良品率)」が大幅に向上し、iPhoneなどのハイエンド端末への供給にも食い込み始めています。
中長期的には、中大型パネル(IT・車載向け)でも韓国勢に追いつくべく、次世代の第8.6世代ラインへの投資を加速させています。

中国政府の巨額補助金による大規模な設備投資、スマホ向けパネルの低価格攻勢、そして韓国勢からの技術者引き抜きや量産経験による歩留まり向上により、中国勢の追い上げが続いていましたが、韓国勢が用途の拡大によって、タブレットやPC向けの中型パネルでシェアを8年ぶりに拡大させています。
どのような製品を増やしたのか
韓国勢は、スマホ向けの価格競争を避け、「中大型・高付加価値製品」へシフトすることでシェアを奪い返しています。具体的には以下の3つのカテゴリーを強化しています。
拡大した主な製品カテゴリー
- IT製品(タブレット・ノートPC)
- iPad Air/Pro: 2024〜2026年にかけて、Apple製品への採用が本格化。
- ハイエンドPC: 「LG gram Pro」などの軽量・薄型ノートPCや、クリエイター向けモニター。
- 車載用ディスプレイ
- デュアルビューOLED: 運転席と助手席で異なる映像を表示できるパネル。
- インフォテインメント: 高級車のダッシュボード全体を覆う大型・曲面パネル。
- ゲーミングデバイス
- 高リフレッシュレート(330Hz以上)や超ワイド(5K2K)な競技用モニター。
差別化の鍵:「タンデム構造(Tandem OLED)」
これらの製品には、発光層を2層(またはそれ以上)に重ねる「タンデム構造」が採用されています。
この技術で解決した課題
| 項目 | 効果 |
| 高輝度 | 画面が明るくなり、屋外や車内でも見やすくなった。 |
| 長寿命 | 発光層の負荷を分散し、有機ELの弱点である「焼き付き」を大幅に抑制。 |
| 信頼性 | 氷点下や高温など、過酷な車載環境でも安定して動作。 |
韓国勢は、この「寿命と信頼性」が求められる領域に投資を集中させ、中国勢がまだ量産に苦戦している間に先行逃げ切りを図っています。

スマホ向けから、高輝度・長寿命な「タンデム構造」を採用したタブレットやノートPC等のIT製品、車載用ディスプレイ、高リフレッシュレートのゲーミングモニターへ拡大しています。信頼性が求められる中大型領域へ注力しています。
タンデム構造の有機ELとはなにか
タンデム構造(Tandem OLED)とは「発光層(有機材料が光る層)を2つ以上積み重ねた構造」のことです。
従来のスマートフォン向け有機ELは発光層が1層の「シングルスタック」が主流でしたが、より高い信頼性が求められるデバイス向けに開発されました。
1. 構造の仕組み
2つの発光層の間に「電荷発生層(CGL)」を挟み込むことで、電流を効率よく流し、両方の層を同時に光らせます。
2. 主なメリット
- 長寿命(約4倍): 発光層を分けることで1層あたりの負荷が減り、有機EL最大の弱点である「焼き付き」を劇的に抑制します。
- 高輝度(約2倍): 2層で発光するため、屋外の直射日光下でも視認性が高い圧倒的な明るさを実現できます。
- 省電力: 同じ明るさを出す場合、シングル構造よりも低い電圧で駆動できるため、バッテリー持ちが向上します。
3. なぜ今注目されているのか
これまでスマホ(使用時間や画面の切り替わりが激しい)ではシングルで十分でしたが、以下の用途で必須技術となったためです。
- タブレット・PC: 同じ画面(メニューバー等)を長時間表示するため、焼き付き防止が不可欠。
- 車載ディスプレイ: 命に関わる計器類を表示するため、10年以上の耐久性と真夏の車内でも負けない輝度が求められる。
最新のiPad Pro(M4モデル)に採用されたことで、一気に一般層にも認知が広がりました。

発光層を2層以上重ねることで、従来の1層構造に比べ高輝度と約4倍の長寿命化を実現した技術です。素子への負荷を分散し「焼き付き」を抑えられるため、高い信頼性が求められるタブレットや車載用に最適です。
eLEAPとの比較は
eLEAPは、JDI(ジャパンディスプレイ)が開発した、従来の製造方式を根底から変える次世代の有機EL技術です。
タンデム構造が「発光層を縦に重ねる(構造)」のに対し、eLEAPは「発光層を横に並べる際の作り方(工法)」に革新があります。
eLEAPとタンデム構造の主な比較
| 比較項目 | タンデム構造(主に韓国勢) | eLEAP(JDI独自技術) |
| 革新のポイント | 構造の積み重ね: 発光層を2層にして負荷を分散。 | マスクレス露光: 金属マスクを使わず、光で発光層を形成。 |
| 開口率 | 従来と同等(20~30%程度)。 | 約2倍(60%以上): 発光面積が大幅に広い。 |
| 寿命・輝度 | 2層にすることで長寿命・高輝度化を実現。 | 広い発光面積により、低電流で高輝度を出せるため3倍以上の長寿命。 |
| コスト・サイズ | 構造が複雑で工程数が増える(コスト高)。 | マスク不要のため、大型基板でも高精細なパネルを安く作れる可能性。 |
両者の関係性
実は、これらは相反するものではなく、「eLEAP方式でタンデム構造を作る」ことも可能です。
- タンデム構造: いわば「エンジンの数を2つに増やして出力を上げ、1つあたりの負荷を減らす」技術。
- eLEAP: いわば「シリンダーのサイズ(発光面積)を極限まで広げ、ゆとりを持って高出力を出す」技術。
eLEAPは、これまで中小型パネルの精細度を制限していた「FMM(ファインメタルマスク)」という部品を使わないため、輝度・寿命・省電力のすべてでタンデム構造以上のポテンシャルを持つと期待されています。

タンデムが「発光層を縦に重ねて」寿命を延ばす構造なのに対し、JDIのeLEAPは「発光層を横に広げて」発光効率を高める新工法です。eLEAPはマスクレス露光で開口率を倍増させ、更なる長寿命と低消費電力を実現します。

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