日亜化学工業と産総研の紫外放射照度計校正用標準LED 標準光源、紫外放射照度計とは何か?

この記事で分かること

  • 標準光源とは:標準光源は、測定や評価の基準となる、特定の条件下で安定した光を提供する光源です。色の評価や光量計の校正に不可欠で、客観的で正確な測定を実現します。
  • 紫外放射照度計とは:紫外線(UV)の強さ(放射照度)を測定する計測器です。UV硬化、殺菌、半導体製造などで光量を管理し、品質と安全性を確保するために不可欠です。

日亜化学工業と産総研の紫外放射照度計校正用標準LED

 日亜化学工業は、産業技術総合研究所(産総研)と共同で、紫外放射照度計校正のための「標準LED」を開発し、2025年4月より販売を開始しています。

 この開発は、これまで紫外放射照度計の校正に主に使われてきた水銀ランプに代わるものとして注目されています。

標準光源とは何か

 「標準光源」とは、測定や評価の基準となる、特定の条件下で安定した光を提供する光源のことです。特に、色や光の量を正確に測る必要がある分野で非常に重要になります。

 物体がどのように見えるかは、それを照らす光の性質(色、明るさ、分光分布など)によって大きく変化します。例えば、同じ赤い物体でも、太陽光の下で見るのと、電球の下で見るのとでは、赤みの度合いが異なって見えることがあります。

 このため、正確な測定や客観的な評価を行うためには、光源の条件を一定に定める必要があります。その「一定に定められた光源」が標準光源です。

標準光源の主な役割は以下の通りです。

  • 色の評価と管理: 印刷物や製品の色を評価する際、常に同じ光の条件で確認することで、色の再現性を高め、品質の一貫性を保ちます。国際照明委員会(CIE)が定めたD50(印刷・グラフィックアート向け)、D65(一般的な昼光)などが有名です。
  • 光の量(光度、照度、放射照度など)の校正: 光を測定する機器(光度計、照度計、放射照度計など)が正確な値を示すように、既知の、かつ信頼できる光の量を放出する標準光源を用いて校正を行います。日亜化学が開発した紫外線LEDの標準光源は、この「紫外放射照度計の校正」に用いられます。
  • 研究開発: 光の性質や物質との相互作用を研究する際、再現性の高い実験を行うために標準光源が利用されます。

 標準の光(Standard Illuminant)標準光源(Standard Light Source)は混同されやすいですが、厳密には異なります。

  • 標準の光(Standard Illuminant): CIEが定めた、特定の色温度や分光分布を持つ「光の性質」そのものを指します。これは数学的な概念であり、具体的な物理的な光源ではありません。
  • 標準光源(Standard Light Source): 「標準の光」で定められた分光分布を実現する具体的な人工光源のことを指します。日亜化学が開発した紫外線LEDは、この「標準光源」にあたります。

 このように、標準光源は、科学、産業、医療など、幅広い分野で正確な光の測定と評価を可能にするための基盤となる重要な要素です。

標準光源は、測定や評価の基準となる、特定の条件下で安定した光を提供する光源です。色の評価や光量計の校正に不可欠で、客観的で正確な測定を実現します。国際的な基準に基づき、様々な分野で品質管理や研究開発に活用されています。

紫外放射照度計

「紫外放射照度計」とは、紫外線(UV)の強さ(放射照度)を測定する計測器のことです。

 光の強さを表す単位にはいくつかありますが、紫外線の場合、単位面積あたりにどれくらいのエネルギーが照射されているかを示す「放射照度(Irradiance)」が用いられます。

 単位は通常、W/m²(ワット毎平方メートル)やmW/cm²(ミリワット毎平方センチメートル)で表されます。また、一定時間に照射された光の総量を示す「積算光量(Exposure Dose)」も測定でき、単位はJ/m²(ジュール毎平方メートル)やmJ/cm²(ミリジュール毎平方センチメートル)です。

主な機能と特徴

  • 特定波長の測定: 紫外線は、波長によってUV-A(315~400nm)、UV-B(280~315nm)、UV-C(100~280nm)に分けられます。紫外放射照度計は、測定対象となる紫外線の種類(例えばUV-Cランプの殺菌効果、UV硬化装置のUV-A強度など)に合わせて、特定の波長域のエネルギーを測定できます。
  • リアルタイム測定と積算測定: 現在の放射照度をリアルタイムで表示するだけでなく、一定時間内に照射された積算光量を測定する機能を持つものもあります。
  • 校正の重要性: 正確な測定のためには、標準光源を用いて定期的な校正が必要です。日亜化学が開発した標準LEDは、まさにこの紫外放射照度計の校正に用いられます。
  • 種類:
    • 放射照度計(照度計): 特定の波長域における合計の強度が重要な用途に最適です。一般的に小型で取り扱いが容易なため、製造現場などで広く使われます。
    • 分光放射照度計: 紫外光をスペクトル成分に分解し、波長ごとの放射照度を測定できる高機能な測定器です。より詳細な光の評価や、光源のスペクトル特性変化の分析などに用いられます。

主な用途

 紫外放射照度計は、様々な産業や研究分野で幅広く利用されています。

  • UV硬化プロセス: 塗料、インク、接着剤などのUV硬化工程において、最適な硬化条件を確立し、品質を管理するために紫外線の強度や積算光量を測定します。
  • 殺菌・除菌: 医療機器、食品、水、空気などの殺菌・除菌に使われるUVランプ(特にUV-C)の性能評価や管理に必要です。新型コロナウイルスの感染対策としても注目されています。
  • 半導体製造: 半導体露光装置など、紫外線を用いる精密な製造プロセスでの光量管理に不可欠です。
  • 医療・美容: 光線療法や美容機器における紫外線量の管理、皮膚への影響評価など。
  • 環境モニタリング: 太陽光に含まれる紫外線量のモニタリングや、環境調査など。
  • 植物育成: 特定の紫外線が植物の成長に与える影響を研究する際などに使用されます。

  このように、紫外放射照度計は、紫外線を利用する技術や製品の品質確保、安全性管理、そして研究開発において、非常に重要な役割を担う測定器です。

紫外放射照度計は、紫外線(UV)の強さ(放射照度)を測定する計測器です。UV硬化、殺菌、半導体製造などで光量を管理し、品質と安全性を確保するために不可欠です。特定の波長域の測定や積算光量の記録も可能で、正確な使用には校正が重要です。

水銀ランプから代替が必要な理由はなにか

 水銀ランプからの代替が必要な理由は多岐にわたりますが、主に環境問題性能・運用面でのデメリットが挙げられます。そして、その代替を進める上でのいくつかの課題も存在します。

水銀ランプからの代替が必要な理由

  1. 環境負荷(水俣条約による規制):
    • 水銀は人体や環境に有害な物質であり、適切に処理されない場合、水質汚染や土壌汚染を引き起こす可能性があります。
    • 2013年に採択された「水銀に関する水俣条約」により、水銀の人為的な排出を削減・廃絶するための国際的な枠組みが設けられました。これに基づき、特定の水銀使用製品(一般照明用の高圧水銀ランプや一部の蛍光ランプなど)の製造・輸出入が段階的に禁止されています。特殊用途の紫外線ランプは直ちに規制対象外ですが、将来的な規制強化や環境意識の高まりから、代替への移行が強く推奨されています。
    • 水銀ランプの廃棄には、水銀含有廃棄物としての適切な処理が必要となり、高額な処理費用が発生します。
  2. 省エネルギー性:
    • 水銀ランプは消費電力が大きく、CO2排出量も多いため、地球温暖化対策や電気代削減の観点から非効率です。
    • LEDなどの代替光源は、水銀ランプに比べて大幅に消費電力を抑えることができ、ランニングコスト削減に大きく貢献します。
  3. 長寿命化とメンテナンスコストの削減:
    • 水銀ランプの平均寿命は比較的短く(数千〜1万時間程度)、頻繁なランプ交換が必要です。これにより、交換の手間、費用、そして作業に伴う業務停止時間が発生します。
    • LEDは水銀ランプの数倍から10倍以上長寿命であり、交換頻度が大幅に減るため、メンテナンスコストの削減につながります。
  4. 性能面での優位性:
    • 瞬時点灯: 水銀ランプは点灯に時間がかかりますが、LEDは瞬時に点灯・消灯が可能です。これは、必要な時にだけ光を照射するような用途(例:UV硬化、殺菌)で大きなメリットとなります。
    • 熱発生の低減: 水銀ランプは発熱量が多いため、周囲の温度上昇や空調負荷の増加を招きます。LEDは発熱が少なく、空調費用の削減にも寄与します。
    • 小型化・設計の自由度: LEDは小型で設計の自由度が高く、よりコンパクトで効率的な装置開発が可能です。
    • 波長制御の容易さ: LEDは特定の波長を効率良く発光させることができ、用途に応じた最適な紫外線を選定・利用しやすくなります。

水銀ランプからの代替における課題

  1. 初期費用の高さ:
    • 特に高出力のUV-LEDなど、水銀ランプの代替となるLED製品は、まだ導入時の初期費用(イニシャルコスト)が高い傾向にあります。特に工場や大規模施設など、多数の光源を交換する場合、費用対効果の算出が重要になります。
  2. 技術的な適合性の確保:
    • これまで水銀ランプの光に最適化されてきた既存のプロセスや材料(例:UV硬化樹脂)が、LEDの光に完全に適合しない場合があります。LEDのスペクトル特性に合わせて、材料やプロセスの再設計・調整が必要となることがあります。
    • 特にUV-LEDは、水銀ランプと異なるスペクトル分布を持つため、特定の波長での高い精度が求められる標準光源などの用途では、その特性を十分に考慮した設計と校正が不可欠です。
  3. 既存設備の改修コストと手間:
    • 水銀ランプを使用している既存の設備をLEDに置き換える場合、ランプだけでなく、電源装置(安定器など)や光学系なども含めた改修が必要になることがあります。これにより、初期費用だけでなく、工事の手間や期間も考慮する必要があります。
  4. 代替製品の認知度と普及:
    • 特に特殊用途のUVランプ分野では、水銀ランプが長年使われてきたため、代替となるUV-LED製品の性能や信頼性に対する情報が不足している場合や、普及が十分に進んでいない場合があります。

これらの理由と課題を背景に、日亜化学と産総研が開発した「標準LED」は、UV-LEDの普及を加速させ、より精度の高い測定環境を提供することで、今後の産業の発展に貢献すると期待されています。

水銀ランプ代替は、水俣条約による環境負荷(水銀有害性)規制と、省エネ性・長寿命化が主な理由です。課題は、UV-LEDなどの初期費用、既存プロセスとの技術適合性、設備改修コストであり、これらの克服が普及の鍵となります。

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