この記事で分かること
- AUECCの扱っている製品:半導体製造の洗浄・乾燥工程に不可欠な超高純度のプロセスケミカル(特殊化学薬品)を扱っています。微細な異物や不純物を除去し、半導体の歩留まりと性能を確保するために使用されます。
- 買収の理由:半導体材料事業の売上高2倍目標達成に向け、AUECCの台湾・米国拠点を獲得し、超高純度プロセスケミカルのグローバル供給体制と製品ラインナップを強化するためです。
- シナジー効果の例:グローバル供給網を強化とともに、両社の製品ラインアップと高純度化技術ノウハウを融合させることで、半導体材料事業の成長を加速させることを目指しています。
住友化学のAUECCの買収
住友化学が台湾の半導体用プロセスケミカルメーカーであるAUECC (Asia Union Electronic Chemical)の全株式を取得することで合意した、というニュースが本日(2025年11月20日)発表されています。
https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/802ec68e71af2c1692bf748ef6b133d7204a0089
この買収により、住友化学は半導体材料事業におけるリーディングカンパニーとしての地位を強固にし、高成長が見込まれる市場でのシェア拡大を図る狙いです。
AUECCはどんな材料を扱っているのか
AUECC社が扱っている主要な材料は、「半導体用プロセスケミカル」です。これは、半導体チップを製造する工程、特に洗浄(クリーニング)や乾燥のプロセスで使用される特殊な化学薬品を指します。
プロセスケミカルの役割と特徴
- 主な用途:異物除去(洗浄)
- 半導体の製造工程では、回路パターンを形成する際に、微細な塵やレジスト残渣(カス)、金属不純物などがウェハー上に付着します。
- これらのpptレベル(1兆分の1)の超微細な異物を除去し、ウェハー表面を超高純度に保つためにプロセスケミカルが使用されます。
- 洗浄・乾燥が不完全だと、半導体の性能低下や歩留まりの悪化に直結するため、非常に重要な材料です。
- 求められる品質
- 半導体の微細化が進むにつれて、プロセスケミカルにも超高純度が求められます。
- AUECC社は、この超高純度な製品と、それを実現するための高度な品質管理体制、および原料調達から製造、物流までの一貫した供給体制を強みとしています。
- 具体的な種類(一般論)
- 「プロセスケミカル」は広い概念ですが、具体的な製品群としては、エッチング後の残渣を除去する残渣除去液や、不要な薄膜を取り除くエッチャント(エッチング液)、レジスト剥離液などが含まれます。
AUECC社は半導体の性能を左右する「洗浄・乾燥」工程に不可欠な、超高純度の特殊化学薬品を専門に提供している企業です。

AUECCは、半導体製造の洗浄・乾燥工程に不可欠な超高純度のプロセスケミカル(特殊化学薬品)を扱っています。微細な異物や不純物を除去し、半導体の歩留まりと性能を確保するために使用されます。
住友化学が買収する理由は何か
住友化学がAUECCを買収する主な理由は、半導体材料事業のグローバルな成長を加速し、サプライチェーンを強化することにあります。特に重要なポイントは以下の3点です。
1. 成長戦略の加速と目標達成
- 事業の成長ドライバー: 住友化学は、半導体材料事業を中長期的な成長ドライバーの一つと位置づけています。
- 売上高目標: この買収を通じて、半導体用プロセスケミカル事業で2030年度に2024年度比で売上高約2倍を目指す、という事業戦略の達成を強力に推進します。
2. グローバルな供給体制の拡充
- 製造拠点の確保: AUECCは台湾(高雄市)と米国(ネバダ州)に製造拠点を持っています。
- 台湾拠点の獲得: 住友化学にとって、半導体産業の中心地の一つである台湾に初の製造拠点を獲得できることは、非常に大きなメリットです。
- 米国拠点の強化: 米国でもテキサス州の工場に次ぐ第2の拠点を手に入れ、グローバルな生産・供給ネットワークを大幅に強化できます。
3. 製品ラインアップと顧客基盤の強化
- 製品の相乗効果: AUECCの幅広い製品ラインアップや供給形態、グローバルな販売・調達ネットワークを活用することで、住友化学グループとして提供できるソリューションを増やし、顧客への提供価値を向上させます。
- 技術的なシナジー: 住友化学グループが培ってきた技術をAUECC側に導入することで、生産効率の向上などのシナジー効果も期待されています。
AIやデータセンター需要の拡大により、超高純度なプロセスケミカルの市場は今後も成長が見込まれており、住友化学はこの成長市場でリーダーシップを強固にしたい考えです。

半導体材料事業の売上高2倍目標達成に向け、AUECCの台湾・米国拠点を獲得し、超高純度プロセスケミカルのグローバル供給体制と製品ラインナップを強化するためです。
住友化学が半導体材料事業で扱っている材料は何か
住友化学が半導体材料事業で扱っている材料は非常に幅広く、多岐にわたります。主な製品カテゴリーは以下の通りです。
1. 半導体製造プロセス材料(前工程)
- フォトレジスト(商品名:スミレジスト®など)
- 半導体回路をウェハー上に形成する露光工程で使用される感光性樹脂です。ArF液浸、KrF、i線プロセス用、さらには最先端のEUV(極端紫外線)レジストの開発も進めています。
- プロセスケミカル(高純度薬品)
- 洗浄液や剥離液など、半導体製造の洗浄・乾燥工程で使用されます。異物や金属不純物を除去するために、ppt(1兆分の1)レベルの超高純度が要求されます。(←今回買収したAUECCの主力製品もここに含まれます。)
- 高純度硫酸などの高純度薬液も提供しています。
2. 化合物半導体材料
- GaN(窒化ガリウム)やGaAs(ガリウムヒ素)の基板やエピウェハー
- 従来のシリコン半導体にはない優れた特性(高速性、高耐圧)を持ち、5G通信機器やパワーデバイス、LEDなどに使われます。住友化学はこれらの材料を供給しています。
3. スパッタリングターゲット
- アルミニウムスパッタリングターゲット
- 半導体チップやフラットパネルディスプレイの配線形成に使われる材料です。原料となる超高純度アルミニウム地金から最終製品まで一貫して製造できるのが強みです。
4. その他
- CMOSイメージセンサー材料
- 高純度アルミナ(HPA)
- 高機能部品やリチウムイオン二次電池の部材などにも使われます。
住友化学は、これらの幅広い材料を通じて、半導体の高集積化・高性能化を支える総合的なソリューションを提供しています。

フォトレジストや超高純度プロセスケミカル(洗浄液)、化合物半導体基板(GaN、GaAsなど)、配線形成用のスパッタリングターゲットといった、多岐にわたる高機能な半導体材料を提供しています。
シナジー効果の内容は何か
住友化学がAUECCを買収することで期待される「シナジー効果」の具体的な内容は、主に事業基盤の強化と技術的な相乗効果の二つの側面から説明できます。
1. 供給・販売体制のシナジー(事業基盤の強化)
| 分野 | シナジーの内容 | 期待される効果 |
| 地理的補完 | 住友化学(日本、アジア、米テキサス)とAUECC(台湾、米ネバダ)の製造・販売拠点を相互に活用。 | グローバルな安定供給体制を確立し、地政学リスクにも強いサプライチェーンを構築。特に台湾の半導体市場へのアクセスを強化。 |
| 製品ラインアップ | 両社のプロセスケミカルの製品群を組み合わせる。 | 顧客に対し、より幅広いソリューションをワンストップで提供可能となり、顧客満足度の向上やシェア拡大につながる。 |
| 顧客基盤 | 両社の既存の顧客ネットワークを相互に活用する。 | それぞれの強みを持つ地域や分野で、新規顧客の開拓や既存顧客へのクロスセル(別製品の販売)を促進する。 |
2. 技術・コストのシナジー(生産効率の向上)
- 技術の融合と効率化: 住友化学が長年培ってきた超高純度化技術や高度な品質管理ノウハウをAUECCの製造プロセスに適用することで、AUECC製品の品質向上や生産効率の改善が期待されます。
- 原料調達の効率化: グループ全体の調達量を増やし、スケールメリットを活かすことで、原料調達コストの低減が可能になる可能性があります。
- 物流最適化: 拠点配置の見直しや共同輸送などにより、効率的なロジスティクス体制を構築し、物流コストの削減を目指します。
これらのシナジー効果を通じて、住友化学は半導体材料事業における競争力を飛躍的に高め、目標とする成長達成を目指しています。

台湾・米国での生産拠点獲得でグローバル供給網を強化し、両社の製品ラインアップと高純度化技術ノウハウを融合させることで、半導体材料事業の成長を加速させることです。

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