この記事で分かること
- モノマテリアルとは:単一の素材(材料)で構成されている製品や包装材を指し、リサイクルのしやすいという特徴から注目を集めています。
- PPWRとは:EUが包装廃棄物の削減とリサイクルを促進するために制定を進めている新しい規制です。
- どうやってバリア性を付与するのか:無機酸化物の蒸着や高バリア性樹脂の少量ブレンドなど少量の別物質を添加することや多層化、延伸などでバリア性を高めることができます。
凸版印刷のモノマテリアル包装材料
凸版印刷(TOPPAN)は、欧州で導入が進められている「包装・包装廃棄物規則(PPWR)」に対応するため、モノマテリアル(単一素材)の包装材料の拡充に注力しています。
https://chemicaldaily.com/archives/651148
モノマテリアル化することで、リサイクルを容易にし、PPWRに対応するものとしています。
PPWRとは何か
PPWRは、「Packaging and Packaging Waste Regulation(包装・包装廃棄物規則)」の略で、EU(欧州連合)が包装廃棄物の削減とリサイクルを促進するために制定を進めている新しい規制です。
PPWRの主な目的と内容
- 包装廃棄物の削減: EU域内における包装廃棄物の発生量を削減することを強く推進しています。具体的には、2018年を基準として、2030年までに5%、2035年までに10%、2040年までに15%の包装廃棄物削減目標を各加盟国に課しています。
- リサイクル性の向上: すべての包装が、再利用可能またはリサイクル可能であることを目指しています。
- 2030年までの目標: すべての包装は「リサイクルのための設計(Design for Recycling: DfR)」基準に適合し、技術的にリサイクル可能である必要があります。
- 2035年までの目標: 包装が廃棄物となった場合、他の廃棄物のリサイクルに影響を与えることなく、個別に回収され、特定の廃棄物の流れに分別され、大規模にリサイクルされなければなりません。
- 再生プラスチックの利用促進: プラスチック包装に含まれる再生プラスチックの最低使用率を義務付けています。
- 再利用の推進: 特定の包装形態において、再利用可能な包装の使用を義務付けたり、目標を設定したりしています。
- 拡大生産者責任(EPR)の強化: 包装のライフサイクル全体にわたって、生産者がより大きな責任を負うことを明確にしています。これにより、生産者は持続可能な包装ソリューションの開発に積極的に取り組むようになります。
- モノマテリアル化の推進: 特にプラスチック包装において、リサイクルしやすい「モノマテリアル(単一素材)」化への準備が必須とされています。これにより、効率的なリサイクルが可能となります。
なぜPPWRが重要か?
PPWRは、EUが掲げる「欧州グリーンディール」の中核をなすものであり、循環型経済への移行を加速させるための重要な柱です。
この規則は、EU域内で流通するすべての包装(EU域外からの輸入品も含む)に適用されるため、EUと取引のある日本企業にとっても大きな影響を与えます。
企業は、PPWRの要件を満たすために、包装材の設計変更、リサイクル性の向上、再生材の利用拡大、再利用システムの導入など、多岐にわたる対応が求められています。これに適切に対応できない場合、EU市場での製品販売に影響が出る可能性があります。

PPWRはEUが包装廃棄物の削減とリサイクルを促進するために制定を進めている新しい規制です。適切に対応できない場合、EU市場での製品販売に影響が出る可能性があります。
モノマテリアルとは何か
「モノマテリアル」とは、単一の素材(材料)で構成されている製品や包装材を指す言葉です。
「モノ(mono-)」は「ひとつの、唯一の」という意味、「マテリアル(material)」は「原料、素材」という意味で、これらを組み合わせた造語です。
なぜモノマテリアルが注目されているのか?
モノマテリアルが特に注目されている最大の理由は、リサイクル性の向上にあります。
- リサイクルの簡素化: 多くの包装材は、製品の保護や機能性(バリア性、耐熱性、強度など)を高めるために、複数の異なる素材(例えば、プラスチックフィルム、アルミ箔、紙など)を何層にも貼り合わせた「マルチマテリアル(複合素材)」でできています。しかし、これらの異なる素材が混ざっていると、リサイクルの際に素材ごとに分離するのが非常に困難になります。モノマテリアルであれば、最初から単一の素材でできているため、この分離工程が不要となり、リサイクルプロセスを大幅に簡素化できます。
- リサイクル品質の向上: 異素材が混入しないため、リサイクルされた材料の品質が高まり、再利用できる範囲が広がります。例えば、ペットボトルやアルミ缶は、比較的単一素材で作られているため、高いリサイクル率を誇っています。
- 環境負荷の低減: リサイクル効率が向上することで、新たなバージン素材の製造に必要なエネルギーや資源の使用を抑え、CO2排出量削減にも貢献します。循環型経済の実現に向けた重要な取り組みとして位置づけられています。
- 法規制への対応: 欧州のPPWR(包装・包装廃棄物規則)のように、世界中で包装材のリサイクル性向上や再生材利用を義務付ける動きが強まっており、モノマテリアル化はその要件を満たすための重要な手段となっています。
モノマテリアル化の課題
一方で、モノマテリアル化には課題もあります。
- 機能性の維持: 従来のマルチマテリアルは、異なる素材の長所を組み合わせることで、非常に高いバリア性(酸素や水蒸気を遮断する性能)、耐熱性、強度などを実現してきました。単一素材でこれらの多岐にわたる機能を同等に満たすことは、技術的に非常に難しい場合があります。
- コスト: 新しいモノマテリアル対応素材の開発や、それに対応する生産設備の導入には、研究開発費用や設備投資が必要となり、一時的にコストが増加する可能性があります。
- しかし、これらの課題を克服するための技術開発が積極的に進められており、特に包装業界では、高いバリア性を持つポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)ベースのモノマテリアルフィルムの開発が進んでいます。

モノマテリアルとは、単一の素材(材料)で構成されている製品や包装材を指し、リサイクルのしやすいという特徴から注目を集めています。
モノマテリアルにどうやってバリア性を持たせるのか
ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)といったポリオレフィン系樹脂は、安価で加工しやすく、耐水性に優れるといった利点がある一方で、酸素や水蒸気などのガスに対するバリア性(遮断性)が低いという欠点があります。
しかし、モノマテリアル化のニーズが高まる中で、各メーカーは様々な技術を駆使して、PPやPEに高いバリア性を持たせることに成功しています。
透明蒸着技術(TOKUANの「GL BARRIER」など)
- 原理: PPやPEフィルムの表面に、シリカ(酸化ケイ素)やアルミナ(酸化アルミニウム)などの無機酸化物を非常に薄く(ナノメートルレベル)蒸着させる技術です。この無機酸化物層が、酸素や水蒸気の透過を強力に防ぎ、高いバリア性を発現します。
- 特徴: 透明性を維持できるため、内容物が見える包装材にも適用可能です。また、アルミ箔を使わないため、金属探知機にも対応できます。
- 凸版印刷のGL BARRIER: 凸版印刷は、この透明蒸着技術で世界トップシェアを誇り、PPやPEを基材とした「GL-X-BP(PP基材)」や「GL-X-LE(PE基材)」といった透明バリアフィルムを開発しています。これらは、従来のPET基材と同様の高いバリア性を持つだけでなく、ボイル殺菌やホット充填にも対応できる耐熱性・耐水性も兼ね備えています。
特殊なポリマーの設計・ブレンド
- 原理: PPやPE自体の分子構造を改良したり、特定の高バリア性樹脂を少量ブレンドしたりすることで、バリア性を向上させる方法です。例えば、PPやPEの結晶構造を最適化したり、特定の官能基を導入したりすることで、ガス分子の透過を抑制します。
- 特徴: 既存のPPやPEの特性を大きく損なうことなくバリア性を付与できる可能性があります。ただし、完全に単一素材とは言えない場合があります。
多層化(ただし、モノマテリアルを維持)
- 原理: PPやPEの異なるグレードや、バリア性を持たせたPP/PE層を、同じPP/PE素材の接着層を介して多層構造にすることで、全体のバリア性を高めます。この場合、すべての層がPPまたはPEであるため、全体としてモノマテリアルとみなされます。
- 例: バリア層となるPPやPE、シール層となるPPやPEなどを組み合わせる。
- 特徴: 既存の技術を応用しやすく、比較的安定したバリア性を実現できます。
コーティング技術
- 原理: PPやPEフィルムの表面に、バリア性の高い特殊なコーティング剤を塗布する技術です。EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)やPVDC(ポリ塩化ビニリデン)といった高バリア性樹脂を薄くコーティングする方法が考えられますが、モノマテリアルを目指す場合、これらの異種素材の使用は最小限に抑えるか、あるいはPP/PE系の特殊なバリアコート材が開発されています。
- 特徴: 後処理でバリア性を付与できるため、既存のフィルムに適用しやすい場合があります。
延伸技術(MDOPEなど)
- 原理: PEフィルムを特定の方向に延伸(引き伸ばす)することで、分子の配向を制御し、バリア性を向上させる技術です。MDOPE (Machine Direction Oriented Polyethylene) は、機械方向に延伸されたPEフィルムで、強度や透明性、そしてバリア性が向上します。
- 特徴: フィルム自体の物性を改善することでバリア性を付与するため、他の材料を積層したりコーティングしたりする必要がありません。
これらの技術を単独で、または組み合わせて用いることで、PPやPEのモノマテリアル包装材に、従来の複合素材と同等、あるいはそれに近い高いバリア性を持たせることが可能になっています。特に、レトルト食品のような高い耐熱性やバリア性が必要とされる用途でも、PPモノマテリアルでの対応が進んでいます。

無機酸化物の蒸着や高バリア性樹脂の少量ブレンドなど少量の別物質を添加することや多層化、延伸などでバリア性を高めることができます。
異なる物質を混ぜても、モノマテリアルと認められるのか
「モノマテリアル」の定義は、厳密には文脈や規制によって多少異なりますが、基本的な考え方は「主要な構成材料が単一の素材であること」です。
つまり、完全に1種類の化学物質しか含まれていないという厳密な意味での「単一素材」である必要は、多くの場合ありません。
重要なのは、リサイクルプロセスにおいて、単一の素材として効果的に回収・処理できるかどうかという点です。
例えば、PPWR(欧州包装・包装廃棄物規則)におけるモノマテリアル化の基準では、以下のような点が考慮されます。
- 主要素材の比率: 特定のプラスチック(PPやPEなど)が、包装材全体の重量の90%以上を占めている場合、その素材のモノマテリアルとみなされることが多いです。一部の例外的なケースでは80%以上の場合もあります。
- 「相溶性(Compatibility)」: 微量の異なる素材(例えば、バリア層として非常に薄く蒸着された無機酸化物や、ごく少量の添加剤、インクなど)が含まれていても、それがリサイクルプロセスやリサイクルされた材料の品質に悪影響を与えない、あるいは分離が容易である場合、モノマテリアルとみなされます。
- 透明蒸着: PPやPEフィルムにシリカやアルミナを蒸着させたものは、非常に薄い層であるため、リサイクルプロセスで除去しやすい、あるいはリサイクルされた材料に混入しても品質への影響が少ないと判断され、モノマテリアルとみなされます。
- 添加剤: 加工性や機能性を付与するための添加剤(滑剤、酸化防止剤など)は、少量であれば許容されます。
- インクや接着剤: これらもリサイクルプロセスで除去できる、または影響が小さいと判断されるものが求められます。PPWRでは、リサイクルプロセスで容易に溶解できる接着剤の使用が推奨されています。
- 特定物質の排除: PVC(ポリ塩化ビニル)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、アルミニウム箔、PET(ポリエチレンテレフタレート)など、主要な素材とは異なる種類の高機能素材が少量でも含まれると、リサイクルの阻害要因となるため、モノマテリアルとしては認められない場合が多いです。これらの物質は、特定の素材のリサイクルストリーム(PPストリームやPEストリームなど)で混入すると、リサイクル品の品質を著しく低下させる可能性があります。
- 密度: 特にプラスチックのリサイクルにおいて、密度が1g/cm³未満であることも重要な基準となることがあります。これは、水に浮くプラスチック(PEやPPなど)は、それ以外の沈むプラスチック(PETなど)と容易に分離できるためです。
したがって、ポリプロピレンやポリエチレンにバリア性を持たせるために、微量の無機酸化物を蒸着させたり、同じポリオレフィン系の異なるグレードを多層化したり、相溶性のある特殊な添加剤を加えたりする方法は、「モノマテリアル」として認められる可能性が高いです。
これは、あくまで「リサイクルを阻害しない範囲での異素材の混入」は許容されるという考え方に基づいています。最終的な判断は、各地域の法規制や業界団体が定めるリサイクルガイドラインに準拠することになります。

モノマテリアルは主要な構成材料が単一の素材であることと捉えられることが多いので、微量の添加物はリサイクルを阻害しない範囲であれば許容される可能性が高いとされています。
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