この記事で分かること
・予算削減の理由:軍事、国防費の捻出や産業界の重視、一部の科学分野に対する懐疑的な姿勢、保守派の政府の関与を最低限にすべきとのイデオロギー的な要因から予算の削減に動いています。
・保守派が予算削減に賛成の理由:環境や医療研究は、「政府の規制強化」や「自由市場への介入」と結びつきやすいため、政府の関与を嫌う保守派の支持を得にくい傾向があります。
・科学研究の行き詰まり以外に予想される問題:科学と政治、都市と地方、産業間、世代間の対立を深め、今以上に分断が進む可能性があります。
トランプ政権の研究予算削減による研究者の海外への移動
トランプ政権は科学研究分野の予算を大幅に削減し、特に気候変動や医療に関する研究への助成金を打ち切る方針を示しています。これにより、多くの米国の研究者が研究活動の継続に不安を感じ、海外での活動を模索しています。
フランスの高等教育・研究機関は、こうした米国の研究者を積極的に受け入れる計画を進めています。例えば、エクス・マルセイユ大学は「Safe Place for Science」と称するプログラムを立ち上げ、1000万から1500万ユーロの予算を投じて米国からの研究者を受け入れると発表しました。
なぜトランプ大統領は予算を削減しているのか
トランプ大統領が科学研究の予算を削減している理由はいくつかあります。
1. 政府支出の削減と財政赤字対策
トランプ政権は「アメリカ・ファースト」の方針のもと、軍事・国防費を優先する一方で、政府支出を抑えるために他の分野の予算を削減しようとしています。特に、環境や医療研究など「保守派の支持層に受け入れられにくい分野」が標的になりやすいです。
2. 気候変動対策への反対姿勢
トランプ政権は気候変動に懐疑的であり、温暖化対策のための研究資金を削減しています。たとえば、NASAやNOAA(米国海洋大気庁)による気候研究の予算が大幅に削減されました。また、パリ協定からの脱退も、環境政策への資金投入を抑える目的があったとされています。
3. 産業界重視の政策
トランプ政権は、政府主導の研究よりも民間企業のイノベーションを促進することを重視しています。そのため、政府の研究機関よりも企業の技術開発を支援する政策にシフトしています。たとえば、エネルギー分野では再生可能エネルギーよりも石炭や石油産業への支援を強化しました。
4. 一部の科学分野への不信感
トランプ政権は、疫学、感染症対策、環境科学などの分野に対し懐疑的な姿勢をとることが多く、これらの分野の研究資金を削減しました。特に、新型コロナウイルス対策ではCDC(疾病予防管理センター)の予算が削減され、科学者や専門家との対立が深まりました。
5. 共和党内のイデオロギー的要因
共和党の保守派の中には「政府の関与を最小限にすべき」と考える人が多く、連邦政府の科学研究に資金を投じることに否定的です。そのため、政府の科学予算を削減し、市場原理に委ねる方向へ政策をシフトさせています。
このような理由から、トランプ政権は科学研究の予算削減を進めていますが、それによって多くの研究者が海外へ流出する事態を招いています。

軍事、国防費の捻出や産業界の重視、疫学、感染症対策、環境科学などの分野に対し懐疑的な姿勢、保守派の政府の関与を最低限にすべきとのイデオロギー的な要因から予算の削減に動いています。
環境や医療研究はなぜ、保守派の賛同を得にくいのか
環境や医療研究が米国の保守派(特に共和党支持層)から賛同を得にくい理由はいくつかあります。
1. 環境研究への反発
(1) 経済・産業への影響
保守派は経済成長と産業の自由を重視する傾向があり、特に石油・石炭・天然ガスといった化石燃料産業を支持する人が多いです。
環境研究が進むと、温室効果ガス規制や脱炭素政策が強化され、化石燃料関連の企業に不利な政策が推進される可能性があります。これは、共和党の主要な支持基盤であるエネルギー業界の利益と対立します。
(2) 気候変動への懐疑論
保守派の中には「気候変動は自然な現象であり、人間活動の影響は誇張されている」と考える人が多いです。
そのため、気候変動に関する研究が政策決定に影響を与えることを警戒し、政府資金を投じることに否定的になります。トランプ政権がパリ協定から離脱したのも、この考えに基づいています。
(3) 政府の介入を嫌う思想
環境政策の多くは政府による規制強化を伴いますが、保守派は「政府の介入は最小限にすべき」と考えるリバタリアン的な思想を持つことが多いです。
そのため、環境保護のための研究や規制は「自由市場の原則に反する」と見なされやすいです。
2. 医療研究への反発
(1) 社会福祉への警戒
保守派は「自己責任」の価値観を重視し、政府が医療に深く関与することを警戒する傾向があります。
医療研究が進むと、政府主導の医療制度(例:公的医療保険制度)が強化される可能性があり、これが社会主義的だと見なされることがあります。オバマケア(医療保険制度改革)への共和党の強い反対も、この思想に基づいています。
(2) 倫理的・宗教的な対立
生命倫理に関わる研究(例えば、幹細胞研究や遺伝子編集など)は、キリスト教保守派からの強い反発を受けることが多いです。
特に胚性幹細胞を使った研究は「生命の尊厳に反する」として、共和党政権下でたびたび規制されています。
(3) 製薬業界との関係
米国の製薬業界は共和党とも強い結びつきを持っており、政府による医薬品価格の規制や公的研究機関の強化は、製薬業界の利益を損なう可能性があります。
そのため、共和党政権下では政府主導の医療研究が抑制される傾向があります。

環境や医療研究は、「政府の規制強化」や「自由市場への介入」と結びつきやすいため、政府の関与を嫌う保守派の支持を得にくい傾向があります。また、産業界や宗教的価値観との対立も要因となっています。
国内からの反発はあるのか
トランプ政権による科学研究予算の削減に対し、米国内ではさまざまな反発が起きています。
1. 科学者や研究者からの抗議
全米各地で、科学者や研究者が抗議集会を開催し、トランプ政権の対応を「科学への前代未聞の攻撃」と非難しています。ニューヨーク、ワシントン、ボストン、シカゴなどの主要都市でデモが行われ、研究者や医師、学生、エンジニア、議員らが参加しました。
2. 科学界のリーダーからの批判
オバマ政権で科学技術補佐官を務めたハーバード大学のジョン・ホルドレン教授は、トランプ政権によるエネルギー研究費の大幅削減を「先見の明がない」と批判しています。
彼は、エネルギー問題への取り組みが雇用の増大や大気汚染の緩和など、社会に計り知れない利益をもたらすと指摘しています。
3. 科学会議での懸念の表明
2024年12月にワシントンで開催された米国地球物理学連合(AGU)の年次会合では、約25,000人の参加者がトランプ政権の気候変動政策や科学研究への影響について懸念を表明しました。研究者たちは、検閲、資金削減、職の喪失などの可能性に不安を感じています。
これらの動きは、科学研究の重要性を訴え、政策の再考を求めるものです。しかし、現時点ではトランプ政権の方針に大きな変更は見られません。

科学界からは大きな反発が出ていますが、現時点ではトランプ政権の方針に大きな変更は見られません。
研究費の削減がアメリカの分断の一因となる可能性はあるのか
以下の理由から、この問題は単なる財政政策にとどまらず、政治・社会の対立を激化させる可能性があります。
1. 科学と政治の対立の激化
トランプ政権の政策により、科学コミュニティと保守派の対立が深まっています。特に、気候変動や公衆衛生に関する研究が政治問題化し、共和党支持者と民主党支持者の間で科学に対する信頼度に大きな差が生まれています。
- 共和党支持者の多くは、「科学者はリベラル寄りで偏っている」と考え、政府による科学研究の支援に懐疑的です。
- 民主党支持者の多くは、「科学を軽視することは社会の発展を妨げる」と考え、政府の科学予算削減に強く反対しています。
この対立は、新型コロナウイルスの対応などでも顕著に見られました。
2. 都市部 vs. 地方の対立
科学研究の削減は、大都市圏と地方の間の対立を深める可能性があります。
- 科学研究機関や大学が集中している大都市圏(例:ニューヨーク、ボストン、カリフォルニア州)では、予算削減による影響が大きく、反発が強いです。
- 一方で、地方の保守的な地域では、「都市部のエリートが政府の資金を独占している」との不満があり、科学研究への支出削減を支持する声もあります。
この構図は、教育や経済政策に関する都市と地方の分断とも連動しています。
3. 産業界・軍との関係
科学研究の削減は、一部の産業に影響を与える一方で、軍事・エネルギー産業などは優遇される傾向があります。
- 不利益を受ける業界: バイオテクノロジー、再生可能エネルギー、医療研究などの分野では、政府の支援が減ることで研究が停滞する可能性があります。
- 恩恵を受ける業界: 石油・ガス産業、軍需産業などは、トランプ政権の政策によって規制緩和や予算拡大の恩恵を受けています。
この結果、産業界の中でも対立が生じ、分断が深まる可能性があります。
4. 若年層 vs. 高齢層の対立
若年層(特に大学生や研究者)は、科学や環境問題に関心が高く、政府の支援を求める傾向があります。
一方、高齢層(特に保守派の支持層)は、政府の支出削減を支持し、「税金の無駄遣い」と見なすことが多いです。この世代間の価値観の違いも、政治的分断を悪化させる要因となります。

トランプ政権の科学研究予算削減は、政治的な分断をさらに悪化させる可能性があります。科学と政治、都市と地方、産業間、世代間の対立を深め、長期的には政策の一貫性や社会の安定性に影響を及ぼすかもしれません。
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