デンソーとロームの半導体分野での提携 ロームとはどんな会社なのか?パワーデバイスとは何か?

この記事で分かること

ロームとはどんな会社:日本を代表する半導体・電子部品メーカーです。特にEVで重要となるSiCパワーデバイスの分野での先駆者となっています。

パワーデバイスとは:電力(Power)を効率よく制御・変換するための半導体素子の総称で、EV化でその重要度は増加しています。

SiCやGaNがパワーデバイスに向いている理由:SiCは高耐圧・高温環境に強く、GaNは小型・高速が求められる分野に強いという特徴からパワーデバイスに欠かせない素材となっています。

デンソーとロームの半導体分野での提携

 デンソーとロームが半導体分野での戦略的パートナーシップ構築に向けて基本合意をしたことがニュースになっています。

 https://www.denso.com/jp/ja/news/newsroom/2025/20250508-01/

 カーボンニュートラルの実現に向けて、電動車の開発と普及が加速しています。

 これに伴い、電子部品や半導体の需要が急増し、自動運転やコネクテッドカーなどの技術革新も進展しています。

 デンソーとロームは、これまで車載向け半導体の取引や開発を通じて連携を進めてきましたが、今後は信頼性の高い製品の安定供給と、高品質・高効率な半導体の開発に向けた取り組みを強化していきます。

 この発表を受けて、ロームの株価は一時8%超上昇し、デンソー株も1%超上昇しました。市場では、デンソーがパワー半導体の幅広い調達網を確保するための資本提携であり、ロームはしっかりした供給先を確保できるとの見方がされています。

 前回の記事では、デンソーとパワートレイン制御についての解説をしましたが、今回はロームとはどんな会社なのかについての記事となります。

ロームとはどんな会社なのか

 ローム株式会社(ROHM Co., Ltd.)は、京都府京都市右京区に本社を置く、日本を代表する半導体・電子部品メーカーです。1958年に設立され、創業当初は抵抗器の製造から始まりました。

 社名の「ROHM」は、抵抗を意味する「Resistor」と、その単位である「Ohm」に由来しています。


主な事業内容

ロームは、多岐にわたる電子部品の開発・製造・販売を行っており、主な事業分野は以下の通りです

  • LSI(大規模集積回路)事業:アナログIC、電源IC、マイクロコントローラ(MCU)など、電子機器の制御や電源管理を担う製品を提供しています。
  • 半導体素子(ディスクリート)事業:トランジスタ、ダイオード、LEDなど、基本的な電子部品を製造しています。
  • パワーデバイス事業:シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を用いた次世代パワーデバイスの開発に注力し、電動車(xEV)や産業機器向けに高効率・高耐圧の製品を提供しています。
  • モジュール・その他事業:センサIC、無線モジュールなど、複数の機能を統合した製品を展開しています。

 特に、SiCパワーデバイスの分野では、電動車や再生可能エネルギー関連機器への応用が進んでおり、ロームはこの分野の先駆者として位置づけられています。


技術力と製品開発

 ロームは、垂直統合型の生産体制を採用しており、設計から製造までを一貫して自社で行うことで、高品質かつ信頼性の高い製品を提供しています。

 また、顧客のニーズに応じたカスタマイズ製品の開発にも強みを持ち、迅速な市場対応を実現しています。

 近年では、電動車向けの絶縁ゲートドライバICや、民生機器向けの小型・省エネDC-DCコンバータICなど、先進的な製品の開発・量産を進めています。


ロームは日本を代表する半導体・電子部品メーカーです。特にEVで重要となるSiCパワーデバイスの分野での先駆者となっています。

パワーデバイスとは何か

 パワーデバイスとは、電力(Power)を効率よく制御・変換するための半導体素子の総称です。

 電気エネルギーの「スイッチング(ON/OFF)」や「変換(昇圧・降圧)」などを行う重要な電子部品で、高電圧・大電流を扱えることが特徴です。


主な種類

  1. パワートランジスタ(例:IGBT、MOSFET)
    • 高速スイッチングが可能。産業機器や電気自動車で使用。
  2. ダイオード(例:整流ダイオード、ショットキーダイオード)
    • 電流の逆流を防ぐ。電源回路や充電器に使われる。
  3. シリコンカーバイド(SiC)・窒化ガリウム(GaN)素子
    • 次世代の材料。高温・高耐圧・高効率に優れる。
    • EVや再エネ、データセンター向けに注目されている。

使われる分野

  • 電気自動車(EV・HEV)のインバータや充電器
  • エアコン、冷蔵庫、洗濯機などの家電
  • 太陽光発電・風力発電・蓄電池システム
  • 産業用モーターや鉄道の電力制御装置

なぜ重要なのか

 パワーデバイスは、電力の「無駄」を減らすために不可欠です。

 EVの場合、効率の良いパワーデバイスを使うと、走行距離が伸び、充電の回数が減るという大きなメリットがあります。

パワーデバイスとは、電力(Power)を効率よく制御・変換するための半導体素子の総称で、EV化でその重要度は増加しています。

SiCやGaNがパワーデバイスに向いている理由

 SiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)がパワーデバイスに優れている理由は、以下のようにシリコン(Si)にはない物性上のメリットがあるからです。


1. SiC(シリコンカーバイド)の特長と利点

特性上のメリット
  • 高耐圧(ブレークダウン電圧が高い)
    → 高電圧を扱う回路に適している。例えばEVのインバーターや急速充電器。
  • 高温動作が可能(最大600℃近く)
    → 放熱設計が簡素化でき、システム全体を小型化できる。
  • 低損失・高速スイッチング
    → スイッチング時の電力ロスが少なく、インバーター効率が向上。
活用分野
  • 電気自動車(EV)・ハイブリッド車(HV)
  • 太陽光発電・風力発電のパワーコンディショナー
  • 産業用モーター制御

2. GaN(窒化ガリウム)の特長と利点

特性上のメリット
  • 非常に高いスイッチング速度
    → 高周波動作が可能で、トランスやコンデンサを小型化できる。
  • 低オン抵抗(RON)で損失が少ない
  • 高効率・小型化に最適
活用分野
  • スマートフォン用の高速充電器(USB PD)
  • サーバー電源・データセンターの省エネ化
  • 無線通信(5G基地局等)

まとめ:Siとの比較

特性SiSiCGaN
耐電圧中〜高
スイッチング速度非常に高
動作温度~150℃~600℃~200℃
コスト(現在)安い高め高め(量産効果で低下中)
主な用途汎用EV/産業/再エネスマホ/通信/小型電源

 つまり、SiCは高耐圧・高温環境に強く、GaNは小型・高速が求められる分野に強いという使い分けがされており、両者とも今後の電動化社会に不可欠な素材です。

SiCは高耐圧・高温環境に強く、GaNは小型・高速が求められる分野に強いという特徴からパワーデバイスに欠かせない素材となっています。

SiCはなぜ高電圧、高温に強いのか

 SiC(シリコンカーバイド)が高電圧や高温に強いのは、材料そのものが持つ「物性(物理的性質)」に起因します。以下でわかりやすく解説します。


SiCの特性

特性シリコン(Si)SiC(シリコンカーバイド)
バンドギャップ(Eg)約1.1 eV約3.3 eV(約3倍)
絶縁破壊電界強度約0.3 MV/cm約3 MV/cm(約10倍)
熱伝導率約1.5 W/cmK約3-5 W/cmK(高い)
飽和電子速度1 × 10⁷ cm/s約2 × 10⁷ cm/s

※ eV:電子ボルト、MV/cm:メガボルト毎センチメートル


1. 高電圧に強い理由:「絶縁破壊電界強度」が高いから

 SiCは、電界が加わっても「絶縁が壊れにくい(ブレークダウンしにくい)」性質を持っています。
これはSiの約10倍以上です。

  • SiCは「薄く」しても高電圧に耐えられる
  • 同じ耐圧ならチップサイズを小さくできる(=小型化・低損失)

2. 高温に強い理由:「バンドギャップ」が広いから

 バンドギャップとは、電子が電気を流す状態に遷移するためのエネルギー差。SiCはこの差が大きい=高温でも電子が暴れにくくなっています.[

  • 高温下でもリーク電流(漏れ電流)が発生しにくい
  • 安定した動作が可能(200~300°C以上でも可)

3.熱伝導性が高い=冷却がしやすい

 SiCは熱をよく逃がす性質があり、発熱してもすぐに放熱できるため:

  • ヒートシンクや冷却装置を小型化できる
  • システム全体がコンパクトになりやすい

4. スイッチング速度が速い=損失が少ない

SiCは電子が材料中を速く移動できるため、高速スイッチングに対応可能であり、

  • 電力変換の効率が高まる
  • ノイズや発熱も減少

SiCは、高電圧でも絶縁が壊れにくい(高電界耐性)、高温でも電子が安定している(広いバンドギャップ)、熱がこもりにくい(高い熱伝導性)といった理由から高電圧、高温での性能に優れています。

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