行動経済学の処方箋 大竹文雄 要約

本の概要

 伝統的な経済学は人々を常に合理的で計算、競争を行うと考えてきましたが、実際には合理的ではなく、直感的に考えてしまうのが一般的です。

 このような現実的な人間像を取り入れた行動経済学は近年、経済学の一分野となっています。

 行動経済学によって合理的な意思決定から、ずれた意思決定をした際に支援をすることが可能になることから大きな注目を浴びています。

 人は様々なバイアスや認知的な限界から非合理な行動をとってしまいます。行動経済学によって非合理な行動をとる要因を特定し、取り除くことができれば、望ましい行動変容を起こすことが可能になります。

 同じ内容でも、どのようなメッセージとするかで人々の受け取り方は大きく変化します。コロナ渦での自粛やワクチン接種を促す際にも適したメッセージを出す方法として行動経済学が用いることができます。

 自分の行動や、社会や組織の問題を解決したいと考える人こそ、行動経済学を学ぶべきです。経済学がこれほど役に立つものなのかと経済学に対するイメージを変えることができます。

この本がおすすめの人

・行動経済学について知りたい人

・行動経済学がどのように役立つか知りたい人

・コロナの政府の対応に不満があった人

行動経済学に興味がある方は「すごい行動経済学の要約」はこちら

本の要約

行動経済学と普通の経済学の違いは何か

 専門家の知識、専門知が政策に活かされるには、専門家の間で判断がある程度一致し、その判断が社会に受け入れられ、専門家と世間の人々の価値判断が一致している必要があります。

 経済学においても専門家と世間の人々との間にずれがあるため、経済学者の理論がうまく機能しないとも少なくありません。

 特に伝統的な経済学は人々を常に合理的で計算、競争を行うと考えてきましたが、実際には合理的ではなく、直感的に考えてしまうのが一般的です。

 このような現実的な人間像を取り入れた行動経済学は近年経済学の一分野となっています。

 行動経済学によって、合理的な意思決定とズレるような意思決定をしている際に支援することが可能になります。

伝統的な経済学は人々は常に合理的な行動をとることを前提にしていますが、実際には直感で動くことも多いです。

行動経済学はこのような現実的な人間像を取り入れた経済学の一分野になっています。

現実的な人間はどのような行動をとるのか

 人間は誰もが存することを嫌い、得る喜びよりも失う悲しみを強く感じます。また数値が大きくなると徐々に喜びや悲しみは小さくなります。

 1万円損すると大きな悲しみを感じますが、元もと10万円損した状態からさらに1万円失うときには悲しみは小さくなります。

 また、人間は未来の利益よりも、現在の利益を重視する傾向もあります。それによって長期的な展望を立てる際には現在バイアスがあることを考慮に入れることが重要になります。

実際の人間は数値で合理的な判断だけでなく、様々なバイアスによって不合理に見えるような行動をとることがあります。

未来の利益より今を重視したり、得ることよりも失うことに悲しみを感じる

行動経済学はどのように人々の行動を変えることができるのか

 組織内の問題行動を減らしたいときに、こんな悪い人がいると指摘するよりも、ほとんどの人は規則を守っていますと指摘したほうが効果的です。

 多くの人が守っていると言われると、社会模範に従わなければという意識が働き、問題行動がへっていきます。

 人は誰しも無意識のうちに偏見を持ってしまっています。偏見が無意識の場合には組織的、制度的な対応をしなければ対応できません。

 データをもとに合理的に説明できない格差を明らかにすることで、偏見による差別をなくしていくことが重要になります。

データをもとに合理的に説明できな格差を明らかにすることで、改善すべき行動を見つけ、どのように指摘すべきかを行動経済学から知ることができます。

迷ったときにどのように判断すべきか

 株価など経済学の予想が外れやすいのは、その企業の業績がよくなりそうな情報が今日知られていたらすでに株価に反映されているはずであるため、株価の変動はサイコロを振ったようにランダムになって見えます。

 経営者の意思決定も同じような側面があります。経営者が案を選ぶような場合、それぞれの案には優劣がつけにくいことが多く、サイコロを振って決めているような感覚を持つことも少なくありません。

 ただし、私たちには現状維持バイアスがあるので、迷ったときは変化を選ぶようにすると幸福度が上がる可能性もあります。

多くの人で判断する際の最終的な判断は優劣がつきにくく、サイコロを振って決めるようなものです。ただし、我々は現状維持バイアスが強いため、迷ったときは変化を選ぶと幸福度が上がる可能性もあります。

ナッジとは何か

 ナッジとは肘で軽く後押しするという意味の英語で、選択を禁じることも経済的なインセンティブを変えることなく、人々の行動を予測可能な形で変える要素と定義されています。

 我々には多くのバイアスがあり、合理的にモノ事を判断できないことが多いため、ナッジによって選択の自由を確保しながら人々の行動変容を引き起こすことができます。

 カフェで目の届きやすいところに果物をおくことはナッジ、ジャンクフードを置くことを禁止することはナッジではありません。

 より良い行動があっても、その行動がとれない場合なぜ取れないのか、明らかにし、その原因を取り除くような適切なナッジを設定することで人々の行動を良い方向に変容させることが可能になります。

ナッジとは禁止やインセンティブなしで人々の行動を変えることです。合理的な判断を促すようなナッジの設定が注目を浴びています。

コロナ渦で行動経済学はどう利用されたか

 日本のコロナによる行動制限は主に政府からの強制ではなく、情報提供という形で行われました。この情報やメッセージ荷も行動経済学的な知見が用いられています。

 特に「皆さんの行動が多くの人々を感染、重症化から防ぎます」のような利他的なメッセージは「皆さんの行動が自分の命を守ることになります」のような利己的なメッセージよりも効果が高いため、利他的なメッセージがよく利用されています。

 また、ネガティブなメッセージは短期的には効果がありますが、長期的にはポジティブなメッセージのほうが効果が大きいことも知られているため、メッセージは極力ポジティブ(何かをしないとダメではなく、したほうが良いなどの表現)が用いられています。

 また意識的な行動変容は難しいため、無意識な行動変容(密を避けるためにスーパーで列に並ぶ位置を足跡で示す、アルコールを目立つ場所に置くなど)もよく用いられています。

 メッセージを出す際も悪いことをしている人を報道するのは逆効果です。悪いことをしている人がたくさんいると分かれば、自分も悪いことをしてもいいと思ってしまいます。

ナッジによる行動変容、同じ内容でもどのようなメッセージを出したほうが人々の行動を変えることができるかなどに行動経済学が利用されています。

ワクチン接種を促すために行動経済学はどのように利用されたか

 ワクチン接種については

・ワクチンの接種希望者が70%

・30%の人はワクチン接種を希望していない

という表現では、前者のほうが効果が大きくなります。人は損により反応するため30%の人が接種していないと伝えられると自分も受けたくなくなってしまいます。

 損失を強調されるとそれを避けたいと感じるため、ポジティブなメッセージにすることが必要になります。

 知識を実践に移すにはモチベーションが重要になります。どのようなメッセージ、伝え方がモチベーションを高めるかを考えることも行動経済学の一部といえます。

ワクチン接種についてもどのようなメッセージ、伝え方がモチベーションを高めるかは行動経済学が利用されています。

日本のコロナへの対応の行動経済学の観点からの問題点はどこか

治療法やワクチンがない初期段階では、重症化リスクも高く、社会経済活動を犠牲にして感染対策を行うことも自然な対応です。

 しかし、日本はワクチンが普及し、治療法が確立しても感染拡大のたびに、社会経済活動を制限してきました。

 本来、それぞれの専門家がいくつかの選択肢を用意し、そのメリット、デメリットを提示し、国民の代表である政治家が選ぶべきです。

 コロナ渦では、感染症の専門家の意見を聞く機会が多かったため、政府の判断も感染症の専門家の意見を多く採用したものになってしまいました。

 特に初回経済活動を犠牲にした影響は感染者数などに比べ、影響が出るまでに時間がかかるため、うまくリスクを設定することができませんでした。

ワクチン普及後も社会活動の制限を行い続けたことには大きなデメリットがありました。感染症の専門ばかりを聞いてしまったことも問題でした。

生産性わ高めるために必要なものはなにか

 生産性を高めるために必要なことも行動経済学で多く議論されている。従来の経済学では所得を生み出す源泉を設備や機械のような物的資本と人的資本と考えてきました。

 しかし、生産性に関係するのはこの二つだけでなく、良い人間関係のような社会関係資本も含まれています。

 相手を信頼できる社会であれば、経済的な取引も活発になります。

従来の経済学では物的資本と人的資本のみが生産性に関連すると考えられてきましたが、人間関係のような社会関係資本も生産性に関連すことが明らかにになっています。

なぜトイレットペーパーが品薄になったのか

 コロナ渦では、マスクとトイレットペーパーの品薄が話題となりましたが、二つの品薄の理由は異なってます。

 マスクは需要の増加と供給減少が品薄を招きました。マスクの値上げもできなかったため、メーカーが増産することもできず、結果的に品薄となってしまいました。

 マスクが需要増加しており、価格が上がることをきちんと説明していれば、また違う結果となった可能性もありました。

 一方トイレットペーパーは供給の減少ではなく、小売店への配送が追い付かなかったことが原因です。

 多くの人がトイレットペーパーが、品薄になると予想するとほかの人が過剰に購入するのではと考え、自分も過剰に購入することとなります。

 このような予言の自己成就に対しては、予想が間違っていることを伝えることが有効です。トイレットペーパーが消えた店舗をメディアで放送するのではなく、倉庫には大量のトイレットペーパーがあることを報道すれば回避することができました。

トイレットペーパーはマスクとは違い、供給量は減少しておらず、ただ販売店への配送が追い付かなかっただけで品薄状態となりました。

店舗にトイレットペーパーがないことを報道するのではなく、倉庫にトイレットペーパーがあることを報道すれば、混乱を避けられた可能性があります。

最低賃金はどのように考えるべきか

 最低賃金の引上げは賛否両論がある政策です。

 労働者にとっては賃上げが期待できる反面、雇用契約の打ち切りの可能性があるため、賛否が分かれやすくなります。

 また経営者にとっては雇用の減少による生産量低下や賃金の減少による利潤低下が起こりえます。最低賃金水準の労働者を雇用していない場合でも、取引先の賃金が上がることによる価格上昇はマイナスですが、最低賃金水準の労働者を雇用している競争相手の生産量減や競争力の低下などのプラスもあります。

 最低賃金の引き上げで労働者が得をして、経営者が損をするとは一概には言えません。

 また、最低賃金を払っておけば社会規範から外れていないとみなされている状況では、最低賃金さえ払っていればよいと企業側が考えてしまうため、それを前提にした最低賃金を決める必要があります。

最低賃金の引き上げが単純に労働者が得、経営者が損とは一概には言えません。

最低賃金は様々な背景から決定する必要があります。

行動経済学はどのように役立つのか

 伝統的な経済学では人々はあらゆる情報をあつめ、最適な行動をするはずと想定されています。行動経済学では様々な心理バイアスや計算能力の限界で必ずしも最適な行動をとれていないと考えています。

 そのため行動経済学の専門家は先日の企業や消費者がより良い行動をとるために、どのような介入をすべきかについて具体的なアドバイスをすることができます。

 行動経済学で知られるバイアスをもとに、何がボトルネックかについての予想をすることが可能です。

 伝統的な経済学をもとにするとなぜ最適な行動をとれていないのか?という上から目線での指摘になりますが、最適な行動をとれていないのが当たり前とすれば、その解決策を受け入れることも容易になります。

 自分の行動や、社会や組織の問題を解決したいと考える人こそ、行動経済学を学ぶべきです。経済学がこれほど役に立つものなのかと経済学に対するイメージを変えることができます。

行動経済学はバイアスで最適な行動がとれないようなときに行動変容を促すことができます。自分の行動や社会、組織の問題を解決したいと考える人こそ行動経済学を学ぶことが重要です。

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