東芝デバイス&ストレージ40テラバイトのHDD HDDとは何か?12枚の磁気ディスクを実装する難しさはどこか?

この記事で分かること

  • HDDとは:パソコンなどでデータを記録・保存する補助記憶装置です。高速回転する磁気ディスク(プラッタ)に、磁気ヘッドを使ってデジタルデータを読み書きする仕組みで、大容量かつ比較的安価なのが特徴です。
  • 12枚の磁気ディスクを実装する難しさ:ディスク自体の厚さを限界まで薄くすることと機械的安定性の確保の両立が技術的に難しい部分です。

東芝デバイス&ストレージ40テラバイトのHDD

 東芝デバイス&ストレージは、40テラバイト(TB)クラスのHDDを2027年に製品化する計画を発表しました。

業界初、磁気ディスク12枚実装の検証に成功 | 東芝デバイス&ストレージ株式会社 | 日本
東芝デバイス&ストレージ株式会社は、ハードディスクドライブのさらなる大容量化を実現するにあたり、業界初となる12枚の磁気ディスクを実装する技術の検証に成功しました。

 これは、同社が業界で初めてとなる12枚の磁気ディスクを実装する技術の検証に成功したことによるものです。

HDDとは何か

 HDDは「Hard Disk Drive(ハードディスクドライブ)」の略で、パソコンやレコーダーなどの機器でデータを永続的に記録・保存するための補助記憶装置です。

仕組み(構造)

 HDDは、内部にプラッタと呼ばれる円盤状の磁気ディスクを持ち、このディスクを高速回転させながら、磁気ヘッドという部品を使ってデータの読み書きを行います。

部品名役割
プラッタ(Platter)データを記録するための磁性体が塗布された円盤(ディスク)。複数枚内蔵されることが多い。
スピンドルモータープラッタを高速で回転させるモーター。回転数が高いほどデータアクセスが速くなる。
磁気ヘッド(Magnetic Head)プラッタの磁性体の向きを変えてデータを書き込み、磁気の変化を読み取ってデータを読み出しする。
アクチュエータ(アーム)磁気ヘッドを支え、プラッタ上の目的の場所へ移動させるアーム。

 データは、磁気のN極とS極の向き(デジタルデータの「0」と「1」に対応)としてプラッタ上に記録されます。


役割

 HDDは、OS(オペレーティングシステム)、アプリケーション、写真、動画、文書ファイルなど、電源を切っても消えては困るデータを長期的に保存する「倉庫」のような役割を担います。

  • 内蔵HDD: パソコン本体などに組み込まれ、システムの起動やプログラムの実行に必要なデータを保存します。
  • 外付けHDD: USBケーブルなどで接続し、主にデータのバックアップや追加の保存容量として使われます。

SSDとの違い

 近年普及しているSSD (Solid State Drive) も同じ記憶装置ですが、HDDとは仕組みが異なります。

特徴HDD (ハードディスクドライブ)SSD (ソリッド・ステート・ドライブ)
仕組み磁気ディスクの回転物理的なヘッドの移動で読み書きを行うフラッシュメモリチップ(USBメモリと同じ構造)に電気的に読み書きを行う
速度SSDに比べて遅いHDDに比べて高速
価格同容量ならSSDより安価HDDより高価だが価格差は縮小傾向
耐久性・耐衝撃性駆動部品があるため、衝撃に弱い駆動部品がないため、衝撃に強い
ディスクの回転音やヘッドの動作音がする動作音は静か

 HDDは大容量・低価格というメリットから、特に大容量のデータ保管やバックアップ用途で依然として広く利用されています。

 HDD(ハードディスクドライブ)とは?|HDDとSSDの違い、メリット・デメリットなどを、図解を使って3分でわかりやすく解説します【パソコン初心者向け】を YouTube で見ることで、HDDの仕組みやSSDとの比較を視覚的に理解できます。

HDD(Hard Disk Drive)は、パソコンなどでデータを記録・保存する補助記憶装置です。高速回転する磁気ディスク(プラッタ)に、磁気ヘッドを使ってデジタルデータを読み書きする仕組みで、大容量かつ比較的安価なのが特徴です。

データセンター向けで容量を大きくする必要がある理由は何か

 データセンター向けでHDDの容量を大きくする必要がある主な理由は、データ量の爆発的な増加と、それに伴う運用コスト(特に電力)の削減にあります。

1. データ量の爆発的な増加(需要の増大)

 現代のデータセンターは、インターネット上のあらゆるデータの「保管庫」です。

  • クラウドサービスとAIの普及: Amazon Web Services (AWS) や Microsoft Azure などのクラウドサービスや、生成AI機械学習の急速な発展により、保存・処理すべきデータセットの規模がペタバイト級(テラバイト級)に達し、その増加速度が加速しています。
  • 高解像度コンテンツ: 4K/8Kなどの高画質ストリーミング動画、IoTデバイス、SNSなどから生み出される大容量データが増え続けています。
  • データ長期保存(アーカイブ): アクセス頻度は低くても、法令順守や将来の分析のために長期保存が必要なデータ(ニアラインデータ)が大量に存在します。

2. 運用コストと効率の改善

 HDDの大容量化は、単に保存できる量が増えるだけでなく、データセンターの総所有コスト(TCO)削減に直結します。

消費電力の削減

  • 容量あたりの効率向上: 1台のHDDの容量が20TBから40TBに倍増すると、同じデータ量(例:40TB)を保存するために必要なHDDの台数は半分になります。これにより、HDDの台数あたりの消費電力冷却コストが相対的に下がり、「容量あたりの消費電力」が大幅に改善されます。これは、環境負荷低減(グリーンデータセンター化)にも貢献します。

設置面積(フットプリント)の削減

  • 高密度化: 1台のHDDで保存できる容量が大きくなれば、データセンターの限られたラック占有面積をより有効活用でき、新たな設備投資の必要性を抑えられます。同じスペースにより多くのデータを格納できます。

設備コストの削減

  • HDDの台数が減ることで、接続に必要なケーブル、電源ユニット、コントローラーなどの周辺機器の購入費用や管理コストも削減できます。

 データセンターにとって大容量HDDは、増え続けるデータを確実に保存するための必須要件であると同時に、コストとエネルギー効率を最適化するための最重要手段なのです。

AI・クラウド普及によるデータ量の爆発的増加に対応するためです。大容量化により、必要なHDD台数を減らし、電力消費(コスト)と設置面積を削減し、運用効率を高めます。

12枚の磁気ディスクを実装する難しさはなにか

 12枚の磁気ディスク(プラッタ)を3.5インチの標準的なHDD筐体に実装する主な難しさは、極めて高い物理的・機械的な精度を維持しつつ、動作時の安定性信頼性を確保することにあります。

1. 物理的な高密度化と薄型化

 最も大きな課題は、ディスクとディスクの間の空間(ギャップ)や、ディスク自体の厚さを限界まで薄くする必要があることです。

  • ディスクの薄型化: 従来の10枚ディスクの設計よりもさらに薄いガラス基板などを採用し、各部品の厚さをミリメートル以下の単位で削る必要があります。
  • 部品の小型化: ディスクを回転させるスピンドルモーターや、データを読み書きする磁気ヘッドとアーム(アクチュエータ)など、内部のすべての部品を極限まで小型化・薄型化しなければなりません。

2. 機械的安定性の確保(振動と位置精度)

枚数が増えるほど、ディスクの高速回転による振動や空気の乱れが複雑化し、磁気ヘッドの位置精度が狂いやすくなります。

  • 空気流の制御: 12枚のディスクが高速で回転すると、内部のヘリウムガス(現在の高容量HDDはヘリウムが充填されている)の流れが非常に複雑になり、ディスク間の空気流を最適に制御する技術が必要です。
  • ヘッド位置の正確性: 磁気ヘッドはディスク表面からわずか数ナノメートル(髪の毛の太さの数万分の1)の距離を浮遊しています。ディスクが増え、振動や熱による変形のリスクが高まる中で、全12枚のディスクに対してナノメートル単位の正確な位置決めを維持することが非常に困難になります。
  • 耐久性の向上: 薄型化されたディスクや部品が、長期間の使用や外部からの微細な衝撃に耐えうる機械的耐久性を確保する必要があります。

3. 電気信号と熱の管理

 枚数が増えることで、データの信号処理と熱問題の難易度も上がります。

  • 信号ノイズの抑制: ディスクとヘッドの数が増えると、多数の磁気信号が飛び交うことになり、ノイズ干渉を防ぐための高度な信号処理技術が不可欠になります。
  • 発熱の効率的な除去: 部品が高密度に詰め込まれるため、発生した熱を効率的に外部に排出する熱設計がより一層重要になります。

 東芝デバイス&ストレージは、これらの課題を克服するために、12枚実装技術において、新設計の専用部品や耐久性の高いガラス基板を採用し、機械的安定性を高めていると説明しています。

12枚ディスクの実装の難しさは、極限の薄型化でディスク間の振動・空気流を制御し、ナノメートル級の精度で磁気ヘッドの位置決めを維持することです。これにより、安定性と信頼性を保ちます。

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