この記事で分かること
- 無アルカリガラスとは:アルカリ金属酸化物(ナトリウムなど)を極めて少なくした(0.1%以下)特殊なガラスです。熱的安定性や高い電気絶縁性に優れ、アルカリイオンによる汚染を防ぐため、液晶ディスプレイや半導体の基板として使われます。
- アルカリを含むメリット:ガラスの融点(溶ける温度)を下げることです。これにより、製造が容易になり、コストが大幅に安くなります。また、化学強化を可能にし、強度を向上させられます。
- アルカリを含まないメリット:電子デバイス基板として不可欠な特性です。アルカリイオンによる電気的汚染を防ぎ、回路性能を安定させます。また、熱膨張が小さく、高温での寸法安定性と耐薬品性に優れています。
無アルカリガラス
ガラスの用途は多岐にわたります。主な用途は、建物の窓ガラスや自動車のフロントガラスなどの建築・輸送機器です。また、ビール瓶や食品容器などの包装材、テレビやスマホのディスプレイ基板、光ファイバーなどのエレクトロニクス分野でも不可欠な素材です。
そのためガラス製造市場の規模は非常に大きく、2024年時点で2,350億米ドル(約35兆円)を超えると推定されており、今後も年平均成長率(CAGR)5%以上で着実に拡大すると予測されています。
この成長は主に、世界的な建設・建築分野での需要増加や、包装(リサイクル可能なガラス瓶の需要増)および自動車分野での用途拡大に牽引されています。
前回はアルミノケイ酸ガラスに関する記事でしたが、今回は無アルカリガラスに関する記事となります。
無アルカリガラスとは何か
無アルカリガラス(non-alkali glass)とは、ナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ成分をほとんど含まないガラスです。
一般的に、ガラスの主成分である二酸化ケイ素(シリカ)に、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、そして酸化カルシウムや酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物を加えて作られる、アルミノホウケイ酸塩系のものが主流です。アルカリ成分の代わりにホウ酸などを加えることで、ガラスを溶けやすくしています。
無アルカリガラスの特徴
無アルカリガラスは、通常のソーダ石灰ガラス(ソーダライムガラス)と比較して、以下のような優れた特性を持ちます。
- 電気絶縁性:アルカリイオンの移動による電気的な影響がほとんどないため、高い電気絶縁性を示します。
- 熱的寸法安定性:加熱・冷却によるガラスの寸法変化(熱膨張)が小さく、高い耐熱性を持ちます。
- 耐薬品性:薬品や水などによる表面の浸食(エッチング)を受けにくいです。
- 高剛性(高い弾性率):強度が高く、薄くても変形しにくい性質があります。
主な用途
これらの特徴から、無アルカリガラスは特にエレクトロニクス分野のハイテク製品の基板として不可欠な材料となっています。
- 液晶ディスプレイ(LCD)用基板ガラス:薄膜トランジスタ(TFT)を形成する際、アルカリ成分があるとTFTの性能を損なうため、無アルカリガラスが使用されます。
- 有機ELディスプレイ(OLED)用基板ガラス
- PC、スマートフォン、タブレット端末などの各種ディスプレイ
- 光磁気ディスク用基板ガラス
アルカリ成分を極力排除することで、半導体製造プロセスやディスプレイ製造プロセスにおける電気特性の安定性や、高温での寸法安定性を確保しています。

無アルカリガラスとは、アルカリ金属酸化物(ナトリウムなど)を極めて少なくした(0.1%以下)特殊なガラスです。熱的安定性や高い電気絶縁性に優れ、アルカリイオンによる汚染を防ぐため、液晶ディスプレイや半導体の基板として使われます。
アルミノケイ酸ガラスとの違いは何か
無アルカリガラスとアルミノケイ酸ガラスの主な違いは、アルカリ金属酸化物(ソーダ、カリなど)の含有量と、それによってもたらされる用途や特性です。
一言で言えば、無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物を極限まで排除した、特殊なタイプのアルミノケイ酸塩系ガラスであることが多いです。
無アルカリガラスとアルミノケイ酸ガラスの比較
| 特徴 | 無アルカリガラス(Non-Alkali Glass) | アルミノケイ酸ガラス(Aluminosilicate Glass) |
| アルカリ含有量 | 極めて少ない(0.1%以下、または微量) | 製品によって異なる。高アルカリのものもある。 |
| 主な組成 | 二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、アルカリ土類金属酸化物(アルミノホウケイ酸塩系が多い) | 二酸化ケイ素、酸化アルミニウムを主成分とし、その他にアルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物などを含む。 |
| 主要な用途 | 液晶・有機ELディスプレイ基板、半導体関連(TFT形成プロセスで使用するため、アルカリによる電気的影響の排除が最優先) | 化学強化ガラス(スマートフォン・タブレットのカバーガラスなど)、耐熱ガラス、高強度ガラス(高い強度が最優先) |
| 主な特性 | 高い熱的寸法安定性、優れた電気絶縁性、耐熱性 | 極めて高い強度、耐熱性、耐薬品性(イオン交換による化学強化が可能) |
1. アルカリ含有量の違い
- 無アルカリガラス:「無アルカリ」の名の通り、ナトリウムやカリウムといったアルカリ金属酸化物の含有量を0.1%以下(多くは数ppmレベル)に厳しく制限しています。これは、アルカリイオンが電子デバイス(TFTなど)の性能に悪影響を与えるのを防ぐためです。
- アルミノケイ酸ガラス:「二酸化ケイ素(シリカ)」と「酸化アルミニウム(アルミナ)」を主成分とするガラスの総称です。このカテゴリの中には、アルカリ成分を多く含むもの(高アルカリ)と、ほとんど含まないもの(無アルカリ)の両方が存在します。
2. 用途の違い
- 無アルカリガラスの用途:ディスプレイの製造工程(特にTFT形成)では、高温での処理や微細な電気回路が必要になるため、熱膨張の低さとイオンの移動がない(高い電気絶縁性)ことが最も重要です。そのため、ディスプレイ基板などに使用されます。
- アルミノケイ酸ガラスの用途:高アルカリのアルミノケイ酸ガラスは、主に化学強化に適しています。ガラス表面のナトリウムイオンをより大きなカリウムイオンに置き換えることで、表面に高い圧縮応力を発生させ、非常に高い強度(耐傷性、耐衝撃性)を実現します。このため、スマートフォンのカバーガラスなどに多く使われます(例:Corning Gorilla Glass、AGC Dragontrail)。
無アルカリガラスは、アルミノホウケイ酸ガラスというアルミノケイ酸ガラスの一種で、特にアルカリ成分を徹底的に排除した、電子デバイス基板向けの高性能ガラスと位置づけられます。

無アルカリガラスは、アルミノケイ酸ガラスの一種です。最大の違いはアルカリ成分の含有量です。無アルカリガラスは、アルカリ金属をほぼ完全に排除(0.1%以下)し、主にディスプレイの基板として使われます。一方、一般的なアルミノケイ酸ガラスは、アルカリを含むこともあり、化学強化してスマートフォンのカバーガラスなどに使われます。
アルカリを含むメリットは何か
ガラスにアルカリ金属酸化物(主に酸化ナトリウムや酸化カリウム)を含む最大のメリットは、製造が容易になり、コストが大幅に下がることです。
アルカリ成分は、ガラスの主成分である二酸化ケイ素(シリカ)の網目構造を緩め、以下の重要なメリットをもたらします。
1. 溶融温度とコストの低減
ガラスの原料を融解し、ガラスとして成形できる状態にするための温度を下げることができます。
- 融点の低下(フラックス効果):アルカリ成分を加えることで、純粋なシリカガラスが溶ける約1700℃という非常に高い温度を、一般的なソーダ石灰ガラスでは約1000℃程度まで下げることができます。
- 製造の容易化と低コスト化:融点が下がると、より安価な溶解炉や設備で製造でき、必要なエネルギーも減るため、大量生産が容易になり、製品コストが大幅に安くなります。これが、窓ガラスや食器、瓶など、最も広く普及しているソーダ石灰ガラスの基礎となっています。
2. 強度の向上(化学強化)
特定の条件下では、アルカリ成分がガラスの強度を向上させるために利用されます。
- 化学強化が可能:アルカリ成分(ナトリウムイオン)を含むガラスは、溶融したカリウム塩に浸すことで、ガラス表面のナトリウムイオンをより大きなカリウムイオンに置き換えることができます(イオン交換)。
- 圧縮応力の発生:このイオン交換により、ガラス表面に高い圧縮応力が発生し、傷や衝撃に対する強度(耐傷性・耐衝撃性)が大幅に向上します。スマートフォンやタブレットのカバーガラス(高アルカリのアルミノケイ酸ガラス)などに用いられる技術です。
3. その他の特定の効果
- 酸への耐性:アルカリ成分を意図的に多く含むガラス繊維(Cガラス繊維など)は、酸への耐性を向上させる効果があり、屋外使用や特定の化学環境下での用途に利用されます。

アルカリを含む最大のメリットは、ガラスの融点(溶ける温度)を下げることです。これにより、製造が容易になり、コストが大幅に安くなります。また、化学強化を可能にし、強度を向上させられます。
アルカリを含まないメリットは何か
ガラスにアルカリ金属酸化物(ナトリウム、カリウムなど)を含まない最大のメリットは、電子部品への汚染防止と高温安定性の確保です。
これは、特に液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)などのエレクトロニクス分野で不可欠な特性です。
1. 優れた電気特性(イオン汚染の排除)
アルカリ成分を含まない最大の理由は、電気的な安定性を確保するためです。
- イオン移動の防止:アルカリ金属イオンは、熱や電界が加わるとガラス中を移動する性質があります。電子部品の製造プロセス(特に半導体や薄膜トランジスタ/TFT)では、このイオン移動が回路の特性を劣化させたり、薄膜に悪影響を及ぼしたりします。
- 高い電気絶縁性:アルカリイオンによる汚染がないため、非常に高い電気絶縁性を維持でき、信頼性の高い電子デバイスの基板として機能します。
2. 優れた熱的寸法安定性
アルカリ成分がないガラスは、高温での寸法変化が非常に小さくなります。
- 熱膨張の低減:アルカリ成分の代わりに、アルミナやホウ素などを加えることで、熱膨張係数(CTE)が低くなります。これは、加熱・冷却によるガラスの伸縮が少ないことを意味します。
- 高温プロセスへの対応:ディスプレイや半導体の製造では、600℃を超える高温プロセスが使われます。ガラスの寸法が安定していると、この高温処理中に回路パターンがズレたり、薄膜が剥がれたりするのを防ぐことができます。
3. 高い耐薬品性
- 化学的安定性:アルカリ成分が少ないことで、半導体やディスプレイの製造プロセスで使われる酸やアルカリ溶液などの薬液に対して強い耐性を持ちます。これにより、製造中にガラス表面が浸食されたり、白濁したりするのを防ぎます。
これらの特性により、無アルカリガラスはTFT-LCD、OLEDなどのフラットパネルディスプレイの基板として不可欠な材料となっています。

アルカリを含まないメリットは、主に電子デバイス基板として不可欠な特性です。アルカリイオンによる電気的汚染を防ぎ、回路性能を安定させます。また、熱膨張が小さく、高温での寸法安定性と耐薬品性に優れています。

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