この記事で分かること
- 熱伝導率とは:熱伝導率は、物質が熱をどれだけ伝えやすいかを示す固有の物性値です。単位は W/(m・ K) で表され、数値が大きいほど熱が伝わりやすく、放熱性に優れます。
 - 2.5次元実装で重要な理由:2.5次元実装では高密度・高発熱なチップレットを近接配置するため、熱が集中しやすいです。熱伝導率が高い基板で熱を効率よく放熱しないと、チップの性能低下や信頼性の問題を引き起こすため、非常に重要となります。
 - シリコンが熱伝導率に優れる理由:規則正しい単結晶構造を持つため、熱を運ぶフォノン(原子の格子振動)が散乱されにくく、効率よく伝播できるからです。
 
熱伝導率
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。
複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回は誘電正接に関する記事でしたが、今回は2.5次元実装の基板に必要な物性である熱伝導率に関する記事となります。
熱伝導率とは何か
熱伝導率とは、物質が熱をどれだけ伝えやすいかを示す物理量です。
これは、物質そのものが持つ特性であり、主に固体内部を温度の高い方から低い方へ熱が移動する(熱伝導)しやすさを表します。
熱伝導率の定義と単位
- 記号: λ κ, または k で表されます。
 - 物理的意味:厚さ 1mの板の両面に 1K(ケルビン、または 1℃)の温度差があるとき、その板の1m2の断面積を1秒間に通過する熱量(エネルギー)として定義されます。
 - SI単位: ワット毎メートル毎ケルビン (W/(m・ K))
 
単位の解釈
単位であるW/(m・ K) は、以下の要素から成り立っています。
| 単位 | 意味 | 
| W(ワット) | 1秒間に流れる熱量(エネルギーの流れ) | 
| m(メートル) | 熱が流れる距離(厚さ) | 
| K(ケルビン) | 温度差 | 
したがって、熱伝導率の数値が大きいほど、その物質は熱をよく通す(熱が伝わりやすい)性質がある、つまり放熱性能が高いことを意味します。逆に、数値が小さいほど熱を通しにくい(断熱性が高い)ことを意味します。
具体的な物質での例
熱伝導率は、物質の状態や構造によって大きく異なります。
| 物質 | 熱伝導率 (W/(m⋅K)) | 特徴 | 
| 高純度銅 | 約 400 | 非常に高く、ヒートシンクなどに利用 | 
| シリコン (Si) | 約 100 ~ 150 | 半導体材料として比較的高く、インターポーザなどに利用 | 
| 水 | 約 0.6 | 液体 | 
| 木材 | 約 0.1 ~ 0.2 | 断熱材として利用 | 
| 空気 | 約0.024 | 非常に低く、最も一般的な断熱材の一つ | 
熱伝導率は、電子機器の熱対策(放熱)や、建築分野の断熱性能を評価する上で非常に重要な指標となります。

熱伝導率は、物質が熱をどれだけ伝えやすいかを示す固有の物性値です。単位は W/(m・ K) で表され、数値が大きいほど熱が伝わりやすく、放熱性に優れます。電子部品の冷却や、建材の断熱性能評価などに使われます。
なぜ、2.5次元実装で熱伝導率が重要なのか
2.5次元実装において熱伝導率が重要となる主な理由は、高性能化による発熱量の増大と、高密度な集積構造による熱の閉じ込め、および熱による性能・信頼性の低下を防ぐ必要があるためです。
1. 高密度な集積による発熱量の増大
2.5次元実装は、複数の高性能チップレット(CPU、GPU、HBMなど)をインターポーザ上に非常に近い距離で並べて配置します。
- 高消費電力: 搭載されるチップレットは、AIやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向けなど、非常に高い処理能力を持つため、必然的に消費電力と発熱密度(ホットスポット)が増大します。
 - 熱の集中: 複数の高発熱チップが集中して配置されるため、パッケージ全体で大量の熱が発生し、特にインターポーザ付近に熱が溜まりやすくなります。
 
2. インターポーザが主要な放熱経路となる
2.5次元実装では、チップレットで発生した熱を外部(ヒートシンクなど)へ逃がす経路として、インターポーザ(基板)が非常に重要な役割を果たします。
- 垂直方向の熱伝達: チップレットからパッケージ基板やヒートシンクへ熱を効率よく逃がすためには、間に挟まれるインターポーザの熱伝導率が高いことが不可欠です。
 - 熱抵抗のボトルネック: インターポーザやパッケージ基板の熱伝導率が低いと、熱がスムーズに伝わらず、パッケージ全体の熱抵抗が大きくなり、熱がシステム内部に閉じ込められてしまいます。
 
3. 熱相互作用(サーマル・カップリング)の回避
チップレット同士が近接しているため、あるチップレットの熱が隣のチップレットの温度を上昇させる「熱相互作用(Thermal Coupling)」が発生しやすくなります。
- HBMの保護: 特に、高性能なロジックチップレットの隣に配置されることが多いHBM(高帯域メモリ)などのメモリチップは、温度変化に非常に敏感です。ロジックチップの熱がHBMに伝わると、HBMの性能が低下したり、データエラーを引き起こしたりするリスクがあります。
 - 熱伝導率の制御: 高い熱伝導率を持つインターポーザは、熱を外部に素早く拡散・放熱することで、ホットスポットの局所的な温度上昇を抑え、この熱相互作用の影響を最小限に抑えるのに役立ちます。
 
熱伝導率の高い基板を採用することは、チップの性能を最大限に引き出し、システムの信頼性を保証するための鍵となります。

2.5次元実装は、高密度・高発熱なチップレットを近接配置するため、熱が集中しやすいです。熱伝導率が高い基板で熱を効率よく放熱しないと、チップの性能低下や信頼性の問題を引き起こすため、非常に重要となります。
ガラス、有機材、シリコンそれぞれの熱伝導率は
ガラス、有機材、シリコンの一般的な熱伝導率の目安は以下の通りです。これらの材料は、2.5次元実装でインターポーザやパッケージ基板として利用され、熱管理の性能に直結します。
主要材料の熱伝導率の目安
| 材料 | 一般的な熱伝導率 (W/(m⋅K)) | 熱伝導の傾向 | 備考 | 
| シリコン (Si) | 約 100~ 150 | 高い | 半導体の主要材料。高密度配線と高い放熱性を両立。 | 
| ガラス | 約0.8 ~ 1.4 | 低い | シリコンよりも低コストで電気特性が良いが、熱伝導率は低い。 | 
| 有機基板 | 約 0.2 ~ 5 | 非常に低い | FR-4などの樹脂ベース基板。安価で加工しやすいが、最も熱を伝えにくい。 | 
これらの数値は一般的な目安であり、材料の純度、密度、構造(積層構成、ビアの有無など)、そして測定温度によって変動します。
熱伝導率の比較と用途
2.5次元実装において、これらの材料は以下のような特徴を持ちます。
- シリコン・インターポーザ:
- 特徴: 非常に高い熱伝導率を持ち、高発熱のCPUやGPUなどの高性能チップレットの放熱に最も適しています。
 - トレードオフ: 製造コストが高い傾向にあります。
 
 - ガラス・インターポーザ:
- 特徴: シリコンと有機基板の中間に位置し、シリコンよりも低コスト化、低誘電率化が期待されていますが、熱伝導率はシリコンに劣ります。
 
 - 有機基板 (パッケージ基板):
- 特徴: 熱伝導率は最も低いですが、安価で製造しやすいため、インターポーザをサポートするメインのパッケージ基板として広く使われています。熱対策として、内部に銅配線層やサーマルビアを多く設けて、実効的な熱伝導率を高める工夫が必要です。
 
 
2.5次元実装では、高熱伝導率のシリコン・インターポーザでチップレットからの熱を広げ、その下の比較的低熱伝導率の有機パッケージ基板を通じてヒートシンクへ熱を逃がす、という複合的な放熱経路が設計されます。

ガラス、有機材、シリコンの熱伝導率は大きく異なります。シリコンは約 100W/(m⋅K)で最も高く、ガラスは約 0.8~ 1.4W/(m⋅K)、有機材は約 0.2 ~ 5W/(m⋅K) で低いです。
シリコンが高い熱伝導率を持つ理由は何か
シリコンが比較的高い熱伝導率を持つ主な理由は、その結晶構造の規則性と、熱を運ぶ主要な担体であるフォノンの効率的な振る舞いにあります。
シリコンが高い熱伝導率を持つ理由
シリコンは共有結合性の高いダイヤモンド構造を持つ単結晶であり、熱伝導の観点から以下の要因で優れています。
1. 規則正しい結晶構造(フォノンの散乱の少なさ)
- 規則性: シリコンの原子配列は非常に規則正しい単結晶構造を形成しています。
 - フォノンの効率的な伝播: 固体中の熱は、原子の振動の量子であるフォノンによって運ばれます。結晶構造が規則的であるほど、フォノンは途中で散乱されることなく、より長い距離を効率よく伝播できます(平均自由行程が長い)。これにより、熱が速く、効率よく伝導されます。
 
2. 原子が軽量であること(熱容量と速度)
- 原子の軽さ: シリコン原子は、ヒートシンクに使われる銅 などの金属と比較して軽量です。
 - フォノンの速度: フォノンの群速度(熱の伝わる速度)は、原子の質量が小さいほど速くなる傾向があります。これにより、同じ熱容量であっても、熱をより速く運ぶことができます。
 
3. 熱伝導の主役が「フォノン」であること
- 非金属: シリコンは半導体であり、熱を運ぶ主要な担体はフォノン(原子の格子振動)です。
 - 金属との違い: 銅やアルミニウムなどの金属は、熱を自由電子が運びます。シリコンは金属ほど熱伝導率は高くないものの、規則的な結晶構造と軽量な原子により、フォノンによる熱伝導としては非常に高い値を示します。
 
これらの要因により、シリコンはインターポーザなどの用途において、有機材料やガラスと比較して優れた放熱性能を発揮するのです。

シリコンは規則正しい単結晶構造を持つため、熱を運ぶフォノン(原子の格子振動)が散乱されにくく、効率よく伝播できるからです。
 

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