この記事で分かること
- 大きな成長期待の理由:世界的なAI需要を背景に、コンピュータや電子部品の輸出が急増していることが最大の要因です。また、米中対立による生産拠点のタイ移管も大きな要因です。
- チャイナプラスワンでタイが選ばれる理由:タイは長年培われた自動車・電子機器の強固なサプライチェーンに加え、整備された港湾等の物流インフラが整っています。政府の投資優遇策や、米中双方と良好な関係を保つ「中立性」も、企業の安定した分散先として選ばれる大きな要因です。
タイ輸出額の予想未達
タイ商務省が発表した2025年11月の貿易統計によると、輸出額は前年同月比で7.1%増となりました。これは市場予想(ロイター調査の8.25%増など)を下回る結果となり、タイ経済における輸出の不透明感が意識されています。
https://jp.reuters.com/markets/japan/2TUNXPM5TFOY5ID3YNGRFE3EBA-2025-12-25/
堅調ではありますが、バーツ高や世界的な関税リスクによってやや勢いに欠けた結果となっています。
大きな成長が期待されている理由は何か
タイの2025年の輸出が高い成長(通年で約11%台の伸び)を維持すると期待されている背景には、主に「AI・デジタル需要の爆発」と「地政学リスクに伴う生産拠点のシフト」という2つの大きな波があります。
市場予想を下回った11月の結果がありつつも、強気な予測が維持されている主な理由は以下の通りです。
1. 世界的な「AI・データセンター」需要の取り込み
これが最大の推進力です。タイはハードディスク駆動装置(HDD)やプリント基板(PCB)の主要な生産拠点ですが、現在はAIサーバー向けの需要が急増しています。
- 電子機器の急伸: 11月統計でもコンピュータ・部品(約60%増)や電話機が突出して伸びており、世界的なAIインフラ投資の恩恵をダイレクトに受けています。
- 投資の呼び込み: 米中対立を背景に、GoogleやMicrosoft、Amazon(AWS)などがタイへのデータセンター投資を次々と発表しており、関連部品の生産・輸出能力が底上げされています。
2. 「チャイナ・プラス・ワン」戦略による恩恵
米中貿易摩擦の激化により、企業が中国以外の代替生産拠点としてタイを選ぶ動きが加速しています。
- 米国向け輸出の急増: 11月の米国向け輸出が37.9%増と異常な伸びを見せているのは、中国製品への関税を避けるための「迂回輸出」や、生産拠点のタイ移管が進んでいることを示唆しています。
- サプライチェーンの厚み: 電子部品だけでなく、電気自動車(EV)関連のサプライチェーンもタイ国内で急速に構築されており、将来的な輸出余力として期待されています。
3. 金や市況産品による押し上げ
タイの輸出統計には「金(ゴールド)」が含まれることが多く、世界的な不透明感から金価格が高騰している際、輸出額が大きく膨らむ傾向があります。2025年の高い成長率には、こうした非製造業品による一時的な押し上げ効果も含まれています。
4. 低ベース効果(前年の反動)
2024年の前半が比較的低調だったため、統計上の比較対象(前年比)が低くなり、2025年の数字が大きく出やすいというテクニカルな要因もあります。
注意すべき「落とし穴」
これほど強気な予測がある一方で、2026年の予測は一転して「マイナス成長」の可能性も指摘されています。
- トランプ政権(第2次)の影響: 米国がタイ製品に対しても高い関税を課すリスクがあり、現在の「米国向け絶好調」がいつまで続くかは不透明です。
- 構造的な弱さ: 自動車(ガソリン車)など、タイの伝統的な強みだった分野が中国製EVの台頭などで苦戦しており、「AI関連以外の輸出」は実はそれほど強くないという側面があります。

世界的なAI需要を背景に、コンピュータや電子部品の輸出が急増していることが最大の要因です。また、米中対立による生産拠点のタイ移管や、米国の旺盛な消費、金価格の高騰も、高い成長予測を支える主な理由です。
チャイナプラスワンでタイが選ばれる理由は何か
「チャイナ・プラス・ワン」の移転先としてタイが選ばれる理由は、単に「コストが安い」からではなく、「産業の成熟度」と「地政学的な安定感」のバランスが非常に優れているためです。
1. 盤石なサプライチェーン(特に自動車・電子部品)
タイは長年「アジアのデトロイト」と呼ばれ、自動車や家電の巨大な産業集積があります。
- 部品が現地で揃う: ゼロから工場を建てるベトナムやインドと違い、周辺に多くの部品供給メーカー(ティア1、ティア2)が既に存在するため、進出後すぐに生産を軌道に乗せやすいのが強みです。
2. 高度なインフラと東部経済回廊(EEC)
タイ政府が進める巨大経済圏開発構想(EEC)により、物流インフラが非常に整備されています。
- 充実した港湾・道路: レムチャバン港などの主要港や高規格の道路網が整っており、製造した製品を迅速に世界中へ輸出できる環境があります。
3. 手厚い投資優遇策(BOI)
タイ投資委員会(BOI)による外資誘致が非常に積極的です。
- 法人税の免除: 特定のハイテク産業(AI、EV、半導体など)に対しては、最長十数年にわたる法人税の免除や、輸入関税の撤廃など、他国と比較しても強力なインセンティブを提供しています。
4. リスク分散と「中立性」
米中対立が激化する中、タイはどちらの陣営とも良好な関係を維持する「バランス外交」を得意としています。
- 対米・対中アクセスの良さ: 中国企業にとっては「米国向け輸出の回避拠点」として、日欧米企業にとっては「中国依存を減らす安定した拠点」として、双方から選ばれる「ハブ」のような立ち位置になっています。

タイは長年培われた自動車・電子機器の強固なサプライチェーンに加え、整備された港湾等の物流インフラが整っています。政府の投資優遇策や、米中双方と良好な関係を保つ「中立性」も、企業の安定した分散先として選ばれる大きな要因です。
予想ほど輸出が伸びなかった理由は何か
11月の輸出成長率(7.1%増)が市場予想(8.25%増)を下回った主な理由は、AI関連の爆発的な伸びを、「バーツ高」「洪水被害」「主要国の景気減速」という3つのマイナス要因が打ち消したためです。
1. 通貨バーツの高騰による価格競争力の低下
11月は対ドルでバーツ高が進んだ時期と重なりました。
- 農産物への直撃: 特に米や食品などの農産品は価格競争が激しく、バーツ高によって海外市場での価格が割高になったことが、農産加工品セクターの15.7%減という大幅な落ち込みに繋がりました。
2. タイ南部を中心とした大規模な洪水被害
11月、タイ南部では例年を上回る豪雨による洪水が発生しました。
- 物流と生産の停滞: 道路の冠水により港への輸送が遅延したほか、原材料となる農作物の収穫や出荷に大きな支障が出ました。
- 自動車産業への追い打ち: 国内の販売不振に加え、洪水の懸念によるサプライチェーンの混乱が製造業全体の足を引っ張りました。
3. 米国以外の主要市場(中国・日本)の減速
AI需要に沸く米国向けが37.9%増と突出した一方で、他の主要国向けが想定以上に振るいませんでした。
- 中国向け(7.8%減): 中国国内の消費低迷が続き、タイからの化学品やプラスチックの需要が減退しました。
- 日本向け(8.9%減): 日本の景気停滞や円安の影響もあり、食品や自動車部品などの輸出が伸び悩みました。
今回の統計で見えた「二極化」
現在のタイ輸出は、非常に極端な形になっています。
| 分野 | 状況 | 主な品目 |
| 絶好調 | AIバブル・米国需要 | コンピュータ、サーバー、電子機器 |
| 苦戦 | 景気・為替・自然災害 | 自動車、農産物、ゴム、化学品 |

11月の輸出が予想を下回った主な理由は、バーツ高による価格競争力の低下と、農業・自動車分野の不振です。特にバーツ高は米などの農産品輸出に響き、中国や日本市場の需要低迷も重なりました。また、南部での大規模な洪水による物流・生産への影響も下押し要因となりました。

コメント