この記事で分かること
- ラウンドアップとは:主成分のグリホサートが植物の根まで枯らす、世界で最も普及した非選択性除草剤です。旧モンサント(現バイエル)が開発し、高い除草効果を誇る一方、WHO機関が発がん性を指摘したことで巨額訴訟に発展しています。
- なぜグリホサートが植物の根まで枯らすのか:植物特有の代謝経路である「シキミ酸経路」を阻害するからです。生命維持に必要なアミノ酸の合成を止めるため、植物はタンパク質を作れず餓死するように枯れます。この経路は人間にはないため、植物にのみ効くのが特徴です。
- なぜ発がん性を疑われているのか:WHO機関のIARCが、DNAを傷つける「遺伝毒性」や「酸化ストレス」の証拠があるとして、「おそらく発がん性がある」と分類したためです。
バイエルのラウンドアップの発がん性を巡る訴訟での和解案
バイエルが除草剤「ラウンドアップ」の発がん性を巡る訴訟で2.5億ドル(約1兆円超)の和解案を提示したことが報じられています。
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/WTWZFDSETNLUJM3DBACTRFFDWQ-2026-02-18/
バイエルは依然として製品の安全性は主張しており、和解は「責任を認めるものではない」としていますが、泥沼化からの脱却のため和解案を提示しています。
ラウンドアップはどんな除草剤なのか
「ラウンドアップ」は、世界で最も広く使われている除草剤の一つですが、その強力な効果と引き換えに、現在では「世界で最も物議を醸している化学物質」とも言えます。
1. 主成分は「グリホサート」
ラウンドアップの核心は、グリホサートという化学物質です。
- 非選択性: 「この雑草だけ」ではなく、かかった植物のほとんどを枯らします。
- 移行性: 葉っぱから吸収された成分が、植物の「維管束(血管のようなもの)」を通って根っこまで届きます。そのため、表面を刈るのとは違い、根から完全に死滅させます。
2. 開発の歴史とバイエル(旧モンサント)
元々は米国の化学メーカー、モンサント社が1974年に発売しました。
- 遺伝子組み換え作物(GMO)とのセット販売: 「ラウンドアップをかけても枯れないトウモロコシや大豆」の種子をセットで販売したことで、農業の効率を劇的に変えました。
- 買収: 2018年にドイツの製薬・化学大手バイエルがモンサントを約630億ドルで買収。この際、現在まで続く数兆円規模の訴訟リスクも一緒に引き継いでしまいました。
3. なぜ「発がん性」が疑われているのか?
最大の転換点は2015年でした。
- IARC(国際がん研究機関)の発表: WHOの下部機関であるIARCが、グリホサートを「ヒトに対しておそらく発がん性がある(グループ2A)」に分類しました。
- これに対する反論: 一方で、米環境保護局(EPA)や日本の食品安全委員会などは「適切に使用すれば発がん性のリスクはない」との見解を示しており、科学的・政治的な対立が続いています。
4. 日本での現状
米国では訴訟が相次ぎ、家庭向けの販売が中止されるなどの動きがありますが、日本では現在もホームセンターやネット通販で普通に購入可能です。
- 農林水産省の登録を受けており、農業用だけでなく家庭の庭の手入れ用としても広く普及しています。
- ただし、100円ショップなどで売られている安価な除草剤の中にも、成分として「グリホサート」が含まれているものが多くあります。
ラウンドアップは散布後、土に落ちると微生物によって分解されやすく、次の植物を植える際への影響が少ない(土に残りにくい)という特徴もあります。これが「使い勝手の良さ」として支持されてきた理由です。

主成分のグリホサートが植物の根まで枯らす、世界で最も普及した非選択性除草剤です。旧モンサント(現バイエル)が開発し、高い除草効果を誇る一方、WHO機関が発がん性を指摘したことで巨額訴訟に発展しています。
なぜグリホサートは植物を枯らすのか
グリホサートが植物を枯らす理由は、植物が生きていくために不可欠な「特定のアミノ酸」を作る工場をストップさせてしまうからです。
1. 「シキミ酸経路」の遮断
植物には、タンパク質の材料となるアミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)を作る「シキミ酸経路」という代謝経路があります。グリホサートはこの経路で働く「EPSPS」という酵素の働きをピンポイントで阻害します。
2. タンパク質が作れなくなる
酵素が働かなくなると、植物は生命維持に必要なアミノ酸を作れなくなります。人間で例えるなら、「必須栄養素の製造ラインが完全に止まった状態」です。
3. 餓死するように枯れる
アミノ酸が供給されないと、新しい細胞やタンパク質が作れず、植物は成長を停止します。散布から数日で成長が止まり、1〜2週間かけてじわじわと根まで枯れていきます。
なぜ人間には「直ちに」毒性がないのか
シキミ酸経路は植物や微生物に特有のもので、人間を含む動物には存在しません。
- 植物: 自分でアミノ酸を作る必要がある(グリホサートで死ぬ)
- 人間: 必要なアミノ酸(必須アミノ酸)を食事から摂取する(経路がないため、このメカニズムでは死なない)
この「植物にだけ効く」という選択性が、かつてラウンドアップが「画期的に安全な除草剤」として普及した最大の理由です。

植物特有の代謝経路である「シキミ酸経路」を阻害するからです。生命維持に必要なアミノ酸の合成を止めるため、植物はタンパク質を作れず餓死するように枯れます。この経路は人間にはないため、植物にのみ効くのが特徴です。
なぜ発がん性があると疑われているのか
グリホサートに「発がん性」の疑いがかかった最大の理由は、2015年にWHOの下部機関である国際がん研究機関(IARC)が、5段階評価で上から2番目に高い「グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)」に分類したことです。
1. 遺伝毒性の証拠
IARCは、グリホサートが細胞のDNAに損傷を与える「遺伝毒性」や、細胞にダメージを与える「酸化ストレス」を引き起こす強力な証拠があるとしています。DNAの損傷は、がん細胞が発生する直接的な原因になり得ます。
2. 非ホジキンリンパ腫(NHL)との関連
農作作業などで大量のグリホサートにさらされた人を対象とした疫学調査において、血液のがんの一種である「非ホジキンリンパ腫」の発症リスクが高まったとする報告が複数示されました。米国の集団訴訟も、主にこの病気の患者らによって起こされています。
3. 動物実験の結果
マウスやラットを用いた実験で、特定の腫瘍(腎臓がんや血管肉腫など)の発生率が上昇したというデータが根拠の一つとなりました。
補足:科学界の「ねじれ」
ここで混乱を招いているのは、他の公的機関と見解が真っ向から対立している点です。
| 機関 | 評価 | 理由 |
| IARC | おそらく発がん性あり | わずかなリスクでも「危害の可能性」があれば指摘する。 |
| EPA(米環境保護局) | 発がん性なし | 通常の使用範囲であれば「リスクは無視できる」と判断。 |
| 欧州食品安全機関(EFSA) | 発がん性なし | 多くの研究を総合し、安全性に問題なしと結論。 |
このように、「可能性がある(IARC)」という主張と、「現実的な使用法なら安全(規制当局)」という主張が衝突しているため、現在も激しい議論が続いているのです。

WHO機関のIARCが、DNAを傷つける「遺伝毒性」や「酸化ストレス」の証拠があるとして、「おそらく発がん性がある」と分類したためです。特に、血液のがんである非ホジキンリンパ腫との関連が指摘されています。

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