エア・リキードの広島新工場 どのようなガスを製造するのか?

この記事で分かること

1. どのようなガスを製造するのか

AI半導体の微細加工に対応するため、不純物をppb(10億分の1)レベルまで排除した超高純度窒素、酸素、アルゴンを製造します。これらは酸化防止や洗浄、プラズマ生成など、製造全工程で大量に使用されます。

2. 高純度ガスの製造方法

空気を原料に、圧縮・浄化後、マイナス190℃以下まで冷却して液化させます。成分ごとの沸点の違いを利用して分ける深冷分離を行い、さらに特殊な精製装置で微量な不純物を極限まで取り除き、高純度化します。

3. なぜ広島なのか

主要顧客であるマイクロン・テクノロジー等の先端半導体増産に合わせ、膨大な需要に即応するためです。需要地に近接して工場を構えることで、輸送リスクを排除し、パイプラインを通じた24時間安定供給を実現します。

エア・リキードの広島新工場

 フランスの産業ガス大手、エア・リキードが、広島県において約400億円(2億ユーロ)を投じ、最新のAI半導体製造に対応した高純度ガスの新工場を建設することを発表しました。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC166C60W6A410C2000000/

 世界的なAI需要の急増に伴う最先端チップの増産を背景としたもので、日本の半導体供給網(サプライチェーン)を強化する重要な動きとなります。

どんな高純度ガスを製造するのか

 この広島の新工場で製造されるのは、主に「超高純度キャリアガス」と呼ばれる、半導体製造の全工程で大量に使用される基幹ガスです。

具 体的には、以下の3つのガスが中心となります。

1. 超高純度窒素 (N2)

  • 役割: 酸化防止とパージ(洗浄)。
  • 詳細: 半導体は酸素に触れるとすぐに酸化膜ができてしまい、微細な回路が壊れてしまいます。そのため、製造装置内やウェハの保管容器を常に窒素で満たし、酸素を追い出す必要があります。AI半導体のような最先端品では、わずかな不純物も許されないため、「超高純度」であることが絶対条件です。

2. 超高純度酸素 (O2)

  • 役割: 酸化膜の形成とエッチング。
  • 詳細: シリコンウェハの表面に意図的に絶縁膜(シリコン酸化膜)を作る工程で使用されます。また、不要なレジスト(感光材)を除去する「アッシング」という工程でも使われます。

3. 超高純度アルゴン (Ar)

  • 役割: 不活性環境の維持とプラズマ生成。
  • 詳細: 高温プロセスでの保護ガスとして使われるほか、エッチング(回路の彫り込み)やスパッタリング(膜の堆積)の際にプラズマを発生させるための媒体として不可欠です。

なぜ「AI半導体用」に新工場が必要なのか?

 AI半導体(例えばNVIDIAのGPUなど)は、2nm(ナノメートル)世代といった極限の微細化が進んでいます。これに伴い、ガス供給には以下の2点が強く求められています。

  • 「究極の純度」への対応:ナノ単位の回路では、ガスに含まれる微細な粒子(パーティクル)一つが致命的な欠陥になります。新工場では、従来の基準をさらに上回る、ppm(100万分の1)やppb(10億分の1)単位を超えた純度管理が行われます。
  • 「膨大な消費量」への対応:AIチップは製造工程が非常に複雑で、1枚のウェハを完成させるまでの工程数が数百に及びます。そのため、1つの工場(ファブ)が消費するガスの量は膨大で、顧客の近くに専用の大型工場(空気分離装置:ASU)を建設してパイプラインで直結供給する必要があるのです。

 エア・リキードはこれら「キャリアガス」以外にも、回路形成に直接関わる「電子材料ガス(前駆体やエッチングガスなど)」も手がけていますが、今回の広島新工場の主眼は、これら「超高純度バルクガス」を安定・大量供給することにあります。

AI半導体の超微細加工(2nm世代等)に対応するため、不純物を極限まで排除した超高純度窒素、酸素、アルゴンを製造します。これらは酸化防止やプラズマ生成、洗浄に不可欠で、パイプラインにより大量・安定供給されます。

高純度ガスはどのように製造するのか

 高純度ガス(特に窒素、酸素、アルゴン)は、主に「深冷分離(しんれいぶんり)」という手法で製造されます。

 これは、私たちが吸っている「空気」を原料にし、マイナス190℃以下の極低温まで冷やして液体にすることで、成分ごとの沸点の違いを利用して分ける方法です。

製造の主な流れ

  1. 圧縮と不純物除去空気を取り込み、コンプレッサーで圧縮します。その後、フィルターや吸着剤を使って、水分や二酸化炭素、塵などの不純物を徹底的に取り除きます。
  2. 熱交換(冷却)精製された空気を、熱交換器でマイナス190℃程度まで一気に冷却し、液体に近い状態にします。
  3. 精留(分離)「精留塔」という巨大な筒状の装置に送り込みます。成分ごとに「液体になる温度(沸点)」が異なる性質を利用し、蒸留を繰り返して各ガスを分離します。
    • 窒素: 沸点が最も低い(約-196℃)ため、塔の上部から回収。
    • アルゴン: 中間の温度帯で分離。
    • 酸素: 沸点が比較的高い(約-183℃)ため、塔の下部に溜まります。
  4. 超高純度化(精製)半導体用にはここからさらに特殊な精製装置を通します。フィルターや触媒を用いて、残った微量な不純物(水素やヘリウムなど)をppb(10億分の1)レベルまで排除し、究極の純度まで高めます。

なぜ「空気分離装置(ASU)」と呼ぶのか

 この装置は、空気を構成要素にバラバラに分ける(分離する)ため、ASU(Air Separation Unit)と呼ばれます。エア・リキードが広島に建設するのも、この大規模なASUが中核となります。

空気を原料に、フィルター等で不純物を除去後、マイナス190℃以下まで冷却して液化させます。成分ごとの沸点の違いを利用して分ける深冷分離を行い、さらに特殊精製装置で不純物を極限まで排除して製造します。

広島に新工場を作るのはなぜか

 エア・リキードが広島に新工場を建設する最大の理由は、主要顧客である半導体メーカーの増産計画に合わせ、輸送コストを抑えつつ安定供給を行うためです。主な要因は以下の3点に集約されます。

1. マイクロン・テクノロジー等の拠点への近接性

 広島県(特に東広島市)には、米メモリ大手のマイクロン・テクノロジーが巨大な製造拠点を構えています。

 同社は広島で次世代メモリ「HBM」や最先端チップの生産を拡大しており、エア・リキードは「オンサイト供給」(パイプラインで直接供給)または近接地からの供給により、膨大なガス需要に応える狙いがあります。

2. サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)

 半導体製造は24時間365日の稼働が前提であり、ガスの供給が数分止まるだけで数十億円規模の損失が生じます。

 地震や災害のリスクを考慮し、需要地のすぐそばに最新鋭の自社工場を持つことで、外部からの物流に頼らない安定した供給体制を構築できます。

3. 先端プロセスの技術支援

 AI半導体向けの2nm世代などの超微細加工では、ガスの純度管理が極めてシビアです。

 顧客の工場の近くに拠点を置くことで、技術的なフィードバックや仕様変更に迅速に対応し、共同で歩留まり改善に取り組むことが可能になります。


主要顧客であるマイクロン等の先端半導体増産に合わせ、膨大な需要に即応するためです。需要地に近接して工場を構えることで、輸送リスクを排除し、パイプライン等を通じた24時間365日の安定供給を実現します。

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