この記事で分かること
真武M890とは何か
2026年5月にアリババが発表した最新の自社製AIチップです。米国の輸出規制に対抗した国産代替の切り札であり、144GBの大容量メモリを備え、自律的に複雑なタスクをこなす「AIエージェント」の処理に特化しています。
どんな性能が3倍なのか
前世代(真武810E)に比べ、大規模言語モデル(LLM)の「学習」と「推論」における実効処理能力が総合的に3倍になりました。メモリや通信の強化、超低精度対応により、データの通信渋滞を防ぎ計算効率を極限まで高めています。
性能向上の方法
最先端の製造プロセスの制限に対し、アリババは144GBの大容量メモリ搭載、独自チップによる128枚の超高速接続(超ノード化)、FP4という低精度計算への対応、自社AIモデルとの垂直統合により、システム全体で実効性能を3倍に高めました。
アリババの新型AIチップ「真武M890」
アリババは新型AIチップ「真武M890(Zhenwu M890)」を発表しています。真武M890は、アリババ傘下の半導体設計子会社である平頭哥(T-Head / Pingtouge)が開発した、学習・推論一体型のAIアクセラレータです。前世代モデル「真武810E」と比較して総合性能が3倍に向上したとされています。
米国の輸出規制強化を背景に、NVIDIA製GPUに依存しない「国産代替」の動きが加速するなか、非常に大きな注目を集めています。
米中ハイテク摩擦の中で、華為技術(ファーウェイ)の「昇騰(Ascend)」シリーズなどと並び、中国国内におけるAIインフラの自給自足を支える最有力候補のひとつになったと言えます。
真武M890とは何か
「真武M890(しんぶ M890 / Zhenwu M890)」は、中国のテック大手アリババグループ(Alibaba)が開発した、最新鋭のAI処理専用の半導体(AIアクセラレータ/GPU代替チップ)です。
2026年5月に開催されたアリババの技術カンファレンスで正式発表されました。
米国による最先端半導体の輸出規制強化が続くなか、アリババがNVIDIAなどの米国製GPUに頼らず、自社のAIサービス(クラウドや大規模言語モデル)を安定して運用・進化させるために開発した「完全内製の切り札」と言える存在です。
1. AIエージェントへの最適化
これまでのAIチップは、主に「質問に対して文章や画像を生成する(推論)」ためのものでした。
しかし、真武M890は、AIが自律的に状況を判断して複雑なタスクを連続で実行する「AIエージェント(Agentic AI)」の処理に特化して設計されています。
- 大容量メモリ: 144 GBという非常に大きなメモリ(VRAM)を搭載。これにより、膨大な文脈(長文のデータや過去のやり取り)を記憶したまま、AIをスムーズに動かせます。
- 高速な通信: チップ間のデータ転送速度(帯域幅)は800 GB/sに達し、データの渋滞を起こしません。
2. 128枚を繋ぐ「巨大な1枚のチップ」化
アリババは、このチップ単体の性能を上げるだけでなく、「繋げて使う」ための仕組みを同時に開発しました。
専用の超高速接続チップ(ICN Switch 1.0)と、専用サーバーラック(盤久 AL128)を用いることで、128枚の真武M890を1つのラックにまとめて同期させることができます。
データの遅延(タイムラグ)を100ナノ秒(1000万分の1秒)レベルにまで抑え込んでいるため、システム全体としては「128倍のパワーを持つ1枚の巨大な超モンスターチップ」として機能します。
3. なぜ今、これが重要なのか
現在、中国のテック企業はNVIDIAの最先端GPU(H100やBlackwellなど)を合法的に購入することができません。
真武M890は、前世代モデル(真武810E)と比べて総合性能が3倍に向上しており、海外のアナリスト分析では「NVIDIAのH100世代」の性能をターゲットにしているとされています。
アリババは、自社開発の高性能AIモデル「通義千問(Qwen)3.7-Max」を、この真武M890の上で動かすことで、半導体からAIモデル、そしてクラウドサービスまでをすべて自社で完結させる「垂直統合」を完成させました。
実際に設計を担当したのは、アリババ傘下の半導体設計専門子会社である「平頭哥(T-Head / ピントゥオグ)」です。すでに中国国内では、通信、自動車、金融など400社以上の企業に、これまでの真武シリーズが累計56万個以上出荷されています。

真武M890は、2026年5月にアリババが発表した最新の自社製AIチップです。前世代比3倍の性能を持ち、NVIDIAのH100世代を標榜。144GBの大容量メモリを備え、自律型AIエージェントの処理に特化しています。
どんな性能が3倍なのか
アリババの公式発表(2026年5月20日の「アリババクラウド峰会」)によると、今回の「性能3倍」は、前世代モデルである「真武810E」と比較した、AIの大規模言語モデル(LLM)における「学習(Training)」と「推論(Inference)」の総合的な処理能力を指しています。
具体的には、単に演算スピードが速くなっただけでなく、以下の3つの要素が組み合わさることで「実効性能3倍」を達成しています。
1. 「AIエージェント」の並行処理・推論性能
これまでのAIのような「1問1答のチャット」ではなく、AIが自律的に何十回もツールを呼び出して複雑なタスクをこなす「AIエージェント」の実行において、処理効率が3倍に跳ね上がっています。
CPU(自社製の「倚天」シリーズ)との高度な協調設計により、タスクの計画や状態管理といったエージェント特有の負荷を効率よくさばけるようになっています。
2. 超低精度(FP4など)への対応による高速化
真武M890は、高精度な学習に使う「FP32」から、超低精度の「FP4」まで、幅広いデータ精度(データフォーマット)にネイティブ対応しました。
モデルの賢さを維持したまま、データの計算量を極限まで削る「超低精度推論(FP4など)」を行うことで、1秒間に処理できるトークン数(文字数・データ量)を大幅に引き上げています。
3. メモリと通信帯域の強化による「実効効率」の向上
AIチップは計算速度が速くても、データの転送が追いつかないと「待ち時間(ボトルネック)」が発生します。真武M890はこの弱点を潰しています。
- メモリ容量: 144 GB(前世代から大幅増)
- チップ間通信(帯域幅): 800 GB/s
これにより、データ転送の渋滞によるタイムロスが激減し、チップが持つ本来の計算パワーをフルに発揮できるようになりました。
単純な計算上の理論値だけでなく、「巨大なAIモデルを実際に動かしたり、学習させたりする際の実用スピード(スループット)が、前世代の3倍になった」という意味になります。

前世代(真武810E)と比べ、大規模言語モデル(LLM)の「学習」と「推論」における実効処理能力が総合的に3倍になりました。メモリや通信の強化、超低精度対応により、データの通信渋滞を防ぎ計算効率を極限まで高めています。
輸出規制の中でどのように性能を向上させたのか
厳しい輸出規制(最先端の露光装置や製造プロセスの制限)がある中で、アリババが性能を3倍に向上させたアプローチは、「微細化(物理的なチップの小ささ)だけに頼らず、システム全体で引き出す効率を極限まで高める」という、現在の中国半導体開発の王道とも言える戦略です。
1. 単体から「集団」へ:超ノード化(システム・イン・パッケージ)
最先端の製造プロセスが使えない場合、1枚のチップの計算力を爆発的に上げるのは困難です。そこでアリババは「繋ぎ方の効率」を徹底的に磨きました。
- 専用の接続チップ(ICN Switch 1.0)を独自に開発。
- これにより、128枚の真武M890を「遅延を100ナノ秒(1000万分の1秒)以下」という超高速で連携させ、128枚をまるで1枚の巨大な半導体(超ノード)のように機能させることに成功しました。繋いだときのロスを極限まで減らすことで、システム全体の性能を跳ね上げています。
2. メモリ容量の拡大(144GB)
近年のAI処理、特に「AIエージェント」の処理では、計算速度(FLOPS)と同じくらい「大量のデータをメモリに載せ、いかに速く出し入れするか(帯域幅)」が重要です。
真武M890は、メモリ容量を144GB(前世代の96GBから大幅増)、チップ間帯域幅を800GB/sに強化しました。これにより、チップが計算待ちで遊ぶ「ボトルネック」を解消し、既存の製造プロセスでも実効性能を3倍に高めています。
3. 計算アルゴリズムの最適化(FP4対応)
データの「扱い方」を工夫して計算量を減らしています。
真武M890は、「FP4」という超低精度(4ビット)のデータ形式にネイティブ対応しました。従来の16ビット(FP16)などに比べてデータ量が圧倒的に軽くなるため、同じ半導体でも1秒間に処理できるAIの文字数やトークン数を劇的に増やすことができます。
4. ソフトウェアとハードウェアの「垂直統合」
アリババは自社で大規模言語モデル「Qwen3.7-Max」を開発しています。
「自社のチップの構造」と「自社のAIモデルのコード」を完全に噛み合わせる(協調設計する)ことで、汎用チップ(NVIDIA等)では発生する無駄な命令処理を徹底的に排除しました。
モデル側からもチップを最も効率よく叩くようにチューニングされているため、ハードウェアのスペック以上の「実効性能」を引き出しています。
製造プロセス(工場での作り細かさ)の壁を、「メモリを増やす」「独自チップで128枚を超高速に繋ぐ」「計算データを軽くする」「自社AIモデルと最適化する」という、アーキテクチャ(設計)とシステム全体の工夫によって突破し、3倍の性能を実現しています。

最先端の製造プロセスの制限に対し、アリババは144GBの大容量メモリ搭載、独自チップによる128枚の超高速接続(超ノード化)、FP4という低精度計算への対応、自社AIモデルとの垂直統合により、システム全体で実効性能を3倍に高めました。
製造はどこが行うのか
アリババおよび設計子会社の平頭哥(T-Head)は、「製造委託先のファウンドリ(工場)を公式には一切明かしていない」というのが実態です。米国の制裁対象になるリスク(地政学的リスク)を避けるため、中国の半導体設計企業は製造元を隠すのが通例となっています。
しかし、半導体業界の専門家やアナリストの間では、中国最大のファウンドリである「SMIC(中芯国際集成電路製造)」が製造を行っているというのが確実視されています。
なぜ「SMIC製造」とみられるのか
- 米国の禁輸規制による制裁: 米国政府は14nm(ナノメートル)以下の微細な最先端ロジック半導体を中国国内で製造・調達できないよう規制をかけています。そのため、最先端の台湾TSMCや韓国サムスンに製造を委託することは物理的に不可能です。
- 国内で対応できる唯一の選択肢: 消去法により、中国国内で実用的な性能のAIチップを製造できる設備と技術(7nmクラスのプロセス技術とされる「Generation 2」など)を持つのは、実質的にSMIC一社しかありません。
どのように作っているのか?(推測)
SMICは、ASML製の最先端の露光装置(EUV露光装置)の入手を米国にブロックされています。
そのため、一世代前の装置(DUV露光装置)を何度も重ねて露光する「マルチパターニング」という極めて難易度の高い技術を駆使し、規制の網の目をくぐり抜けて製造しているとみられています。

製造元は公式非公開ですが、米国の禁輸規制により海外(TSMC等)への委託が不可能なため、中国国内で唯一最先端の製造技術を持つ最大手ファウンドリのSMIC(中芯国際)が製造していると確実視されています。

コメント