デュアルシードセミアディティブプロセス

この記事で分かること

デュアルシードセミアディティブプロセス(DS-SAP)とは

表面とビア内のシード形成を分離した新製法です。表面には薄い無電解めっき、ビア内には銅ナノ粒子インクをインクジェットで塗布することで、従来SAPの微細化と歩留まりのトレードオフを解消しました。


インクジェット技術でどのように塗布するのか

インクジェットでビア上に銅ナノ粒子インクを吐出し、15nmの粒子が自己組織的に内壁全面へ均一吸着、焼結で銅薄膜を形成します。浴管理不要・選択的塗布・気泡なしという特性が従来手法に対する大きな優位点です。


銅ナノ粒子で密着力は問題ないのか

プライマーによる化学的結合・デスミア処理による表面粗化・焼結による銅膜一体化の三重構造で密着力を確保しています。ヒートサイクル700回をクリアするなど、信頼性試験でも実用水準の耐久性が実証されています。

デュアルシードセミアディティブプロセス

 エレファンテックは2026年6月18日、半導体パッケージ基板の新製法「デュアルシードセミアディティブプロセス(DS-SAP)」を開発したと発表しました。

 これは同社が得意とするインクジェット技術を活用し、現在主流の製法であるSAP(セミアディティブプロセス)を改良したものです。

 従来SAP法の「シードが析出しやすいが薄くしたい表面」と「シードが析出しづらいが確実に付けたいビア内」というトレードオフを解消し、AI半導体向けパッケージ基板の高密度・微細配線を実現しました。

 前回はSAP工法の概要や無電解銅めっきでの課題に関する記事でしたが、今回はデュアルシードセミアディティブプロセス(DS-SAP)とは何か、どのような利点があるのか知ることができます。

デュアルシードセミアディティブプロセスとは何か

 DS-SAPの「デュアルシード(Dual Seed)」とは、シード層の形成を「表面用」と「ビア内部用」の2種類に分けて行うことを指します。

 従来のSAPが一度の工程で表面とビア内部を同時にシード形成しようとしていたのに対し、DS-SAPはその工程を意図的に分離した点が最大の特徴です。

解決すべき課題

 従来のSAPでは、表面とビア内の両方に同時にシードを形成する必要があり、シードを薄くしようとするとビア奥のシード形成が不十分になってしまうことから、シード層には一定の厚みが必要でした。

 一方でシード層が厚ければ厚いほど、シード層除去工程で副作用として配線パターンも大きく削れてしまうため、微細化は難しくなるという問題がありました。

 これは「シードが析出しやすいが薄くしたい表面」と「シードが析出しづらいが確実に付けたいビア内」に同時にシード形成を行う限り、逃れることができないトレードオフと考えられてきました。

DS-SAPの工程

 DS-SAPは、まず表面には無電解銅めっきやPVDで可能な限り薄いシード層を形成し、この時点ではビア内部のシード層が不足するため、銅ナノ粒子(Cu)インクを塗布することでビア内のシード形成を行うことで実現しました。

工程は以下の流れになります。

  1. 表面シード形成:無電解銅めっきまたはPVD(物理気相成長法)で、表面に可能な限り薄いシード層を形成します。このとき意図的にビア内部のシードは不十分な状態にとどめます。
  2. ビア内シード形成:銅ナノ粒子インクをインクジェット技術でビア内部にのみ精密に塗布し、ビア内壁・ビア底に均一なシード層を形成します。
  3. 以降はSAPと共通:パターンめっきで配線部分に銅を積み上げ、薄いシード層をエッチングで除去してパターニングを完成させます。

鍵となる2つの技術

 DS-SAPの実現を支えるのは、エレファンテックが独自に培ってきた2つの技術です。

 金属インクジェット印刷技術を強みとするエレファンテックは、ビア内に均一な膜を形成できる銅ナノ粒子インク技術と、狙ったところにだけインクを塗布できるインクジェット技術の開発によってDS-SAPを実現しました。

 銅ナノ粒子インクはナノサイズの銅粒子を液体に分散させたもので、ビアという細くて深い空間の内壁にも毛細管現象を利用して均一に入り込める特性を持ちます。

 インクジェット技術はその塗布先をビア内部だけに限定することを可能にします。この組み合わせにより、表面のシード薄膜化とビア内の確実な導通確保が初めて同時に達成されました。

得られる効果

 DS-SAPによって期待される効果は主に3点です。配線Line/Space(L/S)の微細化、高アスペクトビアの実用化による配線密度向上、そしてファンアウト効率の改善による層数削減です。これらはいずれも、AI向けGPU・CPUが求める高密度パッケージ基板の実現に直結します。

現在の状況

 同社は現在、DS-SAPについて、複数のAI半導体メーカーや半導体パッケージ基板メーカーと検証を進めています。

DS-SAPとは表面とビア内のシード形成を分離した新製法です。表面には薄い無電解めっき、ビア内には銅ナノ粒子インクをインクジェットで塗布することで、従来SAPの微細化と歩留まりのトレードオフを解消しました。

インクジェット技術でどのように塗布するのか

 インクジェット技術とは、微細なノズルから液体インクを小さな液滴として吐出し、狙った場所だけに精密に塗布する印刷技術です。

 家庭用プリンターと基本原理は同じですが、エレファンテックが手がけるのは銅ナノ粒子を含む導電性インクを基板上の指定座標に対してマイクロメートル単位の精度で吐出する産業用装置です。

 DS-SAPにおいては「ビア内部にだけ」インクを塗布する必要があるため、インクジェットの選択的塗布能力が中核的な役割を果たしています。

銅ナノ粒子インクの設計

 塗布の成否を決定するのはインクジェット装置だけでなく、むしろインクそのものの設計にあります。

 エレファンテックが開発した銅ナノ粒子インクは直径15nmという極めて微小なサイズの銅粒子を液体に分散させたものです。

 このインクが実現に重要な役割を果たしているのが、ビア内壁の凹凸に奥まで入り込んで吸着するという仕組みです。

 銅ナノ粒子は15nmという微小サイズゆえに高い表面エネルギーを持ち、表面を小さくしようとしてビア内部に吸着しようとする力と、ナノ粒子同士が集まろうとする力を巧妙に制御することで、ナノ粒子同士が凝集するのではなくビア内壁に、さらにガラスとエポキシの両方に吸着する状態を実現しています。

 通常、ナノ粒子は凝集して「島状(アイランド)」に分布しやすく、連続した導電膜を形成しにくいという課題があります。

 エレファンテックの15nmクラス銅ナノ粒子は独自の粒子設計により、粒子同士が凝集することなく自己組織的かつ高密度に吸着する特異的な挙動を示し、アイランドを形成せず表面全体を均一に被覆するこの特性がシード層としての機能を可能にしています。

塗布から銅膜形成までの工程

 工程は大きく3ステップで進みます。

インクジェット吐出

 インクジェット装置がビアの位置座標を認識し、ノズルから銅ナノ粒子インクをビア上に吐出します。液滴はビア開口部に着弾した後、液体の表面張力と重力によってビア内部へ浸透します。インクジェットは「浴(液槽)」を作らず常に新鮮な液を狙った箇所に吐出するため、安定した品質の成膜が可能です。

乾燥・吸着

 銅ナノ粒子はビア内壁に吸着するよう設計されており、乾燥によってビア内は銅ナノ粒子が並んだ状態になります。

還元・焼結による銅膜化

 乾燥・焼結によって銅ナノ粒子同士が結合して銅薄膜となり、その後、通常の電解銅めっき工程でビアの導通が完成します。

他のプロセスに対する優位性

 ビア内壁へのシード形成には他にもPVD(スパッタリングなどの物理気相成長法)やALD(原子層堆積法)、ディッピング(液槽への浸漬)といった手法があります。

 既存のドライ系プロセス(PVD・ALD)はカバレッジまたは量産適性の面で高アスペクト比ビアへの対応に限界があり、ウェット系(スピンコート・ディッピング)も浸透性または浴管理・排液処理の面で量産展開の障壁を抱えています。

 インクジェットは常圧プロセスとして既存ラインへの導入障壁が低く、選択的塗布による材料ロスの最小化と浴管理不要による安定したプロセス品質を両立します。

 従来の化学銅めっきでは反応時に水素ガスが発生し、小径のビアではガスが抜けにくく気泡(ボイド)として残る問題がありましたが、この手法では還元工程で水素ガスが発生しないため、気泡の問題が原理的に起きません。触媒のパラジウムや発がん性物質のホルムアルデヒドも不要になりました。


インクジェットで銅ナノ粒子インクをビア上に吐出し、15nmの粒子が自己組織的に内壁全面へ均一吸着、焼結で銅薄膜を形成します。浴管理不要・選択的塗布・気泡なしという特性が、従来手法に対する大きな優位点です。

銅ナノ粒子で密着力は問題ないのか

 銅ナノ粒子インクによる配線形成において、密着力は開発上の大きな課題の一つでした。ナノ粒子を基材に塗布しただけでは物理的な結合が弱く、後工程の電解めっきやヒートサイクルに耐えられないリスクがあります。

 エレファンテックはこれに対して複数のアプローチで解決策を構築しています。

解決策①:デスミア処理による表面の粗化

 銅ナノ粒子インクを塗布する前段階として、ビアにデスミア処理を行います。デスミア処理とはレーザー穴あけ後にビア内壁に残る樹脂残渣(スミア)を薬品で除去する工程ですが、同時にビア内壁表面を微細に粗化する効果もあります。

 この凹凸が「アンカー効果」として銅ナノ粒子の物理的な食い込みを助け、密着力を高める起点となります。

解決策②:プライマーによる化学的密着

 配線形成の分野では、プライマー最表面に銅ナノ粒子が潜り込むように物理的なアンカー状態を形成することで、より高い密着強度を発現させる新材料が開発されています。

 エレファンテックは汎用多層基板に用いられるFR-4(ガラスエポキシ基材)を含む多くの硬質基材と密着するプライマーと銅ナノ粒子インクを開発しており、これまで困難だった高温耐久性もクリアできています。

解決策③:ナノ粒子の自己組織的吸着設計

 密着力の根本は粒子設計そのものにもあります。銅ナノ粒子インクはナノ粒子が15nmという微小サイズゆえに高い表面エネルギーを持ち、表面を小さくしようとしてビア内部に吸着しようとする力と、ナノ粒子同士が集まろうとする力を巧妙に制御することで、ナノ粒子同士が凝集するのではなくビア内壁に、さらにガラスとエポキシの両方に吸着する状態を実現しています。

 これにより、異なる材質が混在するビア内壁(樹脂・ガラス繊維・内層銅箔)に対しても均一に密着できます。

解決策④:焼結による粒子同士・基材との一体化

 塗布後の焼結工程も密着力に大きく寄与します。SA-CuNP技術を基盤とした構造は、焼結時の体積収縮を低減でき、高アスペクト比ビア環境下においてもボイドやクラックを抑制した緻密な導体形成が可能になっています。

 焼結によって粒子同士が結合して連続した銅膜になると同時に、基材との接触界面でも金属結合に近い強固な密着が形成されます。

内層銅箔との導通確保

 ビア底部にある内層銅箔との接続も密着上の重要なポイントです。内層銅箔上の銅ナノ粒子を除去する必要はなく、還元・めっきを行うことで内層銅箔と強固な導通状態を得られる点も大きな強みとされています。

 銅と銅の接合であるため、異種材料間よりも本質的に密着しやすいという利点もあります。

信頼性試験での実証

 実際の耐久性については数値で検証されています。試作した4層HDI基板(ビア径100μm、絶縁層厚60μm)は−65℃/125℃のヒートサイクル試験を700回クリアし、抵抗変化率は判定基準の±10%以内に収まり、断線やクラックは確認されませんでした。また直径50μm、厚さ0.5mm(アスペクト比10:1)のビアにおいても、熱衝撃試験後もクラックが発生しない高い信頼性が確認されています。


密着力はプライマーによる化学的結合・デスミア処理による表面粗化・焼結による銅膜一体化の三重構造で確保されています。ヒートサイクル700回をクリアするなど、信頼性試験でも実用水準の耐久性が実証されています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました