この記事で分かること
1. パッケージ材料で何に使われるのか
優れた低誘電性と柔軟性を活かし、高周波パッケージ基板(CCL)の改質剤、再配線層(RDL)の層間絶縁膜、アンダーフィルや封止材の応力緩和・流動性を高める改質添加剤として広く使用されます。
2. なぜ、共架橋で低誘電となるのか
自身が無極性なポリブタジエンが、共架橋により緻密な網目構造を形成。ベース樹脂の極性基を希釈するだけでなく、その分子運動を物理的にロックし、高周波による電場の振動(誘電損失)を抑え込むためです。
3. 日本曹達が参入するのはなぜか
半導体の性能向上の主戦場が先端パッケージに移る中、自社の液状ポリブタジエンがAI半導体の要求に合致。レジスト材料で培った高純度化技術と顧客基盤をそのまま別工程へ横展開して商機を掴めるためです。
日本曹達の先端パッケージ材料市場への参入
日本曹達が、独自技術である液状ポリブタジエンを活用して半導体の先端パッケージ材料市場へ本格参入することを表明しています。
液状ポリブタジエンによる後工程(先端パッケージ材料)への本格参入は、前工程で培った「半導体品質管理のノウハウ」と「独自の合成技術」を掛け合わせ、急速に市場が拡大するAIハードウェア市場の付加価値を取り込む狙いがあります。
液状ポリブタジエンはパッケージ材料で何に使われるのか
半導体パッケージ材料において、液状ポリブタジエン(特に日本曹達の「NISSO-PB」に代表される高1,2-ビニル構造のもの)は、主に「低誘電マトリックスの形成」、「熱応力の緩和(低応力化)」、「プロセスの加工性向上」という3つの大きな目的のために使用されます。
先端パッケージ(チップレット、2.5D/3D実装、Fan-Outなど)の構造内で、具体的にどのような部材や用途に使われているのか、メカニズムと合わせて詳細に解説します。
1. パッケージ材料における具体的な3つの用途
① パッケージ基板(次世代CCL)やビルドアップフィルムの「低誘電・高耐熱改質剤」
AI半導体などを搭載する高密度パッケージ基板(サブストレート)や、その上で回路を多層化するためのビルドアップ絶縁フィルムに使用されます。
- 使い方: マレイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、エポキシ樹脂などの硬い熱硬化性樹脂(ベースマトリックス)に、液状ポリブタジエンをブレンドして使用します。
- 役割: 反応性の高い側鎖(1,2-ビニル基)がベース樹脂と「共架橋(化学結合による複合化)」を起こします。これにより、基板材料全体の比誘電率(Dk)と誘電正接(Df)を劇的に引き下げ、高周波信号の伝送損失や遅延を極限まで抑えます。同時に、緻密な3次元架橋を形成するため、ゴムでありながら半導体プロセスに耐える高耐熱性(高Tg)を維持できます。
② 再配線層(RDL:Redistribution Layer)用の「薄膜層間絶縁材料」
Fan-Out型パッケージ(FO-WLP/PLP)や2.5Dインターポーザーにおいて、シリコンチップの外側に微細な配線を引き回す「再配線層」の絶縁膜として使用されます。
- 使い方: 液状ポリブタジエンの末端にアクリル基を導入した変性樹脂(末端アクリル変性)などをベースに、感光性(フォトレジスト機能)や熱硬化性を持たせたフィルムまたはスラリー(液状組成物)として塗布されます。
- 役割: 非常に狭い配線ピッチ間における「寄生容量」の発生を防ぐための超低誘電材料として機能します。また、ポリブタジエンの極めて高い疎水性(撥水性)により、湿気による誘電特性の劣化や配線の腐食を防ぎ、パッケージの長期信頼性を担保します。
③ アンダーフィルおよび液状封止材(EMC)の「低応力化(応力緩和)添加剤」
チップと基板の隙間を埋めるアンダーフィルや、パッケージ全体を保護する封止材(モールド樹脂)に使用されます。
- 使い方: ベースとなるエポキシ樹脂に対して、数%〜数十%の割合でエポキシ変性液状ポリブタジエンなどを添加し、硬化後にミクロな相分離構造(海島構造)を形成させます。
- 役割: シリコンチップ(熱膨張率:約3 ppm/℃)と有機基板(熱膨張率:10~15 ppm/℃)の間には大きな熱膨張差があり、これが温度変化によって激しい「反り(Warpage)」や内部応力を生みます。液状ポリブタジエンは、硬化後の樹脂に適度な柔軟性を与えて弾性率を引き下げる(低弾性率化)ため、応力を吸収するクッションとなります。これにより、微細な接合部(マイクロバンプ)の破断や、界面の剥離を防ぎます。
2. 変性(化学修飾)による使い分け
日本曹達の液状ポリブタジエン(NISSO-PB)を例に取ると、パッケージ材料のタイプやプロセスに合わせて、以下のように化学構造を最適化した銘柄が使い分けられています。
| 種類(変性タイプ) | 特徴 | パッケージ材料での主な用途 |
| ホモポリマー(Bシリーズ) | 炭素と水素のみ。1,2-ビニル構造>85%で最も低誘電。 | 高周波パッケージ基板(CCL)、リジッド/フレキシブル基板の改質 |
| エポキシ変性(JPシリーズ) | 分子内にエポキシ基を持つ。汎用エポキシ樹脂との相溶性が極めて高い。 | エポキシ系アンダーフィル、液状・固形封止材(EMC)の応力緩和剤 |
| 末端アクリル変性(TEシリーズ) | 光(UV)や熱で超高速硬化する。 | 感光性再配線(RDL)絶縁膜、UV硬化型パッケージ接着剤 |
3. なぜ「液状」ポリブタジエンでなければならないのか
固体(高分子量)のブタジエンゴムとは異なり、「液状(低分子量オリゴマー)」であることにはプロセス上の決定的なメリットがあります。
- 無溶剤・高充填化への対応:室温で流動性を持つため、他のエポキシ樹脂やシリカフィラー(無機充填材)と混ぜ合わせる際、多量の溶剤を使用せずに均一に混練・スラリー化できます。これは、環境負荷の低減だけでなく、乾燥時のボイド(気泡)発生を防ぐためにも重要です。
- 優れた微細ギャップ充填性:チップレットやHBM(高帯域幅メモリ)の積層化により、チップ間の隙間(ギャップ)は数十マイクロメートル以下に狭小化しています。液状ポリブタジエンをブレンドしたアンダーフィルは、低粘度で流動性が高いため、この狭い隙間の奥深くまで毛細管現象で隙間なく流れ込むことができます。
このように、液状ポリブタジエンは単なる「ゴム」ではなく、「激しい熱応力から微細回路を守る柔軟性」と「信号を鈍らせない究極の低誘電性」を、半導体製造プロセスに適合する流動性(液状)のまま提供できるため、先端パッケージ材料のキーマテリアルとして重宝されています。

優れた低誘電性と柔軟性を活かし、高周波パッケージ基板(CCL)の改質剤、再配線層(RDL)の層間絶縁膜、およびアンダーフィルや封止材の応力緩和・充填性を高める添加剤として広く使用されます。
なぜ、ポリブタジエンの共架橋で低誘電となるのか
ポリブタジエンの共架橋によって材料が低誘電(低Dk/低Df)になる理由は、大きく分けて「素材の本質(無極性)」、「極性の希釈」、そして「分子運動の凍結」の3つのメカニズムによるものです。
高周波帯で誘電損失が大きくなる主原因は、分子内の「極性(電荷の偏り)」が、高周波の電場の向きに合わせて激しく回転・振動すること(配向分極)にあります。これをポリブタジエンが強力に抑え込みます。
1. ポリブタジエン自体が「極性ゼロ」のウルトラ低誘電体
ポリブタジエンは、骨格が炭素(C)と水素(H)のみで構成された純粋な炭化水素です。C-H結合は電気的に偏りがほぼない(無極性)ため、外から高周波の電場をかけられても、分子全体が全く同期して振動しません。
本質的にエネルギーを吸収しない(=誘電正接が極めて低い)性質を持っています。
2. ベース樹脂の極性基を薄める「希釈効果」
エポキシ樹脂やマレイミド樹脂などの一般的な熱硬化性樹脂は、分子内に酸素(O)や窒素(N)を含む多くの極性基を持っています。
ここに極性を持たない液状ポリブタジエンを混ぜて共架橋させると、マトリックス(樹脂全体)の中の極性基の密度が単純に薄まります。これにより、電場に反応する成分そのものが減少し、誘電率が低下します。
3. 強固な網目構造による「配向分極の凍結」
これが共架橋(化学結合による一体化)の最大のメリットです。
日本曹達のポリブタジエンのように1,2-ビニル構造を多く持つものは、ベース樹脂(例えばマレイミドなど)とラジカル共重合を起こし、極めて緻密な3次元の網目(クロスリンク)構造を形成します。
- 共架橋前: ベース樹脂の極性基が、高周波の電場に合わせてパタパタと自由に動ける(=誘電損失が大きい)。
- 共架橋後: ポリブタジエンがベース樹脂とガッチリ結合して周囲をギチギチに固めるため、ベース樹脂側の極性基が物理的に動けなくなり(配向分極の凍結)、高周波電場がかかってもエネルギーを熱として消費しなくなります。
4. 副反応で「新たな極性基」を生まない
通常のエポキシ樹脂をアミンやフェノール系の硬化剤で固めると、化学反応の過程で親水性の高い水酸基(-OH)などの極性基が副生してしまい、これが誘電特性を悪化させます。
一方、ポリブタジエンのビニル基を介した共架橋(炭素二重結合の開裂による反応)は、反応前後で新たな極性基を一切生み出さず、炭素-炭素(C-C)結合だけでつながるため、硬化後も理想的な低誘電性を維持できま
自分自身が「極性ゼロ」で振動しないだけでなく、相手の樹脂とガッチリ腕を組んで(共架橋)、相手の極性基の動きまで完全にロックしてしまうから、材料全体が低誘電になります。

自身が無極性なポリブタジエンが、共架橋によって緻密な網目構造を形成。ベース樹脂の極性基を希釈するだけでなく、その分子運動を物理的にロックし、高周波下の振動(誘電損失)を根本から抑え込むためです。
日本曹達が参入するのはなぜか
日本曹達がこのタイミングで先端パッケージ材料市場へ本格参入する理由は、「自社が持つ独自の強みが、今まさに半導体業界が喉から手が出るほど欲しがっている技術と完全に一致したため」です。
マクロな市場のパラダイムシフトと、同社の経営戦略の合致から、理由は大きく4つに集約されます。
1. 半導体進化の主戦場が「後工程(パッケージ)」に移ったため
これまで半導体の性能向上は、回路を細くする「微細化(前工程)」が主役でした。しかし、物理的・コスト的な限界(ムーアの法則の鈍化)により、現在は複数のチップを精密に組み合わせる「先端パッケージ(後工程)」で性能を伸ばす時代(チップレットや2.5D/3D実装)に突入しています。
市場の成長軸が「前工程」から「後工程」へシフトしたため、材料メーカーとしてここに張るのが最大の商機となります。
2. 既存の持ち駒(NISSO-PB)が、新時代の課題に適切なため
同社が何十年も培ってきた液状ポリブタジエン(NISSO-PB)は、もともと自動車のシーラント(接着・封止材)や一般の樹脂改質に使われていた技術です。
しかし、AI半導体の登場で「超高周波対応の低誘電」と「狭い隙間に滑り込む流動性(液状)」が同時に求められるようになった結果、この既存技術が「次世代半導体に理想的なスペック」として一躍脚光を浴びることになりました。ゼロから新素材を開発するのではなく、自社のコア技術を成長市場へスライドさせている形です。
3. 「半導体グレード」の勝ちパターンをすでに知っている
日本曹達は、前工程の露光プロセスで使われるフォトレジスト用ポリマー(VPポリマー)で世界トップクラスのシェアを持っています。
半導体材料ビジネスで最も参入障壁が高いとされる「微量の金属不純物も許さない超高純度化(半導体グレード化)」のノウハウや設備、そして主要な半導体顧客との信頼パイプをすでに有しているため、後工程市場への横展開が非常にスムーズという強みがあります。
4. 収益性の高い「高機能化学品」へシフトしたいため
日本の伝統的な化学メーカー全体の課題でもありますが、汎用的な化学品(コモディティ)は海外勢との価格競争に巻き込まれがちです。
日本曹達としても、成長性と利益率が極めて高い半導体・電子材料などの「高機能化学品」へ経営資源を集中させ、ポートフォリオ(事業構成)を高収益体質へ転換するという明確な経営戦略があります。
「たまたま持っていたすごい技術(液状ポリブタジエン)」×「培ってきた半導体の品質管理力」が、AI半導体バブルによる「先端パッケージの素材不足」という巨大な波と完璧に合流した、戦略的かつ必然的な参入と言えます。

半導体の主戦場が先端パッケージへ移る中、独自の液状ポリブタジエンが持つ低誘電・高流動特性がAI半導体の要求に適合。レジスト材料等で培った高純度化のノウハウと顧客基盤をそのまま活かせるためです。

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