この記事で分かること
パワー半導体とは
電力の変換・制御を担う半導体で、直流と交流の変換や電圧の昇降、大電流のオン・オフ制御を行い、EVや家電、産業機器の省エネ化を支えています。
インフィニオンの特徴
Si・SiC・GaNの全素材を自社展開し、IGBTで世界首位、CoolSiCブランドのSiC製品でEV向け電源分野をリードしています。
新工場設立の理由
EVやAIデータセンター向け需要拡大、欧州の半導体自給率向上政策、300mm大口径化による生産性・競争力強化が主な狙いです。
インフィニオン、パワー半導体新工場建設
ドイツの半導体大手インフィニオン・テクノロジーズが、東部ザクセン州ドレスデンで進めているパワー半導体新工場「スマート・パワー・ファブ」の投資が話題となっています。
総投資額は約50億ユーロで、これは同社の単独投資額としては過去最大となります。円換算では約9000億円規模にのぼり、インフィニオン史上最大級のプロジェクトです。
新工場は既存のドレスデン工場に隣接して建設され、300ミリメートルウェハー対応のアナログ/ミックスドシグナルおよびパワー半導体を製造する予定です。
パワー半導体とは何か
パワー半導体とは、電力の変換や制御を担う半導体デバイスの総称です。一般的なマイコンやメモリなどの半導体が主に「情報を処理する」ことを目的としているのに対し、パワー半導体は「電気エネルギーを効率よく操る」ことを目的としている点が大きな違いです。
パワー半導体の機能
直流と交流の変換(整流・インバータ)、電圧の昇圧・降圧、大電流のオン・オフ制御といった機能を担います。代表的な素子には、パワーMOSFET、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、パワーダイオードなどがあります。
近年注目されているのが、シリコン(Si)に代わる新素材を使った「次世代パワー半導体」です。炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を用いた製品は、従来のシリコン製に比べて電力損失が少なく、高温・高耐圧環境でも動作しやすいため、電気自動車(EV)や急速充電器、データセンターの電源、再生可能エネルギー関連機器などで採用が広がっています。
パワー半導体の用途
用途は身近な家電から産業機器まで幅広く、エアコンや冷蔵庫のインバータ制御、鉄道車両のモーター制御、太陽光発電のパワーコンディショナー、そしてAIサーバー向けの電源回路まで多岐にわたります。
特にEV普及やAIデータセンターの拡大に伴い、パワー半導体の需要は今後も大きく伸びると見られており、インフィニオンをはじめとする主要メーカーが積極的な設備投資を進めている背景には、こうした市場拡大への期待があります。

パワー半導体は電力の変換・制御を担う半導体で、SiCやGaNなど新素材の採用によりEVやデータセンター分野での需要が拡大しています。
インフィニオンのパワー半導体の特徴は何か
Si(シリコン)、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)という3つの素材すべてを自社で開発・製造している点が大きな強みです。
多くの競合が特定素材に強みを持つ中、インフィニオンは需要や用途に応じて最適な素材を使い分けられる幅広いポートフォリオを持っています。
特にシリコンベースのIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)では世界トップシェアを誇り、EV向けインバーターモジュール「HybridPACK」シリーズは累計100万個以上を出荷する大ヒット製品となっています。
長年培ってきたトレンチ技術により、業界最高水準のスイッチング損失・導通損失性能を実現しているのも特徴です。
近年力を入れているのが「CoolSiC™」ブランドのSiC MOSFET製品です。SiCはシリコンに比べて電力損失が少なく、より高い電圧・高温環境でも動作できるため、EVの航続距離延長や充電の高速化に貢献します。2021年には自動車向け初のフルSiCモジュールを製品化し、以降SiC事業を急速に拡大しています。
また、パワー半導体単体だけでなく、ゲートドライバーやセンサー、マイコンなどを組み合わせた「シグナルチェーン」全体を提供できる総合力も強みです。これにより顧客はシステム全体を一社でまとめて設計しやすくなります。
生産面では、ドレスデン(ドイツ)とフィラッハ(オーストリア)の300mm工場を「ワン・バーチャル・ファブ」として連携させ、生産性と供給の柔軟性を両立させている点も特徴的です。

インフィニオンはSi・SiC・GaNの全素材を自社展開し、IGBTで世界首位、CoolSiCブランドのSiC製品でEV市場をリードしています。
絶縁ゲートバイポーラトランジスタとは何か
絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)とは、MOSFETとバイポーラトランジスタの長所を組み合わせたパワー半導体素子です。
構造としては、入力段にMOSFET、出力段にバイポーラトランジスタを配置しています。これにより、MOSFETが持つ「電圧駆動で扱いやすい」という特性と、バイポーラトランジスタが持つ「大電流を流せる」という特性を両立させています。
具体的なメリットは以下の通りです。
- 高耐圧・大電流対応:数百V~数kVの高電圧、数十A~数百Aの大電流を扱えるため、大電力用途に適しています
- 低いオン抵抗:電流を流している状態での電力損失が少なく、効率的です
- ゲート電圧で制御可能:MOSFET同様に電圧信号でスイッチングを制御できるため、駆動回路がシンプルになります
一方で、バイポーラトランジスタの特性に由来する課題もあります。閾値電圧以下では電流が流れずI-V特性が直線にならないことや、ターンオフ時間(電流を切るまでの時間)がMOSFETより長いといった弱点があります。
用途としては、電車のモーター制御、エアコンや冷蔵庫のインバータ、EV(電気自動車)のインバーターなど、比較的大きな電力を扱うシステムで広く使われています。インフィニオンはこのIGBT市場で世界トップシェアを持ち、EV向けの「HybridPACK」シリーズなどで高い実績を誇っています。

絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)は、MOSFETとバイポーラトランジスタの長所を組み合わせたパワー半導体で、電圧駆動で大電流・高耐圧を扱え、EVや電車、家電のインバータ制御などに広く使われています。
AIデータセンターでのパワー半導体の用途は何か
AIデータセンターにおけるパワー半導体は、急増する電力需要を効率よく供給・変換するための「電源系統」の中核部品として使われています。PSUから直流400Vをサーバーラックに導入し、ラック内では400Vを48Vに降圧、さらに12Vや5VなどへとDC-DCコンバータで電源を変換します。
プロセッサやGPUなど低電圧・大電流のチップには、供給電圧を1V前後まで下げ電流容量を上げたPOL(Point of Load)電源が用いられます。
具体的な用途は電力供給チェーンの各段階に及びます。AIサーバーを構成するパワーサプライユニット(PSU)やバッテリーバックアップユニット(BBU)、ネットワークインターフェース、各種デバイスが搭載された基板など、各ユニットに最適なパワー半導体が使われています。
データセンターによる電力消費増加
世界の電力使用量の約2%をデータセンターが占めており、2030年までに7%に達する可能性があるため、従来の12Vから48Vアーキテクチャへの移行が進められており、この変革でパワーMOSFETが重要な役割を果たしています。
今後の進化
電力密度の観点でも進化が続いています。インフィニオンの新世代PSUは97.5%の効率を達成し、8kW PSUは出力最大300kW以上のAIラックをサポートできます。ハイレベルGPUは現在チップあたり最大1kWを必要としており、これは20年代の終わりまでに2kW以上に達する見込みです。
今後のアーキテクチャ変化も注目されています。2026年以降には直流800Vによる給電の導入検討が進み、2029年以降にはデータセンターが太陽光発電や蓄電施設と直流で電力をやりとりする「直流グリッド」構成が本格化すると予想されています。AIサーバー1ラックあたりの必要電力は現在250kW超ですが、2026年には500kW、2029年には1MWに達すると予測されています。

AIデータセンターではGPUへの電力供給網全体でパワー半導体が使われ、48V化や800V化など高効率アーキテクチャへの移行が進んでいます。
なぜ新工場を設立するのか
インフィニオンがドレスデンに新工場を設立する理由には、いくつかの要因が重なっています。
自動車業界を中心とした需要の急拡大への対応
EV(電気自動車)やハイブリッド車の普及により、インバーターやモーター駆動用のパワー半導体需要が大きく伸びています。
同社は需要の高まりを受け、公的資金の決定を待たずに早期着工を決めるほど、供給体制の強化を急務としていました。
AIデータセンター向け需要の急伸
生成AIの普及によりGPUやサーバーの消費電力が急増しており、電源供給用の高効率パワー半導体への需要が新たな成長分野として浮上しています。
インフィニオンのAIサーバー関連売上は2025年時点で約6億ユーロ、2年後には約10億ユーロに達する見込みで、今後も需要拡大が続くと見られています。
欧州全体の政策的な後押し
欧州委員会は2030年までに世界の半導体生産に占める欧州のシェアを20%まで引き上げる目標を掲げており、この目標達成にドレスデン新工場が不可欠とされています。
欧州半導体法(European Chips Act)に基づく補助金も投入され、官民一体で欧州域内の半導体自給率向上を図る動きの一環となっています。
300mmウェハーへの大口径化による競争力強化
世界的にパワー・アナログ半導体メーカー各社が300mmウェハーへの投資を進める中、インフィニオンも生産性向上とコスト競争力の確保のため大型投資に踏み切りました。日本メーカーの投資額を合わせてもインフィニオン1社の投資規模には及ばないとされ、欧米勢との差別化を図る狙いもあります。
さらに、新工場はオーストリアのフィラッハ工場と連携する「ワン・バーチャル・ファブ」体制を構築することで、生産の柔軟性と供給スピードの向上も目指しています。

インフィニオンの新工場設立は、EVやAIデータセンター向け需要拡大、欧州の半導体自給率向上政策、大口径化による競争力強化が主な理由です。

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