この記事で分かること
1. 生産する設備
AIデータセンターの超高密度化に対応する「液体冷却システム(CDU)」や、現地での構築期間を劇的に短縮する「プレハブ(モジュール)型の電源・天井配置インフラ」といった最先端インフラ設備を生産します。
2. マレーシアで増産する理由
AI需要が急増するアジアの顧客に近接し、輸送リードタイムを劇的に短縮するためです。地政学リスクの分散に加え、現地の高度な製造業基盤と優秀な技術者を確保できるという圧倒的な優位性もあります。
3. ジョホール州にデータセンターが集まる理由
規制で新設が難しいシンガポールに隣接し、その受け皿となっているためです。広大で安価な土地、格安の電力、強固な海底ケーブル網に加え、政府による特急承認制度などの手厚い優遇策が後押ししています。
バーティブのマレーシアの新製造拠点
AIの爆発的な普及に伴い、データセンターの「熱対策(冷却)」と「電力管理」の需要が世界的に急増する中、米国のデータセンター用インフラ大手であるバーティブ(Vertiv)が、マレーシアのジョホール州に新たな製造拠点を開設しています。
ハイパースケーラー各社がアジアでのAIインフラ整備を急ぐ中、機器を他の大陸の工場から輸送していては、数ヶ月のリードタイムがボトルネックになります。需要地に直結したマレーシアに拠点を構えることで、バーティブは製品を「スピードとスケール」をもって供給する体制を整えました。
どんな設備を生産するのか
マレーシアのジョホール(セナイ地区)の新工場で生産される設備は、「AIデータセンターの超高密度化」と「構築期間の大幅短縮(プレハブ化)」に特化した、バーティブの最先端インフラです。
主に以下の3つの主要製品ファミリーの製造・組み立て、そして出荷前の実証テストが行われます。
1. 次世代の「液冷(リキッドクーリング)」システム
次世代のAI半導体は発熱量が凄まじく、従来の空冷(ファンで冷風を送る方式)では冷却が追いつきません。
新工場では、1ラックあたり100kWを超えるような超高密度環境に対応する液冷装置を生産します。
- Vertiv™ CoolChip CDU(冷却液分配ユニット): サーバーラックへ冷却液を安全かつ効率的に循環・制御する、液冷システムの「心臓部」となる装置です。
- 対応デバイス: チップを直接液体で冷やす「ダイレクト・トゥ・チップ(Direct-to-chip)」や、ラックの背面に設置して熱を奪う「リアドア熱交換器」向けに供給されます(すでに「XDU」と呼ばれる液冷ラインの出荷が始まっています)。
2. プレハブ(モジュール)式 電源インフラ
AIワークロードは莫大な電力を消費するため、受電からサーバーへの配電までのシステムも巨大化・複雑化しています。
これらを現場で一から配線するのではなく、工場であらかじめ組み立てて出荷します。
- Vertiv™ Power Module / Power Skid(パワースキッド): 変圧器や遮断器、配電盤などの電気インフラをフレーム(スキッド)上に一体化・モジュール化したものです。
- メリット: 従来の現場施工に比べて、データセンターの電源インフラ構築期間を最大50%短縮できます。また、AI処理の超高電力化で必要となる「800V DC(直流)」などの次世代・高電圧デザインの組み込みにも対応しています。
3. 一体型オーバーヘッド(天井配置)インフラ
サーバー室の天井部に通すさまざまなインフラを、最初から1つのユニットとしてパッケージ化した製品です。
- Vertiv™ SmartRun: 高電流を流す「バスウェイ(導体バーによる給電システム)」、液冷用の「冷却水配管」、ネットワーク配線、気流を制御する構造体をすべて天井用のプレハブ構造に統合したものです。
- メリット: これにより、サーバー設置エリア(ホワイトスペース)での現地作業を最大85%高速化できます。
単に作るだけでなく「テスト設備」も中核
この工場の大きな特徴は、製品の生産ラインだけでなく、「フルスケールの実証テスト施設(ウィットネステスト環境)」を併設している点です。
超大型のCDU(液冷ユニット)や、複数の電源モジュール・スキッドを同時に接続し、「顧客の実際のデータセンターと全く同じ電力負荷・冷却負荷を再現した状態」で出荷前に稼働検証を行うことができます。
現 地に機材が届いてからの「動かない」「仕様が合わない」というリスクを極限まで減らせるため、ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)がアジア全域でAIデータセンターを最速で立ち上げるための頼みの綱となっています。

AIデータセンターの超高密度化に対応する「液体冷却システム(CDU)」や、現地での構築期間を劇的に短縮する「プレハブ(モジュール)型の電源・天井配置インフラ」といった最先端インフラ設備を生産します。
なぜマレーシアで増産するのか
バーティブがマレーシア(特にジョホール州セナイ地区)に新工場を構えて増産する理由は、主に「スピード(納期の短縮)」「顧客の集積」「地政学・コストの優位性」の3つにあります。
1. 輸送リードタイム(納期)の劇的な短縮
AIデータセンターの建設ラッシュにおいて、最大のボトルネックは「機器の納品待ち」です。
これまでは別の大陸(北米やヨーロッパなど)の工場から重厚長大かつ精密な液冷・電源システムを船便で輸送していましたが、これでは数ヶ月のタイムラグや物流混乱のリスクが生じます。
需要が爆発しているアジア域内で生産・テストまで完結させることで、ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)が求める「圧倒的なスピードとスケール」での機材供給が可能になります。
2. アジア最大の「データセンター爆心地」への近接性
マレーシアのジョホール州は、いまやアジア太平洋地域で最もホットなデータセンターの集積地です。
隣国シンガポールが土地や電力の制約から新規建設を一時制限したことで、Amazon、Google、Microsoft、Alibabaといった巨大テック企業が一斉にジョホールへの巨額投資へ舵を切りました。「主要顧客の建設現場の目と鼻の先」に工場を置くことで、密接な連携や迅速な導入・保守が可能になります。
3. サマリーとその他の優位性(人材・コスト・地政学)
- 優秀な現地人材: マレーシアは高度な製造業の基盤があり、技術者の確保が比較的容易です。実際、バーティブの現地従業員の約98%はマレーシア人で構成されており、外部から労働力を頼らずに高いクオリティの生産ラインを立ち上げられています。
- サプライチェーンの分散: 特定の国(中国や台湾など)に集中していたサプライチェーンを東南アジアへ分散(ニアショアリング)させ、地政学的リスクを回避する戦略的な意味合いもあります。
「アジアのAIインフラの需要が最も熱い場所に、一番早く、リスクなく製品を届けるため」にマレーシアが選ばれました。

AI需要が急増するアジア(特にジョホール州)の顧客に近接し、輸送リードタイムを劇的に短縮するためです。地政学リスクの分散に加え、現地の高度な製造業基盤と優秀な技術者を確保できる優位性もあります。
なぜジョホール州にデータセンターが集まっているのか
マレーシアのジョホール州が、東南アジア、ひいては世界有数のデータセンター(DC)集積地(メガハブ)へと急成長している背景には、地理的、経済的、そして政治的な複数の要因が完璧に噛み合ったことにあります。主な理由は以下の5点に集約されます。
1. シンガポールの「受け皿」という地理的・ネットワーク的優位性
最大の要因は、アジア最大のデジタル・金融ハブであるシンガポールに隣接していることです。
- シンガポールの深刻な制約: シンガポール政府は、狭い国土における電力や水不足、環境負荷への懸念から、2019年にデータセンターの新規建設を一時凍結(モラトリアム)しました。2022年に解除された後も、グリーン基準や電力・炭素排出の割当が非常に厳しく、大規模な増設が困難な状況が続いています。
- 超低遅延(ローレイテンシー): ジョホール州(特に南部)はシンガポールと目と鼻の先にあるため、シンガポール国内の既存ネットワークや海底ケーブル網と「ほぼ遅延なし(超低遅延)」で直結できます。これにより、シンガポールに拠点を置くグローバル企業の莫大なデータ需要をそのまま吸収できました。
2. 圧倒的なコスト優位性(土地と電力)
AIデータセンターの運用には、広大な敷地と莫大な電力が不可欠ですが、ジョホール州はこれらを破格の安さで提供しています。
- 安価で広大な土地: シンガポールでは不可能な、ハイパースケーラー(Amazon、Google、Microsoftなど)が求める数万平方メートル規模の超大型施設(メガDC)用の平坦な産業用地を、競争力のある価格で柔軟に確保できます。
- 格安な電気料金: マレーシアの産業用電気料金(1kWhあたり約0.10ドル)は、シンガポール(約0.27ドル)の3分の1以下です。24時間365日、大量の電力を消費するデータセンターにとって、このランニングコストの差は決定的な投資判断材料になります。
3. マレーシア政府による「異次元のスピード」支援
マレーシア政府およびジョホール州政府が、データセンターを国家のデジタル転換を引っ張る戦略産業と位置づけ、異例のスピードで手続きを簡素化しています。
- グリーンレーン(特急承認制度): 国営電力会社(TNB)などと連携し、通常であれば電力網の接続に3〜4年(36〜48ヶ月)かかるところを、わずか1年(12ヶ月)に短縮する「グリーンレーン・パスウェイ」などの優位な枠組みを提供しています。
- ジョホール・シンガポール特別経済特区(JS-SEZ): 両国間で「経済特区」の整備が進んでおり、国境を越えた投資、貿易の手続き、高度人材の移動がさらにシームレス化・優遇されています。
4. 自然災害リスクの低さと強固なインフラ
データセンターに最も嫌われる「予期せぬダウン(停止)」のリスクが極めて低い環境です。
- 災害リスクの低さ: マレーシアは活断層から外れているため地震や津波がほぼ起きず、赤道直下に位置するため台風の直撃ルートからも外れています。
- 接続性とロジスティクス: マレーシアには25本以上の国際海底ケーブルが陸揚げされており、国内外への通信バックボーンが非常に強固です。また、大型の電力設備や冷却機材を運び込むための大型港湾(タンジュン・ペレパス港など)も近く、物流面も整っています。
5. AIおよび次世代クラウド(ネオクラウド)の需要爆発
近年、生成AIの急速な普及に伴い、GPUを大量に搭載した超高密度な処理を行う専用データセンターの需要が世界中で爆発しています。
ジョホール州は、既存のインフラ制約に縛られない「真っ新な土地と高い電力供給力」を持っていたため、最新の液体冷却システムなどを備えた「AI特化型データセンター」をゼロから設計・建設するのに最適な場所となったのです。

シンガポールに隣接し、同国の建設規制の受け皿となっているためです。広大で安価な土地や格安の電力供給力、海底ケーブル網の接続性に加え、マレーシア政府による特急承認制度などの手厚い優遇策も後押ししています。

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